【ふの章】 隠れんぼぅ

【ふー1】 答えとか地平線を知りたくてごみ山を登ったんじゃない

虹別色内 辰の上刻

 白。黒。

 極めて対照的な色でありながらありふれた基本色でもある。白には黒がないが黒には白があるかもしれない。白を潰すほどの黒なら見た目だけではないということ。

 今話したいのは精神論でも哲学的な話でもましてや色彩の話でもない。私はとんでも空間に紛れてしまったようだということ。ざっくり言えば黒と白しかない。

 シロクロにしてモノクロ。

 他の色が見当たらない。白と黒のみで構成された世界に一夜にして変貌してしまっている。私自身も輪郭や部位の境界が黒で示されて肌色だろうところは白。透明ではなくきちんとした白なのだがそれは何か意味あるのだろうか。 

 白黒で連想してしまうのがパンダとパトカー。パトカーはパンダカー言われるぐらいだからセット。パンダといえばパトカー。パトカーといえばパンダ。でも私の部屋はパンダにもパトカーにも見えなかった。ただ気味が悪くて気持ち悪いだけだった。

 ベッド・カレンダー・時計・タンス・写真・パソコン・壁・床・天井・私。すべて驚くほどに称賛したいぐらいの芸術的センスでシロクロだった。

 まるで漫画の世界に迷い込んでしまったよう。

  途端、視界が弾けだした。すぐにこれが飛蚊症だと思い当たった。視界のあちこちでテレビの砂嵐のような点滅が繰り返される。めまいの一種だ。

 うぅ。ちかちかするぅ。ぐるぐるまわる。気持ち悪い。

 私の部屋が抽選くじのガラガラのように回った。私は転がされた。

 奇妙な幻に転がされて私はそのままベッドに倒れこんだ。そうしたら少し治まった。

「白って一つじゃないんだなぁ」

 ここで気づいたのが白にも明暗濃淡があるように思えたこと。一括りに白とは呼べなくなった。

 明白暗白濃白淡白。

 よくわからないからやっぱり白でいいや。

 

 

 ベッドの脇にある目覚まし時計は七時を指している。これも白と黒のみなんだけど、元の色が何色か思い出せないから元々白黒だった気もしてきた。

 正確な時刻を知ろうと、机の上のスマホを充電器に差したまま画面をつける。


 8月2日 午前7:00


 ジャストっぴ。少し微笑んだ。

 時が動き出してから約二か月。私が襲われた事件が収まった辺りから思い出したように時を刻み始めた。それまでも、一日の二十四時間区分では時が刻んで進んでいたのだが、いくら刻んでも記しても日付が変わらなかった。

 ずっと五月二十五日だった。

 変化があったのは事件が終わって退院してからだったろうか。テレビもスマホも新聞も普段付けることのないラジオも五月二十六日を告げ始めた。一度一日が順調に先へと進んだことによって、何かつっかえが取れたみたいに時が流れ始めた。一日一日が変わって行って変化して同じ時は一回たりともなくて毎日が心線が新鮮だった。

 これに伴って季節も変わり、つまり四季を取り戻して夏が来た。

 私は世界が元に戻ったのだと思った。嬉しかった。

 おかしな世界が抜け出して行って、私は戻ったんだ。

 通っているおかしな高校の名前はそのままだったのは違和感があったけど、友人も世界も登場人物事物事象すべてそのままだったから私はそちらを信用した。

 何よりも一番の相棒を信じることにした。

 恒と二人でどれほど喜んだか。手を取って飛びあって抱き着いてしまったほどだからよっぽど。

 彼もまた、異変に巻き込まれた一人であり悩み苦しんだ唯一の共有者。互いの境遇になるまでの境遇は理解していないしできないけど、邂逅遭遇してしまった境遇は唯一共有できた。だからこそ演技で喜んでいるようには思えなかったし感じられなかった。その時だけは思い込んで信じ込んだんだ。信じ込まされてしまった。

 

 私の周りは変わった。これは確かなこと。でも私は変わらなかった。

 自分自身を今一度、もう一度信じてあげるために。私は上のパジャマを脱いだ。

 全身鏡に見える上半身の半裸は、もちろん色は無いんだけど形は残っていて変わり映えせずにそのままだ。やっぱり、少し落ち込んだ。

 私の背中には羽がある。

 架空の実在しないのに、実在する鏡に映る羽がある。

 空も飛べる。飛べるというよりかは浮かぶことができる程度の浮遊力しかないけど、それでも三十センチぐらいは飛行できる。

 飛行時間に制限はなく速さは自動車の法定速度よりも早いとおもう。競走した時に勝てたからそうだと言うだけで正確な速さはわからない。もしかすると光速にまで達することができるかもしれない。怖いからやめたけど。

 そして一番の問題は空を飛んでいるとき私は世界からいなくなるということ。透明人間みたいに幽霊みたいに気づかれなくなる。同時にこちらからも干渉できなくなる。物とか人とか建物とか生き物とか液体とか私は触れられない。触れたことにならない。

 冷たい熱い寒い暑い痛い涼しい臭いとかは感じる。飛行状態で手を水に入れると冷たく感じるのに水面は揺れない。地面に着地すると次第に波紋が広がる。空中にいるとき私は私でなくなる。

 学校でもやってみた。結果は飛んでいるときは、いないのが当然で存在自体そのものが消えてなくなっていた。その後、地に足を付けると何事もなくさっきからそこに居たように接してくる。私がこの世界が現実じゃなくて違うどこか別の世界だと思った。思わざるを得なかった。

 私だけがおかしくなったのなら周りまで異常をきたすはずがない。全世界の広範囲にまで、時系列にまで影響を及ぼすような神にでもなってしまったなら別だけど。

 転生ラー翼神龍よくしんりゅう

 翼のある神を探していたら恒とやったカードゲームの名前が出てきて、ふと出会った時を懐かしんでしまった。



▶▶▶


『ルグランはジュピターを正し、沓形のペットが正体。他の何者でもない照隠しがすべて』

 両親が忽然と消えた私の家に置いてあった置手紙にはこのように書かれていた。この世界になってから両親は同棲していなかったことになっており、私は一人暮らしをしているという設定。

 添付:『かえりたかったら、さがすのね』

 私はこの答えを探すために情報を空から集めた。四苦八苦の末、前半がポーの黄金虫、沓形くつがたっていうのが人の名前だということまでは分かった。

 分かった事を差出人に返事を書いた。謎の手がかりを置いた人物は親切にも住所を記してくれていたからそこに送り返した。

 二通目

『ごがつにじゅうごにち、ごごさんじごろにてれびとうしたにすわりこんでるのがくつがた』

添付:『ひんとはここまで、ね。』

 翌日の五月二十五日。指定場所に彼は居て、私はそこで沓形恒くつがたこうに出会った。

 

▶▶▶

 


 結局恒が何も知らなかったため、私はここに居座ることにし、腹を括った。最終的に私が出した結論は世界ここは現実じゃないってこと。そういうことにした。だって二人も迷子がいるんだもん。迷子になるような場所が悪いに決まっている。

 この世界で他に現れる異変が時間だけだったので、時間が戻った時は完全に世界が戻ったと思った。

 でも私は戻らなかった。だからますます分からなくなった。

 世界がおかしくなったせいで、その副作用で私もおかしくなったのだと思っていて思い込んでいたから、世界が戻ったのに、私が戻らないのはなんで?


 それとも、何も戻ってなどいないんだろうか。


 日付の変化さえもこの間までの時間と同じなのだろうか。ミクロからマクロになっただけで変わったようで何も変わってないのだろうか。

 今度変わらないのは【年】だというのか。


 うだうだ混乱していたら、そしたらこの有様になっている。モノクロの白黒世界ワールドになってしまっているではないか。やっぱり変わっていなかったことを確信した。カラーからモノトーンへ変わりはしたけど現実世界じゃないことは変わらない。分かったことが一つ増えて分からないことが一つ増えた。変化すれども戻ったわけでは無し。そしたら、

 

 ここはいったいどこなの?


 こうはいったいどこなの?


 高いところを目指して馬鹿に思えるようなごみ山を登ったのは答えを探すためでも地平線を知りたかったわけでも綺麗な景色を見るためでもない。世界が社会が世間がそうあるように期待してきたことに応えてしまったが故の未来遺産オーパーツ

 

 戻った先の現実を考えると戻る必要性がないんじゃないかと思って、今ここに浸かりきってしまいたくなる。でもそうできないのはここが私の居場所じゃないってはっきり断言できるからだ。はっきりとした証明は何一つないけれども、言い切れる。

 それに約束したんだ。

 戻ったら素直になって認めるって。 


 自分と恒と約束したんだ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る