▶④
俺は強制的に着替えを彼女たちに対して行い、昼食を取りながらの作戦会議である。ちなみにメニューは俺が即席で作ったチャーハン。自然の流れで俺が本日の昼食担当になった。確かに働かざるもの食うべからず言うからな。ん? 働いたら食べてもいいのか? ——食事の話ですよね。ええ、分かってますよ。そんな睨まないで。
こんな調子で作られた炒め飯は普通だと評価をいただいた。それ以上でもそれ以下でも右にも左にも行かない。今は味なんて気にならないぐらいの空気だから仕方ないといえばそうなんだが。
大勢の被害を簡単に出す方法としては爆発か毒がベストだ。切り裂きジャックでもない限り直接手を下すという方法は非効率だろうから低い。となると不審物または持ち込み物のチェックが必要だ。いや、被害者に紛れていた場合はすでに対処のしようがない。いや、違う。そうじゃない。そこじゃない。
対象となる施設が多すぎるのがいけない。もっと絞らないと。相手は複数だろうか、単独であそこまでの数の猫を置けるのか。
「犯人ってどんな奴だろ」
「おとこ?」
「じゃね?」
「屋根登るってことは忍者とか?」
「忍者が学校に何の用だよ……」
突っ込むだけ空しい会話に安心しているのは誰だろうか。オーバーヒート気味の回線は一度冷却されていく。俺が考えているからダメなんだ。もっとマクロに。
「警察に一報だけ入れておいて、俺は自分の学校に行くけど、来る?」
人海戦術は俺たちでは無理だから国家権力に頼ることにした。相手のしっぽも正体もまるで掴めない。探っても可能性が広がるだけで進展しない。それならば直接やりあう他にない。腕でも鳴らしとこうか。
▶
「なんだよ、これ」
遅かった。うちの高校はすでに人がごった返していた。怒号が鳴りやまないライブ会場はもはや取り返しがつかないところまできていた。校門に押し寄せた人波は俺たちの侵入をも阻む。
「恒、これ見て」
手の平に乗った情報によれば、〝招かない〟猫が急増し、避難所にも続々と現れているらしい。どうやら被害に遭わずして被害者の被害に遭った旭風藻盤高校が
これだけ人が居てはどこに犯人が居てもおかしくない。いつ無差別テロが起きてもおかしくない。どうする。どうすればいい。
いや、何もしなくていいんじゃないか。うん。学校が吹き飛んでも少し休みが増えるぐらいだし、俺の周囲の人間に被害が及んでも危害が今すぐに及ぶわけじゃないだろう? 今回は相手が悪すぎた。世界相手に戦えるほどの力は俺にはない。勘違いするな、己惚れるな。俺は神でもなんでもないただの隅っこの人間だ。 このままハーレム同居生活って最高じゃないか? 何も変わる必要ないんじゃないか? 今を好きになれるのならば、わざわざ変化を起こす必要はないんだろ? そうなんだろう? なぁ。
誰も俺をそんな目では見ていなかった。少なくとも俺を見てくれている人はそんな目で見ていなかった。不安そうで心配な目が見ているのは、事件でも自分自身でも難民たちでもない―他ならぬ俺だ。
この事態が起きた時点で犯人は分かった。わかってしまった。少なくとも俺の知りうる情報網内ではただ一つしかいない。
一人ではなく、ただ一つ。
学校が休みになって喜ぶ人は? 学校の先生では、もちろんない。仕事を失って喜ぶ人がどこにいる? 少なくとも教師はその程度の志で務まる職ではない。
答えはもちろん生徒だ。俺を含めた通っている生徒だ。毎日学校に行かなくちゃいけないって考えると誰しもだるく感じるもの。それが休みだ! ってなれば気が楽になるから喜ぶだろう? つまりそういうこと。
今回の犯人は複数犯。屋根にも登れるほどの運動神経を持つと言ったら基本は男子。もちろん人間的跳躍力じゃない。きっとあの〝招かない〟猫が力を貸してくれたんだろうさ。十二支に成り損ねて力が歪んでしまった神様だ。使う方向が歪んでいても誰も文句は言えない。強いて言えば、ネズミか?
人間が否が応でも突き付けられた現実を見た時、その人間はどうするべきか。
現状の今が好きならば変える必要はないが、嫌いならば選択肢は二つ。
逃げるか。
変えるか。
過程でどれだけ足掻いても、結果的にはこの二つに分かれる。選択肢というより結果だ。結果のために取るべき手段と方法ならいくらでもある。俺は逃げた。苦しむのが嫌だったから。少しだけ歩み寄ったとしてもそれは結果には影響しない。俺の結果は逃げだ。
それでも勘違いして己惚れる自信過剰者っていうのはどこにでもいるものさ。
でも結果で言えば彼らも逃げたことになる。現実から逃げるために現実を変えた。変えることを手段にして、逃げることを目的とした。俺の場合は逃げていたら変えられただがな。
俺が知る限りでは二年二組の問題ぐらいしか思い当るものはない。一度起きた火災ってのはあちこちに火花を散らして火種を残すもの。消えたように燻っていても、赤や青でなく白になっていることもあるのだから。
あの教室にいたのは坂田京介と東楽園花を筆頭とした女子だけではない。影が薄くとも男子がそこには確かにいたのだ。
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