パフェ

 朝食が終わると、アンフィがライトに向かって何か目で合図している。

 ――本当にラブラブなんだな。

 うらやましいと僕が思っていると、ライトが「自分で言えよ」という口振りをアンフィに向け、面倒臭そうに僕に話しかけてきた。

「ところでホクトさん。ここにおられるお嬢様が、なにか食べたいスイーツがあるとおっしゃっているのですが……」

「ぷっ。なんだよ、急に改まって」

 思わず噴き出してしまう。さっきのアンフィの目配せは、何かのお願いだったようだ。

「いいよ。それを食べに行こうよ」

 僕が言うと、アンフィは「やった!」と小さくガッツポーズをした。

「きゅるるるる~」

 シリカも嬉しそうだった。


 アンフィが求めるスイーツを目指して、三人と一匹は街の公園に移動する。どうやらそれはこの公園で売っているようだ。

 芝生が植えられた大きな広場が中央にあり、その周りを池や林が取り囲んでいる。さらにその外側に建ち並ぶビル群。この公園は街のオアシス的な存在になっていた。

「あっ、あそこが空いてる」

「きゅるるる!」

 アンフィが見つけた空きベンチを目指してシリカが走り出す。なんだか嬉しそうだ。他のベンチは、休日を公園で楽しむ人たちで埋まっていた。

「それでお目当てのお店は何処?」

 僕が訊くと、アンフィが広場に面した出店のスタンドを指差す。

 そこには、『超特大パフェ、挑戦者募集!』と描かれた幟がはためいていた。

「あれ、一度やってみたかったんだよね~」

 えっ、アレですか?

 僕とライトが顔を見合わせる。その横でアンフィは目をキラキラと輝かせていた。


 超特大フルーツパフェは、本当に特大だった。

 洗面器ほどのガラス容器に、アイスとフルーツとホイップクリームがてんこ盛り。

「これこれ、これよ。一度食べてみたかったんだよね~」

 僕がパフェを抱えて皆のところに戻ると、アンフィが歓喜の声を上げた。

 ちなみに支払いは僕のフリーパス。だから無理に完食する必要はない。

「でけぇ~」

 パフェを見たライトは目を丸くした。

「おまえ、食べきれるのかよ」

「無理に決まってるじゃない。だからみんなで来たんじゃないのよ」

「きゅるるるる~」

 シリカもやる気満々だ。


「このパフェって、三千レディもするのよね」

 長いスプーンでアイスをすくいながらアンフィがつぶやく。

「そんなにするのかよ、これ」

 ライトもパフェをつつきながら目を丸くした。

「俺が学園から貰う一週間分のお金の半分じゃねえか……」

 そんなライトの言葉に、アンフィは目をさらに丸くする。

「えっ、あんたって学園から週にたった六千レディしか貰ってないの? マジ!? あんたってバカ?」

 アンフィがライトの顔をのぞき込む。しまったという顔をするライト。

「バカは言いすぎじゃないの、アンフィ?」

 僕がライトを擁護すると、アンフィがライトに言い聞かせるようにしながら説明を始めた。

「いいホクト。学園に通って授業を受けると、一つにつき三百レディもらえるのよ」

「それは昨日ライトから聞いた」

「授業は一日に五時限分あるの。つまり、一日の授業をすべて受けると千五百レディもらえるの」

 僕は頭の中で計算を開始する。

 ライトは学園から週に六千レディを貰っているという話だった。

 一方、一日の授業をすべて受けると千五百レディ。つまり、ライトは、週に四日しか授業に出ていないことになる。

「だからね、月曜日から金曜日まで学園に通うだけで、七千五百レディもらえるはずなのよ。それを六千レディだけってどういうこと?」

「だって金曜日はテストがあるだろ」

 ライトは不満げに言う。

 なに!? テストだって?

「えっ、金曜日にはテストがあるの?」

 それはとても重要なことだ。

「そうなんだよホクト、金曜日には一週間分の復習テストがあるんだよ。そんな日に、俺が学園に行くわけねえだろ?」

 あまり威張って言うことではないのでは、と思いつつ、復習テストという言葉に僕も憂鬱になる。

「だからバカだって言ってるのよ。テストに合格すれば、一教科につき千レディももらえるんじゃない」

 えっ、テストに合格するとさらにお金がもらえるのか!?

 しかも、一教科につき千レディだって?

 これはなかなか破格のボーナスだ。

「合格って、どうすればいいの?」

「テストで八十点以上取ればいいだけよ。たとえ八十点とれなくたって授業分の三百レディはもらえるんだから、分からなくてもテスト会場で寝てればいいのに……」

 アンフィは不満そうにライトを見上げる。

 確かにそうだ。合格できなくても授業分の三百レディをもらえるなら、僕なら受けるな。

「さては、あんた、テストに合格できないのが嫌なんでしょ?」

「違うって言ってんだろ。テスト自体が嫌いなんだよ……」

 ライトはふて腐れて、再びパフェをつつき始めた。

「じゃあ、アンフィは一週間にどれだけ貰ってるの?」

 するとアンフィは得意げな顔をする。

「よく聞いてくれたわ、ホクト。ふふふ、今まで週に一万レディを下回ったことは無いわね」

 すごい! 授業を受けただけで一週間に七千五百レディもらえるわけだから、一万レディを超えているということは、それに三千レディがプラスされていることになる。つまり、テストはいつも三教科以上で合格している計算だ。

 ホクトが感心していると、ライトが少しイライラしながら言った。

「ほらほら、さっさと食べないとアイスが溶けちまうぜ」

「僕、さっきサンドイッチ食べたばかりだからもう食べれないよ~」

「私ももうお腹一杯。お昼ご飯いらな~い」

「きゅるるるる……」

「みんなだらしないな。アンフィ、お前が食べたいって言ったんだから責任持ってもっと食えよ」

「えー……」

 アンフィが力なくスプーンを手にして、再びパフェをつつき始める。女の子が頑張っているのだからと、僕もスプーンを手に持った。

 

「ふ~、食った食った……」

 三人と一匹が超特大パフェを食べ終わったのは、それから三十分後だった。

 げっそりとした僕とアンフィの二人を横目に、ライトだけがケロリとしている。授業料の仇をパフェで取り返したというような表情だ。

「じゃあ明日からの学園で必要なものを買いに行こうぜ」

 ライトが提案する。

 そうだ、学園で必要なものをライトに教わって、今日のうちに買っておかないといけないんだった。

 さすがにこれから昼食を食べに行こうと提案する人は、誰もいなかった。

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