二日目(日曜日)

女の子

 ピンポーン、ピンポーンとやかましく鳴り響くチャイムの音で、ようやく目を覚ます。いつの間にか朝になっていた。

 隣のシリカはまだ眠っている。

 そして再び、ピンポーンと音が……。


「うるさいなあ、誰だろう? って、もしかして!?」

 ライトと出かける約束をしていたことを、ようやく思い出した。ベッドから飛び起きて玄関に走る。

「ごめん、ライト。今起きたところなんだ……」

 釈明しながら玄関のドアを開けて、

「えっ!?」

 僕は固まった。


 そこに立っていたのは一人の


 驚くのはそれだけではなかった。

「お早う、ホクト」

 女の子は、太く低い声で僕に挨拶をしたのだ。そう、正にライトの声で。

「えっ、君はライト?」

「そうだよ。早く着替えてきなよ」

 確かに彼の声だ。


 一体どういうこと? ライトが女の子になっちゃった!?


「ラジウムって物質は、男になったり女になったりするとか……?」

 目をパチクリさせていると、女の子が笑い出す。

「そんなことあるわけねえだろ。この街では『日曜日のお出かけは女の子の格好で』って決まりなんだよ。ほら、お前もスカート穿いて来いよ」

 そう言いながら、女の子が両手でスカートつまんで片ひざを曲げる。


 スカート? そんなの部屋にあるわけないだろ?

「女の子の格好って、そんなものないよ……」

「おいおい、クローゼットの中を確認したのか? あるに決まってんだろ、この街の決まりなんだから。よく探してみなよ」

「ええっ!? ちょっと待ってて……」


 半信半疑でクローゼットに向かう。

 中をよく見ると……あった。スカート、ブラウス、ストッキングまで揃っている。

 ということは――ライトの言うことは本当なのか?

 でも、なんでそんな不思議な習慣があるんだろう……。


 頭にハテナマークを浮かべながらスカートに穿き替える。すると、やっとのことで起きたシリカが僕の脇をすり抜けた。

「おい、シリカ!」

 僕の制止も聞かずに、シリカは嬉しそうに玄関に走って行く。

「まあ、可愛い~」

 どうやらシリカは、女の子に飛びついたようだ。

「見て、ライト。このトリティ、真っ白よ」


 ええっ!?


 今の声は女の子の声だった。

 むむむむ、何かおかしい。

 僕は着替えるフリをしながら、玄関を覗き見る。


 長い金髪をポニーテールにした女の子が、シリカとじゃれあっている。

 背は僕より低い。って、昨日のライトは僕より背が高かったじゃないか。それよりもなによりも、顔がぜんぜん違う。


 もしかして騙されてる?

 僕はスカートを脱いでジーンズに穿き替え、女の子に見つからないようにそろりそろりと玄関に近づいた。

 すると、なにやらささやき声が聞こえてきた。


「なんだよ、バレちゃうじゃないかよ」

「大丈夫よ。まだ気づかれてないから」

 やはり……。

 どうやらライトは、ドアの後ろに隠れているようだ。


「きゅるるる!」

 すると僕を見つけたシリカが嬉しそうに鳴いた。

 そして女の子と目が合う。

「あっ……」

「…………」

 気まずい雰囲気に耐えられず、ライトに向かって声を掛ける。

「隠れてるの分かってんだよ、ライト」

「ちぇっ、バレたか。もうちょっとだったのに……」

 ドアの後ろから残念そうにライトが顔を出した。


「ごめんね、ホクト。ライトが騙そうって言うから……」

 金髪の女の子は僕に向かって手を合わせた。

だって面白がってたくせに……」

 悪気もなくライトが口を尖らせる。

 どうやら女の子の名前はアンフィというらしい。


「ごめんなさい、自己紹介もまだだったわね。私はアンフィ。よろしくね」

「僕はホクト。こちらこそよろしく」

「ライトから聞いてるわ。昨日レディウ人になったんですって?」

「なんかそうみたいだけど」

「おめでとう! ホクト」

 女の子はニコリと笑う。


 うわっ、可愛い……。正に天使の笑顔!


 僕がアンフィに見とれていると、ライトが咳払いした。

「ホクト、アンフィはダメだぞ。俺の彼女だからな」

 なぬ、そうなのか。

「なによ、ライト。挨拶くらいいいじゃない。ははーん、あんた妬いてんの?」

 アンフィは横目でライトを睨む。その仕草も可愛いかった。

「バ、バカ言うんじゃねえよ。それよりも、アンフィのせいで計画が失敗したんじゃねえか」

「なに、それは僕を騙す計画?」

「えっと、それはだな、ホクト……」

 弁明を始めるライト。なんだか可笑しくなる。


「いいよ、いいよ、楽しかったからさ。本当にライトが女の子の格好をしてるって思っちゃったよ。ところで、なんで女の子の服がクローゼットに入ってるんだ?」

 必要ないのに、どうして僕の部屋に置いてあるんだろう?

 なんとも不思議だった。ライトがそれを知っていることも。


「レディウ人の新人が男か女かなんて、そんなのだろ? だから新人用のアパートの部屋には、あらかじめ両方の服が揃えてあるんだよ。俺の時もちゃんと女性用があったんだぜ。全部コイツにあげちまったけどな」

 ライトはアンフィを向く。エへへと笑うアンフィ。


「へぇ、女の子の服が置いてあるのはそういう理由だったんだ。というか、危うく騙されるところだったよ」

「本当に着てもいいんだぜ」

「えっ……」

「あら、私も見たいわ。ホクトが女の子になるところ」

「アンフィまで、そんなこと言わないでよ。い、嫌だよ……」

「きゅるるるる!」

 するとシリカがアンフィの腕の中に飛び込んで、嬉しそうに鳴いた。

「ほら、この子も見たいって言ってるじゃない」

「あははははは……」

 女の子の服のおかげで、僕達は一瞬で打ち解けてしまった。

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