4、思惑絡む夜
4-1
夜の森は不気味だ。
木々の幹やら根っこが人の顔に見えてきたり、草むらや
例えば、獣の鳴き声などがすると、思わず飛びのきたくなってしまうし、森の空気に慣れるまでは足を止めてしまうこともあった。
「ちょっと休もうか?」
前を行くフルアルがこちらを振り返って告げた。
「どうする?」
すぐ目の前でふらつきながらもどうにかこうにか歩いているエテナに声をかける。
「うーん、だい……じょ、ぶぅ」
とても信じられない言葉だ。
「えぇ、休みましょう」
月明かりの届く、ある程度は周りを見通せる場所へと座り込む。
「少し食べておくといいよ」
携帯食料=干しブドウの入った菓子パンみたいなものを渡される。昼にはおにぎりを渡されたし、あらかじめ用意してくれていたのだろう。しかし、エテナは食欲も失っているらしく、ほとんどパンは食べず、魔法瓶にいれておいた水へ口をつけるのみだった。
「あの、フルアルさんとシロって、どういう関係なんですか?」
ひざの上で寝息を立て始めたエテナの頭を撫でながら、ふと気になったことを尋ねた。
「うん? どうしてだい?」
「かなり昔からの知り合いなのかなって思いまして」
「あぁ、そうか。うん、まぁ、そんな感じではあるのかな」
妙にはぐらかした答えだった。撫でていた手を止め、じっとフルアルを見つめ続ける。
「どんな関係かといえば、姫と騎士だね。雪姫がどう思ってるかはともかく、僕はそう思っているよ」
フルアルは空を仰ぎ見る。茶髪の隙間から、澄んだ月明かりを映す茶色い瞳がちらりとのぞいていた。
「ということは、通りすがりではなかったんですよね」
こちらへと顔を向けたフルアルはしばらく何も言わなかった。
「――そうだね」
やがて返ってきたのは、あっけない肯定。
ライラに襲われた時に助けてくれたのは、やはり偶然ではなかったのだ。
「どういうことか説明してもらってもいいですか?」
「君たちのことは雪姫から聞いていたんだ。できれば、仲良くなりたいとね。それで、そうだね、君は雪姫からローブを強引に渡されただろう? あの時、雪姫は彼女か君のどちらかをつけ狙う何者かがいると気付いていたんだ。ただし、どちらを狙っているかは分からなかった。だから、取りあえず様子を見ることにしたのさ。襲ってくる様子もなかったからね」
つまり、ライラの気配を感じ取ったシロが機転を利かせ、ローブを渡してくれたのか。
「ついでに教えると、僕が君のもとへ駆けつけることができたのは、雪姫の渡したローブに、なんらかの危害が加えられたら、そのことを僕へと知らせる魔導機構が設定されていたからだよ。君に渡した小瓶と仕組み的にはよく似ているね」
シロから渡されたベージュ色のローブは、単にライラの斬撃を防いでくれていただけではなかったのだ。
「どうして俺たちだったんですか? どうして仲良くなりたいと?」
「それは雪姫に訊いてほしい。僕は姫に仕える騎士とはいえ、だからこそ、姫の思っていること全てを把握しているわけではないんだよ」
「そう、ですよね」
いずれにしてもシロとフルアルがいなければ、ライラに殺されていたのだ。
「エテナちゃんは僕が背負っていこうか?」
眠ってしまったエテナを起こすのは忍びないということだろう。
「いえ、俺が背負っていきますよ。もし何かに襲われでもしたら、俺じゃ何もできないでしょうし、その時はフルアルさんに守って頂きたいので」
まずは壁の近くまで森を抜け、壁伝いにカラドリの入口へ向かう。そのように予定を立てて、歩いてきた。
もうそろそろ森は終わる。エテナを背負って歩けない距離ではないはずだ。
森を抜け、たどり着いた壁。すぐ近くに見えた門は完全に閉まっていたため、向かって左手側へと進み続けると、やがてカラドリの正面玄関であるカラドリ駅が見えてきた。
まだ夜は浅いはずだが、人通りは全くない。
身分証を確認するために常駐していた守衛の女性以外には街の中にも人は見当たらなかった。
夜になると、ここまで人っ子一人いなくなってしまうのかと思いながら、中央通りを北上していく。
宿へ戻ると、受付の奥に控えていたお姉さんから預けてあった鍵をもらった。今回は手紙などなかったのだが、それでもやはり相手の顔をしっかりと確認した。もちろん、ライラではなかった。
食事をどうするか尋ねられたが、それほどお腹は空いていなかったし、早く部屋に戻って眠りたかったため、断った。
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