第46話
ここは闇国迷宮。広間の中央。
巨大戦獣猪の不意打ちにあったウィラーフッド教官が倒れている。
戦獣猪はその周りをぐるぐると回り、ルイスたちを威嚇している。
一刻も早く先生に手当てが必要なのだが近づくことができない。
手詰まりのまま時間だけが過ぎてゆく。
先生の周囲に広がる赤黒いしみがルイスたちの焦燥感を掻き立てていた。
「ぐずぐずしてらんないわ。どうすんの?あいつを先生から引き離すんでしょう?あたしたち二人で」カチェリは言った。
「引き離すっていうか・・・倒す」ルイス
「!!!冗談でしょ?」カチェリは目を丸くする。
「やれるさ」言うとルイスは、それを地面から拾い上げた。
さっき先生が跳ね飛ばされた時に弾かれたらしい
ウィラーフッド先生の 剣 を。
長さはルイスの腕くらい。細身の刃が弧を描いて反り返り、鍔は楕円形で小さい。
逆に柄部分は長めで片手でも両手でも扱えそうだ。短剣というほど短くないが、
デイビスの長剣に比べれば小枝のようである。そして軽い。強靭な刃なのにとても軽い。よく見るギャブル剣とは趣が違う、変わった形の剣だった。
「ちょっと、ルイス、あんたは」カチェリが不信も露わに言う。
「生存術科でも戦闘術の授業はあるよ。それに俺は」ルイスは答えた。
「”最高の一団”ローナス師範のしごきを毎日受けてるからね!」
かっこよく剣を構えてみせる。
「・・・毎日やられっぱだったくせに」カチェリが言うが、
ルイスは剣を差し出し、
「火付けていただけますかな?魔術師殿」「もう点いてるわよ」
いつの間にかその刃は熱気と陽炎を発していた。
「はや!さすが首席、たいしたもんだ。」
「それでもあんたの腕前とその剣じゃ、あいつを倒せるとは思えない。追い払うだけにすべきよ」カチェリの顔から疑念が消えない。そりゃそうである。養成学校の演習場で、毎日のようにローナスにひっぱたかれて顔を腫らせていたのだから。だがルイスは首を振った。
「奴は知恵のまわる戦獣だよ。"けが人が増えて思うように動けない”というこっちの弱みをわかってる。追い払ったところで仲間を引き連れて戻ってくるだけさ。ここで決着をつけないと」「だから、どうやって?」
「もちろん、雷撃波さ」ルイスはすました顔で言ってから、少し不安げに「できるよね?」と聞いた。
カチェリはため息をついて「あの化け物を”追い払う”でもなく”気絶”でもなく、雷撃で"倒せ"っていうの?」
「めちゃくちゃ雷圧を上げなきゃなんないわね。雷圧は上げれば上げるほど制御は難しくなるし、思うところにも落とせなくなる。当てるのは至難の業よ。」
「だからこいつなのさ」ルイスは剣を掲げる。「”剣とかの金属は雷を呼びやすい”だろ?」
「奴にこれを突き刺して、そこへ雷撃波を呼び込む。心臓に刺せれば御の字だけど、そうでなくても相当効くはずだ」
「・・・・・・」カチェリは少し考えてから「やっつけで考えたにしちゃ上出来だわ」頷いた。「いけるかもしんない」「決まりだな。急ごう。先生が心配だ。」言うとルイスはセレクたちを探したが姿は見当たらない。もちろん逃げたわけではなく、仲間3人と共に幻界をかけて潜んでいるのだろう。(いつの間に?すげえなあいつら)
「いいルイス?雷圧を高めきったら合図を送るから、剣を刺そうが刺すまいが絶対に逃げて。できるだけ離れて地面に伏せるのよ。言っとくけど、今度の奴の巻き添えは”痺れる”じゃ済まないから」
「わかってるって。」ルイスは鼻を鳴らして歩き出す。(まったく、子ども扱いはやめてくれよ)
「おっと、こいつも脱がないとな」。金物は雷を呼び寄せる。これを着ているのはまずい。鎖帷子を脱ぎ捨てた。
その後姿を眺めたカチェリは「いきがるんじゃないわよ。あんたは”グズでとんま”なんだから」と言った。声に含まれた心配げな響きを後ろに聞きながら
(母さんみたいなこと言ってるし)ルイスは思った。
戦獣の向こうに先生は倒れたまま、カチェリは後方に下がった。つまりここは、
「俺とお前でサシの勝負ってことだ」ルイスはウィラーフッド先生の剣を構え、
巨獣をにらみつけた。
「来いよ、戦獣野郎。」
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