第44話

「先生!カチェリ! うわああああん」ゲルダが泣き出す。緊張が一気にほぐれたのだろう。

「ルイス!いったいどうして?」ウォルフと「お前昨日やらかして自習のはずじゃ」デイビスが言った。

「・・・あのなーおまえら。助けに来た奴にいきなり聞くのが・・・そこなのかよ!」ルイスは口をへの字に曲げて言う。

「まあいろいろあって、救助隊に抜擢されたの!で、ローナスたちは?一緒じゃないのか?」

ウォルフは首を振った「会ってないよ、ここには僕たち4人だけだ」

「彼らには今日、最深部で”怪物役”を頼んでいた。合流していないのか・・・そうか」ウィラーフッド先生は目を伏せる。責任を感じているらしかった。

「大丈夫ですよ、先生。7人のうち4人が無事に見つかったんです、後の3人もきっと!」カチェリが明るく言うと「無事じゃない!あたしは大ケガなのよ!」ゲルダが半べそで言い「あはは、ごめーんゲルダ」カチェリが笑うと「ひっどい!そこ笑うとこ?」ゲルダも半泣き半笑いになった。


「あの、ルイス先輩。どうして私たちの居場所が?」セレクは尋ねた。「君が案内してくれたんじゃないか」ルイス「???」「壁に描かれた印。最初は何の意味か分からなかった。でも”来た道に丸、行く道に三角”この法則がわかったら簡単だったよ」「ここは”予定路”から1階層下に当たる。たぶんあの大揺れで地形が変わっちゃったんだろう。大きな通路は埋まってしまっていたけど」ルイスは壁の上を指さした。天井付近に走る割れ目から縄梯子が降ろされている。「あそこから入れた、そしたら君たちの声が聞こえたってわけさ」

「戦獣猪との戦いも見たよ。閃光松明をあんな風に使うなんて、やっぱ君、いい感覚してる」

「そ、そんな…苦し紛れのことです」憧れの先輩の言葉にセレクは真っ赤になった。


「ルイス、そろそろ行こう。早くユアンたちを探さないと」カチェリが急かした。

「そうだな」ウィラーフッド教官も立ち上がる。「デイビス!ゲルダを背負ってあの縄梯子を上れ。セレクとウォルフは先行して補助を。上った先から少し進むと”予定路”に戻れる。大口洞の入口でレンシア教官が待機してるはずだ。後は彼に従え」てきぱきと指示を与えると「この辺の探索はどの程度まで進んでいる?わかった範囲でいい、教えてくれ」聞いた。


するとセレクが「あっ、あのっ・・・わ、私も、お供します!捜索隊に加えてくださいっ」申し出た。「なんだって?」ルイス「セレク、気持ちは嬉しいけど」カチェリ「周辺地形は調べました!必ずお役に立ちます!」セレクは食い下がる。なぜかかすかにカチェリを睨んでいるように見える。


しかしウィラーフッド先生は首を振った。「だめだ。君たちは遭難者で、するべきは一刻も早く生還し、無事を報告することなのだ。負傷者を連れて速やかに撤収しろ。命令だ」セレクは唇をかんだ「わかりました」しばらくうつむいていたが、すぐに顔を上げて仲間たちの方を振り向くと「道は分かったよ!みんな!帰ろう!」元気よくはっぱをかける。「ウォルフ、先に上に登ってて。ゲルダ、あと少しの辛抱だから、もう一度包帯を巻きなおして。デイビス・・・デイビス?」きょろきょろと巨漢の少年を探す。すると彼は倒した猪をまだ未練がましく眺めていた。

「うーん、もったいないなあ。こんな大物。狩人でもなかなか仕留められないのに、しかも二匹も」

セレクはうんざりして「いい加減にしてよデイビス。今大事なのはそれじゃない。猪なんてどうでも」そこで言葉を断った。



・・・・・・

何か、見落としてる。

何か、忘れている事がある。

今、デイビスは、なんて言った?


猪が   二 匹


セレクは叫んだ「三匹目!三匹目はどこ?」。ウォルフとデイビスが顔を見合わせ、ルイスたちは怪訝な表情でセレクを見た。「襲ってきたのは三匹です!そこには二匹しかいない!」セレクは倒れている猪の骸の牙を見た。どちらも牙が短い。あいつじゃない。「一番大きな奴が、まだどこかに」


その時だった。低いうなり声と共に突進してきた大きな黒い塊が、ウィラーフッド教官を跳ね飛ばした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る