第41話

携帯灯火の明かりが、洞窟内壁を照らし出している。

もう土煙はほぼ収まっているが、通路は落ちてきた砂利や石が積み上がり、

いたるところで小山のようになっている。揺れは収まったものの、壁や天井が

崩れかかって危険な状態なのは変わらない・・・と思った瞬間!

どすんと目の前に岩が落ちてきた!(あぶねえ!)

どこにいても生埋めの危険にさらされる。(思った以上にヤバい現場だ、ここ)。

小つるはしと携帯灯火を手に先行している戦官養成学校生存術科、

ルイス・セウ・フェイラーは冷や汗をぬぐいながら思った。


闇国迷宮入口の「大口洞」で行われる”成人のしきたり”。

それは、闇国迷宮で戦う戦士を育成する戦官養成学校の卒業実技試験である。

その日、ウィラーフッド教官率いる戦官養成学校の生徒たちは、

迷宮内にて実戦さながらの訓練に取り組んでいた。

何事もなく無事訓練を終えようとしていた午後のその時、突然の大揺れに彼らは襲われた。

崩落する洞窟から命からがらなんとか大半は避難できたものの、

7人の生徒と教官が逃げ遅れて洞窟内に取り残された。その中には

”最高の一団”にしてルイスとカチェリの親友、療術師ユアンと戦闘師ローナスもいた。


一刻も早い捜索が必要だったが、監視城の人員は不足、無事な者は負傷者の対応に追われ、

十分な能力を持つ捜索隊が組織できない。マギカ市からの救援はどんなに早くても

翌日になってしまう。時間の余裕はなかった。

しかし、そこへ前日のヘマのせいで待機を命じられていた魔術師カチェリと

生存術師ルイスが現れた。彼らは成人のしきたりへの参加を諦めきれず、

独自に迷宮までやってきていたのだ。ウィラーフッド教官は即座に彼らを起用、

自らも含めた遭難者救助隊を組織する。


こうして思わぬ形で、”成人のしきたり”に参加することになったルイスとカチェリ。

だが、それは訓練ではなく実戦で、懸かっているものは財宝ではなく、親友二人の命なのだった。




「誰か!誰かいないか?!」ルイスは大声で呼びかけた。返事はない。

洞窟の奥から冷たい風の噴き出す音が聞こえるだけだ。


「ルーイス!どうなのー?返事しなさーい!」遠くからカチェリの声が聞こえる。

偵察と安全確保のために生存術師が先行する、という迷宮探索の定石に従っているわけだが、

待ちくたびれて業を煮やしたようだ。


( 大丈夫・・・とは言えないよなぁ)突入時は大はしゃぎだったルイスだが、

今はすこし後悔している。

こんなヤバい所に、カチェリを連れてきてしまった事を。

元々彼女を呼び出してここへ連れてきたのはルイスだった。

彼女にもしもの事があれば・・・彼女の家族に申し訳が立たないどころの話ではない。

それともう一人にも・・・まあ、いちおう。

(・・・カチェリは大切な身体、ちゃんとお守りしますよ、許嫁のリグールくん)

ルイスは自嘲気味に笑った。


「いいよー!!でも天井と壁に注意して来て!」ルイスは大声で呼びかけた。

程なく壁に携帯灯火の揺らめきが浮かび、カチェリとウィラーフッド教官が顔を出した。


「どう?なにかわかった?」ウィラーフッド教官が訪ねた。

「厳しいっすね・・・揺れは収まってるけど、洞窟ごと揺さぶられたせいで岩壁がもろくなってます。いつ崩れてきてもおかしくない。でも戦獣の気配はありません。連中もビビってるんじゃないですかね」


「ん~不確定な推測に乗っかるのはどうかと思うな、ルイス君」

ウィラーフッド教官はくぎを刺した。

「そうよ、あの大揺れ自体が、闇ノ国の大掛かりな魔法攻撃かもしれないわ。

味方を退避させた後に仕掛けたのなら敵がいないのは当然よ」カチェリが言う。

(なるほど、頭いいや)ルイスは感心したが、直後に

(ってそれだって推測じゃないか!)つっこみたくなったが黙っていた。

ここで言い返すとたぶんめんどくさいことになる。カチェリはそういうヤツだ。


「先生、それじゃ俺、もう少し奥まで行ってみます。ところで不明者なんですけど、

「ユアンとローナスと後の5人は?」ルイスは問いかけた。


「ん~ごめんなさい、そういえば言ってなかったわね」ウィラーフッド教官

「戦闘術科のヘイステン教官、最終組のセレク、ウォルフ、デイビス、ゲルダ」

「セレクって?あの”飛び級セレク”ですか?」ルイスは驚いて聞き返した。

「そりゃ、飛び級だもの。いても不自然ではないでしょう?」先生は微笑んだ。

「誰それ?ルイス、知ってるの?」カチェリは話が見えないようだ。

「生存術科の君みたいなやつさ。首席を争った相手だよ。年は二つ下なんだけど、

とにかく抜け目がない奴でね。優秀すぎて飛び級したとは聞いてたけど、2年目にして”成人のしきたり”に出られるようなってたとはね。すげーなあ」


プラネット国の教育は”必要十分を最短時間で”のため、無駄な時間を費やさない。できない奴はできるまで落第させるが、逆にできる奴はどんどん飛び級させてさっさと社会に送り出してしまう。落第も飛び級も珍しいことではなかったのだ。


 「ちょっと、首席はあなたなんでしょう?そんな生意気な奴、びしっとシメちゃいなさいよ」なぜかカチェリが不満げに言う。というか(君が”生意気”を語るとはねえ・・・)ルイスはしみじみした。

「いやあ、最終試験で俺が勝てたのは単に体力差さ、年上の俺の方がへばるのが少し遅かったっていう、ほんとにそれだけだよ。実力は間違いなく互角、才能はきっと上、次の”最高の一団”にはあいつの名が必ず載ると思うぜ」

「あの子には私も今日、一杯食わされたわ」ウィラーフッド教官が苦笑いした。

「・・・いいぞ。セレクの組なら、こんな状況でも何とかしてる可能性が高い。」

いうやルイスは

壁に駆け寄った。

「何してんの?」カチェリが訪ねる。

「”頭の地図を信用するな”そうですよね?先生」ルイスは壁に携帯灯火を当て、何かを探している。

「セレクなら絶対帰り道用の目印を残してる。それを探すんだ。カチェリ、先生も手伝ってください。瓦礫に埋まってしまってるかもしれないけど、必ずあるはずだから。それを見つければ彼らがどういう道をたどったかわかるよ」

「さすがね、ルイス君」ウィラーフッド先生がいうと

「当たり前じゃないですか!彼は生存術科首席で”最高の一団”なんですよ!」

なぜか、カチェリが自慢げに言った。


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