第38話

布をめくってみると・・・奥に縮こまっている紫色と黄緑の塊が見えた。

ルイスはため息をつくと「出ておいで」と言った。おずおずとオーガの少年は出てくる。

「ずーっと、隠れてたのかな?」ルイスはむつかしい顔を保ったまま言った。

モーティは小さくうなづいた。

(ここで変に笑うのは良くない。いたずらをしたことを怒っているのだという気持ちを伝えないと)

道大工衆の子守に明け暮れていたころに得た秘訣である。


   子守心得4・叱る時は真剣に でも冷静に


「ここはオカシラの部屋だ。勝手に入っちゃいけないってお姉ちゃんに言われてるだろ?」

モーティは”お姉ちゃん”という単語が出た瞬間、びくっと体を硬直させた。普段がうかがい知れる。

「るしふぁーさま、おねがい、お姉ちゃんには内緒にして」懇願してくるが、

ルイスはむすっと黙ったまま目を閉じていた。


もちろん、この事をベティーに言うつもりはない。

そもそもルイスは怒ってすらいないのだ。

でも、オーガたちの態度から察するに、

この部屋が特別な場所であることは間違いない。

今シメておかないと、いずれこの子はまた同じ過ちを犯して、

その時はもっとめんどくさいことになるだろう。


「いったいどうして、この部屋に入り込んだりしたんだい?」

オカシラ様らしく、しかめ面をしてルイスはモーティを問い詰める。

「ぐ、グラデス号を捕まえようと・・・」

下を向いてもじもじしながら、モーティは奇妙なことを言った。

「グラデス号?」

「これだよ」手に持っていた革袋を見せた。何かもそもそ動いている。


「なにそれ?」ルイスが聞くと

「見たい?いいよ!見せたげる!」顔を輝かせたモーティは袋に手を突っ込み、

それを取り出した。ルイスは危うく悲鳴を上げるところだった。子供の前で。


子供のオーガの手に握られていたのは、今までに見たこともないほどの巨大なクモだった。

背中をつかまれ、怒りのあまりなのか、8本の手をがっと広げ、頭の部分には8個の黒い目と

毛むくじゃらの口から二本の黒い牙がのぞいている。


「こ、これって」声が震えるのを何とか抑え込む。

これ以上オカシラ様の威厳を崩壊させてはならない。

「蜜蜘蛛だよ。知らないの?」モーティは得意げに

巨大クモをルイスの鼻先にぐいっと突き出した。

「どう?すごいでしょ!。こんな大きくて強そうなやつ見たことないよ!。

だからグラデゥス火山の名を付けたんだ!」「そ、そう・・」

ルイスは後ずさりしたくなるのを何とかこらえた。(オカシラ様の威厳っ尊厳っ)


「オカシラ様の部屋にこいつがいるのは知ってた。

なんとか捕まえたかったんだけど、入っちゃいけないって言われてたから・・・

ルシファーさまが穴を離れた今ならいける!と思って」


(首尾よく大グモを捕まえたが、その時俺とドスコスとベティーが戻ってきてしまい、

慌てて隠れたってか・・・)とりあえず大人の話を”盗み聞き”するつもりではなかったようだ。

ルイスはほっとした。


(そういや俺もガキの頃はトカゲとかカエルとか甲羅虫を捕ってたっけ。

にしてもオーガの子供は大グモが玩具なのか?信じらんないよ!)


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