第37話

「何言ってんだよ?この足を見ろよ」ドスコスは布でぐるぐる巻きになった足を上げた。

「あんなのだまし討ちだ。お前とサシでやりあったら間違いなく俺は負ける、ていうか死ぬ」


「アタマの良さだって実力だぜ!ルシ兄貴は賢さで俺に勝ったんだ!」

(聞いたかいカチェリ!俺のこと賢いって誉めるやつがここにいるぞ!)

ルイスは何とも言えない顔になった。でも、


「他の奴らもそう思ってくれりゃいいけどさ」

「もちろん思ってるぜぇ!あの戦いはみんな隠れて観てた。

ルシ兄貴はみんなの前で”強さ”を示して見せたんだよ!」

ドスコスは自信たっぷりだ。(たぶんお前だけだよそれ)

そう思いながらルイスは疑問を口にした。

「どうだろな?たとえばあの3人、お前に絡んでた」

「ああ、ディング、ドング、エニナルか」ドスコスの顔が急に険悪になったのにルイスは気が付いた。

「ディング、ドング、エニナル、そういう名前なのか。

なーんかあいつら、俺をなめてる感じなんだよな」

「さすがはオレの見込んだルシ兄貴だ!いいカンしてるぜぇ!」ドスコスは顔を輝かせ、

「・・・あの3人には気を付けろ。いろいろ”オーガらしくない”奴らだ。」声を落として真顔で言った。


その後、少し外を気にしている風だったが、やがてためらいがちに、

「・・・なあ、もう行っていいか?おふくろに今夜のねぐらを探してやらないと・・・」

「あ、ああ!、わりい!いいよ!いろいろ助かった」ルイス

辛そうに立ち上がろうとしたドスコスをすかさずベティーが支える。

二人はまた無言で見つめあった。そして歩き出した。


去り際にドスコスはルイスを振り向いた。布にまかれた足を軽くたたく。

「なんか!良くなった気がするぜ!」うれしそうに言った。

(そんなすぐ効くかよ・・・)ルイスは苦笑した。


再び天井を見上げ、ルイスは考えた。

(オーガの”強者の掟”はだいたいわかった)

(でも、ドスコスの言い方だと、俺がオカシラになったのは、不自然な事ではないように聞こえる)

(じゃあ魔王の言っていた”力の均衡を崩した”ってなんなんだろう?)

(まだ異変が起きていないってことか?)

(とにかくやるべきなのは”元に戻す”ことだ。このオーガの群れを。俺が現れる前の状態に)


(つまり)


(みんなの前で、ドスコスともう一度”本気勝負”して、奴に勝ってもらい、オカシラに返り咲いてもらう。その上で俺は生き残る)

(・・・って凄く難しいだろそれ!・・・無理!不可能だよ!殺されちゃう!)


(じゃあ話し合いでオカシラの地位を譲る?)

(・・・だめだ、”強者の掟”にそぐわない。オーガたちは絶対納得しない)


(どうすりゃいいんだ)

(やる方も観る方も本気になれて、しかも殺し合いじゃない、そんな道があるのか?)

(あ~わかんね~よ~も~)


考えが煮詰まったルイスは大きな伸びと共に後ろの寝具にひっくり返った、と同時に「ひゃあ!」飛びのいた。

寝具がもそもそと動いたからだ。布地の下に・・・なにかいる!

とっさに剣を構えた。・・・が、寝具の下から(オーガにしては)小さな手がのぞいてるのを見て

あっさり力が抜けた。


「モーティ。なにしてんだい?」ルイスは聞いた。


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