第36話
”オカシラの穴”にドスコスを運び込んだルイスは
とりあえず寝床に彼を横たえた。
「勘弁してくれよ、ルシファーの兄貴、ここはもう俺のねぐらじゃねんだよ」
ルイスは答えず、ドスコスの腫れ上がった丸太のように太い足を指で押した!
「いてててててて!、なにすんんだよぉ!」
「どれくらい痛い?」「めちゃめちゃ痛ぇよ!」
だが、引きずりながらも歩くことはできた(骨が折れてはいないようだ、キツめの捻挫ってところか」
ルイスはあたりを見回した。寝具に大きな蜜蜘蛛布がかかっている。
「ベティー」不愛想なオーガの娘に、ルイスは剣を渡し、
「これであの布を切ってほしいんだ。細長く、ひものように」頼んだ。
「・・・」ベティーは無言で剣を受け取ると、ルイスの顔を少しの間だけ眺めていたが、
やがて布を取ると部屋の隅で作業を始めた。
ルイスは盾を裏返す。そこに装備品が
装着できる留め金がついている。ガフ家の思い付きだ。進言したのはローナスだろうけど。
取り付けられる装備品は閃光松明だったり、辛味玉だったりするのだが、
だいたい湿気には弱いものが多いので
”深淵の間”で盾を水がめ代わりにした時は、もちろん取り外していた品々である。
その中から小さな油皮袋を取り出す。
中に入っているのは、おそらくは現時点の戦官養成学校で最高の
療術師見習いが調合した”腫れ鎮めの軟膏”である。
それがいかに効くかルイスは身をもって知っている。
もっとも相手はオーガだ。同じように効くかどうかわからないのだが。
ドスコスの腫れ上がった脛に軟膏を刷り込んだ。ルイスは療術師ではない、が
生存術科でも療術系科目は重視される。それなりの基礎知識は持っている。
「どうだ?具合は」「わかんねえよ、でもスーッとして、気持ちいいかも」
「ベティー 布は・・・」振り向くともう彼女は布の束をもってそこに立っている。
(早!しかもこんなにいっぱい)数本手に取ると、幅も長さも均一なのに二度驚いた。
(器用だなあ、手際もいい。)
布にも軟膏を少し塗りドスコスの足にくるくると巻き付けた。
ルイスは軟膏をベティーに手渡し、
「あと数回は使えるはずだよ。何日かに分けて同じように塗って布を取り換えてやって」
と教えた。ベティーは布と軟膏を手にして、少しルイスを見ていたが
「わかりました」今度は目を伏せずに言った。
ドスコスは「なあルシ兄貴、いったい・・・」
ルイスはドスコスの前で膝に腕を載せてしゃがみこんだ。ここからが本題だ。
「言っとくけど、最初に仕掛けてきたのは、お前だからな。」ルイスは続ける。
「あの滝に落ちて俺は溺れかかった。やっとのことで岸にたどり着いたら、
いきなりお前がやる気まんまんで襲ってきたんだからな?」
ドスコスはそのこぶだらけの顔でルイスを見て、少し声を落としていった
「そりゃねえ、そりゃあねえよ、ルシ兄貴。」心なしかしょげているようだ。
「だってそれがオカシラの務めなんだ。俺は務めを果たしただけなんだぜ?
縄張りによそもんが入ってきたら追い払う。
やばいやつなら戦う。群れを守る義務があるんだよ。
群れを守れねえオカシラに用はねえ。それがオーガの”仕組み”なんだよ。」
(”仕組み”!ここでも”仕組み”か!)ルイスは心の中で舌打ちした
「あん時、上から光ノ国の奴らが入り込んだってことは聞いてた。
そのうえグラデゥスのお怒りでとち狂った戦獣がその辺をうろついてて、
俺たちはてんやわんやだったのさ。そこへ兄貴が滝から落ちてきた。
姿形から一発で光の奴らだってわかったよ。
だから俺は皆に隠れてろと言って・・・あとは御覧の通りだよ」
「俺は敵なんだぞ!。オーガじゃない俺に群れを任せていいのかよ!」ルイスは怒鳴った
「そんなの関係ねぇ!。オカシラに要るのは”強さ”だけだ!」ドスコスも声を荒げた
「古いオカシラは死んでも新しいオカシラの下で、群れは生き延びる。
この闇ノ国ではそれがいちばん大事なんだ!」
「なあルシ兄貴、何が気に入らねんだ?もっと威張れよ、好き勝手にしろよ」
ドスコスはなだめるように言った。ルイスは黙った。そして
「何が気に入らないかだって?お前と同じことだよ」とだけ言った。
「なにいってんだ?」ドスコスは困惑している。
「おまえ、マジで思ってんの?”俺に完全に負けた”と?」
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