第33話

闇国迷宮深部。オーガの頭ドスコスに機転で勝利したルイスは

鎖帷子を身に着け、再び剣と盾を手にした。が、

彼を取り囲む状況はよりいっそう複雑になっている。



前回までのあらすじ


闇国魔王を倒すべく、迷宮に突入し、”深淵の広間”に到達した

プラネット共和国戦官養成学校の戦官候補生、ルイス・セウ・フェイラー。


彼はそこで闇国魔竜(兄)ドラジロと戦い、辛くも勝利する。

だが、その後現れた闇国魔王には全く相手にされず、

それどころか彼自身が”深淵の広間”に囚われの身となってしまった。


捕虜となったルイスの前に、

お目付け役として魔王に抜擢された謎の美少女ダドラが現れる。

実は彼女の本当の姿は闇国魔竜であり、その上、

ルイスが倒したばかりの闇国魔竜(兄)ドラジロの妹だった。

仇討を警戒したルイスだったが、ダドラは

そこのドラジロが死んだふりしているだけだと看破してみせる。


息を吹き返したドラジロと、ルイスは再び戦うことになるか

・・・と思われたが、ドラジロは自身の失態により、

自ら焼死の危機に陥ってしまう。

思わず救護の行動に出てしまったルイス。その行動に怪訝さを隠さないダドラをよそに、

広間の水や氷を駆使して、なんとかドラジロを救った彼は、

闇国魔竜兄妹と、とりあえずの和解に成功したのだった。


そして完全な牢獄に見えた”深淵の広間”に

「水中の抜け穴」があることを発見したルイスは

いちかばちかの脱出を試みる。”深淵の広間”のため池は、

なんと水底の横穴から地下水脈へ抜け、滝へと繋がっていたのだ。

滝口から落下したルイスは滝壺に巻き込まれ溺れそうになるが、どうにか生還。

大きな地下空洞へと抜け出したのだった。


しかし、その滝の空洞は凶悪な巨人族オーガの縄張りだった。

いきなりオーガの頭ドスコスに襲撃されたルイスは、

ドスコスが巨体ゆえに高所に登れないということを利用し、彼を倒すことに成功する。

戦闘不能になったドスコスに最後のとどめを刺そうとしたルイスだったが、

彼の母親の懇願に武器を放棄したのだった。


「挑戦し勝った者が全てを支配し手に入れる」それがこの闇ノ国の”強者の掟”である。

つまり「今までのオーガの頭」ドスコスに勝利したルイスは

”魔の放伐”により「新しいオーガの頭」になってしまったのだった・・・

オーガ族に”ルシファー”と呼ばれ称えられる彼を見て、なぜか満足げな魔王。



「光ノ国より闇ノ国へ降り来たる勇者”ルシファー”・・・いいあだ名じゃないか」



魔王の真意は何か?

はたしてルイスは光ノ国・・・地上の仲間たちのもとへ帰ることができるのであろうか?






「 お 前 は な ぜ こ こ へ 来 た ? 」




まただ、ルイスは頭を押さえた。魔王のあのニヤニヤ顔と共に、

この問いが何度も心の中に浮かび上がってくる。

(あいつが何度も何度も何度も聞くからだ、くそっ)


ここは地下の大空洞。オーガ族の縄張りだ。

先ほどまでの熱狂は冷め、オーガ族がそれぞれの日常に戻りつつある。

ルイスがそう命令・・・お願いしたからだ。

「すこし考えたい。一人にしてくれ。皆は普段通りに」

「おおせのままに!ルシファー様!」(勘弁してくれよ・・・もう)


あれからどれくらいの時が過ぎたのだろう?。

仲間と別れ、深淵の広間に落ちてから。

いったい何日たった?

俺はいつからここにいる?

いつまでここに閉じ込められるんだ?


ルイスはぼんやりと目の前の風景を眺めた。

滝から流れこむ莫大な水流が、大きな池―いや

湖といっていいかもしれない―を形成し、

水辺の畔でオーガたちが、洗濯やら、水浴びやらをしている。

(クリナ川で見る景色と同じだ。やってることが俺たちと同じじゃないか)


そもそも、オーガ自体、見た目がかなり人に近い。

ドスコスは顔も体もふるまいも人離れしていたが、

どうやらそれは彼だけの”持ち味”のようで、

普通のオーガは、闇国魔王より二回り大きいだけの、

ルイスの二倍ほどの背丈の巨人である。

紫の肌に、黄緑の体毛、黄金色に光る瞳を持ち、男女ともにかなり筋肉質だ。

顔には眉毛がない、その代わり、眉骨の部分が人よりも強めに前にせり出している。

それ以外はほとんど人の姿と同じ、それが闇国迷宮の

地下の滝付近に棲む種族、オーガなのだった。


ふと後ろに視線を感じて、ルイスは振り返った。

あわてて岩陰に隠れる影がひとつ。

しばらく見ていると、そーっと覗き込む顔。

背丈はルイスより頭一つ分くらい低い・・・という事は、

オーガ的にはかなり”小さい”ということだ。

手足は細く、頭は大きく、顔はあどけない。

(つまり)ルイスは思った。


子供だ。人で言うならまだ8つかそこらの、オーガの子供なのだった。

体が岩陰から半分以上出てしまってほとんど丸見えである。

(この距離はわざとだ。彼は見つかる事を見越している、

というか見つけてもらおうとしている。)

道大工衆の子供の面倒を見ていたルイスにはすぐわかったし、

こういう時にどうすべきかもわかっていた。


”子守心得1・かまってもらいたがってる子を無視してはいけない”


ルイスはオーガの子供に向かうと、

歯を見せてありったけの笑顔で「やあ」とだけ言った。


”子守心得2・話したがっている子供を先に問い詰めてはいけない”


好奇心はあっても、何をどうやって話せばいいかまで考えている子はまれだ。

だから「なんか用?」「君、名前は?」とあれこれ聞くのはよくない。

「やあ」だけで十分なのだ。


オーガの子はじっとルイスを見て、何もしゃべらない。ルイスもしゃべらない。

我慢比べが続く。しばしの沈黙の後、ルイスはもう一度「やあ」と笑いかけた。我慢比べ”降参”の意思表示でもある。

するとようやく彼は口を開いた。ちょっと勝ち誇った感じが案の定だ。

「るしふぁーさま ひとりになりたいといった うそなのか」

ルイスは(そんなこと言ったっけ?あー言った言った!なかなか鋭いぞこの子)

(じゃー屁理屈には屁理屈で)

「”普段通りに”とも言ったよ?君は普段でもそんな感じかい?」


オーガの子はちょっと考えて「ちがう!」と叫ぶや岩陰から走り出た。

ドスコスと同じように両手を地面について跳ねるように走り回る(うあ、早い!)

とんぼがえりやでんぐり返しをして見せる。

一通り暴れまわった後「こんなかんじ」と得意げにルイスを見る。

(この見せたがりっぷり、きっと彼の”得意技”だな)


”子守心得3・得意技のご披露は出来いかんを問わず誉めるべし”


ルイスは手を叩いて「すごいなあ!もう一回見せてよ!えーと・・・」わざと口ごもる。

「モーティ!」彼は元気よく名乗り、またとんぼ返りを始めようとした、その時、

「モーティ!やめなさい!」厳しい声が飛んだ。



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