第19話
闇国迷宮は、ルイスたちの暮らすプラネット国の中心都市 マギカ市より、馬の早がけで3時間くらいの距離にある。入り口は「大口洞」。彼らと接触した最初の場所でもあり、闇ノ国への入り口としては最大のものでもある。当然主戦場として過去何度も激戦が繰り広げられた。現在は光ノ国がほぼ制圧しており、洞窟の入り口付近には昼夜交代制の衛兵詰め所としての”監視城”が設置され、不法に洞窟に侵入する者が無いか、逆に夜に洞窟から出てくるものが無いか、厳しく監視している。
万全の体制を強いているだけあって、脅威度はかなり低く、ゆえに戦官養成学校の卒業試験”成人のしきたり”の舞台として、多くの少年少女の冒険に役立っているのだった。
今、ルイスとカチェリは、その大口洞をめざして、満天の星空の下、麦畑の道を馬に乗って進んでいた。馬は近所の家から”井戸整備を無料でやる”と引き換えに貸してもらった大型の農耕馬である。早がけこそ苦手だが、馬力は強く、持久力があって、忍耐強い。ルイスとカチェリとその荷物を載せてもよろめくことなく、悠然と歩を進めている。
手綱を握るのはルイスだ。道大工が世話になると言うか、よく使うのは運搬用のロバで、
正直なところあまり馬は相手にしたことが無いのだが、
カチェリの「大丈夫なのあんた?」という言葉にむきになって、玄人の振りをして手綱を握っているのである。(なんでだろう?何で俺はカチェリに挑発されるとこんなに意地になってしまうんだろう?)
カチェリはと言えば、とりあえずそれで安心と言うか、信用してくれたのか、それ以上文句を言うでもなく、ルイスの正面にちょこんと跨って前を向いている。時折風で赤い髪が巻き上げられ、ルイスの鼻をくすぐっていく。
「で、段取りはどうなってんの?」馬に揺られながら、カチェリが聞いてきた。
「ウィラーフッド先生率いる養成学校の生徒は、昨日出立してるんだよ。大口洞までは学校から馬で半日以上はかかるからね。付近で野営して一泊泊り、体調を整えてから、注意事項についての集中講義や携帯食なんか用意してるはずだよ。で、今日の朝から時間をずらして4人一組づつで迷宮突入開始、そんな手はずだと思う」
「なるほどね、で、あたしたちは?」
「ぎりぎりだけど、この調子で行けばお昼前には大口洞に着ける。
まだ大口洞付近には養成学校の生徒たちでごった返してるはずだ。そこにしれっと紛れ込む」
「・・・は?・・・なっ、なにそれ?!」
カチェリが平野中に響き渡るかと思える素っ頓狂な叫び声をあげた。
「まさか・・・それが・・・あんたの・・・作戦?」
「そうだよ」
こちらを向いたカチェリの口があんぐりと開き、次いでみるみる頬が紅潮する。”怒りの印”だ。
「ばっかじゃないの!大口洞には昼夜問わず見張ってる衛兵がいるのよ!
不審な奴が紛れ込めるわけ無いじゃない!
ウィラーフッド先生だって参加生徒の一覧名を提出してるわよ!
筋金入りのグズでとんまのあんたがようやっと少しマシになったかもと
一瞬でも思っちゃったあたしが馬鹿だったわ。帰る!馬戻して!」
「そういうとこ、やっぱカチェリもお嬢様なんだねえ、うんうん」
動じるどころかルイスはなんと言い返した!。
「それどういう意味? す ご む か つ く ん だ け ど」
”怒りの印”がさらに濃くなる。限界点まで遠くなさそうだ。
「大口洞はもうだいぶ前の制圧作戦以来、闇ノ国人も戦獣も出ていないんだよ。
安全も安全なのさ。だからこそ戦官養成学校の実習現場に選ばれてる。
ローナスも言ってたろ?遠足並だって。で、
そういう”ぬるーい場所”で働くお役人がいかにいい加減か、
俺たち道大工はよーく知ってるんだよ。
詰め所はあるだろうし、衛兵もいるだろう。
でも彼らがちゃんと仕事してるかは疑わしいんじゃないかな。
”しれっと入る事”はそんなに難しくないと思うぜ」
「引き返しなさい い ま す ぐ !」
甲高かった声が、急に低くなる。
(こ、こえ~、怒りきるとこうなるのか。でも)
「だ~めっ」!ルイスは泰然としている。
「 あ ん た 自分でなに言ってるかわかってる?
これ誘拐よ?犯罪なのよ?頭おかしいんじゃないの?放して!」
カチェリは暴れた。
「その通り、あたまがおかしくなった
・・・ちょ!危ないぞ」ルイスはカチェリが馬上から落ちないよう、
手綱越しにしっかり抱きかかえた。
「!!!」カチェリ
「"グズでとんま”の落第生ルイス・セウ・フェイラーは、みんなに馬鹿にされすぎて、
とうとう本当に頭がおかしくなってしまいましたぁ~!同級生のカチェリをさらい、
手柄を立てようと先生の言いつけに背いて一人勝手に闇国迷宮へ突入ぅ~!」
ルイスはほがらかに言った。
「ルイス・・・あんた・・・」カチェリ
「全ての罪はルイスにありまぁ~す!
カチェリは哀れな被害者!何の責任もありませーん!」
ルイスはカチェリを見てにやっと笑った。
「あたしに恩を売ろうなんて100年早い!」
「かもね、だけどもう君には100年どころか1日の猶予さえない。
昼間も言ってたじゃないか。残り少ない時間を自由に生きてやるって。
俺はその手伝いをするよ。どんなことをしてでもする。
その結果、罰を受けることになってもかまうもんか。
さあ行こう!”最高の最後の冒険”の始まりだ!」
ルイスはカチェリを抱きかかえたまま、手綱を握りなおした。
「・・・・馬鹿よ、あんた」
「ああ、俺はバカさ。いまごろ気づいたのかい?」
その後しばらく沈黙が続いた。馬は歩き続けた。
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