第16話
「無茶よ!」カチェリは叫んだ。
(変な光景だ。いつもなら”無茶”を言うのは君のほうなのにな)ルイスは思った。
「たいしたことじゃない。俺らで闇国迷宮に行って、深部から財宝を獲って帰る。邪魔する闇の国人や戦獣は戦って排除する。それだけだよ」
「ルイス、いや、今は"グズでとんまのフェイラー”と言うべきかしら?その上世間知らずのおばかさん?いい?よく聞きなさいよ」カチェリのキツツキがノってきた。ただ、いつもと違い、その顔は心なしか青ざめている。
「たしかに闇ノ国と光ノ国は戦をしてるわ。戦官養成学校が事実上”闇国迷宮で戦う兵士を育てる場所”って言うのもそう。でもね、だからといっていつでも誰でもむやみに迷宮へ入っていいわけじゃないの。闇国迷宮へ入って探検と採集をするって言うのは、あんたの言ったとおり、闇ノ国から見れば”侵入と略奪”なのよ。ゆえに迷宮探検へおもむく者には厳しい資格条件がある。一つは軍事作戦として参加する兵士。二つめは養成学校を卒業して”戦官”の資格を取った上で貴族院に届出をして受理された学術的探検者、三つめは"成人のしきたり”と言う名の養成学校の実習訓練に参加する生徒、このいずれにも当てはまらない者は”盗賊”とみなされるのよ?敵の捕虜になったり、遭難したところで救出の助けは得られないし、生還しても犯罪者として処罰されるわ。よくて牢獄、下手したら縛り首よ?・・・あんたのやる気は嬉しいけど、残念ながら空回りよ。ルイス、頭を冷やして。ユアンも言ってたでしょ?今回がダメでも、三月もすれば次があるわ」
「ウソだ」ルイスは言った。カチェリは黙った。
「俺やローナス、ユアンにはたしかにあるだろうね。”次の機会”。でもカチェリ、君にとっては明日が最後だ。そうなんだろ?さっきのセラおばさんとリグールとの話、なんだったんだい?卒業を待つことなく学校を辞めてリグールとの結婚準備を進めるとか、そういうんじゃないのか?」カチェリは黙ったままだ。
「君にはわがままを言う自由もある。でもそういって引き伸ばせば延ばすほど、リグールの家と君の家の関係が悪くなる。家族に迷惑がかかる。それを気に病んで、君は諦めようとしてる。何もかも、全てを」
カチェリが弱弱しく言う。「・・・リグールの言うように、どうせいまどき”成人のしきたり”なんて大したもんじゃないのよ。あたしはそれを口実に逃げようとしてただけ・・・だから」ここでルイスは自分でも信じられないような大胆な行動に出た。カチェリの両肩を掴み強く揺さぶったのだ。驚くほど薄くて小さな肩を。
「 君 の 役 に 立 ち た い ん だ ! 」
カチェリは驚いた表情でルイスを見上げている。
「今日まで自分の”ふがいなさ”が、誰かを苦しめてるなんて考えもしなかった。
いまさら埋め合わせできるなんて思ってない。でも、せめて君に
”最高の最後の冒険”を贈りたいんだよ!。自由を捨てて、鳥かごへ戻る君に!」
まくし立てるルイスに、カチェリは悲しげに目を伏せた。
「・・・ルイス、あたしの言葉があんたを追い詰めてしまったのなら謝るわ。
お願いだから考え直して。あたしの事なんか」
「準備があるから俺もう行くよ、移動用の馬を調達してくる。
明日の夜明け前に、東セウ通りの外れで待ってるから。必ず来て。」
「嫌よ!行くもんですか!。あんたの穴だらけの計画で一生を棒に振るのはゴメンだわ!絶対行かない!」カチェリは叫んだ。もう泣き出しそうだ。
「それなら俺一人で行く。闇国魔王を倒して、君に素敵なお土産を獲ってくる。止めても無駄だよ。そいじゃ」答えを待たずに、ルイスは歩き出した。
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