第4話

「んー君たち。よ~く思い出して欲しいんだけどー。んー始まる前、先生言ったよねー演習課題。  言 っ た よ ね ?」

演習用地下室を出て、講義室の中。ルイス、カチェリ、ローナス、ユアンの4人が神妙な面持ちで椅子に腰掛けている。

黒板の前に立つ細身の女性。年の頃は三十くらいか。赤ぶどう色の髪の毛を丸く結い上げ、鼻筋の通った顔に銀縁の眼鏡をかけている。教官用の青色の制服が今にも弾けそうなのは、豊満な胸と腰のせいか、それとも怒りのせいか。手にした教鞭をぺしぺしと何度も手に打ち付ける。どうやら後者らしい。ウィラーフッド先生が苛立っているのは間違いなかった。


「課題はなんだったかなー? はいローナス!」教鞭で金髪の少年、ローナスを指さす。

「はい、光国側、闇国側に分かれて、相手に気づかれる事なく探索を進め、

目標物を取得、生還することです。」


「せいかぁーい。でーもー、実際はどうだったかなー?はいユアン!」

「あ、あの、そのせ、戦闘になってしまいました」いるんだかいないんだかわからないほど

存在感の薄い少女ユアンは幽霊のようにか細い声で答える。


「なーんでそんなことになっちゃったのかなー?はいルイス!」ルイスに教鞭をぴしりと突きつける。

その顔には”腫れ鎮めの草”の葉が軟膏薬でいくつも貼り付けられていた。

大した事無いと言ったのだが、ユアンが「それが一番危ないんです」と治療してくれたのだった。少し沁みるがそれが逆に心地よい。絶妙な調合具合の軟膏薬である。それが”療術師”ユアンの実力だった。


「ローナスを見つけたカチェリがいきなり呪文攻撃したか」ルイスが言い終わるのを待たずに

「異議あり!」カチェリが割り込む。「私は発見した以上、まず敵を排除するのが先決だと思ったんです!目標物を探すのはその後でもいい!幻界を破った時、ローナスの姿は見えていました。なのにルイスはもたついて」早口でまくし立てる。赤毛からは今にも炎が吹き出しそうな勢いだ。

「ユアンを捜していたんだよ!ローナスは俺たちを引き付けるためにわざと派手に動いてたんだ。その隙にユアンを目標へ送り込むためさ!まんまと引っかかりやがって」ルイスも負けじと言い返す。もう我慢の限界だ。そもそもこの女は俺のことをバカな子供だと決め付けてる。冗談じゃない。模擬実戦の場数はこっちの方が上なんだ。


「はいはい。で、その結果は?」手に教鞭を打ち付ける先生。ぺしぺし。


「ルイスが出遅れて!」「カチェリがでしゃばって!」二人は同時に叫んだ。


びしり、と重い音が響く。ウィラーフッド先生が教鞭を思い切り机に打ち付けたのだ。

二人は思わず口をつぐむ。


「二人で協力すれば、防げた事態だ。しなかったから二人ともローナスとユアンに負けた。

勝ち負けで済んだのはここが学校で、状況が演習だったからだ。」口調も変わる。

こうなったウィラーフッド先生は魔物も逃げ出すほどの圧迫感だ。

「迷宮なら死だ、ルイスは殺され、カチェリも魔物に囚われて食われていただろう。訓練であったことに感謝するのだな。おまえたち」二人はうつむいたままだ。


「んーということでぇ、明日の迷宮探索実習。キミたち2人はお留守番ね。

それと宿題。図書室でプラネット国史の1巻を読みなさい。

その上で要約と自己見解を提出すること。以上!」


ルイスとカチェリはまた同時に何か言おうとしたが、

ウィラーフッド先生の眼鏡のきらめきと教鞭の音がそれを阻止した。

4人は、そのうち2人はうなだれたまま、教室を後にしたのだった。


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