第3話
プラネット共和国。それは、グラデゥス活火山の麓に広がる国である。
グラデゥス山脈から湧き出る水と温暖な気候が、平野部に豊かな作物の恵みを与え、山脈地下に豊富に眠る鉄鉱石がこの国に繁栄をもたらしていた。
統治は二つの”貴族”が権力を握る貴族制である。
「ギャブル家」と「ミシェリ家」という大きな家系が、
それぞれ均等に議員を出して貴族院という合議機関を形成、国を治めるという形を取っていた。
(ちなみにかつては「フェイラー家」という3つ目の貴族家系もあったのだが、
現在では衰退し政治には参加していない。)
ミシェリ家は広大な農地をほぼ独占する豪農系。麦とぶどう栽培 、放牧家畜などを生業とし、他国との貿易も仕切っている。ミシェリ姓を名乗るものは、麦農家、酪農家、ぶどう酒家、交易商が多い。
一方ギャブル家は鉱山地帯を支配していた。産出される鉄鉱石を高度な技術で精製し、高品質な鋼として販売する。また武器防具、建築資材等、その鋼を加工した物造りでも栄えていた。したがってギャブル姓を名乗る者は、鉱山扶か製鉄士、鍛冶屋が多い。周辺国の軍や傭兵にはギャブル剣やギャブル盾を愛用している者が多いのもそういう背景があるからだった。
麦と鉄。この二つに恵まれたたがゆえの強い国力のおかげで、プラネット共和国は周辺国との関係も良好で、脅すことも脅かされることも無い平穏な外交関係を築いていたのである。だがその反面、内には深刻な問題を抱えていた。というか、共和国の最大の問題は国内にあったのである。それは、
闇ノ国。
いつから彼らがいたのかわからない。一説によると、始めにこの地に住んでいたのは彼らだったと主張する学者もいたが、現在ではその説は信じられていない。とにかく彼らは、今、この国に、いる。
彼らは日の光の下では生きていけない。光が当たるとその体が紙のように燃えて死んでしまうのだ。だから山の中や地の下の光届かぬ洞窟に住んでいる。地上に出てくる時もあるが、それは必ず夜と決まっている。
彼らの姿形は人に似た部分もあるが、それでもかなり異なる。人と同じく男と女がいる。子供も大人もいる。肌は紫色で髪の毛は黄緑色。光る目を持っている。
彼らは頭がいい。地下に彼らの行き来する洞窟の道を張り巡らせ、街をいくつも作っている。
彼らは強い獣を飼いならし、”戦獣”として使う。
人に魔物と呼ばれるようになるこれらの獣たちは、イノシシ、熊、狼、山椒魚、蛙、蜥蜴などといった、もともと山や森、洞窟に住む生き物たちが戦用にしつけられたもので、その爪と牙で闇の国を護っていた。
彼らは地下で、きのこやトロロ藻を栽培し、蜜蜘蛛や大ミミズを育てている。
地底の温泉や溶岩の熱でそれらを加工し、食料にしている。
そして地上の物も食べられる。しかし、昼間に日の光を浴びると燃えてしまう身体を持つ彼らにとって、採集に費やせる時間は日暮れから夜明けまでの夜に限られていた。地上への狩りは彼らにとって死を賭した冒険であり、そこで手に入る獲物は財宝としてもてはやされているようだった。ゆえに多くの”彼ら”が夜になると地上へ狩りに現れた。
結果、山や平野、川に海辺で、彼らは人と衝突し始めた。
人も、鉄を掘るうちに、地底の彼らの領域を侵食するようになった。
人は彼らを、闇ノ国人と呼び、嫌うようになった。
彼らは人を、光ノ国人と呼び、憎むようになった。
光ノ国人は、彼らを征服する為に何度も戦を仕掛けた。彼らの弱点である「日の光」を
彼らの国へ導くために、洞窟を破壊し、闇ノ国深淵への道を開くべく、中へ兵士を送り込んだ。
兵士には”戦官”という敬称がつけられ、探検情報や獲得物には高い報奨と名誉が与えられた。
当初は生存率も高く、成功を求める人々がこぞって洞窟へ入っていった。
闇ノ国人は、光の国の戦官隊の侵入を阻止するために、地下通路を改築して迷路化し、
通路にさまざまな仕掛けと、戦いのためにしつけた"戦獣”を配置した防御要塞を作り上げ、
侵入してくる戦官たちを迎え撃った。効果は絶大で、戦官たちの未帰還率は見る見る上がり、
それに伴う厭戦気分が、光ノ国中に流れ出した。人々は戦いを好まなくなった。
しかし、光ノ国の貴族、特にギャブル家は、安定した鉱物資源採掘のためには闇ノ国人の排除が不可欠と訴えた。ミシェリ家と当時かろうじて政界に残っていたフェイラー家はこれ以上の流血に発展することを憂い、和睦の道を探ることを提案したが、そんな二家をギャブル家は「これは国家存亡の危機である、諸侯には国を尊ぶ精神が無いのか!」となじった。長い議論と決議の末、
「闇ノ国はわれら共和国にとって有害無益な存在であり、これを放置することは諸外国との力関係にも影響を及ぼしかねない重大懸案である。速やかに闇ノ国を鎮圧し、平穏と秩序を取り戻すことこそ急務。闇ノ国討伐を国民一丸となって取り組む必要がある」との結論に達した。これに伴い、迷宮を突破し、闇ノ国の王を倒せる戦士をはぐくむことを目的に「プラネット共和国立戦官養成学校」が設立され、同時にプラネット共和国に生まれしものは男女問わず12才になると
「戦官養成学校に入り、生存術、医療術、魔法術、戦闘術、を学び、闇ノ国に赴き、財宝を獲得して持ち帰るべし」
これが”成人のしきたり”として定められたのだった。
こうしてこの闇ノ国人と光ノ国人の戦は続き、
闇ノ国人が張り巡らした、”戦用地下迷路”は、誰ともなくこう呼ばれるようになる。
闇 国 迷 宮 と。
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