第54話
「撤退って・・・そんな!」カチェリ
「聞こえなかったのか?」ウィラーフッド教官は無表情に言う。
「ローナスとユアンを見捨てろというんですか!」ルイス
「第二次捜索は明朝、マギカ市からの救援隊と合流してのち作戦を立案する」
「そんな暇ない!時間がたつほどやばくなるって言ってたじゃないですか!」ルイス
教官は無視して、
「今指揮をとっているものは誰か」「私です」セレクが進み出た。
「よろしい、セレク。君に正式に指揮権を委譲する。先の指令を遵守し、全員を帰還させろ。」
「わかりました」「セレク!君まで!」ルイスの言葉を遮るように教官の言葉が続く。
「指示に従わない者は造反行為とみなして記録しろ。後日教官会議にかけ、処分する。」
「・・・俺、嫌です。」ルイスは下を向いたまま言った。剣を握りしめる右手に力がこもる。
「ルイス君、聞いてくれ」教官は言った。
「あいつらは今でも助けを待ってる。最深部で!」ルイスは下を向いたまま声を荒げた。小つるはしを持つ左手が震えている。
「ルイス!」びしりといった。か細い声だが、語気は鋭い。目にはかすかにギラつきが戻る。
「15年前、全てが闇に飲み込まれた。親しかった友、敬っていた師、憧れていた人。みんないなくなってしまった。同じ轍は踏まない。犠牲を増やすわけにはいかない。」
「だからって」ルイス
「その怒り、不満、取っておけ。私が査問会にかけられる時まで。」
「!!!・・・先生」カチェリ
「未熟な学生を危険な最深部へ赴かせたのは誰か?」教官は言った。二人は黙った。
「不正規と知りつつ学生を捜索隊に徴用し、戦獣との危険な戦闘までさせたのは誰だ?」教官は続けた。
「すべての責任は私にある。証言台で思う存分弾劾しろ。だが・・・今は・・・どうか・・・避難して・・・みんな・・・生きて・・・地上へ」そこで声は途切れ、がくりと首が垂れる。
「先生!ウィラーフッド先生!」ゲルダの顔色が変わった「いけない!傷口が開きかけてる!これ以上出血したら・・・セレク!どうしよう?」不安いっぱいの顔で振り向いた。が、そこに栗毛の少女の姿はすでになく、見ると天上の割れ目から、降ろされた縄梯子に駆け寄り、考えにふけりながらそれを調べていた。
「デイビス!けが人を背負ってここを登れる?」巨漢の少年に問いかける。彼は答える。「重さはなんてことないけど、おんぶはダメだ。手が使えなくなる。」セレクは少し考えると「全員、背囊を下ろして、中身を出して!背負子を作るよ!」「しょいこ?だけど骨組みになるものが無いぜ?」ウォルフがぼやく。「あるよ、そこに」セレクは指差した。戦獣猪の骸を。「使えそうな骨を抜いてつなぎ合わせればきっと作れる。解体しよう!」
「待ってました!」デイビスは手ぐすねを引くと、剣を片手に猪の骸を目指して大股で歩いていく。全身から気迫とやる気とその他いろいろがみなぎっている。ちょっと振り返り、上目遣いでセレクにおずおずと「なあ、良さげな肉何切れか持ち帰っても・・・」「・・・・・・」頬をひくつかせながら無言でセレクはデイビスを睨みつけた。「わ、わかったよ~」デイビスはのそのそ歩き出した。もはやしぼんだ皮袋のようだ。明らかに完全にまったくやる気がそげている。
「ルイス先輩もデイビスを手伝ってください。準備が出来次第、予定路へ戻ります」セレクは言った。返事は無い。「先輩?」振り向くとルイスは足元を見つめたまま、立ち尽くしていた。
「俺は帰らない。捜索を続ける。」一同は静まり返った。
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