第53話



「隠してるつもりは、無かったけど、無意識に、そうしてたかも。今のご時世、この氏名は、苦労するものね。」


(そういえば、俺の事いつも"ルイス"と呼んでくれてた。”フェイラー”とは決して言わなかった!)ルイスは思った。


「最初は"悔しさ"だった。同じ、プラネット国人だと、いうのに、ギャブルや、ミシェリで、ないというだけで、軽んじられる。”失敗者”フェイラーの、汚名をそそごうと、戦官養成学校に入って、しゃにむに、武芸と、勉学に励んだわ」

カチェリはちょっと気まずそうだ。


「次は"怒り"だった。 戦闘術科首席になって、自信満々で"成人のしきたり"に臨んだ。そこに忌まわしい惨劇が起きた。全てが消え、私だけが、生き残った。"奇跡の少女"と、もてはやされたけど、それは、一瞬だけ。すぐに、陰口と嘲りに変わった。"あのフェイラー家の事だ、仲間を見捨てて、逃げ隠れていたのだろう"って」


「腹立たしかったけど、そんなの、どうでもよかった。それ以上に、大切な仲間や友達を、奪い去った闇ノ国が、許せなかったから。戦官隊に入って、なんども闇国迷宮に、潜ったわ」


「そして最後に"虚しさ"が来た。何もないまま、時が過ぎた。自分の宝物のありかも、分からないまま、齢を取った。まわりの、栄誉や、幸せを、手にした人を見て、悔やまなかったといえば、嘘になる。もしかしたら自分は、先祖と同じく」そこで言葉を絶った。


「・・・いけない、いつの間にか、こんなくだらない話をぐだぐだと・・・やだやだ。おばさんの無駄愚痴ね。ごめんなさい。」ため息と共に苦笑する。


「だけど」闇国迷宮の洞窟の天井を、もしかしたらその更に上にあるであろう天上を見上げ、ウィラーフッド教官は、ぽつりと言った。


「ひとつだけ、わかった。

さっき、君たちが、戦っている時、

"護らなきゃ"って、思ったの。

おかしいよね? 一番、足を引っ張っているのは、私なのに。

それでも、"戦わなきゃ、君たちを、護らなきゃ"って、思っちゃった。

その時、わかった。


私の、大切なものは、ここにあった。

私の、 たからものは、君たちだった」


そして、ウィラーフッド教官は、眼を閉じる。目尻がかすかに光ったように見えたのは気のせいだろうか。



沈黙。



眠ってしまった?・・・それとも?・・・そんな!まさか!

ゲルダが緊張した面持ちで乗り出したその時、教官は再び目を開いた。

そして、心配げに見守る生徒たちへ、はっきりと告げた。


「以上を持って、第一次捜索を終了する。全員、大口洞まで速やかに撤退せよ。」


「先生!」ルイスとカチェリは同時に叫んだ。



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