第51話

「ルイス」「はい!」

「カチェリ」「ここに」

「セレク」「いますっ」

「ウォルフ」「ひゃい」

「デイビス」「は~い」

「ゲルダ」「先生!」

「ローナス」「・・・」

「ユアン」「・・・」


「・・・なーんだ、夢か。2人を・・・見つけたと・・・思ったのに・・・ざんねん・・・」気を失っている間に何か幻を見たようだ。血色が失せ、青白くなった顔に赤葡萄色の髪が弱弱しく降り掛かる。


ゲルダは言った。「先生、傷口を塞ぐ為に治癒魔法を使います。痛みを緩和するため、痛み止めを処方します。よろしいですね?」教官は首を振った。「ま、任せます。療術師。でも痛み止めはい、いらないわ。あれは苦痛を・・・和らげてくれる代わりに・・・頭をぼんやりさせてしまう。まだ・・・君たちに・・・話すことが、教えることが、あ・・・あるから。」ゲルダの表情がこわばる。治癒魔法とは体力を魔法で活性化させて普通より傷を早く治す療術だが、体活力を上げるという事は、同時に痛みや苦しみの感覚も鋭敏になる事を意味する。麻酔や鎮痛といった苦痛を和らげる処置は定石なのだが・・・それでも「わかりました」頷いた。


傷口を見極める。脇腹に走るえぐり傷は、熟れたざくろのように真っ赤な肉面を晒している。出血は弱まってはいるものの止まっていない。創痍のあまりの惨状に皆は黙りこくり、顔を背ける者もいる。しかしゲルダは平然としている。


"療術師心得1・傷や病を恐れるのは患者だけでいい。療術師は動じるな"


怖がりでも臆病者でも、やはり彼女もユアンと同じく"療術師"なのだった。傷口の上に手をかざすと「カチェリ、ウォルフ、魔力支援お願い」と言った。二人は頷くと傷口の上のゲルダの手に自分たちの手を重ねる。ゲルダは呪文詠唱を始めた。カチェリとウォルフの手から淡い黄金色の光がゲルダの手へ、さらにそこを介して傷口に降り注いでいく。


いったいなにが起きているのか?


ユアンと違いゲルダに魔法の才はない。が、他の魔術師から魔力だけを貰うことで擬似的に魔法を使えるようになるのだ。これが"魔力支援"である。療術師のみならず、たとえば戦闘師が魔力を貰って攻撃能力を高めるとか、生存術師が魔力を貰って迷い道から正確な進路を導き出すなど、様々な応用が利く便利な技法なのだった。


ゲルダの手から降り注ぐ光が開いた傷口を閉じ合わせてゆく。その時、先生の身体が跳ね上がった!。苦痛に歪む顔、食いしばった歯の間から悲鳴のようなうめき声が漏れる。あまりの痛みに体が動いてしまったのだ。ゲルダは慌てた!。

「動かないでください!魔法が散ってしまいます!ルイス!デイビス!押さえて!」二人は暴れる先生を押さえつける。額に脂汗を浮かせながら「か、カッコつけるもんじゃないわね、こりゃ・・・き、キツイわ」先生は苦笑いした。(だから痛み止め飲めって言ったのに!)ゲルダは思ったが口には出さない。


"療術師心得2・弱っている者をなじってはいけない。 身も心も治りが遅くなるだけ"


悪戦苦闘の末、ゲルダはどうにかやりおおせた。傷口は閉じられ、真一文字のかさぶたが出来ている。腐り止めの膏薬を塗り、止血布を当てる。体温が下がらぬよう、毛布で包む。汗を拭い、ゲルダは言った。「終わりました。でも、病の素が入り込んでいたら腐りが進行するかもしれません。位の高い療術師に必ず検診してもらってください。」「ありがとう・・・じゃ、ディーブ教官に、み、診てもらおうか、な。あなたが、素晴らしい処置をしたと、伝えておくね。」全員の顔を見回す。「みんなもよ。見事だったわ。ん、んー全員合格よ、君たち。」弱々しく微笑んだ。「だから・・・聞いてちょうだい」



「じ、授業を・・・始めます。」


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