第49話

ここは闇国迷宮。あたりには焦げ臭い異臭が立ち込め、広間の中央で、戦獣猪の骸がまだ燻っている。カチェリを包んでいた光球は消えた。強力な魔法を放った結果、精根尽き果てた姿が現れる。力が抜けたようにその場に崩れ落ちそうになるのを、彼女は歯を食いしばって何とかこらえた。だめ!いま気を失うわけにはいかない!確かめなくてはならないことがある。あいつの、無事を、絶対に、確かめなくては。



「先輩!」「ルイス!どこだ!」セレクとウォルフが戦獣猪の骸の周りで懸命にルイスを探している。だがカチェリはそちらには目もくれず、広間の片隅に目を向けた。

まるで、知っているかのように、ふらつきながらも確信を持った足取りで彼女は歩いていく。その先に


   こげ茶色の髪の毛の少年が倒れていた。


何も言わずにかがみこみ、その胸の中に彼をしっかりと抱きかかえる。

「ルイス、ルイス!」


気付いたセレクたちが駆け寄ってくる。カチェリは呼びかけ続けた。

「そんな・・・お願い。目を開けて。ルイス!」すると


「・・・固そうに見えたけど、けっこう柔らかいんだなあ」


張りのある胸を、そのほっぺたに押し付けられたこげ茶色の髪は、

片目をぱちりと開けて、にっと笑った。


「先輩!」顔を輝かせたセレクと「お前無事なの?なんともないの?」口をぽかんと開けたウォレフ。


「ああ、さすがにここにいちゃヤバいと思ってさ、ぎりぎりを見計らって飛び降りたんだ。なんか”ドカーン”とぶんなぐられた感じがしたけど、生きてるからには、大丈夫だったみたいだな」ルイスは答え、そして恐る恐るカチェリを見上げる。

”いやらしいド助平!”となじられるか、ひっぱたかれるか、覚悟したのだ。

だが、どちらも来なかった。代わりにルイスの顔がさらに強く抱きしめられ、頬には暖かな滴が落ちてきた。




・・・まただ。今日二回目だよ。

こんな簡単に泣く奴だったっけ?




ルイスはぼんやりと思っていた。




「だけどさあ、剣は刺してなかったんだろ?」

ウォルフが首をひねりながら尋ねてくる。

「なのに雷は全て戦獣猪に、それも顔に当たった」

「幸運にもほどがあるよ。出来すぎてる」納得がいかない様子だ。

「ああ、そりゃーたぶん・・・」ルイスが口を開きかけた時、


「おおーい」間延びした声が聞こえた。デイビスだった。

調べていた(肉の下ごしらえではない!)猪の骸のあたりから手を振っている。

「これ、お前の?」そういって猪の牙にひっかけられていた”それ”をつまみ上げる。


尖った鋼の先端が鋭く光る、小つるはしを。


「ああ、わりい、俺んだわそれ。返して」


ルイスは言った。



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