這いまわる蝶



学校に行くと、いつもの日常がそこにはある。



今まで退屈だと思えたそれは、ぼくに安らぎと安心を与えてくれた。

 


ただ、教室にいる遊安の存在だけは、昨日の晩の事や[ソドム]の事を思い起こさせてぼくを不安にさせた。

 


しかし、そんな事とは露とも思ってなさそうな遊安自身は、転校早々クラスにぼくよりも馴染んでいる様子で女子達と満面のキラキラとした笑顔をして楽しそうに話している。


昨日、人を一人殺したヤツとは到底思えない。



あのシスターの姿が鮮明に思い浮かんでぼくは気分が悪くなり、遊安に向けていた視線を窓に移した。



ふと、視線を向けた校庭。



校門の所に、人がいた。

 


ぼくの席は窓際なので、校庭から続く校門までの間がよく見える。



ぼくがその人物に目を引かれたのは、そいつが高校の校門にいるには、あまり似つかわしくなかったからだ。



黒いパーカーとジャージ姿の少年。



ランドセルのようなものを背負っている事から、恐らく小学生なのだろう。因みにウチの学校の近所には、小学校は無い。


やけに青白い不健康そうな少年は綺麗なプラチナブロンドで、遠くからでもわかる端正な顔立ちについ見入ってしまっていた。


『人形か?』


そう言われた方が納得がいくほどに、少年の存在は現実味が無い。


「うぉっ! やったギリギリセーフ!!」


朝からせわしない浅沼が、ぼくの前の席に鞄を投げ置き慌ただしく着席した。


「いゃあ~っ、昨日夜中までVRゲームの新作してたからさ~、遅刻しなかったのはホント奇跡!」


ぺらぺらと一人、聞いてもいない事を話している浅沼に、ぼくは校門の前にいる人形みたいな存在の事を聞く事にした。


「なぁ、アレって人形か?」


「はっ? 人形?」


しかし、指さす先にはもう誰もいない。


「どれだよ?」


「さっきまでいたんだ。小学生の子供が、人形みたいな……」


「はぁ~? 人形~? なんだそれ」


「お前来る時に校門の所で見なかったか?」


「校門の所? いや、今さっき通ったがなんもなかったぞ?」


「そうか……でも、確かに今あそこに……」

 


やはり、見間違いだったのだろうか。


その時チャイムと共に担任が教室へ入って来て、ぼくはそれ以上校門の少年について聞く事が出来なかった。



窓から視線を教卓へ移すと、斜め前の席の遊安が振り返り、ぼくの方をじっと見ていた。


その瞳は、今しがたまでクラスの女子達と楽しそうに会話をしていたモノとはほど遠く、昨日と同じ、冷たく畏怖すら感じる。


しかし、どこか悲しげな瞳をしていた。





一時間目の授業は、全く頭に入って来ない。


教科書によれば、この授業は数学らしい。


別に得意でも不得意でも無いが、今のぼくからしたらそれは、全く興味も感心も持て無い。


数式の答え等、全くぼくには意味の無い事象だった。


今のぼくには、[ソドム]の事から始まる、[遊安 絆]の事。


昨日の一連の出来事の方が遥かに大問題だったからだ。


付け加えるなら、さっき校庭にいた少年の正体の方が、XやYより余程気になる。

 



無意味にも思えた時間が過ぎ、二時間目になった。


「今日の体育は、男子はグランドでマラソン! 女子は走り高跳び!」


体育の女教師の号令で、クラスは男子と女子に二分された。


「マラソンかよ~、ついてね~な~……」


ぼくの後ろにいた浅沼は、深いため息を吐く。


授業が始まって数分後、黙々と走っていたぼく達の耳に、歓声が聞こえて来た。


それは、グランドの隅に設置されたハードルで、走り高跳びに興じていた女子達からのモノだ。


その中心にいるのは、遊安だった。


遊安はカナリの好記録をマークしたらしい、二回目のジャンプに女子達だけでなく、走っている男子生徒達からも視線を注がれている。


「遊安さんてスゲーな~」


ぼくのすぐ後ろを走る浅沼も、勿論そちらに注目していた。


ぼくは特に何も返さず、ちらっとだけそちらに視線を向けてまたすぐに真っ直ぐ前を向き走る事に集中した。


既に遊安達の方を背にして、グランドの隅にある体育用具倉庫の側を走り過ぎ様としたぼくは、不意に視界に入って来た存在に目を奪われた。

 


人形のような少年──

 


ぼくはすぐに、さっき校門の側にいたのがコイツであった事を理解した。


倉庫の側にただぽつんと立って、ただこちらをじーっと見つめている。


『こんなトコで何してるんだ、あのコ?』


それが、ぼくの最初に抱いた疑問だった。


少年の白に近い金の髪に、大きな蝶の飾りが付いているのが印象的だった。


しかし、それが人工的な蝶の飾りではなく、生きている本物の蝶だとわかるのには、カナリの時間が要った。


少年の目の前を通り過ぎる。


一瞬目が合った! そう思った。すぐにぼくは前を走り去り、背中にその姿を送って行く。


違和感というべきだろう、不安とも不快ともとれるそんな感覚が、ぼくの全身を駆け巡っていった。


(人間か? なんだ……、なんかあのコおかしくないか?)


コレがぼくの、次に抱いた疑問だった。


ぼくは、思わず振り返って見た、しかし少年の姿は無い。


(幻覚……いやっ、確かに今……)



ぼくがそう思った矢先──


「うわぁぁぁぁっ!!」


「きゃぁぁぁ──!!」


あちらこちらから、突然絶叫が響いた。


はっとなり見渡すと、クラスメイト達が何かから必死に逃げ出している。


走り高跳びをしていた女子達も、グランド中に散り散りになり、叫びながら逃げ惑う。


マラソンをしていた男子生徒達も、校門から外、又は校舎内へバラバラになり必死の形相だ。


(なんだ? 一体みんなどうしたんだ?)


みんなが必死になり逃げて行く、けれどぼくには、みんなが一体ナニを恐れナニから逃げているのかが目視出来ない。


「いゃぁっ!! いゃぁぁぁぁぁぁ────!!」


一人の女子生徒が、ぼくの足元に倒れ込み、仕切りに手をバタバタと振って、何かを追い払おうとしている。


その時、やっとぼくにも、みんなが逃げ惑うモノの正体がわかった。



それは、小さな蜂だった。



蜜蜂とも、スズメバチや他に見た事のあるどの蜂とも違っている外見をした小さな蜂が、女子生徒の周りをアノ独特な羽音を響かせ、周回しているのだ。


「いゃぁぁぁぁぁ────────っ!!」


一際、甲高い声が上がった。


次の瞬間ぼくの目の前で、信じられない事が起こった。


蜂に刺された女子生徒は、見る間に刺された部分がブクブクと異常なまでに腫れ上がった。


その顔はもう人の顔とは呼べない程に膨れあがって、口から鮮血を吐き出すとやがて体を痙攣させ倒れ込んだ。


人間の体が、見たことも無い蜂に一瞬にして肉塊の様にされていく。


会話こそした事ないけど同じクラスの人間が、目の前で突然変わり果てた姿になった。


その光景はあまりにも衝撃的過ぎて、思考は止まり、逃げるどころか体を動かすという事すらすっかり忘れてしまっていた。


気付けば、ぼくを残してグランドには、まともに動けそうな人間は見当たら無い。


逃げ遅れた何人かが顔や体を有り得ない程に腫れ上がらせ、苦悶の表情を浮かべながら呻き声を上げている。


まさに地獄絵図だ。


ぼくの耳元には、あの耳障りな羽音が響いて来る。


けれど、ぼくの体は全く動かない。


(逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ……!!)


頭では理解している。でも、それに反し足は全く動いてくれない。


「馬鹿っ!! 何してるの!?」


聞き覚えのある声で、ようやくぼくの体は、動き出せた。


目の前を、一瞬遊安の姿が過ぎていく。


遊安は、蜂を何か棒状のもので見事に打ち落とす、よくよく見ればそれは木製のバットだった。


「武器になりそうなものが、コレしかすぐに見つからなかった……、この体操服ではメスが隠せなかったから」


遊安は短めの女子体操服のハーフパンツの裾を、無表情に引っ張りながら答えた。


「君は、大丈夫?」


それから、ぼくに心配そうな表情で問い掛ける。


昨日の今日で、ぼくは二度もこの[遊安 絆]という少女に助けられている。


いや、もっと正確に言うのなら、昨日のは、現実で命を助けてもらったが、一昨日は、この少女に半ば殺されそうにもなっている。けれども、それは脳内世界での事で……。



今は現実……。

いや、昨日のも本当に現実か……?



わからない、頭が完全に混乱して来た……。


「遊安、オマエ一体……誰なんだ?」


「…………本当は、こんな形で君を巻き込みたくなかった……」


そう言うと遊安は俯き、そしてまたすぐに顔を上げた。


「とりあえず、今は説明してる余裕が無い。アノ子をなんとかしてからじゃなきゃ……」


遊安が見つめる先をぼくは見た。


校庭の隅にぽつんと佇むのは、先程、ぼくが見掛けた少年。


向こうも、じっとこちらに視線を向けている。


「アイツは一体……?」


「あの子は、這いまわる蝶クリープ・バタフライ。昨日のヤツと同じだけど違う……」


「同じで違う?」


「そう……。一応、殺人鬼……と呼ばれるもの」


「殺人鬼……!? ちょっと待ってくれ、ちゃんと説明してくれないか?」


「……後で」


そう言って苦渋の表情を浮かべると、遊安はその少年に向かい走って行く。


すると、少年の周りに突然黒い渦の様なものが現れ、まるで彼を守る鉄壁の如く立ちはだかった。

 

渦は、ブブブ……と不快な羽音をさせながら、グルグルと急回転している。



蜂だ! 



さっきの蜂の大群が渦を巻き、少年の前で遊安に立ちはだかっているのだ。


「あぁぁぁぁっ!!」


遊安はその中をバット片手に、勇猛果敢にも突き進んで行く。


だが、流石の遊安でも自分の周りの蜂を叩き潰す事がやっとで、一向にその歩みは進まない。


「くっ!」


遊安の必死の攻防は続く。


(ぼくにも、ぼくにも何か出来る事は無いのか!?)


必死に思考を巡らせて、ぼくは、遊安の力に少しでもなりたい。


いや、ならなければいけないという気持ちに、いつの間にかなっていた。


目に入って来たのは、水飲み場の蛇口とホース。


ぼくは、そこへと急いで走る。


「遊安!!」


蛇口のコックを、思い切り回す。


勢い良くホースから水が飛び出し、まるで生き物の様な動きと剣の様な力強さで黒い竜巻の中へと切り込んだ。


水に羽根を濡らされた蜂達が、ボタボタと地面に落ちる。


「こっちへ!!」


蜂達から距離を取った遊安に走り寄り、彼女の腕を掴んだ。


ぼくは必死に遊安を連れ、ただ思いつくままに校舎の中へなんとか逃げ込んだ。


途中、後ろを振り返ると人形の様な少年は、じっとまだぼくらを見つめていた。



ぼくらが校舎の中に逃げ込んだのとほぼ同時に、グランドにはサイレンを響かせながら救急車やパトカー、消防車が勢い良く入って来た。


恐らく、教師が通報したのであろう。


いつの間にか辺りは蜂の被害者となった生徒達を運ぶ救急隊員や、教師に事情を聞く警察官、グランドに立入禁止のロープを張りながら状況を確認するレスキュー隊員、この騒ぎに授業を抜け出して、野次馬と化した生徒達などで溢れていた。


「面倒くさい事にならないうちに、行こう」


遊安がぼくの耳元に囁いた。


ぼく達はまだ混迷している現場からそれに便乗してそっと抜け出し、何事も知らない様な素振りでその場を後にした。


もう一度、ぼくがグランドを振り返った時にはもう、アノ少年の姿はなかった。



ぼくと遊安は、校舎三階の化学準備室へと入った。


遊安が、「ここなら誰も来ない」と言って、ぼくを連れて来たからだ。


なんでもココは彼女が昨日見つけたお気に入りの場所で、お昼休みの時は一人になりたいという理由でここに来ていたらしい。

 

「オマエにも、一人になりたい時なんてあるのか?」


あんなにクラスのヤツと仲良さそうにしてるのに……、その理由がわからない。


するとぼくの質問に遊安は、


「随分と失礼な質問だね」と、正に呆れたという口調で返して来た。


ぼくからすればクラスでの遊安は、明るくて社交的で、ぼくよりもずっとクラスに馴染んでいる。


そんな彼女が、一人になりたい時があるというのが、どうにも理解出来ず、違和感すら覚えただけの事なのだが。


「ゴメン……」


「別に、そこまで気にしてはいない」


遊安は、遮光カーテンから少しだけ漏れている陽光に目を細め、使われず埃の積もった教員用の机と積み上げられたダンボールで、ほとんど足の踏み場すら無い化学準備室の狭い空間にしゃがみ込んでいた。


「さて、何から話せばいいかな?」


そして、ぼくの目をジッと見つめ唐突に質問をぶつけた。


「何からって……」


「まずは何が聞きたい?」


「だから、何がって言われても、わからない事だらけだよ……」


「そうだね、確かに」


遊安は、表情一つ変えず、淡々とぼくに返す。


「……じゃあ、遊安、君は誰なんだ? 一体何者なんだ?」


ぼくのその質問に、遊安は溜息を一つ吐く。


「そうだね、まずはそこから話すのがいいか……君は、[BJビー・ジェーコーポレーション]という会社を知ってる?」


「BJ?」


その名前、ぼくには聞き覚えがあった。


「確か、ドラッガーシステムを作った会社……だったよな」


「そう。[BJコーポレーション]は脳内疑似体感世界のシステムを作った会社。私はそこの関係者……」

 


BJコーポレーション。


その会社こそドラッガーシステムの産みの親にして、システム開発から運営管理までを全て行っている会社だ。


今から5年ほど前に、当時、世間を騒がせた有名な脳科学者と精神医学博士が作った、脳内疑似世界体感システム。[ドラッガー]


内耳から脳に、特殊な信号を送るチップを装着させ、リアルな疑似世界を体感する。


ただし、ドラッガーに再現可能な物は今までの自分の見た物、聞いた物、要するに自らが体感して来た物だけ。


発表当時はそんな限られた疑似世界ではすぐに飽きが来られる物と思われていた。


だがしかし、自分の本当のリアルから脱出したかった人々にとっては、恰好の逃げ場、安住の場所となり、[ドラッガー]内で遊ぶ事は、今では随分昔に流行ったネットゲームの延長線とさほど変わらない程に浸透している。


「じゃあ君は、[ドラッガー]同士を繋ぐ[コネクト]というシステムは知っている?」


「ああ……、聞いた事だけなら……」


[コネクト]は、[ドラッガー]で使われる機能の一つ。他人の脳内世界同士を繋いで、同じ疑似空間を行き来出来る物だ。


友達が少なく、人との交わりの苦手なぼくにはあまり興味が無い代物だった。


それに、[ハイパー・ドラッガー]の中ではその機能は使用出来ない事になっている。


あくまで[ソドム]や[エデン]は個人で使用するツールなのだ。


理由はもちろん、趣旨的に他人が入ればトラブルになりかねないのが明白だからだろう。


「それじゃあ[ドラッガー]の禁忌の事は、君も知ってるよね?」


禁忌。


そう聞いてぼくは、以前の[ハイパー・ドラッガー]でぼくがやろうとしていた事を思い出した。


「[ドラッガー]は脳内空間、けれども道徳的、倫理的な事を考えて犯罪行為とみなされる物、または[ドラッガー]の規律を乱す全ての行為にはエラーが出る仕様になっている……。そして、それを不正解除して犯罪行為を脳内世界内で行えるのが、[ハイパー・ドラッガー]というもの……[エデン]そして[ソドム]……」


「ち、ちょっと待ってくれよ!? それと、今起こっていることの何が関係あるんだ?」


遊安の話は脳内空間の話ばかりで、今、現実世界に起こっている事と外れている。


「あれは今から、約1ヶ月ほど前[ハイパー・ドラッガー]を使用中に、立て続けに不審な死を遂げるものが出始めた……」


「不審死? バッド・トリップか?」


「いいえ……違う。殺されたと言った方がいいかもしれない……しかも、何故か[ソドム]の中にいる人たちの中だけで……」


「ただの……偶然とか?」


「そうだね、それなら良かった……。でも、違う。死んだ人たちには共通点がある」


「共通点?」


「ソドムのランカーの事は?」


「あっ、ああ、知ってるよ。殺し方や人数で点数が入って、上位ランカーとかもいるって」


「殺されたのはみんなランク下位の人たち、いや、ランク外と言った方が正しいかな」

「ランク外……」


遊安は突然立ち上がると、最近使われた形跡のない黒板にチョークで何人かの人の絵を描いた。皆、目を閉じて眠り、夢のようなものを見ているフキダシが個々に描かれる。


「例えば、[ソドム]がなんらかの力の働きで[コネクト]され、インしている全ての人の脳内世界がくっついたら、どうなると思う?」


「どうって……」


分かれて描かれていたフキダシの線を、遊安は手で消し一つの大きなフキダシが黒板に出来た。


「ソドムにいるのは君みたいななんちゃっての人殺しだけじゃない、本当に人を殺す事に快楽を覚える様なヤツもいる。そんなヤツらなら、より刺激を求めるだろうね。疑似世界のモブキャラたちなんかよりも……現実に存在するヤツらを殺す方が刺激的って……」


「でも、殺されるって脳内世界での事だろ?」


「……これだけ現実との区別がつかない脳内世界で殺されれば、現実もそれにリンクしておかしくない。[ソドム]では刺殺、現実は心臓麻痺」


「それって……脳内で死んだら現実も死ぬって事か?」


「そう…………」


「いや、待てよソドムの話をいくらされたって、ココは現実なんだぞ?」


「君は本当にココがリアルだと思うの?」


「…………?」




「よく聞いて……ココはまだ[ソドム]の中だよ」




吐き気がした。


頭の中が混乱してぐるぐる目眩までしてくる。


そんなハズは無い!


ぼくは、だって! あの時、渋谷で目を覚まして……。


「……覚まして……無いのか?」


「……真実を受け入れるのは難しいと思う……。でも、ココはまだ[ソドム]で、現実の君は目を覚ましてはいない……」


「ウソ……だろ?」


「よく聞いて、私がココへ来たのはナゼ[ソドム]はコネクトされたのかを知る事、そして殺人鬼たちの殺し合いを止める為……」


「殺人鬼って……ぼくはまだ誰も殺していない……」


「そうだね、でもこの[ソドム]にインしたものは全てそう扱われる。誰も殺していない者たちは

[ネグレクト]という不名誉な名前で呼ばれているし」


「ネグレクト?」


「怠惰という意味。殺人鬼の本文が人を殺す事なら、それをしないという事は怠けているって事になる」


「おい、待てよ! ぼくは人を殺そうとした。オマエに邪魔されたけど……そうじゃなかったらちゃんと……」



ちゃんと、人を殺せていた。




自分で言って、改めてぼくは気づく。


ぼくはいつからこんなに人を殺したくなったのだろう。


まるで思い出せない。

 


「ところで君は、最近自分は何かおかしいと思わない?」


「おかしい?」


「思考や行動、誰かに突き動かされている……そう感じたりしない?」


「いや……」


おかしいと言えば、おかしいのかもしれない。


けど、そんなの最近じゃない。


きっと、昔からずっとだ。


「……そう」


遊安はナゼか少しがっかりしたような、そんな表情で溜息を吐く。


「じゃあ君は、いつから[ハイパー・ドラッガー]に興味を持った?」


そんな唐突な遊安の質問に、ぼくは戸惑った。


「なんだよ……それ?」


ぼくは、意味がわからず怪訝な顔を遊安に向けた。


「[ソドム]って、旧約聖書の『創世記』に出て来る都市の名前、ソドムとゴモラの街、そこへ行ってナニがしたかった?」


ぼくは、何も答え無かった。言わずとも知れた事だろう。敢えて、口には出さなかった。


「殺人行為を楽しむ……でしょ?」


「別に本当に人を殺すワケじゃない、ゲームと同じだ」


「ゲームね……」


「オマエだって殺してるんだろ? あの時、シスター女が言ってたじゃないか、最近ランクを上げてるとかって……」


「殺したくてやっているワケじゃない。身を守る為の自衛として、それになるべくリアルに影響が出ないようにやっている、いわゆるBANをしているだけ……」


「強制ログアウト? 出来るのか? それならぼくも……」


本来[ドラッガー]から離脱するときは、ただここから出たいと思うだけだ。


もちろん[ハイパー。ドラッガー]もその仕様は同じ。


けれどぼくが、さっきからいくらそう思っても現実には戻れない。


「ただ、100パーセント安全とはいえない。最悪、植物人間。良くて一生精神病院行き……あくまで最終手段」


遊安は、そのあとしばらく何も言わずにぼくを見つめていたが、やがて重々しく口を開いた。



「……本当にあの時、君は人を殺したかった?」



そう改めて問われ、ぼくはすぐに解答が出て来なかった。


今思い返せば、自分でも本当の所が良くわからなくなってる。


ただ、なんだかあの時は、ともかく誰かを殺さなければならない、そんな感覚に支配されていた。


まるで頭の中に霧がかかっていて、考えが明瞭にならない。


ずっと前からそうしたかった様な、でも、それも違う気さえ今はしている。



殺人衝動なんて、本当にぼくにはあったっけ?



「時間はあまり無いから、答えにそんなに時間がかかるならこの話は止めましょう。重要なのは、[ソドム]に[コネクト]した者の中で、奪う側と奪われる側が出ている事……」


「ランク下位が殺されるんだろ? じゃあ、ともかく誰か殺してランクを上げれば……」


「随分と短絡的だね、そんなの一時凌ぎにしかならない。今はそうでも、もし、次はランクなんか関係無く殺し合いがはじまったら君、どうするの?」


「それは……」


相手は本気のヤツらだ。


昨日のシスター女みたいなあんなヤツがごろごろいるのかもしれない。


そんな中で、抜群の運動神経と殺傷能力を持つ遊安ならばともかく、ぼくなんかじゃ……。


脳内空間なのに、ぼくには全くチート能力が無い。


現実と同じだ。


ああ、そういえばここが[ソドム]なら妹や母さんや父さんも全部本物じゃないのか。


ぼくは改めてこのドラッガーのシステムの再現力に驚かされた。


「今、重要なのは生きてココを出ること……じゃない?」


遊安に言われ、ぼくは確かにと納得した。


ここでの生存率を上げる事ばかりで、現実に戻るという事を考えていなかった。


「どうやったら戻れるんだ?」


「そうね、ここから出るにはまず[コネクト]させたヤツを見つけないと」


なるほど、とぼくは納得しながら思う。


一体そいつは何者で、何がしたいのか? 目的は? 冗談にしては笑えない。


「とりあえず今、私から話せるのはコレぐらい……」

 


そしてまた、沈黙が流れた。


もっと聞きたい事が山程ある。だが、これ以上聞く事への恐怖も拭えない。


なにせコレは今ぼくの頭の考えられる許容範囲を軽く超えている。


混乱する頭の中で、これでけは聞いておきたい二つの疑問を遊安にぶつける事にした。


「なぁ、あと二つだけ聞いていいか?」


「なに?」


「オマエ言ってたよな、ぼくを殺させないし、ぼくに人を殺させないって……」


「ええ」


「なんで?」


率直な疑問だ。


知り合いでも無いのに、そんな事をする意味がわからない。


「……別に、深い意味は無い。違法システムの中で目の前で勝手な事をされるのがイヤなだけ」


「そんなのぼく以外にもたくさんいるだろ? なんでぼくなんだよ?」 


「たまたまアナタが目についただけ……」


「は? なんだよそれ、まさかぼくに一目惚れでもしたっていうのか?」


「じゃあ、それでいい」


「それでいいって……」


「そんな事、この場所では別にどうでもいい事だと思う」


コイツはぐらかしているのか? なんだ? 知られたらマズイ事でもあるのか?


「どうでも良くない! 何でだ? ぼくが抽選にでも当たったっていうのかよ?」


「君は抽選に当たって、私が一目惚れした。それでいい……」


答えになっていない。


ぼくなりの冗談まで混ぜたつもりだったのに、ウケるどころかなんだか不機嫌になり、遊安はもうそれ以上その事について答えてくれそうにない。


「で、あと一つは何?」


片方の眉を上げ、無表情で遊安はぼくに問いかけた。


「マーダー・ネームって、自分で決めるのか?」


シスター女が言っていた、[ソドム]での通称、[マーダー・ネーム]


ぼくは、ナゼかそれだけはどうしても確認しなければならないと思っていたのだ。


「そうね……」


「オマエの[デビルズ・ハート]っていうのは?」


ああ……と小さく言ってから「昔観た映画か何かのキャラよ」とだけ返して、また押し黙った。




その後、ぼく達はしばらく科学準備室で息を潜めていた。


その間、二人の間に会話は無かった。


何か話すべきか? 


しかし、少し前の話に衝撃が強過ぎてこれ以上何か遊安の口から聞こうモノなら、ぼくは発狂してしまうんじゃないかという不安もある。


耳が痛くなる様な、しんとした沈黙が二人の周りを取り巻いていた。


どのくらい時間が経ったのだろうか。


隣の教室のスピーカーから今日は全校内で授業が中止になり、生徒は全員下校する事になったとの放送が流れている。


放送を聞いていると本当にここは現実じゃないのだろうか? そんな疑問が沸いて来る。


遊安は不意に立ち上がりぼくを促した。ぼく達は科学準備室を後にした。



廊下には誰もいない。


のぞき込むと教室にも誰の姿も無い。


いや、仮に誰かがいたとしたってココが本当に[ソドム]なら、ほとんどがただの疑似空間のホログラムみたいなものだ。



この世界で本当に実在しているのは、殺人鬼だけ……。



ぼくはさっき遊安にされた質問を再び頭の中で考えた。


(ぼくは、本当に人を殺したいなんて思っていたんだろうか? )



遊安に問われて、ぼくは自分自身がわからなくなって来ていた。


ずっと前からそうしたかった?


本当に?


いつから、人を殺したいなんて思っていたんだっけ?


やっぱり思い出せない。


「どうかした?」


遊安が、ぼくの顔を不安そうに覗き込んで来た。


「……いや、なんでもない」


ぼくの様子に、遊安はまだ少し不信そうな表情だった。


ぼくは、それに気付かなかった様に話題を変えて話しを続ける。


「もう、外は大丈夫なんだろうか?」


それが今のぼくにとっては、一番知るべき情報だろう。


「……確かに、大分静かにはなったけど……」


ぼく達は、化学準備室から自分達の教室がある一つ上の3階へと、階段を昇りながら踊場の小さな窓をそっと覗き込んだ。


窓からは、グランドが微かに見える。


未だ、警察官らしき人々と、防護服を着た隊員達が複数、背中に背負った機械から辺りに白い煙霧を撒き散らしていた。恐らく、殺虫剤の様な代物だろう。


「アイツ、虫をどうやってあんな風に使えたんだ……?」


その光景を見ていたぼくは、また大きな疑問を口から吐いていた。


「あの子は虫と会話が出来る。虫達を自在に操れる」


「そんな事、出来るのかよ……?」


「そうだね、本当なら出来るワケが無い。仮に出来たとしたら、人はそれを超能力とか言うだろうね」


突然、超能力なんていう非現実的な言葉が遊安から出されぼくは思わず苦笑してしまう。


「そんな、現実に超能力なんて……」


「無い話しでは、ない」


彼女の顔はぼくをからかうそれとは違って、あくまでごく普通の日常会話の様な自然さだった。


「人間の脳は10%しか使われてないって、聞いた事ある?」


「そんなの、ただの俗説だろ?」


「そうだね、確かにまだ医学の発展して無かった頃に、解明出来ない部分を使われていないって解釈してそんな風に言ったとか……」


「くだらない……」


「でも、実際は今だって100%わかって無い事もある」


「だから、超能力なのか?」


「いいや、超能力では無い。例えてみただけだよ、あの力はきっと人間の根本にある潜在能力とでもいうべき力」


ぼくには、それと超能力の区別がイマイチ、ピンと来なかった。


遊安は、すぐにぼくがあまり理解していない事を感じ取ったのか、軽く溜息を吐くと、


「超能力何て言う仰々しいモノじゃなく、誰しもが本来持っている力なんだよ」


と、念を押して来た。


誰しもが持っていると言われても、生憎ぼくの周りには虫と会話出来る人間はいない。


そう、抗議しようとした瞬間、遊安はまた口を開いた。


「そんなに、特別な事じゃない……と思う」


その答えには、何か引っ掛かる部分があった。


まるで、そう、遊安はさっきの少年を庇っている様な、そんな錯覚すら覚える。


「アイツを、知ってるのか?」


遊安は、ただ首肯した。


「あの子には、元々少し不思議な能力があった……、それについて、いつも悩んでいた。自分は人とは違っているって……」


普通では無い。


少年は周りとの違いに薄々気付き、傷つき、そして……。


「周りから迫害されたあの子が辿り着いたのが、[ソドム]……」


頭の中で居心地の良い空間を作り出し、そこに居座る。


ありふれた話しだ。


けれども恐らく少年は、そのもう一つ上の段階に行ってしまったのだろう。


「そして[ソドム]であの子は、その才能を開花させてしまった……」


俄かには信じ難い話しだが、テレパシストとでも呼ぶべき能力を持った少年は、現実では忌み嫌われたが、脳内世界では大活躍してしまったというワケだ。


「で、オマエとはどういう関係だ?」


「別に……ただの顔見知り……」


遊安はどこか物憂な表情で、小さな窓に切り取られたグランドとその周辺の景色を見つめていた。


「顔見知りね、あっ、じゃあ、話しくらいは出来るだろ? その、直接あのコに言って、誤解を解いて貰ったりは出来ないか?」


「誤解?」


「ぼくはどちらでも無い、殺人鬼にもならないし、被害者もゴメンだ。殺人鬼トーナメントみたいなものにも参加したくない」


「今は、無理」


「なんでだよ!? どうして!?」


「狙われてしまった以上は、すぐにどうにかは出来ない」


「そんな……」


腰から力が抜け、思わずヘナヘナとその場に崩れそうになる自分の体をなんとか支えた。


それだけで精一杯だ。


どうしてぼくが、こんな映画や小説みたいなデス・ゲームに参加させられなきゃならないんだ。


「ともかく、安全な所へ一時避難しよう?」


遊安のその言葉にすら、救いが見出だせそうにない。


何故ならぼくは、その時うっすら感じていたからだ。


もしかして、安全な場所なんて何処にも無いんじゃないかって……。



遊安とぼくは、自分達の教室に入った。



もう校内の生徒は、全員下校してしまったのだろうか?


しんと静まり返った教室で、机に、乱雑に置かれたままの制服に着替えた。


「別に、体操服で帰ってもいいじゃないか?」


ぼくの言葉に、


「私は、こんなに脚を周囲に晒け出した格好は遠慮する」


と、反論された結果がこれだ。


そんな、人前で脚を晒すのを極度に嫌がっていたにも関わらず、遊安は突然何の戸惑いも無く、ぼくの目の前で体操服を脱ぎだす。


白く陶器みたいな肌には、人の肌感みたいな物が感じられず、それこそ彼女の正体」は人形なんじゃないかと思わせた。


そして、それより何よりも驚いた事は、目の前で女子が堂々と下着姿になり、制服に着替えているというのに、どうしてかぼくは何も思わなかった、感じなかった事だ。


同年代の異性が、肌を見せているというのに、見ていても興奮どころか、気恥ずかしいという気持ちすら全く沸いて来なかった。


更には、自分も彼女の前で着替える事に抵抗が無く不思議だった。


自宅で妹が風呂上がりに、バスタオル一枚でフラフラしている姿のが、余程別の意味でハラハラさせられる。


遊安の方はあまりにぼくが、じっと視線を注いでいたので、少し頬を紅潮させて睨み付けて来た。


「……何?」


「いや、別に……」


ぼくは、そんなやり取りのが気まずく感じて、手際良く制服に着替え、それから使っている様でほとんど使っていない鞄に、食べ無かった昼飯のパンと、スポーツ飲料代わりに妹が持たせた水筒の特製・レモネードを捩じ込んだ。


「で、これからドコに行く?」


教室を出る準備も万端に、ぼくの思考の中の今最も知りたい事は無論それだった。


「そうだね、とりあえずは……、学校を出る。それ以上は、まだ何も考えて無い」


「はぁ? 待ってくれよ、そんな無計画でいいのかよ!? さっき、安全な所って言ってたろ? 心当たりがあるんじゃないのか?」


遊安は、眉一つ動かさず淡々とした口調で言った。


「ココよりは、今はドコも安全」


その言葉の意味する事が、ぼくにはよくわからない。


「外にいたヤツらが、諦めて引くのを待っていたのだけど……、残念だね、待ち切れなくて中に入って来たみたいだから」


「何の……話しだ?」



「虫だよ」



と、同時に遊安が天井を見上げた。


そこには、動く天井があった。


黒くツヤツヤとした、蠢く天井は、よくよく目を懲らすと何千何万、というゴキブリの群れだった。


「ぅっ……うわぁぁぁぁ―――――――っ!!」


絶叫が、天井を刺激したのか黒い塊がボタボタと落ちる。


「知ってる? ゴキブリは雑食なんだ。これだけいたら、人間一人くらい餌にするかもね」


「んなっ事言ってる場合かよっ!?」


鞄を盾にしながら遊安の腕を掴み、ぼくは急いで教室の扉へと走った。


ザワザワと言う背中に怖気が走る音がして、天井から黒い筋が扉へと向かって来た。


気付けば、足元にも近寄って来ている。


「クソっ!! どうすりゃいい……」


体を這い登って来そうなヤツらを、寸でで足で潰しながら突破口を探った。


流石にこうも大群で来られると、足で潰してばかりもいられない。


そんな時、頭の中に微かな記憶が思い浮かんだ。


「……アズ、ゴメン」


ぼくは、鞄から水筒を取り出した。


レモンには、ゴキブリの体を麻痺させるそんな効果があると、昔何かで見た記憶がある。


一か八か、ぼくは、水筒の中身を這い回る黒いヤツらにぶち撒けた。


柑橘系の香りがツンと鼻を突くと、まるで波が引く様に黒い連中はその周りから遠ざかった。


「よし! 遊安、今のうちだ!!」


ぼくは、水筒の中身を全てヤツらにくれてやり、心の中で妹に感謝と謝罪をしながら、教室を飛び出した。後ろを振り返る余裕なんて、一切無かった。


遊安の腕をグッと掴むと、無我夢中で出口を探し廊下を走った。


「さっきの中身は?」


全速力で走っているというのに、遊安には全く息切れが無い。


「……レモネード! 柑橘系の匂いが……ヤツらは苦手って……」


「ふーん。随分とゴキブリに詳しいんだね」


「いや……苦手なんだよ、だから……」


「対抗策をいつも考えてるって事?」


「そうっ! だよっ……」


廊下を駆け抜け更に階段を一気に降りて、ぼく達は一階の玄関にある下駄箱の前でようやく足を止めて、息を整えた。


息を整えていたのは、ぼくだけだったが……。


「そういや……お前は大丈夫なのかよ?」


「何が?」


遊安は、皆目検討の付かないといった瞳を向けて来る。


「いやっ……あの、黒いヤツだよ……女って、虫嫌い多いだろ? ましてアレは……」


「別に……。ただの虫だから」


「ただの虫って……、気持ち悪く無いのか?」


「……それは、見た目が? 生態が? それとも別の項目で?」


「……はぁっ、もういいよ。なんかお前って変わってるよな」


「そう?」


その時、初めてぼくは、遊安の本心から出たであろう笑顔を見た。


おかしな話だが教室でいつもクラスメイトと笑いながら話す遊安は、笑っていなかった。


表情では無い、感情が感じ取れ無い。空の笑い。


でも、何故なのかぼくは、その笑顔がとても懐かしく感じていた。


と、いってもいつか何処かで見たとかそういうのとは違う。何だろう、何か不思議な感覚。


「あぁ、変わってるよ……。しかし、参ったな。とりあえずココから出る事が先決だ……」


「そうだね、出れたらね」


「出られたら……?」


不安な物言いに、一気に背筋が寒くなる。


そして、いつの間にか外が暗闇になっている事にも気付いた。


「もう夜か?」


ぼくは、鍵のかけられた両開きのガラス扉に駆け寄った。


ガラス扉の向こうは闇だ。

いや、だがコレは夜の闇の様なぼんやりとした薄い暗闇ではない。


学校を遅く出る時のうっすらとした、微かな光りを含んだ闇とは違う。


街灯が見当たら無いからだろうか?


ぼくは、ただ目の前に拡がる闇を目を凝らし見つめ続けた。



そして──



その闇が、一つ一つの動きを持ち、微かな羽音をさせている事にようやく気付いた。


「コレって!?」


扉一面に、いるのは気色の悪い羽根と、太い体、左右に分かれた奇妙な触覚。



蛾────!?



「何でこんなっ!?」


「私達を、ココから出さないつもりだね……」


「くそっ! 他の出口を探そう!」


ひしめく蛾の大群に後退り、ぼく達は一旦玄関を離れて裏側の位置になる非常口を目指した。


さっきから、生徒や教員にすら遭遇していない所を見ると、さっきの異常事態に校舎内はもぬけの殻の様だ。


ぼくは、それだけが多少の救いに思えた。


コレ以上、あんな犠牲を出したくは無い。


一瞬、蜂に刺されて腫れ上がった生徒達の顔がちらついた。


ぼくは、思わず足を止め、その場に立ち尽くす。


遊安も、それに気付き立ち止まった。


「どうかした?」


「なぁ、さっきの蜂に刺された人達は大丈夫なのか?」


「……なんだ、そんな事?」


「そんな事って、お前!」


遊安の肩を思い切り強く掴み揺すりながら詰め寄る。


その時、ナゼか思わず体が勝手に動いてしまった。


「ここは[ソドム]あの人たちはただの疑似世界の存在。実在する人間じゃない……それに……どうしてこの前は人を殺そうとしていたのに、今はそんなにムキになってまで、殺人を否定するの?」


「えっ……?」


確かにそうだ。


なんでだ? ぼくは人を殺したかったはずなのに。


おかしい。


いや、違う。ぼくは罪深い人間に贖罪させたかっただけで……。


「ぼくが殺そうとしたのは杉原だ! アイツは悪いヤツで殺された方がいい人間で……」


そうだ、杉原は絶対に許されないんだ。


何故かと問われたら、アイツは素行が悪くて、女子生徒に暴行し、それを権力で打ち消したから……。


いや、本当にそれだけの理由か?


なんでこんなにアイツが憎いんだ? 


頭の中がまたクラクラし出した。


「だから、その人はよくて他の人はダメなの?」 


「……そう……だよ、クラスのヤツらにはなんの罪も……」


「殺されていい人間かどうかなんて、誰が決めるの?」


「誰って……」


「ともかく、その杉原君もクラスメイトも本物じゃない、君の脳内世界だけの住人。心配しなくても大丈夫。死のうが生きようが現実じゃない」


淡々とした口調だった。それでいて、重みのある。


「これは、君の言った通りゲームと変わらないよ」


ゲームと同じ。


自分で言うのには抵抗なかったのに、他人に言われるとなんだか不快感をおぼえる。


もちろん自分でも、矛盾しているのはわかっている。



ナゼ昨日、ぼくはあんなに人を殺したかったんだ?



何故かその時、幼い頃の記憶が思い浮かんだ。


昔、誰かがやっていたレトロゲーム。


大魔王がきのこの国のお姫様をさらっていったのを助ける話。


主人公はブロックをジャンプでパンチしてアイテムを取ったりコインを取る。


少しやらせてもらったら、ブロックがジャンプとパンチで粉々になるのが楽しくて、ひたすらブロックを壊し続けていた。


すると──


「そのブロック、魔王の魔法でブロックにされた、きのこの国の人なんだぞ?」


そう、その人に言われてからブロックを壊す事がとても怖くなった。


知らないうちに自分はブロックになった人々を壊していた。


つまり殺していたんだ。


無抵抗の罪の無い人間を殺すという事が、とても恐ろしいと思った。


さっきまで平気で壊していたブロックを壊せなくなった。


でも、相変わらず魔王の手下のカメやキノコは躊躇することなく足で踏み潰したり壁にぶつけたりしていた。


だって、ヤツらは悪いヤツらだから……。


でも、何も悪くない、何も知らない人が、無惨に殺されるのはぼくには許せない事なのかもしれない。


「ゲーム……例え本当にそうだとしても、ココに存在しているなら、罪も無い人の命を他人が勝手に奪っていい事なんて無い……のかもしれない……って、今、思い始めたんだ」


遊安は、少し安堵した様な何故だかほっとした表情をした。


「そうだね……。それなら良いし、全ての人が君の様に思えればいいね……」


そう言って、遊安は俯いた。


その時の表情こそ見る事は出来なかったが、何故か自分がまるで重罪を犯し、罰せられている様な、そんな雰囲気を彼女は纏わり付かせていた。


「遊安……?」


不安になったぼくが、遊安に呼び掛けたその時──



遠くから、微かに何かが蠢く音がザワザワと、確実にコチラへ向かって来ていた。


「来た……」


遊安は顔を上げ、ざわめく音のやって来る方向に視線を向ける。


音は段々と近くなり、黒い大きな影の様なモノがゾロリと床や壁、天井へとまるで白い紙にインクを零した時みたく広まって行く。


ザワザワ……ガサガサ……という音と共に、小さな人影がこちらへゆっくりと近づいて来るのが見えた。


相変わらず羽音は耳障りなサイレンみたく耳の側で鳴り響いていた。


やがて、黒い蛾で作られたカーテンの隙間からランドセルを背負った少年が現れた。


色素の薄い髪、それと同じ瞳。


白く血の気の無い病的な肌、 遠目から見た少年は一見少女のようにも見える。


何より人間味というものを全く感じさせない。


「……あのコが、[這いまわる蝶クリープ・バタフライか?」


「そう……。全ての蟲達のいわば女王とも言える存在」


「女王……ね……」


ぼくは思わず苦笑した。


虫の世界ではオスよりメスのが権力を持つ。


いや、人間も人にはよるが……。


少年はただじっとこちらを見つめている。


「………………」


言葉を発して来る事は無かった。


ただ、黒く清んだ瞳が真っ直ぐにぼくらを捕らえていた。


「……お前、知り合いなんだろ? 話し合いでなんとかならないのか?」


「そうだね……。今回ばかりは穏便に済ませたいと思うけど、向こうがそれを望んでいそうに無いから……」


ぼく達は、しばらく少年と一定の距離を保ったままだった。


コチラから近づく事も、向こうがそれ以上近づく事も無い。


その場から動く事は、まるでお互い禁忌なのかという様に、身じろぎ一つする事をしなかった。


「おいっ、どうする?」


出来る限り小さな声量で、遊安に目配せをしながら指示を仰ぐ。


「…………とりあえず、君はそこを動かないで」


「えっ?」


ぼくがそう返事をした瞬間、ぼくの隣には遊安の姿は無かった。


遊安はただもう真っ直ぐに、少年の方へと走り出していた。

 


ザワザワザワザワザワザワザワザワ…………



まるでそれが一つの生き物かの如く何千何万の小さな虫達の固まりが、触手の様に立ち向かい来る遊安へとその先端を幾重にもさせ襲い掛かって来る。


「遊安!!」


「はぁぁぁぁぁっ!!」


軽々と触手の合間を縫って、遊安は少女との距離を確実に詰めていく。


「……ど……う……して…………」


その時初めて少年は口を開き、声を発した。


声にはまだ幼さが残っていて、見た目には12、3歳と思っていたが、もしかするともっと小さいのかもしれない。


「どう……して……邪魔を……するの!?」


無表情だった少年の顔が、突然感情を剥き出しになり泣き出しそうにくしゃりとなった。


「邪魔? なんの事?」


黒く蠢く幾本もの帯状化した虫達の大群をかい潜り、遊安は的確に少年の側に駆け寄る。



そうして、腕を伸ばし少年の体を掴もうとした。


しかし──


少年の周りに何処から現れたのか無数の羽根の大きな蝶が現れ、鱗粉を撒き散らし巨大な渦を作る。


それは、まるできらきらと七色に輝く竜巻となり、あっと言う間に少年の生きた盾となった。


「くっ……!?」


砂嵐の様なそれの勢いと粉塵に遊安は顔をしかめ、制服の袖で鼻と口を押さえると、距離を取って数メートル後退した。


ぼくは何も出来ずただ、遊安と少年とのとても現実ではありえないその攻防を見ていた。


しかし、離れた場所で傍観していただけのぼくに、何かとてつもない不安感と、恐怖心が襲って来たのは、後方から聞こえて来る何かの大群の移動して来る、あの『ザワザワ……』という音が耳に届いたからだ。



『なん……だっ……!? 一体、ナニが……』



振り向く事は、一瞬、躊躇われた。


でも、確実にソイツらは、ぼくの側へと近づいている。


確認しなければいけない! ギュッと両の拳を握り、ぼくは思い切って後ろを見た。

 


黒い集団。



しかし、所々に赤い斑点の様な模様が見える。


『ザワザワ』と天井を覆い尽くさんとする、それは小さな蜘蛛だった。


背中に、赤い模様の入った黒い小さな蜘蛛達は、まるでその集団に一つの意思を持つ生き物の様に、規則正しく乱れる動きなど一切せずに、ぼくのいる方向へと向かって来る。


ある一定の距離まで蜘蛛はやって来ると、ピタリと動きを止め、雨の様に降り注ぐ。


「なっ……!? なんなんだよっコイツらっ!?」


異常事態に気付いた遊安が、コチラに振り向いた。


「セアカゴケグモ……毒がある」


事態とは真逆に全く慌てる様子も無く遊安は、ぼくにとても丁寧とは言い難い蜘蛛の解説をした。


「毒!? ま、待ってくれ!! それって、噛まれたら死ぬのか?」


「場合によっては……」


「なっ!?」


「虫退治、得意なんじゃ?」


「さっきの事は、たまたまだよ!!」


かつて、自分の人生の中でこれほど多くの蜘蛛をぼくは、退治した事なんか無い。


いや、さっきのゴキブリも蜂も、蛾もだ!


こんなに沢山の虫の大群なんて、恐らく昔テレビで観たイナゴの大群以来だろう。


まして、退治なんてゴキブリだけならともかく、蜘蛛なんて全く検討が付かない。


「そっちは、君に任せていいかな?」


「えっ!? ナニ言って……」


「私は、あの子をなんとかする……」


その言葉に、ぼくはなんの反論も出せなかった。


ぼくにはいくら相手が幼い少年であっても、超常的力を持った殺人鬼に立ち向かえる技量は無い。


それなら多少、数は多くとも日常でも対峙する事のある、蜘蛛の方がまだ勝算はありそうだ。


ただし、こんな大群にお目にかかるのは、きっとコレが最初で最後になるだろうが……。


「わかったよ!!」


半分ヤケになって、ぼくは戦闘体勢になった。


しかし、何か対抗出来る武器がなければ心許ない。


廊下を見回すと、少し後ろに消火器を見つけた。


勢いを付けて蜘蛛の雨が降り注ぐ中を、ぼくは制服の長袖に深く腕を入れて頭をガードしながら走り抜けた。


ボタボタ……と雨粒よりも重量があり微かに蠢く物体が、ぼくの腕や顔、肩に当たる。


なんとか蟲の雨を通り抜け、ぼくは消火器を手に取る事に成功した。


すぐに安全栓を抜き、ノズルを蜘蛛に向けるとレバーを強く握り締める。


ブシュ────ッ! という音共に、白煙が辺りを真っ白に染め上げ、その排出された噴霧で足元に

這い寄って来ていた蜘蛛達が、一気に吹き飛んで行った。


「やったか……!?」


霧がかかったみたいな風景は段々と、空気に透明さを取り戻し視界がハッキリして来た。


ぼんやりとした中で、消火器を浴びせられた蜘蛛達は身動きせずに床に這いつくばっている。


だが、やはりそんな甘い物では無かった。


次第に、またその細く不気味な手足を動かして、ぼくの方へと近づいて来る。


薄く白いカーテンの様な煙幕越しに、遊安の姿が見えた。


相変わらず次第に勢力を拡大させ、少年を守る鉄壁のガードをする蝶の壁を超えられずにいた。


そして、ぼくの一連の消火器での小さな殺戮者共との交戦を、振り返った一瞬で彼女は理解したらしい。


勿論こんな有様だ。


彼女からの厳しい叱咤が飛ぶ事を、ぼくは覚悟していた。


しかし、彼女はぼくの姿を見ると何かに気付き、そして自分の足元にある、もう一本の消火器を即座に手に取った。


そして、蝶達に向け勢いよく噴霧した。


たちまち白い煙りと共に、大量の蝶が羽ばたく。


まるで、映画でも観ている様な幻想的な光景だ。


蝶達の隙間からは少年が、戸惑った表情を浮かべ後退った。


しかし、その一瞬を遊安は見逃す事無く、少年の腕を掴み自分の方へと 引き寄せ、そして──



少年を胸に抱きしめた。



散っていた蝶達がまた壁を造ろうと少年の元に集まり初めていたが、遊安は臆する事無く、7彼を抱きしめ、そして、何かをその耳元に囁いている様だった。


それは、ほんの数秒の出来事だったが、足元を蜘蛛がぞろぞろと上り始めて来たぼくには1分にも、2分にも、終わら無い永劫の時にも感じられた。


遊安が彼を離し、それと同時に蝶はばらばらと分散していく。


蜘蛛の大群も何事も無かったとばかりに排気口や床下へ、まさに蜘蛛の子を散らすかの如く消えていった。


「……一体、何が起きたっていうんだ……」


ぼくは、ただ呆然とその場に座り込み、遊安と少年を見つめていた。


「もう平気。あなたは大丈夫? 噛まれなかった?」


まるで、心配などは微塵もしていないといった感じの、ぶっきらぼうな遊安の質問が飛んで来た。


ぼくはもう、ただ首肯するだけで精一杯だ。


少年がコチラをジッと見つめて来た。


辺りにはもう、虫の姿は見当たらない。


いや、一匹だけ大きな青みを帯びた蝶が、白みがかっている少年の髪に髪飾りの如く止まっていたが、それ以外は消え失せていた。


「いなくなったのか?」


念のため、遊安に確認を取る。


「もう平気。この子が止めたから……」


「一体、何があったんだ? 何をしたんだ?」


「私は別に、事実を話しただけ……。そして、今からこの子に、何故こんな事をしたか聞く」


「事実?」


確か、交渉は難しいと言っていた。


そんなに簡単に止めて貰えるのなら、もっと早く解決出来たんじゃないだろうか?


疑問と不信ばかりが頭を回っていた。


「話し合いは難しいって、言ってなかったかお前?」


「話し合いじゃない。私がただ、一方的に言葉を発しただけ……」


ならば、尚の事だ。


その言った事を遠くからでも叫べば、こんな虫達に襲われる事も無かったのではないんじゃないか?


「もっと、早くそれを言って止められなかったのかよ?」


「ただ叫ぶだけじゃ効果は無い、魔法の言葉は……」


「魔法の言葉? 何だよそれ?」


遊安は、長い黒髪を掻き上げた。


蝶の鱗粉だろうか、髪からキラキラとした輝きが零れていく。


少し顔を綻ばせただけで結局、その解答をくれはしなかった。


「さぁ、教えて? 君は何故ココで、こんな事をするのか……」


人形の様な少年は、そこで顔をくしゃりとさせ今にも泣き出しそうだ。


人形少年が、人間らしい表情を取り戻した、瞬間だった。


「……殺さない……と、……リアルを壊すって……言われた……から……」


たどたどしく、少年は言った。


リアルを壊す? ぼくは、意味がわからず遊安を見た。


「現実世界を壊すって事…………」


「現実世界を? 一体、誰が?」


すると、小さく少年が答える。


救世主メシア…………」


「誰だよ? そいつ?」


「[ソドム]と[エデン]の創造主にして現在、マーダーランク1位の殺人鬼。ここの殺人鬼達が狂信的に心酔しているヤツ」


「……知ってるのか?」

 

遊安はただ、頷いた。


だが、それ以上は救世主メシアについて話そうとはしない。


ぼくは、ぼくに対してカナリ警戒している様子の少年と、目が合った。


彼はまさに絶望したと言わんばかりの瞳を、ぼくに向けて来る。


「本気で殺し合いするほど、救世主メシアってヤツは偉いのか……?」


ぼくは、率直に聞いた。


「………………ただみんな、救世主メシアが怖い…………だけ」


少年は小さく呟く様にそう言うと、遊安の後ろに脱兎の如く身を隠した。


ぼくは、何も言えなかった。。


そいつが脳内世界でどんなに権力があって、力を持っているかは知らないが、そこはたかが脳内の疑似空間だ。


[現実リアル]にそれを持ち込めるとは、思えない。


「それで? どうしてこの殺し合いと[リアル]を壊す事に関係が?」


遊安はしゃがみ込み、俯いている少年の顔を覗き込みながら、諭す様に、宥める様にゆっくりと質問した。


その姿はまるで、少年の姉か母の様にすら見えた。


「はじまりは……[ソドム]がコネクトしたことから……そこにいた人が全員一つの世界に集約され……そして救世主メシアが、この世界の選別をはじめると言った……」


「選別? 何の?」


「……殺す側と……殺される側……奪われれば……全てを失う…………」


「全てって…………? つまり……」


「現実世界すらも失うって事」


遊安が吐き捨てる様に言う。


「下位ランカーは……まず全員……処分対象………にされた」


「処分って……殺されるってことか?」


少年は声は出さずに首肯する。


「……でも、殺せなかった……だ……から……殺さないと……なにもかも失うって……メシアに言われて……だけど、特別に…………その人を……殺せば…………許してくれる……って」


少年は、震える指先でぼくを指す。


「はっ!? なんで、ぼくなんだよ!?」


「……この人が……悲しむから…………」


今度は、そう言って、遊安の腕をぎゅっと掴んだ。


「どういう……ことだよ?」


遊安を見つめて、答えを待つが何も返っては来ない。


また、答えてくれないのか……。


ぼくは、深く溜息を吐いた。


「じゃあぼくは、まだ狙われるのか……?」


「否定してあげたいけど、肯定しか出来ない」


「どこかに逃げればいいのか?」


「残念だけど、良い案とも思えない。[ソドム]に接触した事で君の脳内データは全て相手に搾取されていると思って間違い無い。勿論君だけじゃない、私も、名前や顔だけじゃない、思考パターンや生活環境に至る全てが把握されている。そんな中で逃げるのは、難しい。相手の手の中で弄ばれる様なもの」


「じゃあ……どうすりゃいいんだ?」


喚き立てたい気持ちを、押さえ込むのが今のぼくには精一杯だ。


「戦うだけ」


その言葉は重くぼくにのしかかりながらも、遊安の存在に確かに支えられている事を気付かせてくれた。


「力を、貸して欲しい」


ぼくらを見つめる、[這いまわる蝶クリープ・バタフライ]に、遊安は言った。


少年は、ただ頷き遊安の制服のスカートをまたギュッと握り締めていた。




その夜──

 



ぼくは、夢を見た。


それはまた、あの恐ろしい夢だ


学校から自宅にぼくが帰ると、家の中は血まみれだった。


前回と違うのは、死んでいるぼくの家族が、皆食卓を囲み座っていた。

 



そして、そこに血まみれの、遊安が微笑んでいた。





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