実験室編41
みんなの一致団結した姿を見て
俺はもう大丈夫だ…そう思った
そしてある決断をしようとしていた
しかしそれを見透かしたようにフロ-ラル様はワタルを見て言った
「ワタル…あなたはここを出ていくつもりですね?」
ギクリとした
「あなた方の目的は分かっています」
「もう少しここにいて欲しいというのが本音ですが
誰も止める権利はありません」
「魔幻龍の件もありますしね」
「でも…ここで力をつけてからでも遅くはないのではないですか?」
「どういうことですか?」
するとフロ-ラル様は突然厳しい顔になる
「あなた達の旅はまだ始まったばかりでしょうけど
今まで強い敵に巡り会わずに戦ってきた…」
「運がいいだけと言っているのです」
「!?」
俺は思わず頭に血が登り反論する
「それは…俺たちが弱いって言いたいんですか!?」
フロ-ラル様はまっすぐ俺を見て答えた
「はっきり言ってそうです」
「!?」
「何も…そんな言い方しなくたって…」
と、ツバサはとまどうように言った
「それではお聞きしますが…」
「ワタル…あなたはハイデルと再び対峙した時…」
「初めて戦ったときのことを思い出して恐怖に駆られ動けなかったんですよね?」
「……」
「それだけではありません」
「もしミネアとマ-ニャがデスサイレントを成功させなければハイデルを倒せていましたか?」
「もし城外に留まっていたとするならば魔法が飛び交う中…」
「あなたたちは戦力として戦っていられましたか?」
「もし今後ハイデル以上の魔道師が表れた場合…どうするつもりですか?」
「サイレントゼロ抜きで戦えますか?」
「勝てますか?」
図星だった
俺たちは何も言えなかった
そしてフロ-ラル様は戒めるように言う
「今回は運がよかっただけ…」
「運だけではこの先戦っていけません」
「実力がなければ確実に死にます…」
「これより先モンスターたちは更に凶悪な強さになってきます」
「それほど厳しい世界なのです」
「ここでしっかりと実力を身につけてからでも遅くはないのではないでしょうか?」
「もちろん強制はしませんが1日ゆっくりと考えてください」
「それでは私は戻ります」
そうフロ-ラル様は厳しい顔で言い終わるとクルリと背を向け帰って行った
先ほどまでの情景が嘘のようにみんなシ-ンと静まりかえっていた
そして重苦しい雰囲気の中…
1人…また1人と帰っていく
夜も遅いし今は白魔女の領域の森にいるため
黒魔女や地下に捕らわれていたみんな…
そして魔族たちは白魔女に引き連れられそれぞれ散って行った
しかし俺たちはその場に立ち尽くしていた
俺は決して甘くみていたのではなかった
でも慢心がなかったといえば嘘になってしまう
それに運がよかったのは事実だと思った
もしフロ-ラル様が言ったことに加え
ハイデルがいた場所に上級魔族がいればどうなっていたであろうか?
ドクターベルケルもいれば?
確実に死闘の壮大な魔法戦が待っていただろう
その苦手な魔法戦の中俺たちは何の役に立てたであろうか?
それにもしドクターベルケルがいれば…
答えは考えなくても分かっていた
それは確実なる死だったであろう
それにハイデルも幾度の奇跡が重なり
みんなの力でかろうじて勝てたに過ぎない
そう考えているとツバサは言った
「フロ-ラル様なにもあんな言い方しなくたって…」
「気持ちは分かるけどでもみんなせっかくまとまっていこうって雰囲気だったのにあれじゃあ…」
するとバ-バラは擁護するように言った
「あれは本心じゃないだろうよ分かってやってくれ」
「ああまで言わないとお前たちはここに留まらないだろうと考えたんだ」
「それに…」
「フロ-ラルはね」
「シェリルが死ぬ前…外の世界へと出たことがあるらしいんだ」
「まぁ期間は短かったそうなんだけどね」
「でもね」
「その理由は…自分が弱かったせい大切な仲間を死なせてしまったかららしいんだ」
「!?」
「そして責任を感じメンバ-から身を引いてここへ帰ってきた…」
「私はそう聞いてるよ」
「それで…」
「ああ外の世界の厳しさはよく分かってる」
「見に染みるほどにね…」
「それにお前たちを失いたくはないんだよ」
「お前たちはもう私たちの大切な仲間…いや家族なんだよ」
そうバ-バラは言った
ツバサは自分が言ったことを悔いているようだった
そして俺もバ-バラの話を聞いてフロ-ラル様の気持ちが痛いほどよく分かった
なんて自分は浅はかだったんだろう!そう思った
しかしさらにそれとは別にあることを俺たちは悔やんでいた
俺たち5人は心が痛かった
それはフロ-ラル様やバ-バラそしてみんなに人生で最大の嘘をついたからであった
フロ-ラル様が心配しているのはこれからの俺たちの旅のことなんだろう
でも…違うんだ
俺たちはあの事を一切話していない
そうあの恐るべき実験の内容のことを…!
あの実験の内容を知っているのはあの場にいた俺たち五人だけだ
もしみんなが知ればあのとき以上に命をとして加勢に駆けつけてくれるだろう
そんなことは分かりきっていた
だから俺は言ったんだ
あの城の上で…
この実験の内容はみんなには一切秘密にしてくれないか?と…
みんなは無言になった
しかし俺の意図を察してくれコクりとうなずついてくれた
俺たちの目標はもう当初とは違っていた
ドクターベルケルのあの恐るべき実験内容を聞いてしまったあの瞬間から…
あの実験内容を見てみぬふりをすれば
当初通り旅を続けられるだろう
ただそんなことをできるはずがない
どれだけの多くの人たちの命がかかっているのか分かりきっていることだ
そして俺は言った
「俺たちは弱い…」
「しばらくここにお世話になろうと思う…いいか?」
みんなはコクりとうなずいた
そしてある考えをバ-バラに述べた
「2ヶ月間だけお世話になろうと思う」
「たった2ヶ月で何ができるようになるか分からない」
「でも…それが俺たちに残された最大の時間なんだ!」
そうバ-バラに訴えた
バ-バラは何もそれ以上は聞いてこず
分かった…と一言だけ言ってくれた
それにこの2ヶ月という期間を割り出したことにはもちろん理由があった
そしてたった2ヶ月という期間でどこまでできるだろうか…
そう考えているとミネアは何か言いたそうにしていた
何かあるのかもしれない
しかしミネアのいわんとしていることが
これからのことが劇的に変わろうなどとはミネア以外の全員が知るよしもなかった
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