実験室7

俺はミネアとマ-ニャに約束をした

しかしその言葉を一笑するように笑い声が聞こえてきた

「ふふふ…はははは」

「あっははははは!」

「何がおかしい!」

「おかしいに決まってるじゃな-い」

笑っていたその女が一瞬だけ真面目な顔になる

「冗談もほどほどにしなさいよあんた」

「ドクターベルケル様にをこともあろうに倒すですってえ?」

「そんなこと無理に決まってるじゃな-い」

「あなた…いえゴブリンごときが何をほざいてるのかしら?」

「言っていい事と悪いことがあるのよ…!」

「身の程を知りなさい!!」

あまりの怒声がその場を凍りつかせた

「それにさっき妙なことを言っていたわよねあなた…」

「今は無理だろう…いずれ倒すって」

「ふふ…地下にドクターベルケル様がいるのに

どうやっていずれ力をつけるわけ-?」

「もしかして本当に逃げるおつもり?」

「ふふふ」

余裕の笑みをその女は見せていた

しかし次に俺の言葉を聞いた瞬間ピクリとした

「ドクターベルケルはもうここにはいない」

そしてその女の顔から笑みが消えた

この顔がこの女の正体なのだろう

「何を言っているのかしら…」

「ドクターベルケル様は地下にいるわよ-」

「ゼットンの口からハイデルの声で聞かなかったかしら?」

「ああ…確かにそう聞いたさ」

「それなら何故?」

「ここにいない事が分かるからだ」

「!?」

その女はピクリとする

そしてまた俺に問いかける

「だから何故そう言いきれるの?」

「理由を教えて頂けないかしら」

「ああ、それは…」

「それは?」

俺の言ってることがその女やミネア、マ-ニャ含め

みんな理解できないようで

固唾を飲んで俺の言葉を待ってるようだった

「ここから下に大きな気配を感じないからた」

「!?」

この女の顔が一瞬引きつった

「ここより下で感じる気配はこの階ではお前と俺…」

「そしてミネアとマ-ニャそしてみんな…」

「それより下で感じる大きな気配…

いや巨大な気配は一つしかない」

「そ、その気配を何でドクターベルケル様じゃないって言いきれるの!?」

さらにその女は俺を問い詰める

「それは…この巨大な気配はハイデルのものだからだ」

「ハイデルとは1度森で会ったことがある」

<この子…>

それからワタルに対するその女の目つきが変わった

「ふふふ…なかなかやるわねえ」

「おっと!これ以上私の口からは言-えない」

「自分の目で確かめてみなさい…」

「私を倒すことができたらね!」

その女の目が大きく見開かれ俺を襲いそうになったとき…!

ある言葉がまたその場にその女を留まらせた

「それに…」

「それに?」

「お前と話したことで一つ分かったことがある」

「何が分かったの-?」

人をおちょくった感じで笑ってはいるが

その目の奥は笑ってはいなかった

それから俺は話し始める

「まずは俺と話しそれからミネアとマ-ニャの話…」

「それからドクターベルケルの話をした」

「しかし」

「しかし-?」

「お前が最も熱くなったのは

俺がドクターベルケルの話をしたときだ」

「!?」

「な、何を言ってるの!?」

「私はちゃんとミネアとマ-ニャのことを心配して熱く…」

「それはお前の本心じゃない!」

「!?」

「お前が本心で言っていないのはよく分かる」

「ちょちょっと誤解を招くような発言やめてくれる-?」

「誤解も何もない」

「あんた何言って…」

俺はその女に問いかけるようにして言った

「お前はミネアとマ-ニャの母親なんだろう!?」

「真っ先に考えるべきことは

ドクターベルケルの事なんじゃない!」

「大事な…大事な娘たちのことじゃないのか!?」

「……」

「娘たちのことを本気で大切に思っているなら

何故もっと三人で話し合おうとしない!?」

「何故ドクターベルケルの話をしたときだけ

あんな怒声をあげた!」

「真っ先に考えるべきことはドクターベルケルの事なんかじゃない…」

「二人のことについての事なんじゃないのか…!?」

「それに…まずは二人に伝えなきゃいけない

大切な言葉があるんじゃないのか?」

「そのせいで二人と離ればなれに

ならなきゃならなかったんじゃないないのか!?」

困惑した表情でその女は言った

「ちょっと伝えなきゃならない大切な言葉って何-?」

「意味分からないんですけど」

「私があの子たちに何話せばいいってわけ?」

「可愛い娘たちに会えたって言ったじゃない」

「それは本心よ」

「それと離ればなれにならなきゃいけない理由は

誰かが私たちの関係を妬んでチクったからで…」

「もういい!!」

大きな声がした方向を見るとマ-ニャがいた…

泣いていた

「もういいよ…」

「私…決めたの…」

するとその女はパッと笑顔になり喜んだ

「ああ…マ-ニャ…」

「やっと決めてくれたのね!」

「お母さんは嬉しいわぁ」

「さっ…こっちへおいで!」

両手を広げ抱き締めポーズをしていた

マ-ニャが自分につくと思っているのだろう

「私はそっちへは行かない」

「えっ?」

マ-ニャの言葉がその女を唖然とさせた

そしてふるふるその女の肩が揺れだした

もう俺にはその女に対する言葉がなかった

もしバ-ジェットがいれば殴りかかっていってるのだろうか

「どういう事だい!」

「分からない子だね!」

「分かるように説明をしなさい!」

「そんな言って分からないような子ならこの場で…」

その手がマ-ニャを襲いそうになった時…!

マ-ニャのある言葉がその手を止めた

「私ね…」

「お母さんにね…」

「ごめんね…その一言でいい」

「その一言が欲しかった!」

「もしその一言があったのなら…

お母さんの元へ行っていたのかもしれない!」

「わたし…わだし…!」

「うっ…うっ…」

もう言葉が出ないらしい

何か必死に言葉を発しようとするが

何も言えないようだった

それは一人嗚咽をもらして泣き崩れていたからであった

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