黒魔女、白魔女編13

広場に戻ってくるとみんなの姿がそこにはあった

「ワタル!」

「ツバサ!」

「大丈夫だよ」

「よかった…」

バーバラやミネア、そしてみんなも心配しているようだった

そこへシェリル様が前へ出てこう告げた

「みなさん…」

「私はもうそろそろ…」

みんながハっ?となる

「シェリル…」

「シェリル様…」

「そんな顔をしないで…」

「それと…」

「マーニャ…」

「はい!」

「実験室のみんなを助けれるといいですね」

「バーバラ…」

「本当に申し訳けなかった…」

バーバラはシェリル様へ深々と頭を下げた

いいんですよ…そう言うとバーバラへニッコリと微笑んだ

「白魔女のみんなやワタルたちを助けてあげて下さい」

「分かった」

フーーっとシェリル様の光が薄くなっていく

「フローラル…」

「お母様!」

そういうと涙を浮かべながらシェリル様の胸の中へと駆けだして行った

それをシェリル様は温かい目で抱きしめた

「いつまでもあなたを抱きしめていてあげたい…」

「でもこれでもう終わり…」

「うん…」

フローラル様は少女の頃母を突然亡くし今まで必死にリーダーとして生きてきた

甘えたいときに甘えれなくてどれだけ辛かったであろうか…?

それを取り返すように一瞬だけでも母に精一杯甘えているように見えた

少ない抱擁が終わった後フローラル様を抱きしめていた手をそっと離し、

フローラル様がその手から離れたのを確認してからみんなに言った

「私はあなた方をいつまでも見守っています」

「はい!!」

「暗神の祝福があらんことを…」

そう言い残し光は消えシェリル様も消えていった


沈黙の時が少し流れた

そしてフローラル様とマーニャが決意の表情をしてみんなの前へと歩み出た

マーニャはみんなを見つめていた

「これからマーニャの願い通りに実験室へ我々の仲間を…

そして捕まっている人たちを助けに向かいます!」

「捕まっている人たちの中に皆さんも知っているでしょう」

「命を賭してまでマーニャを救ってくれた方々もいます」

「その方々は私たちにとっても命の恩人…」

「他に何の罪もなく捕らえられ虐げられている人たちもいるでしょう」

「何の実験か分かりませんがドクターベルケルやハイデルの好きには絶対させません!!」

「私たち白魔女や黒魔女の力を見せてあげましょう!!!」

すると後を続くようにバーバラは言った

「お前たち分かったね!!」

「うぉおおおおおおおーーーー!!!!」

その場全体が揺れた

「これから戦の準備をします」

「それぞれ準備をはじめてください!」

そうフローラル様が言い終わるとみんな各々準備のため散っていった

それから俺は準備を整え広場へと戻ってきた

ふと空を見上げた…

空を暗闇が輝いていた

ふと横を見た…

どうやらツバサやバージェットたちが準備を終えこちらに来ている途中だった

ふと反対方向を見た…

バーバラが倒れていた

俺は目を疑った

遠巻きに人が倒れているのが見えるがあれは確かにバーバラだっった

ミネアやマーニャが泣き叫んでいるのが見えた

「!?」

俺は慌てた…

すぐにバーバラへの元へと駆け出して行った

その時俺はあることを思い出していた

嫌な予感がした…そのことだった

迂闊だった

まさかドクターベルケルやハイデルの方から攻めてくるとは…!

しかしなぜこの場所を知っていた?

約束の丘はハイデルは絶対知らないはずだ

それなら…なぜ!?

いろいろ疑問が湧き出てくるが今はそんなこと考えている暇はなかった

そして咄嗟にこう叫んだ

「敵襲だ!」

「みんな円陣を組んで!!」

ツバサやバージェットたちが陣形を組んで武器を構える

「マーニャ俺の後ろへ!」

「ワタ…」

マーニャが何か言いかけたような気がしたが今はそれどころじゃない

シーンと森の静寂がなる

冷や汗がほとばしる

どこから攻めてくる…!?

敵の数は…!?

何かおかしいと気づいたのはそれからしばらくしてからだった

変だ…全く襲ってくる気配がない

そう思っていたときに後ろから声が聞こえた

「ワタル…違うのよ…」

「違うって何が!?」

「バーバラは敵に襲われて…」

「あーあ、ついにバレちまったかい」

そう言うとさっきまで倒れていたバーバラが起き上がってきた

「バーバラ!?」

「勝手に死人にしないでほしいね」

「うっ…!ごほっ…ごほっ…!」

「バーバラ様!?」

ミネアとマーニャが泣きそうな顔をしている

バーバラの口から大量の血が出ていた

「バーバラ口から血が!?」

「心配するな!」

「誰が敵に襲われたってぇ?」

「私という者がそんなヘマをするかい」

「じゃあ…!?」

みんなが固唾を飲んで見守った

そして何か決意した表情で語り始めた

「私は…病気なのさ…」

「!?」

「そんな…!?」

「バーバラ…だって今まで一度だってそんな様子は…」

「まさか!?」

みんながハッとなる

「バーバラ…痛かったのか…?」

「ずっと苦しかったのか…!?」

「今までずっと我慢していたのか…!?」

バーバラは苦しい表情を見せながらもコクリとうなずいた

我慢していただと…ふざけるな!

それだけの重い症状なのに今まで誰も気づかなかったなんて…!

ミネアやマーニャのほうをチラリと見ると驚きの表情をしていた

いったいどれだけの苦しみがあったのだろう…!

身内のミネアやマーニャにすら秘密でたった一人で…!

しかしバーバラはみんなを心配させまいと作り笑いでニコリと微笑んだ

「バーバラ様!?」

「バーバラ様!?」

二人は泣きながら懇願する目でバーバラを見た

「すまなかったね…」

そうバーバラはポツリと言った

俺はそれ以上二人に語りたがらないのを察し質問を続けた

ずっと騙していたとういう後ろめたさもあるのだろう

「医者には行ったのか!?」」

「それとあんたほどの黒魔女なら医術にも詳しいんだろ!?」

「ふふ…」

そうバーバラは苦笑いをした

「そんなものとっくにしたよ」

「しかもそこいらへんの医者より私の方が医術や知識についてずっと深い」

「ありとあらゆるそれにかかわる書物はすべて読みあさった」

「しかしないんだよ…」

「この病は不治の病…」

「誰にも治せやしない」

「……」

「いつからなんだ!?」

「ずいぶん昔からさ…」

「私がシェリルを殺したのは知ってるね?」

「この病を知ったのはその前の話さ」

俺は絶句した…

「私には時間がないと思った」

「このまま私が死ねば黒魔女は滅んでしまう…本気でそう考えたよ」

「バーバラ様…」

「悩んで悩んで…悩み抜いた」

「私は死ぬ前に少しでも黒魔女の領地を増やそうとあらゆることをした」

「もちろん汚いこともしたさ」

「そして極めつけがシェリルのことさ…」

「シェリルはとても強かった」

「私なんかよりもずっとね…」

「それでどうしても邪魔だった…」

「私が死ねば必ずシェリルたち白魔女が攻めて我々を滅ぼすと思った」

「それで…」

「ああ」

「うっ…!?ごほっ…ごほっ…!」

「バーバラ!?」

「バーバラ様!?」

「大丈夫だ…これしきのこと汚い手でシェリルを殺し

フローラルを苦しめたことを考えればなんてことはない」

「本当にすまなく思っている」

「我々は黒魔女の総力を結集して彼女を殺した」

「でもああでもしない限り彼女を殺すことはできなかったんだ…!」

何を好き勝手なこと言っているんだ!と言おうとしたが

フローラル様の方を見て我慢することにした

辛いはず…!

罵倒したいはず…なのに!

彼女は目を瞑り黙ってバーバラの言うことを聞いていた

「それとシェリルの死ぬときのあの目…!」

「あの目が私を苦しめるのさ!」

「あの目は私に対する憎しみの目ではなかった!」

「少しでも憎んでいてくれれば少しは楽だったのに…!」

「シェリルは死ぬ間際私の心に少しは気づいていた!」

「私の気持ちを少し分かってくれていて自分が殺されると分かっていたはず…」

「それでも憎まずに許してくれた!」

「私はそんな人を…!」

「うっ…うっ…ああああーーー!!」

バーバラは泣いていた


しばらくして…話の続きを始めた

「すまなかったね…取り乱してしまって…」

「話の続きをしよう」

「しかし皮肉なことにしばらくしてからその病に対する治し方が分かったんだよ…」

「!?」

「いや正確ではないね」

「治すのではなく延命させると言った方が正しいか…」

「これまでその病について研究してきたが治す方法については分からなかった」

「魔療の里へ行けば何か分かったのかもしれないのだが…」

「ここからはるか遠くにあるし、しかも私がここを長期不在するわけにはいかなかった」

「あと私が病気だと知られれば周りの国の格好の標的となる」

「それだけはどうしても避けたかったのさ…」

バーバラの重い告白が胸に突きささった

「ごほっ…!…ごぼっ…!」

今度は俺たちに心配される前に大丈夫だ!と言った

気丈に振る舞っているように見えるがかなり苦しそうだった

みんなを心配させまいとしているのがひしひしと感じてとれた

病を発病させてから今まで誰一人そしてミネア、マーニャですら気づかなかったのに

今みんなの前でさらけ出しているのだから相当苦しいのだろう

バーバラは一体どれほどの思いで今まで生きてきたのだろうか?

いつ死ぬかも分からないその身体で誰にも告白できず…

そして悟られないように…

そしてリーダーを演じたった一人で…

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