上へ参ります。
駅ビルの裏手。あまり通らない通路だが、欲しい本を探して本屋を梯子した時の帰りに利用する階段がある。改札機2台だけの小さな改札に通じる通路に繋がっている。
今日は久々に遅くまで本屋を回った。スマートフォンで時間を確認すると、既に21時を回っていた。目的の本が見つからなかったのは心残りだが、まあそんな日もあるさ。そんなことを考えながら、あの細い階段にさしかかる。
ん?
視界の先に、違和感を感じた。
大して利用客もいないと思われるこの階段に、登りのエスカレーターが架けられていたのだ。
俺が利用しない時間帯には、この階段も賑わうんだろうか?通勤客やら何やらで。そんなことを思いながら歩みを進める。
本屋巡りでそれなりに疲れている。少しでも脚を休めようと、特に意識することなくそのエスカレーターに足が向いた。俺が来た方角とは別の方から現れた小柄な女性がコンビニの小さなビニール袋を提げ、小走りでエスカレーターに足を架けようとする。
どうやらコンビニで売られているプライベートブランドのペットボトルを買ったらしい。俺の話を聞いたってことかな。
……いや、待て。俺は彼女を知っているのか?そういえば名前は聞いてなかったっけ?いや、そんなことより。
このエスカレーターに、乗っちゃ駄目だ。
彼女を止めようと、手を伸ばす。
その手は空しく空を切り、彼女はエスカレーターに乗り、昇っていった。
引きずってでも彼女を降ろさないと。慌てて俺も彼女の後ろに続き、ステップに足を架けた。
気付くと、前方には白く霞むまで、無限に天まで続くエスカレーターのステップ。後方には、深く闇に沈むまで無限に続くエスカレーター。
――ああ、またやってしまった。
――Escalator To Loop――
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