収録頑張ってます。

「はい、続いては初登場。ドールズです」

「皆さん自己紹介があるんでしたっけ? まずはそこからお願いします」

 進行のアナウンサーさんに従って、いつもの自己紹介を始める。

「いつもクールなみんなのフランス人形、カンナです!」

「いつもドタバタ、みんなのマリオネット、ミチルです!」

「いつももふもふ、みんなのぬいぐるみ、ヤヨイです!」

「いつもぴょこぴょこ、みんなの指人形、ルリです!」

「いつもしっかり、みんなの博多人形、アイリです!」

『五人揃って、ドールズです!』

 座ったままなので、手振りだけでいつもライブでやっている自己紹介でアピール。それなりに好感触のようで小さいながら拍手が起こった。

「みんな人形なんだねえ。しかし一人だけ博多人形ってのはどうなんだよ」

「あの、アイリは一番のしっかり者なんで。まあそういう感じで」

 カンナがふわっとした感じのフォローをすると、「それフォローになってるのかな」という突っ込みとともに笑いが起こる。

「けど、みんな人形くっついてるんだねえ」

 司会の人の目が衣装に引かれている。これはアピールポイントだ。リーダーらしく私が説明する。

「はい、グループ名やさっきの自己紹介もそうなんですけど、コンセプトがお人形なので。全員の衣装にそれぞれの似顔人形が付いてるんです」

「ああ、ほんとですね。よく見たらそれぞれみんなの顔がお人形になってるんだ」

 アナウンサーさんも話題に乗ってきてくれた。わざとらしくはあるけど、話に入って来られないミチルやヤヨイは向こうの方で人形を操り手を振らせていて、それをカメラでしっかり抜いてもらっている。

「へー。この人形って縫い付けてあるの? 踊ってる最中に飛んで行ったり、どっか行っちゃったりしないの?」

 えっ、と声が詰まる。ちょっと予想外の質問だ。どう答えよう……そう思っていると

「あのー、お人形が飛んでいったりは無いんですけど」

 口を開いたのは、一番遠くにいたルリちゃんだ。

「ミチルちゃんがお人形と一緒にどっかに行っちゃうことは時々ありますね」

 そのとぼけた感じの口調もあいまって、どっ、と笑いが起きる。ミチルちゃんは恥ずがってルリちゃんの口を塞ごうとしているが、その慌てた姿がさらに笑いを誘っているみたいだ。

「あの、ミチルちゃんは時々変な動きをすることがあって、だから自己紹介の人形もマリオネットなんです」

「なるほどねえ。キャラに合った自己紹介にしてあるんだ」

 司会の人にもしっかりアピール出来たかな、と手応えを感じた。

「はい、はいそれではそろそろ。ドールズの皆さんは歌の準備をお願いします」

 笑いに包まれた和やかな雰囲気のまま、私達は歌のステージに向かった。

 このテレビ出演。これは、きっと大成功と言っていいと思う。そう思いながら、改めて気合いを入れ直して歌パートに望んだ。


「っかれたーーーーー」

 カンナちゃんがぐったりとしている。「疲れた」すらきちんと言えていない。

 ミチルちゃんが楽屋のソファで謎のうつ伏せポーズを取っている。

 ルリちゃんは既に眠そうにしている。

 ヤヨイちゃんは楽屋に戻るなりケータリングの中からプレッツェルを取り出して食べ始めたが、途中で力尽きている。

 そして私も、なんていうかスイッチが切れた。

「でも、良かったよねー」

「みんな他のアーティストさん目当てのはずなのにねえ。みんなけっこう乗ってくれた」

「楽しかったぁ」

 心も体も疲れ切っているけど、みんなとても満足そうな笑みを浮かべている。

 確かにミチルちゃんの言う通りで、まだまだマイナーアイドルの域を脱していない私達のファンはこんな観覧に紛れ込めるほどいるとは思えない。けど、歌パートは観客全体がノリノリで、まるで自分のファンが会場を埋めているかのようだった。

「いつか、ほんとにあんな人数のファンの前でライブやりたいねえ」

 私のつぶやきを、みんな沈黙で肯定した。

 私達に、新しい目標が出来た。


「ほい、お疲れ様ぁ」

 緊張感の無い声が飛んでくる。松尾さんだ。

「マネージャー、気合いなさ過ぎぃ」

「仕方ねえだろ、俺はこういう風に声が出来上がってんだから」

 うん、まあ仕方ない。確かに気合いの入って無さそうな声だけど、そんな松尾さんは裏で働いて仕事を取ってきて、さらに寝転けてる私達を現場まで送迎してくれてるんだ。文句を言うほどのことじゃないと思う。確かに気合い入らないけど。

「そんなことよりお前等ー、もうすぐ移動だぞ。名残惜しいが次にテレビの仕事が入るまでこの放送局ともおさらばだ」

 松尾さんの言葉に、ミチルが元気に答える。

「はーい。松尾っちも出来れば早いうちにまたテレビのお仕事取ってきてねー」

「おう。まあお前等次第とも言えるがな。……っと、その前に」

 軽い言葉のやり取りに続いて、松尾さんがカバンからドリンクを取り出す。

「いつもの社長特製、疲労回復ドリンクだ。俺はちょっとスタッフさんに挨拶してくるから、俺が戻るまでに全員ちゃんと飲み切るように」

『はーい』

 私達の返事を待たず、松尾さんは再び楽屋から出て行った。


 いつものように渡されたボトルのドリンクを飲む。

「いつも思うんだけどさあ、これ微妙じゃない?」

「えーそうかなあ? 私、けっこう好きだけど」

「あんたは飲み食いできるんなら何でもいいんでしょ」

「カンナちゃん、それ言い過ぎ」

 毎度毎度の会話を繰り返しながら、私達はそのドリンクを飲む。

「ねえ、アイリちゃん」

 ルリちゃんが私の手を引く。

「どうしたの? 疲れた?」

「うん、あの……」

 何やら言いにくそうだけど、私の手元にあるドリンクをじっと見つめている。要するに「いつもより体がだるいから、ドリンクを分けて欲しい」ということだろうか。

「はい、それじゃルリちゃんのコップ持って来て」

「……うん!」

 ルリちゃんが、満面の笑みを私に向けた。

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