星の泉〈3〉
僅かな力でも使い方次第では、国にとって脅威ともなる魔法力。
他国に狙われ、利用されないとも限らない力だ。
そのために星読みを護衛する星護りの存在があるのだが。
星護りは護衛だけでなく、星読みを監視する役割も担っていた。
星読みが魔法力を乱用し、国を脅かす存在にならぬように、そのための監視役なのだ。
「気にしているのは星護りのことか?」
「ラアナは星護りのことも知っているのですか?」
「知ってるさ。星読みと星護りは一対のようなもの。星読みが独断で魔法力を使わぬように誓約を交わしていることも知ってるぞ」
星を読むこと以外で、ルファが魔法力を使ったことはない。
護身術程度なら許されている。
けれど私利私欲のために使ったり、王国エナシスに害を及ぼすような行為をした際は処罰される。死罪となり星護りの手によって処刑されるのだ。
「迷っているようだが、たかが小さな腕輪一つ作ったくらいで処罰の対象にはなるまい。それともそんな僅かな魔法力でも気付いたらすっ飛んで来るような奴なのか? ルファの星護りは。それはちと器の小さい奴よのぅ」
「……いえ、そんなことはないと思いますけど」
(でもどうだろう。怒ってすっ飛んで来るかな……?)
ルファには判らなかった。
「おまえがこの森や眠り夜図について知りたい理由を、よく考えてごらん」
彷徨いの森や眠り夜図は地上に悪い影響を起こす奇現象だ。
正確な星図を記録できない日が何日も続いたことで災害を予見出来なかった例もある。それは避けたい。
これは情報を得る取り引きかもしれない。
でも、決して私利私欲のためじゃない。
「わかりました。私の髪と星の光を紡いで作ってみます。上手く出来るかわからないけど。やってみますね」
「楽しみじゃ」
ラアナは無邪気に微笑んだ。
「ルファ、ほんとに魔法力を使う気? やめといた方がいいのに」
「あら。少し前までは居場所が判るように力を使えとかココア言ってたじゃない」
「う。それは、」
「ありがとう、心配してくれて。でも大丈夫。ラアナの言う通りほんの少しだから平気よ。それより上手く作れるかが問題だわ」
光を喚び光を紡ぎ、光を編む。
それは光を操る技だ。
月星の光には人智の及ばぬ領域があるのだと、老師衆から教えられた。
魔術に繋がる魔法力もその一つ。
けれど使うことの意味を
掟に反する行為ではないはず。
謹慎の罰くらいの覚悟はいるかもしれないが。
(ルセルに怒られるかな。でもルセルだったらどうするだろう)
王都で暮らす養い親の顔が浮かんだ。
ルセルは滅多に怒らない。怒るといえば。
ルファの胸に灰青色の髪と青珠のような美しい瞳と無愛想な顔が浮かんだ。
(でも私は知りたい)
森のことや泉のこと、眠り夜図のことを。
数え歌というものを口ずさみながら水面をふわふわと漂いはじめた少女を遠目に見ながら、ルファはココアに告げた。
「集中するから静かでいてね」
ルファは鞄から小さなナイフを取り出すと、淡く輝く白金の髪を一房切った。
髪型をあまり不自然にしたくはなかったが、器用ではないので適当に切ってしまった。
それを見たココアが、なんとも言えない苦い顔になって溜息をついたのが判った。
それでも気を取り直して、ルファは切った髪を編んだり結んだりして環に整えた。
(さて。ここから、出来るかしら)
光を喚ぶ。
その行為に特別な呪文があるわけではない。
光を想いなさい。と、想うことで喚ぶことができるのだと教えられた。
目を閉じ、暗闇の中で月星の光や瞬きを想うだけでそれは現れると。
手の中に。
………小さな光が生まれる………。
身を護る力にもなるが、破滅を呼ぶ力にもなるもの。
この小さな光にどれほどの魔力があるというのだろう。
こんなに優しい光なのに。
ルファは目を開け、手の中の光をそっと握りしめた。
そしてまた目を閉じて想う。
ここから先は自己流だけれど。
(この髪の環に光が飾りのようにキラキラしながら絡まってくれたらいいな)
ルファはラアナに似合うように、喜んでもらえるように。イメージを膨らませた。
そして再び目を開けたとき、手の中には淡く輝く糸玉があった。
不思議な光の糸だった。
摘まんでいても感触がない。けれど糸の先が髪の環に触れた途端、それは自然にスルスルとのびて環に巻き付いた。
そして様々な形を浮かばせた。
花、星、波、雫。幾何学模様。
(ラアナは可愛いお花に近いイメージかも)
ルファの想いを吸い取るように光は細かい鎖状に変化し、そこに小さな四枚花弁の花形が現れて連なる。
ルファの手の中に可憐な腕輪が完成した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます