星の泉〈4〉



「すごいな! ルファ」


 肩の上で見守っていたココアが声を上げた。


(そういえば、私……)



 ルファは初めて光を喚んだときのことを思い出していた。


 月星の祝福を受けた後、老師衆の見守る暗闇の中でルファの手の中に現れた小さな欠片を、老師衆は「星珠せいじゅ」と呼んだ。


 記念に貰いたかったが、星護りとの誓約の儀で使う大事なものだからと言われ、すぐに別室へ運ばれてしまった。


(アルザークさん、何か知ってるかしら?)


 誓約の儀は星護りと老師衆だけで行う儀式と、ルファと一緒に行う儀式があった。


 一緒に受けた儀式は老師衆達との立ち会いの場で誓いの祝詞を読むだけのものだったが。


 アルザークだけが一人で受けた儀式の内容は知らされていない。


(星珠のこと、機会があったら聞いてみようかな)



「完成なのか、ルファ」


 ココアの声に脱線していた思考を止めて、ルファは頷く。



「気に入ってもらえるかわからないけどね」



「上出来だよ。すっごく綺麗だし、こんなの街で売ったら絶対に 高値で売れるぞ!」



「ココアってば。そういう考えが禁じられてる私利私欲につながるのよ」



 ルファは苦笑して立ち上がりラアナを呼んだ。



♢♢♢♢♢



(───な、んだっ⁉)




 ラウルの後を追っていたアルザークは胸に妙な痛みを感じ、立ち止まった。


 それはチクリと刺すような痛みだった。耐えられない痛みではないが。


(まさか……)


 痛みの後に息の詰まるような感覚が身を襲う。


 まさかこれが誓約の証だとしたら。



 星逢わせの大占で星護りに選ばれ、仕方なく誓約の儀を受けた。


 薄気味悪い儀式だった。


〈星珠〉と呼ばれる小さな水晶の欠片のようなものを掌の上に持たされ、そこに自身の血を一滴垂らすようにとの指示を受けた。


 指先を傷つけ、そこから滴る血が星珠に触れた途端、それは手の中に消えた。


 溶けていったようにも見えた。


 その後、老師衆達からの説明で星珠は星読みが魔法力で生み出した『最初の光』であり魔法力を含む欠片であると聞かされた。


 星読みが持つ力の一部だと言ったのだ。


 そしてルファの星珠をその身に取り込んだことで、もしもこの先、彼女が魔法力を使ったとき星護りである自分に伝わるのだと老師衆達は言った。


 それは痛みとして。


 使ってはならない力を彼女が使うとき。


 それは使わざるをえない状況なのか。


(それとも、あいつの意思なのか?)


 たとえばそれが今のように離れた状況であっても魔法力が使われたとき、体内にある星珠の力が働いて星護りには視えるという。


 星読みのいる場所が。



 本当かよと、儀式のときは半信半疑で聞いていたが。


 今、判った。


 胸の痛みは続いているし、この息苦しさにも腹が立つ。


 そして脳裏にチラつきはじめた光景が、さらに苛立ちを募らせる。


 白金の髪。


 肩に乗った焦げ色のネコ。───そして、


 (あれは、誰だ?)


 対峙する少女。 膝まである琥珀色の髪。 怪しく笑む口元。


 そして闇色の眼。


 顔はラウルに瓜二つ。


 周りはなぜか淡い光に包まれていて───。



「どうしたの?」



 アルザークの異変に気付いたラウルが声をかけた。



「俺も視えた。この先だな、先に行くぞ」



「え⁉ ちょっ、待っ、早ッ!」



 走りながらアルザークは胸を押さえた。



(禁じられている力を使ったのだろうか、あの娘は)



 味わったことのない感覚がアルザークの心に満ちる。



 なぜこんなに焦るのか。戦場でもこんな思いは感じたことがない。



(まったく!)



 厄介な職務を受けてしまったものだと思いながら。



 胸にせり上がる痛みと息苦しさに舌打ちし、アルザークは駆ける足を速めた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る