クロノトロピー※4
「おいおい、またずいぶんとぶっ飛んだ依頼だな」
――世界を救え。
演劇か書物の中でしか表現されなくなって久しいその言葉に、セイトは飄々とした口調で応えた。
ま、確かに『ぶっ飛んだ依頼』ではある。
なぜか。それは、この世界が既に救われているからだ。
とはいうものの、かつてはこの世界にも様々な問題が存在した。疫病や戦――それに魔神との抗争なんてのもあった。
だが、それは六百年も前の話。
故に、これまで泰平で有り続けたこの世界を指して、『救え』などという言葉を用いるのはあまりにも常識から外れ過ぎている。
だからこそ、アスカはそんなセイトを観察し、
(……なるほど。色々と掴みどころがない人ですが、やはり馬鹿ではない)
と、このように評価している。
もし彼が普遍的な人物であったなら、この話を頭ごなしに馬鹿にし、まともな会話が成り立たなくなっていただろう。
常識を拠り所にしている者に、その常識を破壊する行為は通じない。
しかし、どうやら状況はいい意味で常識を裏切り続けてくれている。……いや、彼がまともでないということについては、こうして出会う前から分かっていたことなのだが。
で、あるならば……と、アスカは朗々と言葉を紡いでいく。
「そうですね。確かに貴方のいう通り、『ぶっ飛んだ依頼』ではあります。ですが、この世界は滅びの宣告に晒されたのです」
「……滅びの宣告?」
「はい」
それは、魔道序列第九位以上に位置する魔術。決して人には扱えない領域にあり、つまり、神か悪魔――あるいは上位の魔神が関係しているという証明。
そして、それらの候補の中で最も有力なのは、かつて魔王として君臨していたその魔神。
「ガディウス、か……」
「この短時間でその答えに行きつくとは、お見事……といっておきましょう」
「まぐれだよ。けどよ、この話にガディウスが絡んでるんならどうして『聖騎士』が片付けねえんだ?」
「『聖騎士』ですか。……いえ、そうですね。貴方のいう通り、ガディウス絡みは『聖騎士』が適任者です。ですが、この件に限り、『聖騎士』にはどうすることもできないのです。いえ、貴方達の力を借りないと無理――というのが正しいですね」
「俺達でないと、無理……ねえ」
貴方達――と、アスカはいった。それはいったいどういうことか。
「……エニス、茶を用意してくれ。二人分でいい」
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