Because…
**************
「小山田…」
ヒガは、語りかけるように呟いた。
今までに、見たことも無いような表情でクリスタルの墓標に浮かぶ映像を見つめている。
無理も無い…オレにとっては千年前の先祖の秘蔵映像に過ぎないが、ヒガにとってはつい最近の出来事だ。
友を失ったショックは、計り知れないだろう。
オレも、父上・母上・レンブラン兄上を相次いで亡くしているから大切な人を失う辛さは誰よりも理解できる。
気が付くと、オレはヒガの上着の下に隠されていた古文書を握り閉めていた。
ヒガが、古文書を所持していた事はキャンプで受け取った姉上からの手紙で把握済みだった。
「要求はなんだ? 姉さんを諦めろってことか?」
身構えたヒガが、オレを睨みつける。
オレは、もうこれ以上失いたくない。
その為には、もっともっと強くならなければならない…手段なんて選んでる場合じゃねぇんだよ…!
**************
姉さん事件です。
何をとち狂ったのか、クラスメイトの子孫は古文書を盾に僕にプロポーズをしてきました。
いやいや!
この流れでそれは無いだろ!?
え? 何?
今までの話の何処にそういう発言に繋がる所があったのか、さっぱり見当がつかない!!
「落ち着けガイル! 話合おう!」
「オレは本気だ!」
ガイルの緑色の瞳がじっと僕を見据える。
なにその聞く耳持たないみたいな感じ?
本気であることが分かるだけにどうしたら良いのか…姉さん助けて!!
「ご主人様になんて事を!! 獣の癖に身の程を知りなさい!!」
側に控えていたリリィが、臨戦態勢をとる。
「うっせ! 害虫! 引っ込んでろ!!」
「害っ…殺す…! 卵子まで巻き戻り無力を感じながら干からびるがいい!!!」
リリィの両手に、どす黒いオーラが集まる。
へぇ、リリィってそんなことが出来るのか…恐らく僕の傷を治す時に使う巻き戻しの応用的なものだろう。
かなり危険極まりない術だが、殆んど攻撃に使える魔法など持ち合わせていない属性であるリリィが考えに考えた闘い方…それもこれも全ては僕を守る為。
そう思うとかなり頼もしい。
「リワイン______」
「『鳥篭』バードケージ!!」
リリィの詠唱より早くフルフットの魔法が発動する。
「な"!! なにコレ!!」
四方八方から、繊維のように細い圧縮された魔力がリリィに絡みつく!
「きゃああああああ!!」
そしてあっと言う間に、リリィをすっぽりと覆ってしまった。
ぼてっと地面に落ちたソレは、まるで大きな蚕の繭のように僕の足元でフゴフゴとうごいている。
「んもう★ 折角いいとこなんだからん★ 邪魔は駄目よぉん★」
フルフットが眼を輝かせにたにたと笑う。
く!
この変態オネェ…どうやら腐女子眼まで開眼しているようだな!
僕はようやく脱線した思考を元に戻し、ガイルの方を見た。
何のつもりでこんな発言をしたか知らないが、亡き小山田とコイツの家族に代わって今直ぐ真っ当な道に引き戻さなくては!
「もう一度聞く、要求は…いや、目的はなんだ?」
願わくば、ラブでは無く他に目的があることを期待したい。
「……目的が在るには在る…」
なんだ! やっぱりそうか~そりゃそうだ…!
ホッと胸を撫で下ろしたのも束の間。
「でも、先に求婚してきたのヒガだからな!」
「はあ!? いつ!??」
身に覚えが無い!!
「カランカ洞窟で…お前、オレの尻尾に顔うずめたじゃん…」
ガイルの顔がみるみる赤くなる。
あ。
確かに、そんな事もあった!
つか! あれ尻尾だったの!?
でもそれは、ディアボロに襲われてミケランジェロから放り出されたからであって…。
「んまぁ! 坊やったら! ノンケだと思ったのに~アタシの眼力も衰えたのかしら?」
フルフットが『アタシも老いたのね』と天を仰いだ。
「待て! 確かに、うずめたけど…アレは事故だ!! 真っ暗だったし! 不可抗力だ!!」
弁解する僕の肩に、フルフットの手がポンと乗った。
「何だよ!!?」
「今気が付いたんだけど…子猫ちゃんが着てる下穿きね、あれ…ひょっとして坊やの物?」
フルフットが、ガイルの着ているGパンを指差す。
「だったら何だってんだ!? 今はそれどころじゃないだろ!!」
「坊や…この世界じゃね、種族によって多少違うけど求婚された者が其を承諾する時は相手の持ち物を貰って式までの間身につける風習があるのよ★ そうするとね、周りからは祝福されたりするんだけど…気が付かなかった?」
そういえば…ガイルにGパンを譲ってから普段必要最小限しかもらえない炊き出しが大盛りになったり、宿屋を管理している僧侶から砂糖菓子を貰ったりしたが…。
精霊契約の時に知識としてこういうのも継承されそうな物なのにねぇ…と、フルフットは独り言のように呟いた。
僕とリリィの契約は、つい最近完成されたばかりだ。
それでなくても、僕は元々精霊契約出来るほどの素養は無い。
許容を超えダウンロードされた知識も普段は脳がオーバーヒートしないように意識的にロックをかけている為、自分が疑問に思わなければ閲覧出来ない。
獣人の求婚の作法なんて、姉さんを救い出す目的の旅においてまず疑問になんか思わないだろ?
「…オレだって、途中からお前が意味を知らないでやった事ぐらい分かってたさ」
ガイルがもごもごと小声で呟いた。
「だったら!!」
「俺たちの種族は、伴侶を得ることで本来の力を発揮することが出来るんだ」
ガイルは、視線を落とす。
「今のままじゃ、ギャロウェイ兄上の足元にも及ばない…このままじゃお前を姉上を皆を守れない…オレは大事な人達をこれ以上失いたく無いんだ!」
肩が微かに震えている。
父親、母親、兄までも失った悲しみがこの発言の原因か…。
だが、ガイルの家族の死はこの世界を守る為の物だった訳で勇者不在で魔王に太刀打ちできない事が濃厚である以上、僕のやろうとしている事は死んだ連中の意に反するはず。
…理解できないな。
小山田…お前は何を考えて予言をの残したんだ…?
ソレさえ無ければ、ガイルの両親と兄は死なずにすんだかもしれないのに…。
その答えは、ガイルが握り締めている古文書に託されている。
仕方ない。
ガイルは力を得る為、伴侶がいる。
僕は、姉さんを救う為ガイルの力が要る。
…利害関係は一致しているのだから…ん?
「なあ?」
僕は誰に言うでもなく声をかけた。
「こっちって、男同士でも結婚とか出来るのか?」
辺りが静まり返った。
なんだよ? 当然の疑問だろ?
「ヒガの所は出来ないのか!?」
「信じられないわ!!」
二人が信じられないとばかりに、悲鳴に近い声を上げる。
「そんなに驚く事か?」
あまりの狼狽振りに若干引き気味の僕に、ガイルが驚きを隠せない表情で此方を見た。
「種族、性別、階級、その他あらゆる制限を除いて婚姻を認める法律を作ったのは、賢者オヤマダなんだぜ!?」
……何やってんだよ! 小山田!!
何でこんな事になった?
僕は、目の前に現れた赤色の体に炎の衣を纏い二面二臂で七枚の舌を持つもはや魔物としか言いようの無い『神』の姿に絶句した。
「神と言っても儀式用の幻影よ~二人ともファイト~」
ソレを召喚したフルフットが、遠巻きに声援を送る。
「なあ、コレってホントに?」
僕は、傍らに立つガイルをちらりと見る。
「ああ、『火神アグニの幻影』…アレを倒して『婚姻の儀』は完成される!」
マジかよ…アレと戦えって言うのか?
僕らは今、結婚式の真っ只中にあった。
ダウンロードされた知識によれば、これは獣人式婚礼の儀式の一環。
求婚を経て婚儀にいたる二人が、この先どんな困難にも立ち向かえる事を神に証明しなくてはいけない最も重要な場面だ。
本来であれば不本意ながら求婚をした僕の属性神と闘う事になったはずだが、この世界の住人でない僕に属性など在る筈も無く急遽ガイルの属性火を司る『火神アグニの幻影』を召喚した訳だが…。
幻影の強さは、召喚した司祭の力に左右される。
今回、司祭役を務めたフルフットは僧侶・司祭の頂点に立ち首都を治めていた大司教…となれば…幻影としてはもしかしたら歴代最強かも知れないとついさっきこの腐れ変態腐女子ハゲおねぇはしれっと言いやがった!
「ごめんなすわぃねぇぇぇぇぇん★」
先ほどよりも遥か遠くからフルフットの声がした。
ゴメンで済んだら警察はいらねーんだよ変態おねぇが!!
「ヒガ! お前の事はオレが守る心配スンナ!!」
そう聞こえたかと思うと、ガイルは咆哮を上げながら火神アグニの幻影に向って突進した!
アグニは、クリスタルの墓標を背にガイルを迎え撃つ。
「我、火を司る神アグニの名の下に命ず! 灼熱をもって焼土と化せ!! 『フレア』!!」
『我、火を司る神アグニの名の下に命ず! 灼熱をもって焼土と化せ!! 『フレア』!!』
同じ魔法!!?
アグニは、迫りくるガイルに対し全く同じ魔法を唱えた!
二つの魔法はもろに激突し、ドーム状の空間を爆発と熱風が覆う。
「っく!」
熱風だけでも十分火傷出来る暑さに、僕は両腕で顔を覆った。
熱風が過ぎ去り僕は恐る恐る顔を____
「逃げろ!!」
ガッ!
僕の首を、アグニの右手が掴みそのまま上に持ち上げる。
全身に炎を纏うアグニの指が喉に食い込む、僕は自分の声帯が焼き尽くされるのを感じた。
『脆い…何と脆弱な…』
アグニが呻くように言った。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ガイルが、真っ直ぐ此方に駆けてくるのが見える。
アグニは、僕の体をゴミでも掃うように天井付近目掛けて投げつけた。
ビタンと蛙がつぶれる様な音がして、ドーム状の縁をすべる様に僕の体は屋根を支える柱の上に落ちる。
「ヒガ!!」
『脆い! 脆いぞ!!』
「てんめぇぇぇぇぇ!!!」
爆音と熱風が天井に巻きあがった。
僕は、ドームを支える柱の上の僅かなスペースに体を横たえていた体をなんとか起き上がらせる。
ぐじゅ…じゅくじゅく…。
リリィと離れているせいか、傷の巻き戻しが遅いがそれでも前に比べれば数段ましだ。
「ゴホッ! はぁ…はぁ…っくそ!」
炭化した声帯がやっとの事で機能する。
数十箇所折れているであろう体じゅうの骨の巻き戻しを待ちながら、僕は下の様子を伺った。
下では怒り狂ったガイルが、闇雲にアグニを攻撃している…このままではいずれ体力・魔力が切れるのは目に見えるな。
どうする…?
僕が行った所で何の役にも立たないことは分かりきっているし、ほっておけばガイルは負ける。
何か…何かないか?
ドゴォォオォォォォォォォォォォオォォオォォオォォン…!
またしても、激しい爆音と熱風が天井まで吹き上げる。
「くっ!」
顔を引っ込め爆風を避け______ん?
爆風はドーム状の天井にぶつかると、ある方向に向けて吸い込まれるように移動した。
アレは…?
僕の正面にある柱の上に3m四方の穴が開いているのが見える。
その四角い穴に、からは絶えずヒューヒューと音を立てながら爆風で舞い上がった塵が吸い込まれていく。
通風孔だ!!
此処は地下だ、絶えず地上からの空気を循環させる必要がある!
と言う事は、コレを伝えば外か…。
僕はゆっくりと立ち上がった。
「嘘だろ…?」
ガイルの手のひらに集まっていた炎の塊が、みるみる小さくなりフシュンと音を立てて消えた。
「ちっ!」
もう一度魔力を込めるも、炎を集めることは出来ない。
「オレは…まだ闘えっ…!」
ガクンと膝が崩れる。
「はぁ…はぁ…? なん…息が…ヒガ…」
アグニが、ゆっくりとした歩みでガイルに近づく。
『…未熟者の分際で我に挑んだ罪、死をもって____!!?』
その時、アグニを覆っていた炎が消えた。
『!?』
アグニは、何が起きたのか分からないと言った表情で二つの顔を見合わせたまま動きが止まる。
『これは______!』
「!?」
ガイルが見たのは、アグニ背後から心臓目掛けて割れて先が鋭くなったクリスタルの破片を突き立てるブラジャーに裸足の僕の姿。
が、僕の筋力では止めを刺すに至らない!
「ガイル!!!!」
ガイルが弾かれたように駆け、アグニに体当たりした!
アグニの体はあっさりバランスを崩し、後ろ向きに倒れグサリと嫌な音がして地面に押されたクリスタルがその心臓を貫いた。
「や た…?」
僕の意識はそこまでで暗転した。
おい…起きろ…ヒガ!
「んぐっ…!」
ぺちぺちと頬を叩かれる感触で、僕は目を覚ました。
さわさわと木々が揺れ眩しい日に光が降り注ぐ。
「此処は…?」
「外だよ」
「アイツは? 僕たち…」
「ああ! 勝ったんだ!!」
ガイルが、ゆっくりと僕を起し僕の右手の甲と自分の左手の甲を見せた。
僕とガイルの手の甲には、焼印を押されたように炎のモチーフであろう模様。
晴れて、僕とガイルは火神アグニに認められた訳か…お互いの利害の為とは言え複雑な気分だ。
「それにしても、幻影とは言えアグニの纏った炎を消すなんて、一体どんな方法を使ったのよ?」
いつの間にか合流していたフルフットが、感歎の声を上げる。
「空気だよ、物が燃えるとき空気の中にある酸素が必要だから…僕は空気中の酸素濃度を減らす為、天井側面にあった通風孔を塞いだんだ」
例え、魔力で発生させた炎であったとしても燃える為には酸素が必要だ。
だから僕は、通風孔を塞ぐことで空気の流れを止めた。
…通風孔を塞ぐ為に、墓標に使われていたクリスタルを少々拝借しどうしても空いてしまう隙間には着ていた学ランの上着を破いて詰めたがそれでも足りないので中に着ていたYシャツまで犠牲にした。
こうしておけば、例え僕らが入ってきた入り口が空いていたとしても天井に溜まった暖められた空気の逃げ場は無くなり酸素が消費され続け例え魔力を練ったとしても炎を起すことは出来なくなる筈。
ガイルへの攻撃も出来なくなるがアグニの纏っていた炎さえ消せれば勝機があると踏んだ訳だが…。
「…こんなに上手くと思わなかったけどね…」
「パネェ! なに言ってるか分かんないけど、マジパネェ…!」
「でも、酸素が減るって事は息が出来なくなるって事なんだか…お前大丈夫____」
恐らくガイルは、魔力・体力も限界のはず_____ばたっ。
「ガイル!!」
言ってる側から、ガイルはその場に倒れこんだ。
「大丈夫かよ!?」
「あは…ダイジョブ、ダイジョブ…オレ…お前の事マジ大好き…」
ガクンとそのままガイルは気を失った。
「…!! なにそれ!? 微塵もだいじょばねぇぇぇ!??」
ガイルの肩を捕まえがくがくと揺すったが、壊れた人形のように首が動くだけだった。
僕は、ガイルを背中におぶり森の中を転移魔方陣に向うべくフルフットに続いて歩いていた。
やっと、『鳥篭』から開放されたリリィは僕の中で不貞腐れている。
『たとえ…ご主人様の決定でもコレだけは…ブツブツ…獣の分際で…ブツブツ死…』
後半は何か物騒な事を言ってる気がするが、きっと気のせいだろう。
「それにしても、思い切ったわねー」
フルフットが、振り返らずに喋りかける。
「坊やが好きなのは、勇者ちゃんだけだと思ったのに…」
「そうだ、僕が愛しているのは姉さんだけだ」
「あら♪」
「でも、僕はこの思いを姉さんに伝えるつもりは無い…世界で一番愛してる人を困らせる様なこと言える訳ないだろ?」
「ふふ…酷いオトコ★」
「アンタこそ、あの幻影…僕ら…いや…僕を試す為にあれだけの力を持ってる物を召喚したんだろ?」
「ええ、あの程度くらい倒せなくては幾ら賢者様のご友人だとしてもそんな弱い人要らなからぬぇん★」
「はは、どっちが酷いんだか」
「まあ、いいじゃない…ついたわよ」
フルフットは転移魔方陣の上に立った。
「さ、戻りましょうか?」
歌が始まり、足元から地面が消えた。
難民キャンプが、遥か遠くに見える。
ミケランジェロの背中に揺られつつ、僕は古文書に目を通す。
賢者の墓から生還した僕らは、古文書に書かれた記述の中で確実に勇者一行が向うであろうその場所を目指し進路を取っていた。
「いいこと子猫ちゃん! どちらが主導権を握るかで今後の夫婦生活に大きく関ってくるの! そこは気を抜いちゃ駄目よ!」
「しゅどうけん…?」
「何でアンタが居るんだよ!!」
手綱を握るガイルの隣で、聞き捨てなら無いアドバイスをしてたフルフットが此方を向いた。
「だって~アタシかなり外見変わったじゃない~皆気付いてくんなくて~いくあてないのよぉぉぉぉぉぉ!!!」
大司教フルフット・フィン・リーフベルの外見は、スキンヘッドの筋骨隆々とした外見からダークグリーンの美しい髪の美青年へと変貌している。
アンバーに背後から刺殺され寸での処でリリィの巻き戻しが間に合ったのだが、契約者以外の場合だとその調整は上手く行かない。
結果、幸か不幸か若い頃の美しい外見で一命を取り留める事が出来たものの、以前の姿しか知らない僧侶達は本人がいくら訴えても『大司教様』とは誰も信じなかった訳だ。
大司教は行方不明のまま…現在に至る。
「洋服も回収したんだからいいでしょ~」
僕はすっかり元どうりになった学ランを身に着けていた。
…確かに、通風孔に詰まった学ランを回収してくれたことには感謝するべきだろう。
「が、服を直したのはリリィだ! アンタがついて来るのとは関係ないだろ?」
するとそこに、周囲を伺うため上空を旋回していたリリィが黒い翼をはためかせ僕の膝に舞い降りた。
「私からもお願いします…フルフット様がこうなったのは私の力が至らなかったからです…どうか同行をお許し下さい」
リリィは僕の膝で、土下座の姿勢を取った。
確かに、『大司教』の力は惜しい…だが…それ以上に信用ならないのも事実。
「……どうせ付いて来るなと言っても、もう遅いんだろ?」
「あらん★ 話が分かるじゃな~い★」
きゃは★ と、フルフットが気色悪い声を上げる。
ああ…残念なイケメンとはこの事を言うんだな…。
「…せない…ブツブツ…二人きりに…ブツブツ…させないんだから…ブツブツ」
膝の上から禍々しいオーラと念仏のような音が聞こえるような気がするが、きっと幻聴だろう。
「なあ、ヒガぁ~進路はこのままでいいかー?」
手綱を握るガイルが、進路を確認する。
「ああ、そのまま東へ進め!」
僕は、古文書を閉じその方角を見た。
うっそうと茂っていた木々は姿を潜め、目の前に広がるのは何処までも広い草原。
フルフットは、目を細めながら微笑み浮かべ僕をチラリと見ると東の空に視線を向けた。
恐らくこのおねぇは、僕がなにを考えて東を目指すか何てとっくの昔にお見通しなんだろう。
「何も言わないんだな?」
「ええ、坊やの事は信用しているもの★」
『信用』ね…。
「さて目的地は、まだ先だ! 近くに街や村があったらそこで宿を取ろう!」
「おお! マジか!? やっと炊き出し以外の飯にありつける!!」
僕の提案にガイルが目を輝かせた。
「宿の部屋割りは、私にお任せ下さいご主人様!」
「なーに言ってんの~こう言うのは年長者の役目よ!!」
「はい! はい! オレ! 肉食いたい!! 肉!!!!」
…予想はしていたが、より一層面倒くさくなったな…。
僕は、言い争っている3人を尻目に再び古文書を開いた。
持ち歩くようになってから、表紙も汚れ心なしか紙も変色してきた気がする。
小山田…。
…僕は、考えうる最善の方法をとったつもりだ。
正直、正しいかどうかは判断できない…が、少なくとも姉さんを救うことは出来る。
お前の事も救えたらどんなに…いや、きっと何処かに方法があるはずだ!
僕は再び古文書に目を落とす。
マラソン大会参加賞のノートは、お世辞にも厚みがある物ではない。
もう、何十回と読みこんで今なら図形以外の文面なんて目をつぶって暗唱出来る。
でも、きっと、何か見落としがある筈だ!
古文書を読む僕を、ガイルの背後からミケランジェロが首を傾げながら見つめていた。
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