第七章・対面
第二十話・警戒すべきは
「──
「でしたら、……東塔と北門から一人ずつこちらに」
「リウィアス、お前の所は第一師団の一、三班の三十四人だけだが、行けるか?」
「はい。戦闘になった際に護りに徹して頂ければ問題ありません」
向けられたアゼルクの確認にリウィアスは迷う事なく応じる。
それにアゼルクと当の一、三班の隊長らは頷いた。
──リウィアスが森から帰還した翌日。
王城の、ある塔の一室にアゼルクとリウィアス、各師団団長や隊長らが寄り集まり、二十日後に迫った祝賀会での警備の最終調整を行っていた。
「──一つ、伝えておかなければならない事がある」
同席していたレセナートが口を開く。その斜め後ろにはラルトが控え立ち。
皆の視線がレセナートに注がれた。
「奴らの仲間に、ギセド・サウードという男がいる」
告げられたのは、以前耳にした名。
反応したのはアゼルクと年嵩の騎士数名。
リウィアスはじっとレセナートに顔を向けた。
それにレセナートは頷く。
「ウォルターが言っていた男だ」
確かに、ウォルターがその名を口にした際、レセナートとラルトは知っているらしき気配を醸し出していた。
「俺が知っている奴でほぼ間違いはないと思ってはいたんだが、確証がなかった。だから城へ戻って直ぐに調べさせていた。そして昨日漸く本人だと確認が取れたんだ」
言うと、レセナートは背後へと視線を送った。
それを受けて、ラルトが数枚の紙を机の上へと広げる。
「知っている者もいると思うが、……ギセド・サウード。曾てアスヴィナで騎士団長まで務めるが、叱責された事に腹を立て当時の大法官を殺害。ウェルデン国王にその職と身分を剥奪され国を出された危険極まりない男だ」
レセナートが言葉を口にした瞬間、空気が張り詰めた。
聞いていたある者達の中に疑問が湧き起こる。
「──何故、その者を野放しにしたのですか?」
あのアスヴィナの頂点に君臨する御仁が、とギセドを知らぬ若き隊長が口にした。
「排除したくとも叶わなかった。国から出すのが精一杯だったんだ」
答えたのはレセナート──ではなく、アゼルクだった。
「その男をご存知で?」
リウィアスの問いにアゼルクは苦い顔をしながら頷いた。
「ああ。手合わせをした事はないが──俺の遥か上を行く」
ざわっ、と騎士達に動揺が走った。
彼らにとって、アゼルクは自分達が足許にも及ばない存在であり、目標。
そのアゼルクがあっさりと格上だと断じた事に衝撃を受けた。
リウィアスは静かに問い掛ける。
「何時、会われたのです?」
「確か十五、六年前だったか……。あの男がアスヴィナを
だが、と一旦そこで言葉を切る。
「……一目見て『まずい』と思った。些細な動きにすら無駄がない。一瞬の隙もなかったんだ。──実際に見て分かった。何故アスヴィナが国から逐い出すに留まったのか。何故、片付けなかったのか」
話を進めるにつれ、騎士達の表情が更に険しいものになる。
「……情けない話だが、俺は向かって行けなかった」
自嘲に滲むその言葉に、誰も何も言えなかった。
十五、六年前といえばアゼルクが『死の護人』に任じられた時期とほぼ同じ。
きっと向かって行きたくとも、後継者が、『代理者』が存在しなかったその時期、『死の護人』が不在となる事態を避けるために行けなかったのだろう。
でなければ忠誠心の厚いアゼルクがセイマティネスに剣を向けかねない者を己の命が惜しいからと見逃すはずがない。
「……あの男が仲間に加わっているとなると、かなり厄介だな……」
独り言ちるようなそれにレセナートは頷く。
「外から来るにしても
千を超える軍勢を入都させる事は『死の護人』が許可するはずもなく、ロバリア国王が連れられる手勢は護衛として不自然でない程度。
ギセドはその中に含まれるのか、或いは森へ侵入して王都を目指す一団の中に含まれるのか。
「そこまで腕の立つ男を敵地に乗り込む際に手放すとも思えませんので、同行する可能性が高いですね」
リウィアスの発言に最もだと納得し、ますます皆の表情は険しくなる。
「やはり、人員を増やした方が……」
ぽつりと呟かれた言葉は、リウィアスの下に就く騎士の数を指す。
敵の最大の狙いは国王と皇太子の首。
最も近くに控える事となるリウィアスが対峙する可能性が高い。
しかしそれをリウィアスが却下する。
「こちらに人員を割いては他に不足が出ます。それに元より他の方にその者の相手をして頂くつもりはありません」
確かな、そして強い意志を持ってリウィアスは告げる。
「私が相手を務めます」
不敵に、そして
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