第11話 平和な戦場Ⅳ~異常な家Ⅲ~

 そんなことを思っていたらアダムが言う。


「実は、お嬢様はひらめきが来そうになると急に逆立ち歩きをし始める。そしてひらめきが来ると自分の服にポケットにあるチャコマーカーでそれをしるすという癖があります」

「どんなくせだよ」


 そう俺が返したときに湯川さんが帰ってきた。すると、湯川さんのいつもの能面が顔が悲しげに曇る。

 そして、さっきとはまた違う消え入りそうな声で湯川さんが言った。


「嫌いならもう出ていってもいい」


 俺はそれが彼女の強がりなのだと思った。湯川さんは俺と幼馴染という友達ができるまではこうやって、友達が居ないという寂しさを誤魔化していたのかもしれない。

 だが、少なくとも高校の三年間は、いや、これからは誤魔化す必要は無いだろう。幼馴染と俺が友達だから。そんな小っ恥ずかしいことを思っていると幼馴染が言う。


「なんでいきなり嫌いという言葉が出てくるの?」

「だって、あんなくせおかしいでしょ?」

「面白いなとは思ったけど。嫌いになるというよりは好きになるよね」


 幼馴染は勉強好きのガリ勉だ。幼馴染は常識は持っているが常識を自分に当てはめるか、といえば当てはめないのだろう。俺に関してはもう変人とだいぶ付き合っているのでそれぐらいの寄行では嫌うわけがない。

 幼馴染の日ごろに比べれば可愛いもんだ。なので、若干表情に不安の色が見える湯川さんに俺は笑いながら言う。


「幼なじみに比べれば可愛いもんだよ」

「そう」


 そう言う湯川さんの顔にはハッキリとした笑顔が灯っていた。

そして、その発言に幼馴染は不服な顔をしながら俺をポカポカ叩き、言う。


「なにが私の日ごろに比べれば可愛いもんだ、だよ!!私といるのがそんなに大変なの!?いつも楽しそうじゃん」

「い、今のは言葉のあやだよ。世間一般的に見たらそうだろ!」


 俺が苦し紛れ言い訳を言うと幼馴染は納得したらしい。「合点がいった」といいながら右手を小槌のようにして左手をポンと叩いている。

 そんな中、いい雰囲気が急に壊れたことに驚いているのか僅かに驚いていた。「湯川さん、幼馴染は空気が読めないんだ」そんなことを湯川さんに言っておきたかったが、言うとまた幼馴染が突っかかってくるので心の中に留めておく。


アダムは一区切りついたと判断したのか案内を再開し始める。


「と、お嬢様と親睦を深めたことですし旧兵器博物館に行きましょう」


 そのアダムの声は嬉しそうだった。顔があったなら子供に友達が出来たことを喜んで微妙に笑っている母親のような表情をしていたと思う。感情を持っていることもそうだが、この微妙なニュアンスの感じを合成音声で表現できるのも凄いのだろう。

 旧兵器博物館はそのまま進んでいけばあるらしい。本当はあってはいけないものが置いてあったりしないよな。盗んであるのが置いてあったりしないよな。


 さすがに置いてあるわけないか。寸分狂わず再現された品とかは置いてありそうだが。今までは勉強の範囲内の内容だったが幼馴染といえど勉強と関係ない兵器の話は知らないだろうな。

 そんなことを思っていると幼馴染がアダムに問いかけ始めた。


「零戦とかの戦闘機も置いてあるの?」

「置いてありますよ。全種類置いてあるわけではないですが。戦闘機5種なら置いてあります。他の兵器に関しては戦車4種、銃約百種、ロケットランチャー三種、機関銃機関砲二種、戦闘ヘリ2種、手榴弾一種、海上兵器三種、駆逐艦一種、潜水艦一種カタパルトなどの旧兵器7種展示されています」

「大分有るな」

「そんなにあるとは……特に銃百種と駆逐艦は楽しみ!」

「お、おう」

「一般開放してお金を稼いだほうが良いと改めて思う」


 微妙に困った表情で湯川さんがそう言う。湯川さん的には悩みの種らしい。そして、幼馴染の奴は兵器にも精通している。

 ただ、零戦は歴史の教科書に載っていたのでもしかしたら、ただ単に今興味を持っただけなのかもしれない。俺は駆逐艦という兵器は知らないが。


 そんなこんなで勉強オタクの幼馴染がなぜか兵器についても精通していることがわかった所で旧兵器博物館に着いた。


 思ったんだが旧兵器博物館なのに、なんで真新しい武器が展示されてるんだ?もしかしたらこの兵器は湯川さん達、湯川家にとっては古い武器なのかもしれない。

 そうだったら恐ろしすぎるな。この平和な日本でレールガンとかそんな感じの次世代兵器が作られているとは。


 というか、約35パーセントの確率で数十年の間に世界大戦が起きるんだよな。そう考えると次世代兵器を日本が保有しているというのは安心できることかもしれない。

 俺がそんなことを考えている間に幼馴染は早速近くにあるガラスケースの中に展示されているAK-47というのを見ていた。この銃に関しては凄い銃だからか恐らくパーツ全部を一つ一つ展示していた。


 銃というのは思ったよりも簡単な作りだ。部品数はざっと百ぐらいで出来ている。そんなことを思っていると幼馴染が興奮気味に言った。


「やっぱりこんな部品数が少なくて大雑把な造りなんだ!!」


 幼馴染の言う通りならこれよりも普通銃は精密で部品数は多いらしい。最近の製品はやはり部品数が多くて複雑だ。

 そんなことを考えている間に幼馴染は遠くの方へと行ってしまった。そしてまた、一つの銃の前に立つと幼馴染が興奮気味に言う。


「これは日本製の銃、64式7.62mm小銃だ!!スナイパースコープと銃剣も一緒に展示されてる!」

「日本も銃を作ってんのか」

「はい。自衛隊にしか卸していませんが」


 俺が独り言を言うとアダムがそう返してくれた。それにしてもこの博物館(?)はとても広い。この銃が展示されているだけのひと部屋なのだが、俺の部屋が六つは入りそうだ。

 何か不安になってきたな。明らかにこれ、パソコン室を入れると湯川さんの家の面積を越えている。そんなことを思いふと奥を見ると使い込まれているだろう二つの銃だけが一つのガラスケースに大切そうに飾られていた。


明らかに他の銃とは扱いが違うその二つの銃について聞いた。


「何であの銃だけはあんなに扱いがいいんだ?」

「あの二つの銃は奥様と旦那様が使っていた愛銃だからです。ちなみに旦那様が使っていたのは右側に見えますS&W M39、奥様が使っていたのが左側に見えるコルト・ガバメントです」

「な、何があったんだよ。というか銃刀法違反にならないのか?」

「ある事件があったんですが、それを解決するために使われました。それに一時期は探偵がいたのです」

「そうなのか」


 何があったんだよ、と言おうと思ったが黙っておくことにした。絶対にロクなことではないからだ。


と、思った矢先に横で今まで黙っていた湯川さんがご丁寧に喋ってくれた。


「過去に特定秘密保護法によって普通の人は知らないけど、探偵法が制定された。なぜかといえば謎の犯罪集団アーティストを打倒するため。そして、その謎の犯罪集団アーティストというのはマイケル教授というモリアーティ教授の」

「もういいよ。俺は一般市民だから。そういう話は聞くべきじゃない」


 耳をふさいでそう言った。そういう話は唯の一般人である俺には知ってはいけない話だ。第一あのシャーロック・ホームズに出てきたモリアーティ教授がモデルの人物が話に絡んでくるとか嫌な予感しかしない。

 どうせ、シャーロック・ホームズのモデルもいるんだろ。


 そして一般にマイケル教授がモデルとか聞かないからアーサー・コナン・ドイルはそのマイケル教授の子孫かホームズのモデルの子孫とかそんなところなんだろう。

 もう、終わったと思った俺はふさいでいる手を取った。さっき話すを止めた湯川さんは再度喋りだした。


「だから、お母さんは勘がいい。嘘はつかないほうがいい」

「おう」


 そう返しておいた。そして、話の文脈からわかってしまった。湯川さんの母親はホームズのモデルの血を引いていることに。そして、アダムが言った。


「あなたは一般市民なんかではないですけどね」


「え?」


 もちろん、俺は一般市民に分類されるもんだと思っていたので驚いた。ゴクリ、俺が思わずつばを飲むとアダムが言った。


「お嬢様のお気に入りなのですから」


 俺は実は政治家の二世とか、天才魔導師だからとかそんなのを想像していたのだが全然違ったので少し恥ずかしくなった。

 天才魔導師であることとかはアダムでも解るわけないし、政治家の二世に関しては純粋にそんなわけがないのにそんなことを思ってしまった俺が恥ずかしい。

 湯川さんがアダムに返した。


「だからといって言って良いことと悪いことがあると思う」

「あれ、俺は湯川さんに説明されたはずなんだが?」

「気のせい」

「いや、誤魔化せないだろ」


 確かに湯川さんの言う通りと思ったのだが、だったら湯川さん言うなよ。というか湯川さんがダメだと思ってしまったら俺が消されたりしないかな。

 その考えにいたると手が少し汗ばんできてしまった。このことに関しては気づかないで欲しいな。本当に適当な罪状を擦り付けられて俺の首が折れるかもしれない。そう思った直後期待にそぐわずアダムがそのことについて口にする。


「聞いてはいけないことを聞いたということは処理しなければいけませんね」

「じょ、冗談だから。ちょっとウケを狙ってみた」

「珍しいですね」


 意外だなと思ったのだが、やはりアダムから見ても意外だったようだ。


 それに湯川さんが少し焦ったのも意外だった。感情の起伏が少し良くなった気がする、気のせいかな。

 幼馴染がウキウキとした足取りで次の扉の方に行ってしまったので、アイツを追うようにして俺は仕方なく次の部屋へと移動した。全然銃を見ていないのでもっと見させて欲しかった。

 見た銃といえば部品数が少ないらしい銃、64式7.62mm小銃、S&W M39、コルト・ガバメントの四種類だ。俺だって高校生のおとこなんだ。銃には興味がある。


 これが噂の中二病というやつなのだろうか、それとも正常なことなのだろうか。個人的には銃に興味があるというのは少し痛い気がする。

 

「うわぁーこれが本物の戦車かー」


 突然幼馴染が戦車の前で言い出した。少し、近寄ってみると『M1エイブラムス』とプレートが戦車を飾ってある台の下に貼ってあった。

 湯川家の人たちは全部覚えそうなものなんだが、何で付けているんだ?天才は天才といっても思考系は得意だけど記憶するのは苦手なのか。湯川さんに俺は聞いた。


「湯川さん。そういえば、何でプレートなんて付けてるんだ?覚えられないのか?」

「基本的には覚えられる。両親が言うにはそっちの方が様になるかららしい。わたしには良くわからない」

「そうなのか」


 そういえば、博物館の外装が黒だったり照明も博物館のそれっぽい。結構オシャレな感じだ。

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