第12話 平和な戦場Ⅴ~異常な家Ⅳ~

 天才研究者っていうのはオシャレとかそういうのには無頓着なイメージがあるがそんなことは無いらしい。もしかしたら俺よりもオシャレかもしれない。


「そう。やっぱり大人になったんだし、そういうのには気を使わないと」


 大人になったという言葉とは裏腹にまるで活発な少女の様な声が向こうから伝わってきた。向こうを見ると声を発したと思わしきグラマーでスタイル抜群の女性が居る。あれは誰だろう?

「奥様。こちらがお嬢様のご学友でございます」

 どうやらこの人が湯川さんの母らしい。とても湯川さんを生んだ一児の母と思えないような若々しさだ。

 

 若々しさを保つためには女子力をたくさん持っていることが重要らしいが、母とは違い若作りをしているわけではなくメイクはしていない。

 怪しい薬品でも飲んで若返りを果たしたのだろうか?本当に高校生にしか見えない。


「ふーん?沙理名。なかなかいい男を捕まえてきたみたいね」

「別に彼氏ではない」

「そう?なかなかいい男だから、この人ならお母さん良いよ」

「そんなに?」

「頭がいいのは当然として、やさしいし、強いし、こういう進んだ世界を見ても拒否しないし否定しない。ただ、だからトラブルに巻き込まれやすいんだけど。まあ、それを助けるのが女ってもんでしょ!」

「そう」


 女子高生が友達と会話しているみたいだなと眺めていたら、俺の性格から実力、不幸なことまで見抜かれたんだけど。勘がいいとかいう次元を越えてないか?これが名探偵というやつなのだろう。恐ろしい。

 そしてなぜかあんなにも男子にとっては眼福なスタイルなのにさっきからまったく色気がないんだ。人妻は色気があるというのを聞いたことがあるがあれは嘘なのか。


「ジロジロ見て。駄目だよ君。私の体はとおる君のものなんだから。そんなに見たいならうちの娘のを見たら?」

「す、すみません」

「そういう目で見るのはダメだから」

「別にそういう目で見たわけでもそういう目で見ようともしていないからな」

「まあ、娘を末永く宜しく」

「スルーですか、それにさりげなく湯川さんを僕の嫁にしようとしないでください」

「まあまあ」

 

 湯川さんの母は冗談めいて言った後顔色を変え耳元でささやいた。


「でも、うちの沙理名はきっと今後必要になるよ」

「え?」

「謎を解き明かすのは研究者の領分だから」


 湯川さんの母は俺に新たなる謎を植えつけたところでその謎について答えることは無く去っていった。


「よかったですね奥様に気に入っていただいて」

「まあ、嫌われるよりは良いかもしれないが。今みたいに気に入られすぎるのも問題だろ」

「うん、いくら仁がいい男に見えたとしても(末永くよろしく)とかいい迷惑」

「そうだよな」


 湯川さんもあの母じゃ大変そうだ。それに「そんなに?」って聞いてたぐらいだからさぞかし母親が大事にしているんだろうな。

 そういえばもしも俺が結婚するとなったら両親の許可が取れるだろうか?何か俺の嫁に何かと難癖つけてきそうだ。まあ先の話しだし、時間が経てばあの親バカっぷりも何とか改善される可能性がある。


雪音ゆきねがいい男を連れてきたというから来た見たが端末の記録されている会話から確かに頭がいい・やさしい・こういう進んだ世界を見ても拒否しない否定しないことがわかるし確かに足捌きが洗練されているな」

「湯川さんの父ですか」

「そうだよ」

「で、何ですかその足に履いているメカメカしい靴とそれと怪しげな線でつながれいる腕輪は」

「実験中の個人航空用シューズと演算処理と発電のためのデバイスだよ」

「そうですか」


 湯川さんの父は本当に天才らしい。なんだよ個人航空用シューズってパワードスーツとかそういう次元じゃないのかよ。それに発電のためのデバイスってなんだよ。

 人間を持ち上げるような力を生み出すための電気をあの小さな腕輪だけでやっているとか、それだけ公開すれば全人類が電気に困らなくなるぞ。恐ろしすぎだろ湯川家。


「選択は沙理名に任せるがパパはこの子を選択するべきだと思うよ」


 また俺に謎をもたらして湯川さんの親は部屋を出て行った。探偵というやつは焦らすのが好きだよな。意味深すぎだろ。


「何が起きるの?」

「湯川さんも知らないのか」

「うん」


 アダムではない機械質なダンディーな声が博物館に響いた。


「伏せておいたほうが人生の楽しみが増えていいじゃないか」

「そんなことは無い」

「そんなことは無いよ。本当にそっちの方が良いから」

「そう?」

「そう」

「お父さんがそういうなら従っておく」


 どうやらさっきの湯川さんの父らしい。さっきとは声が違うのでキーボードとか音声で入力して合成したのをスピーカーで出力しているのかもしれない。

 

「では、そろそろ空が赤くなって来ましたので帰ったほうがよろしいのではないでしょうか」

「もうそんな時間か」

「えー、まだ駆逐艦見てないのに。でもそんな時間なら帰るか」


 俺たちは湯川さんを先頭に来た道を戻った。


「じゃあね」

「じゃあな」

「じゃあね」


 俺たちは湯川さんに別れを告げたあと当たり障りのない会話をして帰った。

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