第13話 サイカイⅠ

家の鍵を開けようとするとドアが開けられ心配そうな顔をしている母親が出てきた。


「心配したんだから。3分もあの時間の二時間後から遅れて」

「ごめん」


 十数分ならまだしも三分かよ、心配しすぎだろ。親バカはそんなにすぐに直るようなものではなさそうなので今度は多めに時間を取って伝えておくことにするか。

 湯川さんの家は本当にヤバかったな。廊下の床にガトリングレールガンが収納してあるとか隠し通路があるとか。まさに家の殻をかぶった秘密研究室だな。この家もそんなことは無いよね。


 そんな物騒なことを思いつつも俺は自分の部屋へと行きベッドに体を預けた。あの元探偵二人が言っていた意味深長な言葉は今の俺には無視できない言葉だ。

 湯川さんは俺にとって何かの謎を解き明かすのに重要なのか。魔法の仕組みについてだろうか。まあそんなことならば良いが、湯川さんのお父さんが湯川さんに助言した言葉についても気になる。


 なぜ探偵というものはハッキリと教えてくれないのか。教えてくれたってバチは当たらないと思うぞ。

 俺は疲れていたのかウトウトしてくる。後に何か用事があるわけでもないし宿題も無い。俺は意識を手放した。


  いつも通りのことをしていつも通りの時間に出た俺は目の前に広がる光景に驚愕した。なぜ俺が驚いたかというと目の前に仁王立ちする二人の姿が見えたからだ。

 幼馴染の方はまだ似合うのだが湯川さんはまったく似合っておらず見ていてなぜか微笑ましい気分になってくる。


「「どっちが可愛い!?」」


 なぜ同じ過ちを繰り返すのだろうか。それに、我が幼馴染よ。好意を隠す気はあるのかい?さて、どうすればいいものか。また同じことを言えば黙ってくれるのだろうが登校するときに気まずくなることは請け合いなしだ。

 だからといって「どっちも可愛いよ」と言うと俺が恥ずかしさに悶えることになるしこの二人の喧嘩は収まらないかもしれない。


 では、こうしよう。


「お前ら空を見てみろ。空はこんなに広い。空の気分になってみるんだ。そうすれば何か満たされた気分に成ってこないか」

「「確かに」」

「じゃあ、行くか」


 何か成功したぞ。これからは争いごとが起きたらこれで解決するんじゃないか。まあ、そんなことはないだろうけど。

 大空の偉大さのお陰か二人とも悟りを開いたお坊さんのような顔をしている。二人がその表情をしているのがいいのだが会話は全く起きない。


 恐らく会話が全くないせいでシーンとしているこの状況でも二人は満足しているんだろう。だが結局、この会話が一切な状況は気まずい雰囲気になったといえるかもしれない。

 

 学校に着くと特出することは何も起こらず授業がすべて終了した。ちなみに二人の満たされた気分状態は授業が始まると解けたので特に問題は起こらない。

 で、居たのだが、早速問題発生だ。


「別にいかなくたっていいじゃん」

「わたしも行くべきだと思う」


 幼馴染と俺と湯川さんがショッピングに行く問題が再発したのだ。下校途中に幼馴染が「湯川さんはやっぱり来なくていい」と言ったのである。

 個人的には湯川さんもついてきてもらいたいのだが。


「湯川さんもついてきてもらった方がいいんじゃないか?」

「なんで?」

「いや、俺も女子と二人切りでショッピングなんて緊張しそうだし」

「仁が言うならしょうがないね」


 幼馴染が納得してくれて良かった。ショッピング二人で行ったらドキドキしてついうっかり恋に落ちたりとかしてしまいそうだ。

 なんだか湯川さんが嬉しそうだ。ショッピングでも俺を観察していたいのだろう。なんか複雑な気分だ。


「楽しみ」

「そうなのか。ショッピングとか興味なさそうだが」

「ショッピングに行くこと自体が楽しみではない。二人がショッピングに行くのを見るのが楽しみ」

「それなら尾行なりすればよかったと思うが」

「どうせ仁にバレるし私も行ってみたいから」

「結局行くこと自体も楽しみなんじゃないか」

「うん」


 恥ずかしそうに湯川さんがはにかんだ。やっぱり可愛いな。俺は少し話をしながら一緒に帰った。


  時はそのまま過ぎて土曜日。なぜかずっと前から平和なことに疑問を覚え始めた。だが、平和なことは良いことなので深く考える必要はないだろう。それに今日はデーパートメントに行くわけだし。

 母には悪いが今日も誤魔化させてもらった。


 今回は昼ごはんから食べる予定のため湯川さんの家で十一時半に集合になっている。そういえばここら辺にはデパートはないんだけどうするのだろうか。

 そう思いながら出るとそこには極ありふれた普通車があった。そこからガチャという音を立てて車の扉が開く。


 その中からは幼馴染と湯川さんが出て来た。


「乗って」

「え、これに乗るのか?」

「うん。問題がある?」

「いや、無いが」


 そこまでしてアイツはデパートに行きたいのか?あ、そういえば運転手に挨拶をした方がいいな。運転席の方に目を向けると人はいなかった。

 もちろん幽霊が運転するわけでも、湯川さんやアイツが運転するわけでも無さそうだ。誰が運転してきたんだ?恐らく幼馴染の持ち物だろう。


「運転手はどうしたんだ?」

「ロボット」

「ロボット!?ていうか湯川さんの持ち物か」


 それならありえる。そういえばグーグルがAIを乗せた自動運転車を試験運転中と聞いたことがある。湯川さんの家はもう微調整も済んでいたらしい。さすが湯川家。。。


 人工知能が動かすためか一律五十KMという微妙に遅い速度で三十分間走ってもらうとデパートに行ったことのない俺でも知っている有名デパートが見えてきた。

 デパートの規模は都内にあるのにとてもでかい、いや、都内だからでかいのかもしれない。今時の子はここまでわざわざデパートに行きたがるのかはさておいて、俺たち三人はデパートに入り相談し始めた。


「どこ行くの?」

「俺には女の行くところなどわからないが」

「同じく」

「じゃあ、女の子らしく服でも見に行こう」


 エレベーターに湯川さんがとことこ駆けて行く。着いて行くとエレベーターの隣にそれぞれの階が何があるのかを書いてあるのが目に入った。

 湯川さんはどうもそれを知っていたらしく微妙にドヤ顔をしている。


「二階と四階に服屋がある」

「四階にあるのはペガサスっていう俺でも知っている高級ブランドだな」

「じゃあ二階に行くべきだね。エレベーターで二階に行こう」


 二階に着くと服やら靴やらが左手の一番奥にたくさん見えた。一応店一つで左半分のフロアを占領するとまではいかないが広大な敷地なのに二つの店しか存在していない。

 女性のショッピングで時間がかかるとは言うが主にこの服の品揃えの良さのせいではないだろうか。俺が欲しいものがこんなに豊富な品揃えだったら迷うだろう、そこから考えれば納得できる話だ。


 だが、二人は違ったらしい。一瞬で俺という男が居るにも関わらず下着売り場に直行し、すぐに試着室でサイズがあっているか確認すると列にならびに行った。

 恐らくこれは女子として、というか友達との付き合いとしてはNGだろう。俺が友達だとすれば友達を一瞬で置いていき、友達が入れないところに入って友達に会話する余地を与えない。


 友達というか嫌っている人にやる行動だろう。本当に二人は勉強しか出来ないな。これで社会を生きていけるとは思えない。

 帰ってきた二人にアドバイスしようと思ったのだが幼馴染が凄い勢いで話掛けてきた。


「いやー胸が大きくなっちゃったからさ。買いたかったんだよね」


 なぜか湯川さんをチロチロ見ている幼馴染に湯川さんがムっとしながら俺に言う。


「わたしも胸が大きくなった」

「大きくなったように見えないけど」

「大きくなった」


 湯川さんと幼馴染は見つめあいバチバチと火花を散らしている。二人の後ろには般若と天照大御神アマテラスオオミカミが顕現しているように見える。

 この二人の背中に見えるこれは一体何なんだよ。怖いよ。


 少し時間が経ち落ち着いてきた二人にすかさず俺はアドバイスをする。


「真っ先に決めてもっていくのはマズイんじゃないのか?友達としても楽しく話しながら悩み、選びたいだろうし」

「「そうなの「か」?」」

「男子で買い物にいったってそんなに早くに買いにはいかないしな、買い物好きの女子としてはそうだろう」

「ふーん」


 どうやら二人とも納得したらしい。二人とも勉学は出来るのにこういうことは出来ないタイプなんだろう。

 こういうただ勉強が出きるだけのタイプは嫉妬を買ってしまうのもありいじめられやすい。それに幼なじみは勉強狂だし、湯川さんも変な癖があるらしいからなこれまで大変だっただろう。


 でも高校ともなれば様々な人がいるのでしっかりアドバイスを覚えて使ってくれれば、いや使わなくても友達の一人や二人は出来る。二人には孤立せずに友達を作って楽しい高校生活を送ってほしいと心から思う。


 「ちょっとトイレいってくるわ」


 幸いにもトイレはこの階にはない。他の人たちとエレベーターに乗れば俺が最上階である屋上にいったとは思わないだろう。

 そして幸運というべきかベビーカーを押している主婦らしき人が右から二番目のエレベーターに乗ろうとしていた。そこに駆け込んで一緒に乗る。


 チンっと音が鳴り目的の屋上についた。屋上は広大な駐車場になっているようだ。そしてそれを見渡した俺は思う。何処に居るんだよ。

 前もそうだったがしっかり場所は明細に書いておくべきだと思うんだ。前回の屋上の件なんかはただどこの屋上かを書けばよかったはずだ。今回にしても右下の隅に居るとかそういう風にわかりやすい場所にいてそこを書いておけばよかっただろう。


 車の裏とかに居なければ見つけられるかもしれない。なぜか。目立つからだ。俺は日常生活を送る上で真っ黒のピッチピッチのスーツを着る人を見たことがない。それをしている人はあの忍者だけだろう。

 まずこちら側は居ない。なので反対に移動するとなぜか忍者らしき人と湯川さんが居た。

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