第10話 平和な戦場Ⅲ~異常な家Ⅱ~

「だけど、スーパーコンピュータって言うのはcpuを繋げて作っているから実際は電気代と冷却方法、メンテナンスの仕方を考える方が主だよ」

「はい。あくまで、一番近いだけですので外と差がない訳ではありません。それに、電気代はこれのせいで月額二百万を取られています」

「え、」


想像を絶する額に唖然としてしまった俺に幼馴染が興奮した様子で言った。


「凄い!!京なんか一日で700万も電気代を使っているのにどうやったらそれでその値段におさめているのか全く分からないよ」

「お教えするわけには行きませんね。もう一人のご学友なら解りませんが貴方は上堂のお嬢様ですから」


 全く知らなかった俺はまた唖然としてしまった。上堂のお嬢様だからダメなのだから、幼馴染みの父は有名な研究者か有名な会社の社長なのだろう。

 個人情報がばれたことにも、幼馴染みは興奮した様子で聞いた。


「まさか、ハッキングも出来るの!?」

「アンサー。ハッキングも出来ます。ですがお嬢様の言ってた通りこの湯川家の一部にはハッキング出来ませんが」

「凄い、凄い!!これが天才の作った人工知能なのか」


 俺はハッキングというのの凄さは余りわからない。ただ、個人情報が簡単に盗めるわけがないので凄いことには間違いないだろう。

 そんなことを考えた後さっきのように、湯川さんが頭を下げて言った。


「ごめんなさい。勝手に個人情報を盗んじゃって。でも、そうしないと産業スパイの可能性もあるから」

「仕方ないよ。こんなのが世に出たら大問題だから」

「やっぱり、この家は危険だな。あらゆる意味で」


 俺はやはり危険なものがゴロゴロ転がっていることを確認してそう言った。すると、湯川さんがはっきりと慌てた様子で言う。


「決して生物以外のところは関与していないから」

「わかってるよ」


 俺はそう返すと同時に、写真の中から消されていた兵器が生物兵器なことが解ってしまったが、黙っておく。

 世界のためにも、個人的にも、湯川家に消されるのはごめんだ。そこで、鋭い声でアダムが聞いてきた。


「冷や汗が垂れて居ますがどうかしましたか?」


そこで、俺は脳みそをフル活用して答えた。


「お前の恐ろしさに恐怖していただけだ」

「そうですか」


 俺は内心かなり大きな安堵のため息を付いた。それから少し歩き、左にドアが見えるとアダムが言った。


「ここがパソコンルームです」


 パソコンルームに入ると同じ部屋にスーパーコンピューターがあるわけではなく分厚いガラス越しに置いてあった。

 身長と同じぐらいの高さのパソコンがヅラーっとガラスを垂直に6列ほど並んでいて圧巻だ。となりにいる幼馴染はとても興奮した様子である。


 ただ、見てもパソコンに関しては何も解らない。ただ、普通のパソコンに比べてとても静かだ。

 個人的にはパソコンのCPUが増えるから音もうるさくなると思っていたのだが、どうやらそれは勘違いらしい。コレに関しては聞かないと解らないのでアダムに聞いた。


「何で普通のパソコンみたいにうるさくないんだ?」

「アンサー。説明するために水冷という冷却方式を説明します。水冷という冷却方式は簡単に言ってしまえば冷却水というのでCPUの熱を吸い上げ高温の冷却水をラジエーターというファンで冷やすそしてそれをポンプでCPUにまで冷却水を上げるという仕組みです」

「そのラジエーターというのをうるさくないようにもっと地下に巨大なのを設置したということです」

「へぇー」


 正直言って俺はそれしか言えなかった。確かに内容は理解できたのだがそれが凄いのか一般的かが解らない。そこで、幼馴染が言う。


「水冷というのは普通のパソコンにも使われている方式なのに、それで京を越えるパソコンを動かしているの!?」

「そうだけど?」


 何か今の幼馴染のセリフはわざとらしい感じがした。もしかしたら、俺に説明をさりげなくしてくれているかもしれない。

 湯川さんはそれに気づかなかったのかわざとらしい驚き方に疑問を覚えたらしい。そんなことはどうでも良いのかアダムが言った。


「ただ、見ているだけではアレですから、ちょうどスーパーコンピューターの裏にある机のノートパソコンでちょっと体験してみましょう」


 そう言った直後にノートパソコンがヒュイーン、ヒューン、ヒュイーン一番ポピュラーなOSであるWINDとは違ったまるで空間を移動しているかのような起動音が鳴る。


 ヒューーーーンと音が下がって完全に起動した。そして青い色の球が出て、そこから文字が飛び出してくる。

 それと同時に書かれている文と同じのをアダムが読んだ。


「アダム2です。これから一般的なPCと同じスペックを持つこのノートPCとあのスーパーコンピューターS.Hとの処理速度の差を比べることによって凄さを体感してもらいます」


 黒い四角が出てきたかと思うと直後、ボワーンと鳴る。すると次々と白い字が出て来てHOTRIVERと完成される。そして画面が変わりなぜか湯気がたっている現実と変わらない川が真ん中に二本出てきた。

 周りは田舎とかにありそうな茅葺かやぶき屋根の民家があったり水車があったりしている以外は草原だ。


 なんでそこまで拘ったんだ?と思っていると湯気が出ている二本の川の四箇所が川から出てきたダムでせき止められた。

 そして、斜め上からの視点だったのが切り替わり真正面の視点に切り替わる。昔遊んだことがある赤いおじさんとかが車でレースするゲームにそっくりだった。


 ちなみに、カートのところには仕切りで区切られている右側にはさっき見た青と黒のスーパーコンピューターが左側にはこの黒一色のノートパソコンが置かれている。

 プッ、プッ、プッ、ピーあのゲームにそっくりな音でカウントをしてゼロになると右側のスーパーコンピュータが水しぶきを上げながらものすごいスピードで去って行った。


 ちなみに、ノートパソコン視点なのかもうスーパーコンピュータは見えない。ただ、ノートパソコンもノロマというわけではない。

 ちゃんと水しぶきを出して動いている。右上にある二本の川のマップを見るとダムがもうすぐで見えそうというところでゴールした。


 あのゲームとは違い、勝敗が決まってもまだ続けるらしい。タイムを比べやすくするためか右側に11.27秒という驚異的な速さが記録されている。

 ノートパソコンは第一のダムに着いた。ゲーム?だからか湯は溢れていない。そして、着くとノートパソコンはキュイーーンと画面全体から光を放ちノートパソコンのすこし手前で収束させていく。


 そして、ためが終わったのか光を解き放った。するとゴーーン、ダムに当たった。ダメージを負わすとRPGでみたことのある緑色のゲージが少し減った状態で表示される。


 ゲージの上に耐久と書いてあるのであのゲージが全部減るとダムが決壊、または消失するのだろう。

 あのタイムであのロード時間がスーパーコンピューターにもかかるなら一発でダムを壊し、その上で一秒ぐらいでダムの間を駆け抜けたということだ。

 ノートパソコンに比べてアホみたいなスピードだよ。


 そんなことを考えているとなぜかダムがノートパソコンに攻撃していた。ノートパソコンは避けながら例の技のためをしている。

 さっきに比べて時間がかかりそうだ。そして、ためが終わろうとするときにノートパソコンが攻撃を受けた。


 ダムと同じで緑色のゲージが少し減った状態で表示された。ダムが攻撃とかありかよ。


 そして、攻撃を受けたことによってノートパソコンの光のためがキャンセルされてしまった。

 そこで、34.56『破壊されそうだったため途中で停止』と表示される。そして、その更に下に+23.29秒と表示された。これはスーパーコンピュータとのタイムの差を表しているらしい。


 ノートパソコンはまだ進んでいる途中なのに何で終わったんだ?まあ『破壊されそうだったため途中で停止』が関わりを持っていることぐらいはわかるが。

 いや、明らかにこれがあやしい。そんなことを思っているとデスクトップだろう元の黒い背景に青い色の球が出ているのに戻った。


 そして、青い球から文字が飛び出して来た。それと同時に書かれている文と同じのをアダムが読む。


「どうでしょうか、スーパーコンピューターとパソコンの処理速度の違いがわかったでしょうか。ちなみに、実際に川を進むのはベンチマークソフトによって計った処理速度に応じた速度を出させていますし、あのダムはセキュリティーでクラッキング手段は処理速度が要求されるパソコンの総当りです」

「ちなみに、総当りというのはそのままの意味で可能な組合せを全て試すやり方です」


 俺はなぜ、ノートパソコンはまだ進んでいる途中なのに終わったのかを聞いた。


「ノートパソコンはまだ進んでいる途中なのに終わったんだ?」

「アンサー。表示された通り破壊されそうだったため途中で停止してアクセスを断ち切ったからです。ちょっと恥ずかしいですね」

「感情まであるんだ」


 幼馴染が興奮を超えて引いている。俺もビックリしたが、そういうのがわかる幼馴染にはもっと衝撃的なことなのだろう。人工知能が感情を持つというのは。

 感情を持っているのは解ったが、結局それ以外のことがわからないのでさらに詳しく俺は聞いた。


「なんで破壊されそうになったんだ?」

「アンサー。アクセスしてセキュリティーを総当り攻撃をしていたら向こうのクラッカーにばれてしまい、逆探知されて攻撃されたからです」

「クラッカーって言うのはなんだ?俺はお菓子とパーティーに使う奴しか知らないんだが」

「クラッカーというのはコンピュータネットワークに不正に侵入したり、破壊・改ざんなどの悪意を持った行為をする人たちのことです」

「さすがにただの企業や家庭のコンピューターをクラッキングすることは憚られましたので」

「アンサーって言うのはわざとか」

「忘れてしまいました」


 おい、コンピューターがそんなことあっていいのかよ。まあ、たぶんわざとだと思うが。そう思っていると湯川さんが言う。


「そういうのは冗談でも止めて、あなたを消さないといけなくなるから」

「わかりました。お嬢様」


 やはり、コンピューターである人工知能にはミスはあってはいけないことらしい。それと湯川さんが微妙にだが悲しい表情をしていた。

 アダムとは結構長い付き合いなのかもしれない。もしかしたら、湯川さんが作ったのかもしれないが。さっきは興奮していた様子の幼馴染も興奮が収まったようだ。


 幼馴染が興奮していたということはコンピューターの意図的でないミスはよほどすごいことなのだろう。ミスするのがすごいとかなんか変な感じだな。そんなことを考えているとアダムが言う。


「パソコンルームの次は現在奥様が居る旧兵器博物館に行きましょう」

「何で、兵器の博物館が地下室にあるんだよ」


俺は呆れてそう言った。すると、意外と真面目な理由をアダムは答えてきた。


「昔の兵器から発想を得られることもありますし、使われている技術そのものが有用なものだったりするからです」

「すごいまともな理由だったな。ちょっと疑ってた」

「八割娯楽だからあながち間違いじゃない」


 湯川さんが教えてくれてなかったら湯川さんのお母さんとの対面で予想とは違い、戸惑うところだった。人工知能でも嘘はつくのか。いや、嘘はついてないのか、恐ろしいな。


俺はそのことを湯川さんに言ってみた。


「これって、嘘はつけなくてもわざとぼかしたりしたりして意図的にだませるんじゃないのか?」

「そういうのには家族で解らないのは居なかったから気づかなかった。後で父と相談しておく」

「いつもみたいにパパとは言わないんですね」


 アダムがニヤニヤとしているだろうことが声でもわかった。やはり、湯川さんとはそれなりに親しいのだろう。

 だからといって、湯川さんが恥ずかしがらないわけではない。湯川さんは顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。そして湯川さんが消え入りそうな声で言った。


「花を摘みに行く・・」


 そして、トイレに行っている間に俺はパパと言っているから親と親しいのか?と思ってアダムに聞いた。


「意外と親とは親しいのか?」

「特異な環境ですが旦那様方とは研究を手伝ったりと友好な関係を築いていますよ」

「ですが、友達はあなた方以外は知りませんね」

「恐らくあのくせが原因でしょう」

「あのくせ?」


 俺はそんなくせはもちろん知らない。ただ、湯川さんが友達が居なさそうな雰囲気を発していたのは入学式のときにわかっていたが。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る