【1】……〈Memento mori〉

【1‐1】――彡(^)(^) やきうのお兄ちゃんの【カケヨメ!】工作講座! 〜実践編〜


 【1】


 今回そもそもの端緒はバズボのオカ板のスレだった。


『ここに書かれていないことなど、なにもない』


 そううそぶくIT時代のアカシックレコード――。

 巨大匿名掲示板 《バズボックス》通称バズボの話題別カテゴリー〈オカルト〉板内にあるスレッドで、とあるオフ会が企画されていたのだ。


『怪奇スポットでオフるンゴwww part 13』


 晩秋――季節外れの肝試し。

 数年前に閉鎖されたアミューズメントパーク跡地の廃墟が会場になるという。


 見ず知らずの他人同士が容易に関わり得る、ネットを媒介したコミュニケーションがトラブルや犯罪の温床になっているだとか。そんな凡庸な耳タコ警鐘を今さら蒸し返す気もないけど、たしかにある面での真理には違いない。

 そうしてスレの流れを追っているうちに、あたしのセンシティヴな暗黒センサーがなにやら反応。


 とにかく、この企画に参加してみることにしたってわけ。


          ■


「さてっと……これで参加メンバーひとまず全員集合っすかね」


 まとめ役のギャ男が如才なく場を仕切る。


 《東京デスニートランド》は港湾沿いの薄ら寒い産業道路が行き着く果てにあった。

 ランド行きの路線バスはとっくに廃線。ここに来るには私鉄の最寄り駅から一時間弱かけてとぼとぼ歩くか、車輌で直接乗りつけるしかない。


 だいたい平日の真っ昼間から、こんな胡散臭いオフ会に顔だしてくる粋狂な社会不適応者どもといえば、不登校の学生か腐れニート風情と相場が決まっている。


 もちろん、あたしたちもご多分に漏れやしなかった。


          ■


「ちぃーっす! 今回の幹事的な諸々を務めさせていただくことになったニート幹部候補生っす。やっぱ大学つってもFランだと就職先もガチのブラック企業ばっかりっすね。すでに就労意欲とか100パーないっすよウェーーーイ!」


 肝試し企画の発起人 《ギャ》は茶髪で似非イケメン風のチャラ男。

 底辺大学生の分際でパチスロにハマってしまい留年を重ね、現在は中退秒読みとのこと。



「初参加……ども……おれみたいな中3でグロ見てる腐れ野郎、他にいますかって……いねーか、はは。

 だいたいクラスの連中なんて『あの流行りの曲かっこいい』とか『あの服ほしい』とか。ま、それが普通ですわな。かたや自分は電子の砂漠で屍体を見て、呟くんすわ。『it'a true wolrd.』……狂ってる? それ、誉め言葉ね。

 しかも、こんなにオラついたやつがヲタクで絵師さんだからね」


 などと、あきらかに間違った文法とスペルで得意げに宣う。

 ヒョロい痩せぎすな体躯で全身黒づくめのイキった陰キャラ《ジグジグ》は、いわゆる〈厨二病〉罹患者で当然のように現状は不登校だとか。

 通販で買ったようなチープなヴィジュアル系っぽい衣装と、前髪を長く垂らした微妙なヘアスタイルが痛々しい。



「彡(^)(^) ワイやぞ! よろしくニキーwwwww」


 やけに巨大なギョロ目と、後方に靡かせたたてがみめいた頭髪そしてくちばしのようにツンと突きでた口唇が特徴的な《矢奇宇やきう》は初手から妙なテンションだった。

 どうやら周囲の風潮に流されやすいタイプらしく高校をドロップアウト後、定職に就くでもなく「ニート、ときどきバイト」のアラサ―とかマジやばいし。

 あまつさえ「おっしゃ! いっちょワイも新・小説投稿サイト【カケヨメ!】でテンプレ『異世界転生チートハーレム』のラノベでも書いてやな、書籍化からのアニメ化コンボ決めたら人生逆転ワンチャンあるで!」とかほざきだしてて、もう目も当てられない。


「せや! お集まりのニキ&ネキ、ちょっとええかな」



   ★   ★   ★   ★   ★   ★   ★   ★



 ――物語を冒涜し、不正を愛する全ての人たちへ――


 『書けや! 読めや! 伝えられろや!』


彡(^)(^) 矢奇宇のお兄ちゃんの【カケヨメ!】工作講座! ~実践編~



彡(0)(0)  ええか。とりあえず誰彼構うこたぁない、とにかく他の作者を無差別に大量フォローするんや。

 もちろん相手の作品なんか読む必要まるでないで。

 むしろ逆に場合これはことやぞ。


 云うて、まだまだ未知の部分が多い【カケヨメ!】独自のアルゴリズム(笑)やけども。

 現状ランキングの指標になる加点アクションで、ほぼ確定的な評価ポイントがあるんや。

 それは「エピソードページに相応の時間、滞在し『熟読した』という痕跡を残した上で評価の『★』を付与すること」……これやな。

 せやから間違っても「読んだ」と運営に判定されるほどページに留まっとったらアカンのやぞ。

 後での★投げ作戦の際に、まんま相手の『評価ポイント』になってまうけんな。

 たとえばや、作者がワイと同ジャンルでコンテスト応募しとったりしてみい。そいつを評価したおかげでランク上にいかれて、ワイがランキングから弾きだされてもうたら、ほんまガイジまるだしやんけ。


 でな……それから適当に★投げときゃええ。云うて個数制限もないけんな。

 つまり外見上は★で称え(笑)られとるけど「読了判定」の伴わん★やから、運営側はアクションとして算出しとらん無効な★なんや。

 せやけど作者さんサイドじゃ、そんな事情はあずかり知らんやろ。見せかけの★もろうて、そらもう大はしゃぎよ。

 そしてフォロワーなり★付与の履歴なりで、ワイのページまで辿ってきた作者さまが律儀にも、お返しの★をくれるという寸法や。

 さらには云うて物書きとか本来、生真面目な性格のやつ多いけんな。「相手の作品を読まずに評価はできない」とばかりに一応はワイの作品にも目を通すやろ。

 その上での★やから、もちろんばっちり有効――ポイントゲットやぞ!


 云うて、こいつが無差別の絨毯爆撃による『フォロ爆』『★爆』作戦やな。


 他にはフリーメールの捨てアドで大量に複数アカウントを作成してやね、ワイの作品に『ひきこまれる!』『物語の世界に引き込まれました』『ストーリーに吸い込まれる!』『ストーリーの中にぐぐぐっと引き寄せられる力があります!』『なんておもしろい小説なんでしょう!』『屠殺所にはいろんな畜生さんがくるのねぇ』だとかベタ褒め文言の適当レヴューで★3つ評価しとく。

 そのとき冒頭のエピソードページを数分間、開きっぱなしで放置してから閉じるなり次ページ行くなりして「読了した」形跡を残しとくのも忘れたらアカンぞ。


 これが『複垢』レヴュー作戦や。

 ちなみにレヴューなしで黙々と★のみ無言で投げ続けるのは俗に『豚工作こうしゃく』と呼ばれる戦法やな。ぶひぃ。魔法ってすごい。


 しかも現状ペナルティもないし事実上〈運営公認〉の行為やな。たとえ後発でもアカウント100個も作って×★3つでブチあげりゃあ週間の総合ランキングTOP3には食い込めるで。


 ただでさえ純粋な読者人口の少ない【カケヨメ!】で、これらの工作は極めて重要やぞ。

 ほんで一旦ランキング上位せめてジャンル別<TOP5>にでも滑り込んでしもうたら、もうこっちのもんや。


 つまり6位以下のクソザコどもはトップページには表示されん仕様やからな。

 云うて新参のライトな読者はランキング上位作品をちょろっとチェックするだけやし。

 仮にコアなユーザーがおって「自分好みの作品を探したい」思うても、そもそも検索機能が終わっとる。サイト内検索すらのうてタイトルと作者名がひっかかるだけやぞ。未知の小説の作者とタイトル調べさせて、どないするつもりや。

 しかもジャンルごとの全件表示すらないんやぞ。複垢に相互評価グループの裏工作まみれで、なおかつカテゴリーエラーがでかいツラして居座るクソゴミ仕様のランキングから落ちてもうたら、その作品はどこにも表示されん。もはや存在せんのと同じことやな。

 たとえ内容が“良作”やったとしても、誰の眼にも触れんのに誰が見つけるいうんや。

 そんなクリーンな作者さんサイドの憤懣が煮えたぎっとる真っ最中にリリースされたアプリのキャッチコピーが云うに事欠いて、

『――スマホ片手に、ソファで いっぷく。』やからな。

 ホンマに【カケヨメ!】運営はんは煽りの大天才やで。


 卑劣な工作でもなんでもええ。

 とにかく最初期からランキング上位に居座っとかんと、そもそも誰にも読まれもせんのやで。

 ちまちまとバカ正直に小説だけ書いとるやつは、ええツラの皮や。

 「作品で勝負する」やら「良い物語を書いていたら評価される」やとか……そんな奇麗ごと、それこそ夢物語やぞ。


 云うて<新天地>やと思うてた新・小説投稿サイト【カケヨメ!】に妙な期待して身勝手な夢見てた底辺ガイジ作者の、これが末路よ。

 せっせと毎日更新するも、奔流のごとき<新着一覧>からは新規読者の獲得もままならず、最新話のPV『0』と一向に増えん『★』評価に創作のモティヴェーションをごりごり削られ、挙句にジャンル別ランキング掲載すら叶わず心折れてもうて、涙目でアカウント消して撤退する羽目になるんがオチやで。


 ほな、ひとまず今回はこれにて。


 なお次回は……内容クソゴミ作品を恥も外聞も憚らない〈仲間褒め〉してランキング上位を占拠する暗黒秘密結社 《ワナビ相互評価クラスタ》の闇深き実態を、命懸けで暴くやで!

 不正者晒しリストのおまえら首洗って待っとけや~。


 そして〈ホラー〉の皮を被って我が物顔しとる確信的カテゴリーエラーのインチキ作品群も化けの皮剥いで制裁したるやで~。



 と……思うてたんやけど。

 云うて『複垢』の不正工作も《相互評価クラスタ》も公式に運営サイドが認めた推奨行為やからな。連中が堂々と1次通過しとるの見たときにゃ、さすがのワイも草も生えんかったで。

 あくまで作品本位として、孤高でクリーンに闘うつもりやったけど。

 こりゃ限られた人生の時間をこんな糞ゴミ投稿サイトで無駄にせんで、とっとと退会した方がお利口さんやろな。




(^q^)はぇ~。勉強になるのれすぅ~。


彡(^)(^) きみも【カケヨメ!】で傑作を書くンゴwwwww





彡(0)(0) せやから、たった今この駄文を生真面目に読んどるジブンも云うて「読了判定」されとるんやぞ。

 さぁ、素早くワイに『★』を投げてクレメンスwww



 ★   ★   ★   ★   ★   ★   ★   ★



「ご清聴、感謝やで」


 なんとも不可解な矢奇宇の独壇場であった……が。


「えー……さてさて」


 しかし辛抱強く待機していたギャ男が、まるで何事もなかったかのように仕切り直す。


「こちらはコテハン〈れいし なみだじゅ〉さんっすか」

「いいえ。〈ぜろつか るいず〉と申しますの」


 そんな《零使 涙寿》19歳は前髪パッツンの金髪ツインテールにピンクとホワイトを基調としたフリルのワンピースドレスというロリータファッションで、足許はヴィヴィアンの厚底シューズ〈ロッキンホース バレリーナ〉だ。


「今日はお日柄も宜しいので、お散歩がてら馳せ参じましたの」


 いわゆる“ちょいポチャ”を通り越したムッチリ肥満でニートかつメンヘラという負のトリプルコンボ。

 いかにも〈オタサーの姫〉という風情で、しかもこんな曇り空にオシャレな日傘を持参してくるイタイイタイ子ちゃんだった。



「で……《ザクロ》さんっすよね」


 ぶしつけに品定めするギャ男の目線が全身を隈なくサーチ。


「ぐうかわパねぇっすね。普段なにやってる人なんすか。もしかしてモデルさんとか?」

「フリーのニートだけど」


 そして、あたしは茶髪にキツめのピンクをカラーリングしたセミロングレイヤーの髪を、目深に被ったパーカーのネコ耳つきフードから垂らしていた。

 ボトムはスウェードのミニスカ/黒×紫ボーダーニーソックス/ストラップブーツ。

 そんな〈にわかバンギャル〉さながらのハードカジュアル系コーデだ。


「おれとタメぐらいっすかね」

「ご想像にお任せしとく」


 身長170cm近くあるし、実年齢相応には見えないはずなんで、そこは常套句で濁しとくが吉。


          ■


 そうやって精鋭ニート戦隊が5人の無気力をひとつに合わせ、ずらり雁首揃えたのはいいんだけどさ。

 放擲された施設とはいえ、この厳重かつ堅牢な城門をいかにして突破せよと?


 先端の尖った頑丈な鉄柵で構築された正面ゲートは、もちろん施錠されているうえに開閉部はチェーンぐるぐる巻きで到底オープンは不可能な方向だし。

 あたしらみたいな愉快犯の侵入者を嫌ってか、周囲を囲繞するフェンスも優に3メートル以上あって、しかも有刺鉄線つきとあっちゃ乗り越えるのも容易じゃない。


「問題ないっす。そこはそれ幹事スキルで、ちゃーんと憂いのないようにしといたっすから」


 ギャ男の案内で外周フェンスに添って舗道伝いに。腰より上の高さまで繁茂した雑草と、フェンスが混然一体化したような箇所あり。

 枯れススキをメキョッと踏み倒して覗いてみると、どうにか人一人が通り抜けられる程度には金網が捲られていた。


          ■


 どんより曇天の寒空――。

 暗灰色のまだら雲が和紙に塗りたくられた薄墨みたいにのたくっている。

 まだ陽は高いはずなのに、周囲の荒廃した光景も相まってか、やけに鬱々と澱んだ午後だ。


 もはや整地されたパークの面影はなく、施設内部は植物生態系が入り乱れるカオスゾーンと化していた。

 伸び放題の芝草。

 繁茂したセイタカアワダチソウやススキの雑草原が枯草色の海原めいてうねり、ごうっと突風が吹き抜ければ、たちまち夥しい粒子が大気に逆巻く。


「うへぇ。これって、まさか花粉とかパねぇんじゃ……っぐし! っだるびっしゅ! やめてくださいよ! 殺すぞ。ムカつくんじゃ! へっぶし!」


 云ってる傍からクシャミ連発で苛つくギャ男だし。


 あちこちから顔を覗かせた雑草の生命力に屈し、大震災直後のようにひび割れて湾曲したアスファルトの経路を連れ立って歩いていく。


「お! ベネズエラヤママユガの幼虫やん! 踏んだろっ……いやいや、さすがにアカン気がするわ。おとなしく撮るだけにしとこか。 スマホパシャパシャー」


 ツイッターで「肝試しンゴwww」だとか画像入りの実況中継でもやっているのか。あちこち忙しなく駆け回っている矢奇宇はスマートフォンでの撮影に余念がない。


「たとえばローラーコースターや観覧車。そしてメリーゴーラウンドにコーヒーカップなんかはですな」


 ジグジグが得意げに説明し始める。

「そういったアトラクション設備は経年劣化で倒壊の危険もあるし、早々に撤去されたらしいんですわ。だけど、いくつかの施設はパーク内に残置されたまま廃虚状態になってるんですなぁ」

「それが今回のオフの醍醐味ですのね。この雰囲気だと“でる”という噂も、かなり高めの信憑性を帯びてきますの……はわわっ」

 自重と厚底ソールの弊害か、よろけてしまう零使。

「おっと……!」

 そのまま後方に転倒しそうだった豊満むちむちボディを素早く抱き留めるジグジグだった。


「お気をつけください、姫君さま」

 陰キャラのくせに騎士ナイト気取りでスマイル。

「ここら辺りの路面は随分と歪んでおり、隆起が激しくなっている箇所もあるようですからなぁ」

「あっ……ありがとですの。わたくしったら、とんだ粗相を」

 だけれど、ちょっぴり頬を紅潮させた零使は満更でもない風情だった。

「ジグジグさまって、お優しいのですね。それに頼もしい殿方ですの」

「いつだって支えるさ」


 なんなんだよ。おまえら、つき合っちゃえよヒューヒューwww


 ともあれ。

 もさもさの雑草群を掻き分けては踏み折りつつ、緩やかな丘陵を登り切ったところに朽ちかけた立て看板の名残りがあった。


 『こっわい こっわい お化け屋敷はこちら ☜』


 その先、眼下に目的の建築物が臨める。

 風雨に晒された箱型の外観――滴血じみた夥しい赤錆痕。

 まるで腐蝕した巨大なブリキ缶が放擲されているみたいだった。


          ■


 あたしたちの目当ては人呼んで《マーダーライドjp》。


 犯罪史上有名な猟奇殺人現場を蝋人形などで再現したシーンの数々を巡っていく、いわゆる〈ファンハウス――お化け屋敷〉系アトラクションなのだ。

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