血みどろデッドエンドガール 〜血死吹ザクロの虐嬢〜

暮逆 京助

《太陽ニ殺サレタ》

【0】……〈或いはアナーキー〉

【0】――ξ ^ω^)ξ あたし〈サイコキラーキラー〉だし。ま……多少はね?


彡(O)(O) 『狂人の真似とて大路を走らば、即ち狂人なり。

         悪人の真似とて人を殺さば、悪人なり。』


               ――徒然草 第八十五段――




 【0】


「ただの人間には興味ないし。この中に連続殺人鬼/レイプ魔/食人族/屍体性愛者/ペドフィリアがいたら、あたしのところに来なよ」


          ■


「ザクロたんだって“人殺し”なっしよ……!」


 だとか息も絶え絶えに吐きつける《フナC》だった。


「だいたい〈PKK――サイコキラーキラー〉ってなんなし。どうして自分だけ特別扱いなっしか? 所詮はフナCたちと同様ただの人殺しにすぎないなっし!」

「それはあきらかにアンタの感想だよね。なんか、そういうデータでもあんの? そんな必死になっちゃってさ」

「べっ、別に必死とかにはなってないなっしよぉ~」


 そもそも粗雑な着ぐるみで表情とかは全然見えないんだけど。

 せいぜい煽ってやる。


「いやいやいやいや鏡見なよ? 『すべてが“必死”これ以上の単語が見当たらないほど必死であった』ってか、もう必死すぎて《フナC》パイセン顔真っ赤じゃん。ガイジかな」

「ギギギ……! ガイジってなんなし! 畜生しかおらんなしか!

 ヒャッハアアアアァァァーーーッ!?」


 覿面に激昂MAX――案の定スルー能力ゼロだし。


          ■


『怪物と闘う者は自分自身も怪物にならぬように気をつけるがいい。

 深淵を覗き込むとき、深淵もまたおまえを覗き込むのだ(キリッ 』


 たしかフルーチェだかニーチェだとかいう晩年マジキチになったモジャヒゲオヤジがドヤ顔で宣う御託宣。

 こいつ、マジうざいんですけど。

 そのモノゴト解ったつもりの上から目線なんなの。古典文献学者なの? バカなの? 死ぬの?

 いるいる。いるわー。

 こういう高みに立った賢者気取りで説教垂れて得意満面な意識高い系のやから

 わりとガチで草生えるんですけど。


          ■


「だいたい“人殺し”ってのも語弊あるよね」

 ほとほと嘆息。

「だって、いくら人間っぽい姿形をしてても、あたしはあんたら殺人ガイジの〈サイコキラー〉をまったく“人”とは見做してないんだからさ」

「人じゃないとか、どういうことなっしか!」

 頭から湯気でてるでてる。

「フナCたちにだって、ちゃんと護られるべき〈人権〉はあるなっしよ! すべからく健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を生まれながらに有しているなっし! 侵略の異星人とか異世界ファンタジーの魔物なんかじゃないなし、おんなじ〈人間〉なんだなっし! だから好き放題に狩り殺していいわけなんてないなっしーッ……!」


「じん……けん……?」

 なんか愉快なワードきた。

「あたしのBIBLEの中にJINKENのページ見当たらないわー」

「それに……こんなひどいことするなんて……」

 しとど濁血を垂らす股間を押さえ、ブウルルッと内股で悶える。

「ザクロたんの方が、もっとずっと非道なっし……!」

「それ自業自得でしょうが。アスペかな」


 と――。


「ヒャッハアアアァァァーーーッ!?」


 不意打ちの奇声で猛ダッシュ。

 そのまま離陸しちゃいそうな勢いで――ガパンッ!

 いきなりドアを蹴破った。


 ちょっ!? マズー。

 これはいかにもマズいっしょ。


 パーク内には人がいないとはいえ、外の誰かに聞き咎められないとも限らない。

 もしもそうなったら、そいつらも次々みんな殺さなくちゃいけなくなる。

 そうやって冒頭の早い段階から屍体を転がすことに躍起になる目撃者全員殺しのドミノ倒し連鎖殺人事件に発展。

 そしたらミステリーオタクどもが小難しい顔して「フェアだ」「いいやアンフェアだ」「本格だ」「いやいや本格とはいえない」「新本格はコード依存から脱却せよ」「彼らは人間を“描けない”のではなく“描かない”のです」だのと口やかましく論争を始めちゃってさ。

 挙句の果てに「おまえが悪い!」だなんて実行者=犯人的な、あたしが糾弾されるのはマジ勘弁して。

「犯人だぁ~~~れだ?」とか心底どうでもいいから。


          ■


 曇天の空――。

 腐れた魚類のはらわたみたいにわだかまった空気が、やけに粘つく嫌な湿気を帯びていた。


 猟奇アトラクション《マーダーライドjp》の施設から飛びだした殺人鬼 《ファナティック・ケイオス》通称 《フナC》は荒れ野原を闇雲にジタバタ駆けずり回る。

 でたらめに片手で振り回すククリナイフのブレイドが、暴走した芝刈り機の刃を手掴みで止めるような危険度MAX。

 もう迂闊に近寄ることすらできやしない。


 ぐぬぬ……如何ともしがたい。


 そうやって手をだしあぐねていると。

 辛うじて活きてる視界であたしを視認したらしい。


「ギョギョギョッ!? ザクロたん発見なっしヒャッハアアアァァァーーーッ!」


 大振りのククリ――やけくそで投擲。


 高速回転するブレイドがキュイイィィン! 凄まじいスピードで飛来してきた。

 アブい! アブい!?

 咄嗟にのけ反ってブリッジ姿勢で避ける。


 腹筋スレスレを掠めた刃物は、未確認飛行物体っぽく曇り空の彼方にキラリーンと溶け込んでいった……かに見えた。


 ん? 見えた……んだけど……?


 リュンリュンリュン……ブーメランさながらに弧を描いたククリが、まるで狙い澄ましたかのように《フナC》めがけてリターンしてくる。


「ちょっ、来るなっし! こっち来るなっしいいいぃぃぃーッ!」


 逃れようと全力疾走の足許が縺れて――ズザザーッ!

 すってん転んだ尻にククリの尖端が容赦なく突き立った。


「ケッツゴッボッオオオォォォーーーッ!?」


 間違いなくアナルにスマッシュヒット。

 ものすごい勢いでビククビククのけ反って、焼き討ちされたイルカみたいなオーヴァアクションでのたうち回る。

 噴出した血と粘便が、嫌すぎるロールシャッハテストのパターンを地面にヌタヌタと描きだしていく。


 やがて力尽きたか、ようやくモーション停止。


 ドッカ……!

 を着ぐるみ越しに踏みつけて、メタボリックな体躯の傍に屈む。

「こっちの耳さ、まだ聞こえてるよね。ノックして、もしも~しってかな」

 ドライヴァーの先端で、ちょいちょい突っついて詰問を落とす。


「だから“ジャノメ”ってなんなの」


          ■


 じゃあぁのぉめぇ、じゃあのめ。


          ■


 あいつは行為の間中ずっとそんな調子外れの歌を口ずさんでいた。


 めぽ。めぽっ。めーぽー。るかたそ、かわゆし。はぁはぁ。るかたそ、かわゆし。はふはふ。るかたそ、ぎざかわゆし。ぐらんどおめがかわゆす。はむはむ。はんむむむむむむむ。背後から伸しかかって、臨海学校帰りだったあたしの首筋を嗅ぐ。そのまま口に含んでチュクチュク甘噛みする。肌に染みついた潮と汗を執拗にテイスティング。くんかくんか。るかたそ、ぐっどすめる。はぁはぁ。るかたそ、ぎざぐっどすめる。うみみみみんうみうみのにほひ。ボールギャグを詰め込まれた口許から漏れるなけなしの嗚咽は、気まずい物音が外に漏れないようにそれなりのヴォリュームでつけっ放しにされたTVの音声にあえなく掻き消される。あもももも。るかたその、すじすじをなめると、ちぃずけぇきのあじあじ。あもももも。めでる、めでるお。めでるたくさん。ぺろりぺろり。くんかくんか。まいしてゆ。まいしてゆ。るかたそ、まいしてゆ。じゃあぁのぉめぇ、じゃあのめ。やけに耳に残るブルージィなメロディを口ずさみながら、あたしの中に入って無茶苦茶する。じゃあぁのぉめぇ、じゃあのめ。でたらめに掻き混ぜる。じゃあぁのぉめぇ、じゃあのめ。お腹がぐちゅぐちゅ熱くなる。


 おねがい。やめて。やめてったら。こんなに痛痛痛いのに、どうしてやめてくれないの。こんなの死んじゃう。死んじゃう死死死死んじゃうよ。

 お願いだから、もうこれ以上やめてマジで。


 だけど、あいつはお構いなし。


          ■


 じゃあぁのぉめぇ、じゃあのめ。


 りゃりゃぴた りゃりゃぴた らいらいお


 るかたそ かわゆし まいしてゆ


 じゃのめ――じゃのめ。


          ■


 あの事件の後で警察にはもちろん、おためごかしのセラピストにも絶対に打ち明けなかったキーワード。


 あたしだけが知る、あいつの手がかり。


 それが――“ジャノメ”。

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