4.ゴミスキル
「え?なんなの、ゴミスキルを掴まされただけで結局罠なの?もしかして煽られただけー?」
いかにも余裕があるかといったように軽口を叩くカイトだったが、状況は絶望的だ。
ざっと見てゴブリンの数は30ほど。1対1ならレベルが上がった事もあり、なんとか安全に倒せそうだが、これだけの数だと多少のレベル差なんて関係なく袋叩きにされるだろう。
そもそもレベルが上がったとはいえ、どれくらい身体能力が上がったのかも分からない。
これまでがゲームっぽい設定だったから自然とレベルが上がったら強くなると思っていたのだが、あのカードには能力値の詳細などは書いていないのだ。何のパワーアップもしていない可能性すらある。少なくとも今の自分がレベルアップする前と比べて何か変わったという感じはしなかった。
「流石に逃げるしかないか!でもどうやったら……」
そんな事情もあり、カイトは即座にまともにゴブリンの群れと相対する事を放棄する。
だが、通路の方向は3つとも全てが囲まれている。ここから脱出するためには何処か1方向でもいいから自分の力で突破しなければならない。それは手持ちのスキルである『投擲 I』だけでは不可能だ。
どうすればいいのか。そう思いたったときに先程、カイト自身が地面に叩きつけたスキルの本を思い出す。
「そうだ、スライディングっていえば無敵技の可能性があるじゃないか!」
無敵技というのは格ゲーによくある自分の行動中には相手の攻撃を受けないという設定がされている技だ。明らかに当たっているようにしか見えなくても、それを無視してノーダメージで自分の行動を続ける事ができるのである。
現実ではありえない事だけどここは異世界。それにスキルという超常能力も既に知っている。移動技だと思われる『スライディング II』のスキルにそれらがついていても不思議ではない。
そうと決めると、カイトは投石でゴブリン達を牽制しつつ、地にポツンと横たわっているスキルの本を拾いなおしてそれを開く。
『投擲 I』のスキルの本を開けたときと同じようにその本も開けた瞬間に光り輝くと消失する。と同時にカイトは謎のカードを取り出してスキルの欄を確認した。
「ハハッ!ついてるな!とんだゴミスキルを掴まされたと思ったが、これならいける!」
ゴブリンの動向を横目で窺いつつもカイトは自分の結果に笑う。
スキル『スライディング II』の欄にはカイトの読み通りにこの状況を何とかできるだろう技が1つだけだがあったのだ。
説明を読む限りではゴブリン達では束になって肉壁となる以外に止める方法はないだろう。
となると、後はできるだけ妨害されないように道を作るだけだ。
「通路からこれ以上、ゴブリンは出てきてない、か。チャンスは一度きり。絶対に決める」
不幸中の幸いにしてこれ以上のゴブリンの増加は見られない。ならば時間をかけてでもいいから自分への包囲網を薄く広げさせるべきだ。
ゴブリンがジリジリと追い詰めるように自分を囲んで行くのを理解しつつ、カイトは冷静にゴブリンがいない、通路のない面である壁の方へと移動していく。
(ちっ、知能は低いと思ってたけど意外にバラけないな。一番密度が薄いトコで4体、今行くべきか?)
たまにそこそこの距離がまだあるというのに飛びかかってくるゴブリンを投石によって撃ち墜としたりしたのだが、思ってたよりもゴブリン間の統率がとれているせいであまり狙い通りに事がすすんでいるとは言えない。
だがしかし、もう直ぐで壁に到達してしまう。そこまで追い込まれてしまえばもう後は包囲網が厚くなっていくだけだ。
(不安は残るけど仕方ないか!)
「切り開く!《シングルシュート》!」
もう待つ事は出来ないと判断し、カイトは一番包囲網が薄い、元きた通路とは対面の通路の方向に向けて、今まで温存していたゴブリンから手に入れた石斧をスキルの力を合わせて投擲する。
石とは違い、旋回しながら敵へ向かって飛翔した石斧はゴブリン三体の首を何の抵抗もなく切り飛ばし、壁に衝突して、そこで耐久力に限界がきて壊れてしまった。
ゴブリン達は突然、仲間が一撃でやられてしまったのを見て、一瞬、硬直してしまう。
「今だ!《スパークル・ハイ》!」
カイトは自分の予想以上の威力を発揮した石斧に驚きつつも、この隙を逃すまいと当初の予定通りにがら空きになった僅かな空間へと向けてスキルを発動させて飛び込む。
《スパークル・ハイ》。説明にはオーラを身にまとい滑走するとしか書いていなかったので、発動させてみないとどんな感じかは分からないという、少し心配な部分はあったのだが、カイトはそれが杞憂だったと気付く。
(はやっ!それになんか輝いてるし!?)
十分な助走があったとはいえ、そのスライディングのスピードは自分が走るよりもはるかに速い。
金色のオーラを身にまといながらの滑走の勢いは既に5mほど進んだのにも関わらず、まったく弱まる気配をみせずに、ゴブリン達を置き去りにする。
(高速移動型の技だったのか。まあどっちにしろこのまま行けば脱出できる!)
期待以上の性能を持っていたスキルのおかげでゴブリンの包囲網を抜け出せる。その一歩手前といったところで最後尾にいたゴブリンがなんとかといった様子でカイトの動きに反応してその前に立ち塞がる。
(うげっ!ここまで来て!……いや、もう殆ど包囲網は抜け出せたようなもんか。馬鹿正直にこのまま突っ込まなくてもいいな)
ここまで来て!と思わずにはいられないカイトだったが、冷静に考えてみるともう殆どゴブリンの包囲網は抜け出したも同然だ。スキルにこれ以上頼る必要はない。《スパークル・ハイ》を解除して、普通にこのゴブリンを避けて逃げてしまえばいい。
そうカイトは考えて、気づいてしまった。
(……あれ?これ、どうやったら止めれるの?)
スキルを解除する方法を自分が知らない事に。
咄嗟に普通のスライディングを止める方法と同じように伸ばした足を立ててみるが、それがつっかえとなり勢いこそ徐々に落ちるもののとても直ぐに止まる気配は見せない。
(あ、これ練習しないとうまく止まれないや……テヘ☆)
カイトがそう悟ったときにはゴブリンの姿はもう衝突寸前。目の前にあった。
(うわあああ!!やっぱりゴミスキルじゃねえかあああ!?)
「くっそう!もうそのまま弾き飛ばせえええ!!」
もうここまで来たらヤケクソである。
カイトはスキルの解除を諦め、滑走の勢いに体を任せてそのままゴブリンに突っ込んだ。
……ここで1つ。カイトが勘違いしている事があった。
《スパークル・ハイ》は無敵移動技でなければ高速移動技でもない。
れっきとした
「は?」
スライディングの勢いが無くなり、スキルが解除されたカイトは、目標である通路の手前まで来たというのに逃げ出すこともなく、呆然としていた。
同様にゴブリン達も直立不動で呆気にとられている。
ドサッ、とカイトとゴブリン達の中間に何かが落ちる。それはカイトの前に立ち塞がったゴブリンの上半身。……下半身は跡形もなく消し飛んでいた。
「……」
カイトは無言のまま、通路の奥へと駆けていく。……もう色々と言いたいことはあったのだが場の「どうすんだよ、この空気……」といった雰囲気に耐えきれないといった様子で。
全速力で走って、しばらくして立ち止まったカイトは遂に声の限り、絶叫する。
「……スライディングって、攻撃技なのかよおおお!!!」
速水カイト 17歳 男
◆レベル◆ 2→?
◆スキル◆
『投擲 I』…《シングルシュート》、《リフレクトショット》
『スライディング II』…《スパークル・ハイ》
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