第2話 それぞれの五年

 

 私が『神殺』に入団してからの五年で、地上は随分と変わったようだ。

 一年目。大規模なハッキングを実現。ウイルスによりMOGの体温管理システムを一時的にダウンさせ、急激な体温の変化に耐えられず死んだ人間。およそ一〇〇〇人。

 二年目。様々な車両の操縦権を奪取し、各地で大事故を起こし、出た犠牲者。およそ二三〇〇人。

 三年目。MOG管理下の病院にある患者達を管理するシステムを停止させることで出た犠牲者。およそ三五〇〇人。

 四年目。株価のシステムを操作することで市場の価値が大暴落させる。それによる、日本国内だけでの自殺した人間。およそ五七〇〇人。


 そして、五年目。

 私はハイネの部屋でいつものように紅茶を飲んでいた。

「最初の年に私達という存在がいることを教えてあげたのに政府は何もできないまま四年も無駄にしたのね」

 笑顔で語りながら椅子の背に身を任せ、本を読むハイネ。

「一つ変わったと言えば、私達に対抗する意志として『神守かみもり』という、MOGを守る組織を新しく作ったことかしら」

 私が言うと、ハイネは声を上げて笑う。「私達の行いが阻止されたことは?」

「なかったわね」

 でしょうと彼女は嬉しそうにしている。なぜ、彼女がそんなにも嬉しいのか。

 私達の祖先は六〇〇万年前近く前に生まれ、西暦二〇〇〇年以上システムなどに管理されることなく生きていた。

 しかし、たった半世紀前にできたプログラムで今の世界は成り立っているに等しい状況だ。

 それが、今度はたかが五年で覆りそうになっていることにハイネは喜んでいる。

「今年で五年目。上の人間は一年に一回の私達の行いに怯えながら生きている。いつ行われるかも分からない恐怖というのが一番人の心理に響く」

 ハイネは毎年、何をしかけようかを、祭の出し物でも考えるつもりで想像しているのだ。 

「教官のところに行くわ」

 ハイネの部屋をあとにし、教育係であるユアンと一緒にトレーニングを行う。

「どうだ、もうここには慣れたか?」

「何回目ですか。もう充分慣れてます」

 組み手をしながら話し、言い終わると同時に拳をおもいっきり突き出す。

 ユアンは頭を逸らして避けた私の腕を掴んで投げる。地面に背中を打付けた痛みになんとか耐えた。

 シャワールームである話をする。

「ハイネのこと、どう思います?」

「どうって、変わった所はあるか?」

「いえ」

 本人には言いはしないが、私の中で地上へのやり方について最近、疑問が出始めている。

 最初はこれで世界に亀裂を、プログラムに管理されない自分で生きれる世界を手に入れられると思っていた。

 しかし、世界は一向に変わらない。死人をどれだけだそうがプログラムに頼りきりだ。

「彼女はマッドサイエンティストのような気質があるかもしれんが、同時に私達という人間を引っ張るカリスマ性の方が強いだろう」

 ユアンの言葉に少し納得する。

 彼女と別れた私は街に出る。もちろん地下のだ。

 自分の家に帰る前にバーに寄った。この地下街はMOGプログラムが産まれる前から存在している街らしい。故に物資の流通ルートも固定されている。それが、滞ることなく半世紀も続いていることに感動を覚えるぐらいだ。

「お嬢さん、今日も同じのかい?」

「もうお嬢さんなんて年じゃないわ。いつものをお願い」

 ここのマスターからすれば、年下の女性は誰でもお嬢さんなのだ。

 『ジントニック』。

 元はオランダの酒であるジンをトニックウォーターで割り、ライムを入れたもの。薄味だが、爽やかな香りが鼻を抜ける。この感覚が好きなのだ。

 少し口に含んだ後、タバコに火を点け一服する。甘い香りが口に広がる。

 マスターの出してくれた灰皿にたばこを置き、ニュースのチェックを始める。

 地上では相変わらずMOG関連の話ししか出ない。それしか話題がないのだろう。私達がMOGにちょっかいを出さなければ、自然の暑さで、暴走した車で、医療システムダウンで、株価の暴落で大勢の死人が出ることはなかった。

 今年も私達が何を仕掛けてくるか不安の声を上げている。

 もう一度タバコをくわえた時だった。「隣、いいかしら?」

 聞き覚えのある声に隣を見上げると、そこにはハイネの姿があった。

「ハイネ? どうしてここに」

 ハイネがバーに来るのは珍しい。私が入団したての頃、大人の楽しみを教えてあげると言われ、一緒に連れてこられたのがこのバーだ。それ以来、一緒に来ていないが。

「『ホワイト・レディー』を下さる?」

 ドライ・ジンとホワイト・キュラソー、レモンジュースで作られる。

 “キュラソー”とは、十七世紀の後半、南米ベネズエラ沖のオランダ領、キュラソー島産オレンジ果皮を使用して作られる酒だ。

 名前の通り、真っ白なその酒を彼女は飲む。白を嫌っているのに、なぜか髪と酒に関しては気にしていないようだ。

「ユアンに聞いたら、もう帰ったって言われてね。ここに寄るだろうと思ったの」

「何か話したいことがあるの?」

「私がなんで、お酒やタバコを容認してると思う?」

 突然の質問に少し考えてから答える。

「MOGが許さないものを皆に解放することで自分は、MOGのように大衆を縛り付けるような管理をしていないということを示すため」

 ふふ、と静かに笑い、半分当たりと彼女は言う。

「お酒とタバコは多くの理由で嫌われる。匂い、有害な物質、他者への健康被害。でも、この二つは以前までは長く親しまれ、愛好者にとっては生活の助けになっていた。ストレスなんかを軽減してくれるから」

「でも、それなら他にもあったんじゃないの? ストレス軽減なんて」

「当時は入手が容易だったのよ。それに今でもお酒の真似事のようなものは地上に出回っている。それぐらい長い付き合いなのよ。タバコは完全に地上では消えてしまったけどね」

 確かに私は五年前の地上で疑似アルコール飲料というのを飲んでいた。あの時は私の中であれが酒だったが、今では信じられない。

「でなければ、半世紀前まで愛用されていたわけがない。何百年も親しまれていた。それをMOGは不要なものとして消去、規制をしたのよ」

 彼女はグラスを揺らしながら、渦巻く酒を眺めている。

「でも、ドラッグはダメよ。あれは大昔から禁止されているからね」

「なぜ、ダメなの?」

「ドラッグは一時的に元気をくれる。やる気のない人間でもハイテンションになれる。その代償で次に来るのが使用前以上の脱力感。しかも、使えば止められないし、一回の使用量は増えるのに効果はどんどん薄れる。つまり、量に対する効果が見合わなくなってくるのよ。それならお酒やたばこの方がまだ効果が期待できる分いいのよ」

 彼女は本当に凄い。なぜ、そんなことを知っているのか。

 恐らくユアン教官の言っていた彼女のカリスマ性というのは私や他の皆にない知識の豊富さから来ているのだろう。

「カノン、私に不満があるならちゃんと言ってくれていいのよ。聞ける話なら聞くから」

 私は彼女に対して不満を抱いていない。しかし、自分でも気付いていないだけで、この疑問は彼女に対する不満が関係しているのかもしれない。もしかすると、彼女は表には出さないが、内心怒っているのだろうか。

「ハイネ、もし気を悪くさせたなら、ごめんなさい」

 私の謝罪に彼女は笑顔を崩さず、

「私が一度でもあなたに怒ったことがあったかしら?」

 と言った。

 確かにハイネが怒ったことなどなかった。

「謝らなくていいのよ。人が人に不満を持つというのは自然の摂理。それこそ、MOGの力の働かないここならではの感情というものなのよ」

 彼女は本当に怒ってはいないようだ。

 ならば、相談をしてみようかと思い、口を開く。

「あのね、上に対するやりかたなんだけど、もう少し他のやり方はないのかなって私思うの。いくら殺しても、考えが変わらないならもっと他のやり方を」

 彼女はしばらく返答をしなかった。

 少しの間を置いて彼女の口から出た言葉は,酒の注文だった。

「『ブルームーン』をもらえない?」

 俯く彼女を少し見た私は、帰るわ、ごめんなさいとだけ言い、席を立った。

 “ブルームーン”。

 三つの意味を持つ酒。

 それは『完全なる愛』。

 それは『叶わぬ恋』。

 それは『出来ない相談』。



 ハイネとバーで別れてからの三日間、私が彼女の部屋に行くことはなかった。本部に顔を出して、仲間と話はしたが、ハイネの所には行かなかった。

「何かあったのか?」

 ユアン教官に心配された私はバーでのことを話した。

 教官は彼女がそんな風に話し合うのも、こんな気まずい関係になるのも私が初めてだと言った。それは特別な存在だと思われているからではないかと。

 少し逡巡していると、カイルが走り寄って来た。

「お二人とも、団長がお呼びです。すぐに技術開発室まで」

 私達三人は急ぎ足で『神殺』の最新技術部門まで来た。ここは主に上の世界に対する行いのための技術開発に勤しんでいる。

 扉が開くと、技術者達の中心に彼女の、ハイネの後ろ姿があった。

「これはなんです?」

 ユアン教官が隣に立ち、ハイネの目の前にあるものについて訊いた。

 卵のような大きな機械。中には人が一人入れそうな空間がある。

「これが今年のMOGに対する行いに必要なものなの」

 ハイネは嬉しそうに語る。

「“仮死装置”。人間を強制的に仮死状態に出来るの。その後はこの“蘇生薬”を打ち込む」

「なんのためにそんなものを」

 私が訊くと、ハイネは自分の体にMOGが入っていないという話を覚えている? と言った。

 一度この世から離れた彼女は、人としては生きているが社会的に死んだ、MOGのない人間になってしまった。

 そこで私は気付いた。私達も同じようにMOGを体内から失くすことができるかもしれない。

「さすが、カノン。分かってくれて嬉しいわ」

「MOGを失くしてどうするの?」

「上の世界は何があってもMOG頼り。管理の神に見守られる必要がある。だからね、システムを体内から失くせれば地上に出ても私達が誰かは分からない」

 ここはMOGが唯一介入しない場所。もし、外に出た場合、強制的に私達の中にあるMOGプログラムが働いてしまう。しかし、五年前に姿を消してしまった私のMOGのデータはまだ残っているのだろうか。行方不明からの死亡者扱いで消えていそうな気もするが。

「そこで、今日は誰にこれを使ってもらうかを決めたいと思ってね」

 その言葉に皆は動揺した。

 当然だ。仮死状態になる機械と言われてもぴんとこないし、なれたとして、蘇生薬などという曖昧なものがちゃんと効くかも分からない。

 保証がないのだ。絶対的な安全をこの地下で欲することになるとは思わなかった。ハイネは笑顔のままだ。誰かが、やらなければ、そんな想いの中手挙げたのは。

「私にやらせて」

 私自身だった。

「やっぱりカノンは素晴らしいわ」

 どういう意味を込めて言ったのか分からないが、私は仮死装置の準備を待つことにした。

「よく手を挙げられたな」

 ユアン教官が私の横で仮死装置を眺めながら言う。

「私もなんで挙げたのか。ただ、今の地上の世界にMOGを持たずに行くことがどんな感覚なのか。彼女と同じ体験をしてみたかったのかもしれません」

 私は仮死装置の準備を同じように遠くから眺めているハイネを見ながら言った。装置の準備が整ったようなので、私は機械に入る。力を抜いて、もたれかかると様々な機械を腕、足、頭へとつけられた。これはその部分を一時的に死なせるために必要なのだ。

「実験の準備は整いました。蘇生薬も準備万端です」

 そう言う技術者の傍らには毒々しい色をした薬の入った注射器が置かれていた。

「カノン、怯える必要はないわ」

 体験したことのある先輩としてハイネの言葉ももらった私はいよいよ仮死状態に入る。

 装置の蓋が閉められ、小窓から私の様子を眺めるハイネ達の姿が見える。始動した瞬間、私は意識を失った。



 

 ここはどこだろう。目を覚ますと私は真っ白な空間にいた。黒の服が一際目立っている。

 近くに人の気配を感じた。当たりを見回すと、宙に浮かぶ一人の人物がいた。

 それは、あのハイネだった。

「ハイネ? なぜここに」

 私は自然と浮き出るその疑問を彼女に言った。

 そして、彼女が口を開いた。

「この世界をどう思う? 私はね、とても息苦しい。でも、皆何も言わずに生きている。だから、元のあるべき姿に戻った時、どうなるのか気になるの」

 彼女はこの世界をそんな風に考えていたのか。私は別の方向を見る。

 すると、そこには何故か母が立っていた。

「母さん? なんで、どうなっているの」

 頭の混乱は収まらない。ハイネのいた場所に母がいる。

「カノン、あなたは強い人になりなさい。そうすれば、きっと素晴らしい人生を送れるようになるわ」

 昔よく言われた言葉だ。だが、強い人とはなんだろう。ケンカが強い人? 頭のいい人? どちらにせよ、母の期待していた子にはなれなかっただろう。

 次に見た別方向には父の姿が。

「父さんまで……ここは……」

「私の可愛い一人娘のカノン。君は誰も身内のいない東京で、どこまでやれていますか。無理はしなくていい。帰ってきたかったらいつでも帰ってきなさい」

 私が上京して一ヵ月目に送られてきたメッセージ文だ。なんてことのない内容だが、心の底から嬉しかったことを覚えている。

 次は誰か。私に深く関わりのある人間が出てくるのかもしれない。そう思い、次の人物が視界に入った。

 しかし、その人物は出てきて嬉しくもあり、酷く悲しいものでもあった。

「セリア……」

 私の感情は一気に奈落の底へと落ちた気がした。何も言わずにたたずむ彼女。五年前の姿の変わらぬ彼女。

 私は彼女に一歩近づく。すると、彼女は後退る。また近づく、後退る。しばらくこのいたちごっこは続き、終わりを迎えたのは突然、私の足下が消えたからだ。落ちていく中で見た彼女の顔は笑みを浮かべていた。


 うわあ! と叫び、跳び起きた私は息を切らせ、体中汗でびしょびしょだった。前方にもベッドが並んでいる。ここは『神殺』本部の医務室のようだ。顔に手を当て、今見たものが夢だと認識しようとしている私に隣から声がかかる。

「気がついたのね、カノン」

 相変わらずの落ち着いた声で呼ばれる私の名前。ハイネが本を片手に椅子に座っている。

「ハイネ、私は……」

「おめでとう、実験は成功よ。さっきあなたの体をスキャンした所、MOGは消え去っていたわ」

 その言葉に私は生き返ってから今まで寝ていたということが分かった。

 ハイネにあのことを話した。白い空間。清潔感の塊。

 私の話を聞き終えたハイネは、本を閉じると立ち上がった。

 窓から地下の街を眺め、死の直前に見るものの話しをした。

「それは多分、“走馬灯”というものね。死ぬ直前に脳裏に今までの思いでが駆け巡ると言われている」

「じゃあ、人間は誰しも走馬灯を持っているの?」

「実はこの走馬灯はね、科学的に証明されているのよ。死の直前の脳って以外にも活発なの。それで精神状態が高まって脳裏に今までの人生が駆け巡ると言われている。脳があること。死ぬまでの時間がゆっくりしているなら見れるかもしれないわね」

 私達が殺した地上の人間のどれぐらいが走馬灯を見てあの世にいったのだろうか。

 少なくとも私は見ることができた。人生。なら、私の人生に関わりのあった人物はあの四人だけなのか。もし、死の時間的な問題で厳選されたとあれば納得できるが、その可能性はほぼないだろう。私の人生に深く関わった人の少なさは私の今までの行いが物語っている。

 なるべく他者と関わらないようにしている人生だったのだ。

「じゃあ、私はあなたと同じ上の世界では死者も同然になったのね」

「そうよ。あなたは一度死を体験した。ちゃんと走馬灯も見るぐらいだからね」

 実験が成功した私に次にハイネから告げられた言葉は、私を驚愕させるのも

当然のものだった。



 二一二三年の九月。私はなぜか暑さを感じていた。まだ残っているであろう八月の余韻の暑さというものを初めて体験した。ここは地上の世界だ。


 医務室でハイネから告げられたのは地上の世界に出ることだった。

 スキャンで消えたのを確認しただけでは信頼が薄い。

 だが、地上に出た時点でMOGの起動を知らせる表示が視覚に出ない時点で私の体からシステムが消えているのは明らかだった。

 それは、私の視界を本部で観ることが出来るハイネ達にも分かっていただろう。

 ハイネはもう少し、地上の世界での移動を命じる。

 試しに私はMOGのない体で電車に乗ろうとして、改札に手をかざした。

 すると、認証不可の四文字が改札のモニターに映し出され、ロックがかかる。一歩下がり、端末からの連絡を取る。

「やはり公共の乗り物は使えないわね。渡しておいた疑似プログラムでなら乗れると思うわ」

 ハイネからの指示で、彼女から預かっていたMOGの偽物が入った端末をかざそうとした。

 しかし、私が改札を通れることはなかった。誰かが、反対の手を掴む。振り返ると、駅員だった。

「お客さん、認証不可で止められたみたいですが」

 私は表情を変えずに答える。

「それがどうかしましたか?」

「私達には認証が通らなかった方々を調べる必要がありまして。あのテロ行為以来、警戒が強化されているので」

 駅員は続けて、認証が通らないなんて珍しい人物は調べる必要があると付け足した。

 このままでは取り調べられる。私は咄嗟に駅員の足を踏みつけた。

 痛みに緩んだ手を振り払い、一目散に走った。複数の駅員に追われたが、何とか人ごみに紛れ、逃げ切った。

 その後も少し走り続けた私は公園のベンチで休憩することにした。

 MOGの入ってない体のため、この夏の暑さを体に感じ、さらに走ったので汗が吹き出る。

「大丈夫、カノン」

 通信を受け取ったが、心配しているであろうハイネの声のトーンはいつもと変わらないため、本当に心配なのか分からない。

「大丈夫よ。認証が通らなかっただけで、あそこまでするとは思わなかったわ」

 駅員はテロ行為以来警戒が強くなったと言っていた。恐らく私達の行ったものだろう。

 私達の行為が逆に地上の人間のMOGを信じる気持ちを強めているのではないだろうかと、そんな思いが私の頭に浮かぶ。

 少し体を休めたら引き続き移動を開始するわと告げ、通信を切った。

 視覚情報もオフラインにしておく。

 ふと、耳に水の音が入ってきた。顔を上げると、目の前に噴水がある。子どもが喜んで噴水から一際吹き出る水を浴びている。

 そうか、ここはあの公園だ。彼女と、亡白ハイネと出会った公園。相変わらず正午に吹き出る噴水の変わらない様子に私は自然と小さな笑みを浮かべていた。この世界にも変わらないものがあっても良いだろうと思い。

 以前なら、ここでハイネが姿を表しているころだ。

 私がすぐ側の地面を見ると、そこには誰かの影があった。

 ゆっくりと顔を上げ、その人物を見た。私も、私の顔を見たその人物も驚きを隠せなかった。

「……カノン?」

 私の名を呼んだのは、真っ白な服に身を包んだかつての親友、清江セリアの姿だった。


 私の唯一の親友。彼女を裏切ったのは五年程前の彼女の結婚式の日だった。

 

 時が止まっていた。私と彼女の中だけで。それもそのはずだ、五年前に突然姿を消した人間がひょっこりと自分の前に表れたとなれば。

「カノン……あなたは、志弦カノン?」

 尚も私の名を呼ぶ、彼女に私はどう返せばいいか分からなかった。

「誰ですか? 私はそんな名前ではありませんが」

 表情を険しくして、咄嗟に別人のフリをした。

 用事があると言って立ち上がり、歩き始めた。

「待って! もし違うならあなたの名前を教えてください。なぜか、MOGに出ないんです。あなたの名前が……」

 痛い質問だ。MOGのことについては絶対に言えない、だが、濁すと余計に厄介なことになりそうだ。

「桐島ミラ。私の名前よ。これで満足できました?」

 彼女の気をMOGから逸らすために先の質問に答えた。

 思いつきで出た名前を名乗ると、彼女はまだ納得がいかないようだったが、やがてすみませんでしたと頭を下げ、手を離した。

 私は振り返ることなく、彼女の元から去った。

 視覚情報、通信機能を全てオンラインに戻す。

「今からそちらに戻ります」

 そう短く告げて、私は地下へと戻る道を歩み始めた。



 私は親友と酷似していた女性に声をかけてしまった。

 納得はいかないが、人違いだと思うことにして、職場に戻るため歩く。

 中央(セントラル)ビルの下層にある私の所属組織。世間からは存在すらも怪しまれているという『神守』の本部がある。

 白いコートを上に着て、白一色の内部に戻ってきた。みんな同じ制服に身を包む。

 五年前に働いていた会社は結婚してしばらくしてから辞めた。親友である志弦カノンが密かに退職願いを出していたのには驚かされたものだ。

 自分のデスクに戻り、近年のテロ行為をまとめた資料の整理を始めた。

 すると、私のMOGに個人通話が入ったので、団長の部屋へと向かう。

 自動ノックがなされ、中からどうぞ、と声がかかる。部屋の奥にある机と椅子。そこに一人の男性がいる。

「ご苦労だね、清江君」

 部屋の奥にいる一人の男性が私にそう言う。

 私達の長、神楽坂ユーリ。なぜ、彼がこの団体の長なのか。それは、この組織を作った総理が決めたことらしい。何か彼が総理に一目おかれる存在なのかはわからないが。

「君を呼んだのはある映像を見てもらうためだ」

 そういうと、彼は私の前に空間ディスプレイを表示し、映像を流し始める。

 駅だ。何の変哲もないその映像を私に見せたかったのだろうか。

 だが、そこにある人物が出てきた。

 先程、私が親友であるカノンと間違えた人物だ。改札で止められている。認証が通らなかったのだろうか。駅員に呼び止められ、逃げる彼女。映像が切り替わる。

 公園になった。ここはさっき私がいた。彼女が表れた。ベンチに座って休んでいる。そして、次に表れたのは私だ。

「これは?」

「先程、MOG管理局に情報の確認できない人物が発見されてね、この映像が送られてきた」

「話というのは彼女のことですか?」

「この公園での映像は、駅の映像を観た私自らが追跡機能を使って手に入れたものだ。すると、偶然にも君が映っていたんだね。彼女と何について話していたのか訊こうと思って」

 団長は私が彼女を逃がしてしまうところまで見ているに違いない。

 恐らく、私が彼女と知り合いで、意図的に逃がしたと思っているのだろう。

「行方が分からない私の友人に酷似していたので声をかけてみたんです。確かに彼女からMOGの存在は感じられませんでしたが、私情を優先してしまいそのことについては触れませんでした」

「なるほど。で、彼女は君の友人だったのかね?」

 私は少し間を置いて、人違いでしたと告げ、団長室を後にした。

 彼女はやはり、志弦カノンだったのだろうか? 私は自分のデスクに戻り、管理局のデータベースに問い合わせる。

 『神守』は捜査の一環として、MOG管理局から調べたい人間の情報を検索することができる。

「コード番号:ZX29620。桐島ミラという人物の情報を表示して」

 音声認識で検索を始める。

 すると、一件だけ、その名前でヒットしたので、その人物の情報を映し出す。

 しかし、映ったのは全く別の人物だった。映し出された桐島ミラの写真は先程の女性と全然違った。

「どういうこと……。やっぱり、あれは……志弦カノンで検索を」

 次の検索をかける。

 だが、そのデータは存在しないことになっていた。MOGから彼女のデータが消えた時間を見ると、昨日の日付だった。

なぜ、今になって突然、彼女のデータが消されたのか。

 デスクに置かれた写真立てに目をやる。二つある内の片方は、夫と一緒に映る少女の写真。

 そして、もう一つは五年前に橋からの夜景をバックに撮った親友との写真。

 認証の通らない彼女。

 偽名を使った彼女。

 MOGのない彼女。

 私の中で、あの桐島ミラと名乗った人物が限りなく志弦カノンに近い存在になった。

 私は街頭カメラの映像を取得する。

 先程、団長から観せられた映像のその先。彼女が歩いていった道を辿るため。

 しかし、カメラに映っているのは公園からでるところまで。用心しているのか、全然カメラに映り込まない彼女。

 私は目を凝らして映像を何回も再生する。しばらく同じ映像を凝視していたせいで、目の疲労が分かる程になってきた。MOGから休息を取るように指示が出たので、私は椅子の背もたれに体を預けて大きく深呼吸をする。

「なんだか、お疲れのようね」

 私の机を覗き込むようにしてくる彼女。

御崎(みさき)クロエ、この団体が設立された時からの私のパートナーだ。

「ちょっと調べものがあってね」

「さっき団長に呼ばれてたこと?」

 私はそうよ、とだけ答えて席を離れる。

「どこか行くの?」

「まだ、昼を済ませてないのを思い出してね。一緒に来る?」

 クロエと一緒にビルの上層にあるレストランに行く。

「じゃあ、さっき観てた映像はその偽名を使った人が親友か確かめるためだったの?」

「ええ。そうでなかったとしても、偽名を使うなんて、後ろめたいことがあるに違いない」

 もしかすると、あのテロ行為集団の一味かもしれないと付け足す。

「確かに、その可能性はあるわね。私達も何も出来ないままだし、早く見つかるといいのだけれど」

 しかし、私には彼女が本当に赤の他人であることを願う気持ちが産まれる。

 もし、カノンだったとして。突如姿を消した親友が社会を脅かすテロ集団の一人になっているなど考えたくなかったからだ。

「そういえば、旦那さん達は元気?」

 クロエからの質問に我に返る。

「娘と一緒に映った写真をよく送ってくるわ。向こうは快適みたい」

 カノンが消える前に結婚した私の夫。テロ行為が起こって二年目。私と彼の間に子どもが出来たが離婚した。

 しかし、本気で離婚した訳ではない。神守に入る条件として未婚者というのがあったためだ。

 私が入りたかった理由は、日本を脅かすテロ集団を捕まえることというよりも、親友であるカノンを探したいというのが大きい。

 夫には迷惑をかけてばかりだ。私が神守に入りたいと言うと、当然反対した。だが、私の無理な説得を聞いている内に観念したように了承してくれた。

 離婚届けに判を押しても、私達はお互いに愛し合っているし、今でも連絡を欠かさずに取っている。

 彼は娘を連れ、アメリカへと飛んだ。それはテロ行為から逃れるため、娘を連れて避難したのだ。

 別に私の旦那だけではない。

 外国に避難する日本人は数を増している。受け入れ先の国も日本の状況を知り、歓迎してくれている。

 まさしく、全世界平等システム万歳といった感じだ。

「この恐怖がなくなった時、皆帰ってきてくれるといいんだけど」

「そうね。皆幸せに暮らせれば」

  それはカノンも一緒にという願いも持って言ったものだった。


 引き続き、カメラ映像を何回も観る。別の角度から、視点変更も行う。

 だが、どうしても映らない。彼女の姿が見えない。

 私は明日もう一度、公園に行くことにして、家に帰る準備をした。

「もう帰る?」

 クロエが訊いてきた。

「ええ、一緒に帰る?」

「うん。ちょっと寄り道して帰ろ」

 クロエに連れてこられたのは、


 予想外の出来事に私は帰る最中ずっと無意識のままだった。ただ、街頭カメラに映り込まないようにだけは体が自然と動いていた。気がつくと、地下への扉に着いていたので、中に入る。

 いつもと変わらぬ街。今ではここが私の住む場所なのだ。

「お帰りなさい。疲れたでしょう」

 本部について早々、ハイネに出迎えられた私は休ませてとだけ言って、自分の家へと引き返す。

 帰ってきたという報告のために顔を見せにいっただけだ。

 家に着いてすぐ、ベッドに倒れ込む。汗でまだ濡れている服が肌に引っ付く感触の気持ち悪さも、明かりが点いていないことも私にとってはどうでも良かった。

 自然とセリアの顔が浮かび上がる。

 五年前の花嫁姿の彼女と今日見た彼女。何も変わっていなかった。

 顔を合わせてすぐに私の名前が出てきたことに驚きと喜びが重なった。それが、今になって私の中に出てくる。

 涙が出た。ごめんね、ごめんねと口から出る謝罪の気持ち。


 翌日。私はあの公園に来ていた。彼女、桐島ミラと名乗った志弦カノンに酷似した人物の手がかりを探すべく。

 外に出る時は『神守』のコートは着てこないようにしている。組織の人間と分かられては困るからだ。

 だから、一般人にしか見えない私が簡易スキャンシステムで普通の公園を調べているのが、おかしく思われる。

 なるべく、不自然でないように。そう思いながら、昨日彼女が座っていたベンチ、それから歩いていった方向へと足跡を画像データとして取込みスキャニングする。

 その足跡を辿ると、徐々に辺りが暗くなっていく。建物が多く並んでいるのに人の数は少ない。それに全体的に荒んでいる。

 この日本にまだこんな場所があるとは思わなかった。割と近い場所のはずなのだが。

 そんな思いで、私は行き止まりに差し掛かる。引き返そうと振り返った。

 すると、曲がり角から複数人の男が表れる。

「こんなところに迷い込むなんてツイてないなあ。俺達が道案内してやるよ」

 明らかにただの輩ではない。

 結構よ。とその男達の横を通り過ぎようとした。まあ、待てよ。

 その言葉と同時に手が掴まれた。

 反射的な行動だった。その男の腕を掴んで投げ飛ばしていた。地面に叩き付けられた男はのびてしまった。

 他の男が一斉に襲いかかる。そこまで広くないこの場所でこの数を相手に戦うのは分が悪い。

 『神守』に入団してから行ってきていたトレーニングがこんなところで役に立つとは思わなかった。

 男達は見かけ倒しで全然強くない。これなら、私だけでも。

 そう油断してしまった私の背後に拳が迫る。顔を少し後ろに向けたので気付いたが、もうガードしている間はない。

 だが、その拳は私に当たることはなかった。男の体が吹き飛ぶ。

 そこには昨日見た彼女。桐島ミラが男を殴り飛ばした状態で立っていた。

「あなた……」

「こっちよ」

 彼女は私の手を取ると走り出した。この複雑な道を何も見ないで走る彼女は何者なのか。

 しばらく走った所で表の道路に出た。乱れた呼吸を戻し、彼女の顔を見る。

 やはり、似ている。

「ありがとう、助かったわ」

「何であんなとこにいたのかは知らないけど、もう近寄らない方がいい」

「それは約束できるか分からないけど。目的は達成できたわ」

 簡易スキャンを行ったが、やはり、MOGが認証できない。

 スキャンに気付いた彼女の目つきが鋭くなる。

「何度も言うが、私はあんたの知り合いじゃないよ」

「では、桐島ミラさん。これはあなたですか?」

 昨日調べて出た、本物と思われる桐島ミラの写真を見せる。

 彼女の眉間に皺が寄る。

「あなたが偽名を使ったのは気にしないわ。この際、水に流す。ただ……」

 私の言葉に彼女は驚いていた。

「いくつか聞きたいことがある」


 彼女を半ば強引に連れてきた。それは、私が五年前、カノンとよく昼に来ていた店だ。

 彼女がもし、志弦カノン本人ならば、何かしらの反応は見せるに違いない。

「ここは認証なしでも別に何も言われないわ。安心して」

「安心って、私はもう帰りたいのだけど」

「まあ、少しだけ話しをさせて。あなたは確かに私の知り合いとは違うかもしれないけど、勝手に知り合いだと思わせて、と言ったら怒る?」

 彼女は少し考えたようだが、

「勝手にして」

 とだけ言うと、水の入ったグラスに口をつける。

「じゃあ、まず質問だけど。あなた、あの男をあんなにぶっとばす腕力をなんで持ってるの?」

 彼女は腕を組んで言う。

「その質問、そっくりそのまま返させてもらっていいかしら?」

 そう言われるのも無理はない。

 私の方が彼女よりも一般人として見られるだろう。そんな私が複数人相手に無傷で戦っていたなど疑問を持ってもおかしくない。

「仕事柄、いろいろとね」

 何の仕事をしているのかまでは言わなかった。

 だが、仕事で体を鍛えたのは事実である。嘘というのは多少の真実を混ぜる方が効果的なのだ。

 すると彼女は、

「じゃあ、私も同じ理由よ」

 私の返答に合わせてきたのだ。

「何ですって。真面目に答えなさい」

「真面目よ。あなたと同じかは分からないけど、仕事上必要なのよ」

 彼女の言葉がどこまで真実かは分からないが、追求しても答えないだろう。

「まあ、いいわ」

 私が次の質問をする前に注文していた料理が運ばれた。

 彼女の様子を見たが、何も変わった感じはなく、食べている。

「次は私から質問してもいいかしら?」

 料理をある程度食べた所で、彼女が箸を置いて話す。

 彼女の質問とはなんだろうか。

「答えられる範囲だけ答えるわ」

「それでいい。じゃあ、質問だけど。あなた、結婚はしている?」

 この状況でそのような質問がくると思っていなかった私は戸惑った。

「なんでそんな質問を」

「興味本位。では、ダメ?」

 私は少し考えて、結婚はしているとだけ言っておいた。

「その生活は幸せ?」

「……ええ、まあ」

 私は曖昧な返し方しかできなかった。夫とは電話でしか話さないからだ。

「そう、なら良かった」

 彼女は少し俯きながら、そう呟いた。

「ねえ、ミラさん。あなたは本当に何者なの?」

 私は彼女のことを詮索する気持ちが抑えられなくなった。彼女がもしカノンであったとしても、なかったとしても。

「何者、か。難しい質問よね」

「え?」

「MOGという管理の神が体にいないだけで自分が誰かを相手に分かってもらうのが困難になる」

 確かに、MOGを認証して相手がどんな人物かなどを分かることはできる。

 しかし、彼女が言っているのはそういうことではなさそうだ。

 名前、年齢、性別などの上辺だけの情報でなく、人間性について。

 相手がどのような思想を持ち、動いているかなどはシステムで分かるものではない。

 だから、私は言い直した。

「違う、私が聞いているのはそんな表面上のことじゃないの」

「じゃあ、何だって言うの?」

 それは。その先から言葉が思いつかない。この場合、先に挙げた名前などの表面上の情報の方が欲しいのではないか。自問自答をしている私に待ちくたびれたかのように彼女は立ち上がる。

「悪いけど、もう帰るわ。上司に怒られるから」

 立ち去る彼女の背中を呼び止める。

「また会えないかしら」

 振り返った彼女は、

「多分、もう会うことはない」

 とだけ言って、店を出て行った。

私はその後も、彼女の座っていた座席を眺めながら、自分は彼女の何を知りたいのか、自分の中に問いかけることで一杯だった。



 私はハイネに許可をもらってもう一度地上に出てきた。この狭い路地から抜け出せば、大通りに出られる。

 ただ、その時、何か物音が聴こえた。近寄ると、何やら騒いでいるようだ。

 こっそりと覗いてみた。

 そこには、複数の男に囲まれた、昨日出会ってしまった親友、セリアの姿があった。

 まずい、と咄嗟に身を引いた。

 助けなくては。しかし、これ以上彼女との接触は避けたい。

 私の中で二つの意志が衝突する。以前までのMOGのある体なら勝手に判断は出されていただろう。

 だが、今は私自身の考えで行動しなくてはならないのだ。

 そして、体が先に動いていた。男を殴った後からは何も考えていなかったので、とりあえず、彼女の手を引いて走った。

 懐かしかった。彼女の手を引いて走ったのは初めてではない。

 昔の話だが、彼女と仲良くなって少しした頃だ。

 学校から近い場所にある高台で空一面に星が観える場所があると言われた時だ。そこで、祭があると聞いた私は彼女とその祭に行くことにした。

 私は正直あまり行く気はなかった。人と関わるのがあまり得意でない。この管理社会を幸せだと思っていた当時でもその気持ちはあった。

 高台を目指して歩いている最中だ。祭の音が、人の声が聴こえてくる。

 何故だろうか、その音、声に私の心よりも体の方が先にセリアの手を握っていた。早く行こう。その一言と同時に駆け出していた。

 今回は星を観に行く訳ではなかったが、思い出が私の頭に浮かび上がる。


 本部に戻った私はすぐにハイネに帰還報告をしに行く。

「二時間だけでも外の世界は楽しかった?」

「懐かしさは味わえたわ」

 彼女は私に紅茶を渡すと目の前のソファに座る。

「あなたが嬉しいならそれでいいわ」

 紅茶を一口啜ったハイネはカップをテーブルに置くと、いつもの笑顔で話し始めた。

「そういえば、今年の計画を決めたのよ」

 その言葉に緊張が走る。

 一体どんなテロ行為なのか。

 私には想像もつかない。私は、どんな計画なのと訊いた。

「MOGを消した体でMOGを殺す」

 それはつまり、私達と同じ状態にした皆で管理の神を破壊しようというものだった。

「どうやってそんなこと」

「システムの入っていない私達は認知されない。つまり、MOGの置いてある場所、MOG本部に殴り込みをかける」

「でも、システムが入っていなくても、結局バレるんじゃ」

「殴り込みと言っても真っ向からじゃない。少数人数で行う。残りの人員は外に気を向けさせるための陽動作戦を行う」

 彼女は懐から黒い球体の物を取り出し、私の目の前に置く。

「これは、爆弾よ。威力や範囲はそこそこだけれど、MOGのメインPCを破壊するには充分なはず」

「なんでこんなものを?」

「カイルに作らせたのよ。彼、こういうの得意だから」

 私はハイネの言う計画がどういうものか徐々に分かってきた。

「つまり、私含め何人かは本部のビルに潜入して、メインPCを破壊。それ以外の人間は陽動を行うことで戦力を外に集中させる」

「理解が早くて助かるわ」

「この作戦が成功したらどうなるの?」

 私は素朴質問をした。MOGを破壊してしまっては、私達のいる意味はなくなる。その後はどうするのか。

「簡単ことよ。私達人類が――」

 彼女は右手を胸に当てた。

「元の人間に戻るのよ」

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