第16話 遺言の撤回  

 まさか、ノブトに相続させるなんて…。しかも全部…。あり得ないだろ…。今のオレの考え。遺言は死者の最後の意思。だから最大限死者の最後の意思は尊重される。たとえ相続人全員が反対してもだ。それぐらいのもの、なのにコウダンのおっさんはノブトにすべて相続させた。おっさんはノブトに全権を了承したと考えられる。

 あ~!クソネガネのマイナンバー知りて~。何か悪さできないかな?と言っても、この制度は日本だと税、災害対策、社会保障にしか使えないしな~。

 ちっきしょ~!オレからは何も言えない。何も言えね~。


 とりあえず、家に戻るミノリ、ミサキ、ヤワタ、トキワ。リビングルームでみんなソファーに腰掛け、黙り込む。ものすごい重い空気だ…。無理もない。長男のクソメガネにあんな事を言われたんだ。一応、家族なのだから、あんな事を言われるときついのだろう。この重い空気のなか、オレはみんなに話しかけた。

「みなさん。これからどうするのですか?」

「そうね…本当にここを出て行かないといけないの?」

逆に質問を仕返すミノリ。

大丈夫としか言えません。」

「どういうことですか?」

ミサキが割って入った。

「だって、今はノブトさんは魔王ではありません。たしか、魔族会の承認が必要だったはず。だからあくまで、魔王候補の一人。候補の一人が勝手にみんなの処遇を勝手に決めているにすぎない。」

「じゃあ、大丈夫ってこと?」

トキワが安堵したかのように隆史に向ける。

「いいや。あくまで、は大丈夫であって、ノブトさんが魔王になったらアウトということ。」

「……………………。」

トキワは何も答えない。

「ここからは、推測だけどノブトさんは、派閥を作るはず。魔王に正式になるためには魔族会の承認が必要だから、魔族の族長に片っ端から会って、自分を正式な魔王にするよう働きかけると思う。魔族の族長たちもバカではないだろうから、自分たちのプラスになるようノブトさんに提示して、それをノブトさんが飲む。ある程度数がそろえば、派閥の完成。魔族会の承認もたやすくなります。」

ミサキはオレの言ったことに疑問を呈す。

「では、魔族会の承認を得なければ魔王にならないのであれば、ノブト兄様を出席させなければいいのではないでしょうか?」

「そういうことになるけど、派閥を作られると本当にやっかい。たとえノブトさんが出席しないようにうちらが働きかけても、数の論理で多数決でノブトさんが魔王になっちゃう…」

さらにオレは付け足す。

「たぶん何だけど、現魔王が病気になった時から、派閥の形成をしていると思う。自分が魔王になるように…。みんなに隠れて水面下で派閥を作っていたと思う…」

みんなが黙り込む。この空気はマジで重い。話を変えよう。難しいけど…

「ところで、今後、どうするの?ヤワキンは?」

「ボク?そうだな~。地球に行きたいなぁ~」

「えっ!地球に来るの?」

「うん。実はもし、こうなったらと考えたことがあるんだ。」

ヤワタがしんみりと話す。こいつは、こういう状況になることを把握してたのか!?もしかしてできる子?

「ヤワタがこんな状況を予想してたの?」

ミサキが驚いている。無理もない…

「いや~ね、ノブト兄さんがここまでなることは予想はしなかったけど、もし、この世界にいられなくなる可能性ははゼロではないからね。」

「ヤワタ兄さん。考えてる~」

トキワがヤワタに向かって指をさす。

「いえ~い。」

ヤワタが答える。オレはすかさず

「ヤワキンは何をするの?」

「こうなったときのためにオレは魔界のパソコンを勉強したんだ。地球のパソコンにそっくりだと聞いている。ボクはこれを生かしたい。」

腕をグッとして答える。

「へぇ~。すごいじゃん。地球に来たら、SEとかなるの?」

「SE?何それ?」

「えっ?」

逆にオレは疑問になる。

「パソコン使って何するの?」

「ボクはあくまで動画編集にしか興味無いんだ。ボクは動画を使った仕事をしたい。」

オレは”はっ”とした。こいつまさか…

「もしかして、あれ?」

「そう。ボクはユーチューバーになりたいんだ!!」

「さようなら」

「お~い。なんだよ。シヅッチ!?」

あわてるヤワタ。

「だって、あれ職業じゃないし。本当に儲かっている人はごく少数。」

「そこにボクが切り込むんだ。」

「はい、さようなら。」

そこにミサキが

「ヤワタの話はおいておきましょう。確かに今後のことを考えないと…私たち全員魔界に居られないのよ。隆史さん、地球に私たちが行くのはどうでしょうか?」

オレは難しそうな顔をする。

「確かに住めないことはないけど、これからの生活費やら光熱費やら居住やら考えることはいっぱいだよね…とにかくお金が必要。」

「お金を稼ぐにはどうすればいいのですか?」

「本当に失礼な言い方だけど、ミノリさん、ミサキ、ヤワタ、トキワ全員が職に就いたり、アルバイトしたりとしないとお金は稼げない。しかも、お金を稼ぐことは本当に大変。」

トキワが隆史の難しい顔に

「じゃあ、簡単に稼ぐ方法ってあるの?」

トキワがさらに質問をする。

「ない、ってわけではないけど、本当におすすめはしない。」

「言ってみなさいよ!」

「本当に言うの?」

「いいわよ。言ってよ。」

この娘、地球でお金を稼ぐ大変さを知らないな…地球の人でさえ、お金がない人がやむを得ず生活費のために働く人がいるのに…

「お三方の女性ならその容姿であれば働けると思うけど。しかも、いい金額のお金が入ると思うけど…う~ん。言うとキャバクラで働けばいいんだよ。オレはおすすめしない。」

「キャバクラって?」

「町の外れに勇者のお店がある。ヤワタから聞いた。あのお店は、簡単に言うと男の人にお酒をついだり、お話相手したりするお店なんだ。地球にもそういうお店がある。」

「あそこ、そういうお店なんだ。もっといやらしいお店かと思ってた。それなら簡単じゃない。何でおすすめしないの?」

「そりゃあ、おすすめはしない。一見簡単でかなりの金額のお金が入ると言うことはそれなりのリスクがあるんだ。知らない男の人にもしかしたらセクハラを受ける場合だってあるし、ストーカーまがいなこともされることだってある。それでも我慢できるの?もし、働いたとして、太ももとか触られたらどうする?」

「ぶっ飛ばす。」

「それでは、ダメだよ。多少の我慢をしないといけないよ。だから、おすすめしないし、その生活をどんどんやっていくとトキワだったら、やつれていって自我が崩壊しかねないよ。」

「それ以外なら大丈夫って事ですよね。」

ミノリが割って入る。

「全部が全部大丈夫ってことではありません。業務が簡単なアルバイトもありますがお金は相当少ないはず。この生活水準を保たせたいなら、まず無理です。みんな、質素な生活をしないと…売れるものは売って、少しでも生活の足しにしないと…地球に行ったとしても本当に貧乏な生活になるでしょう。」

「では、どうしましょう?」

ミノリは考え込んでいる。無理もない。魔界を出て行かないといけないのだから。あまり言いたくないのだが、方法はある。ノブト次第だが…オレが言おうとした途端、そこにヤワタが

「ノブト兄さんに謝るってのは?」

「イヤだ!!」

トキワがすぐに答える。

「私もイヤです。」

あわせて、ミサキも答える。

「そうしないと、ここを出て行くんだよ。貧乏よりかはましでしょう。」

ヤワタがトキワに説得するように手を動かす。

「それでもイヤだ!」

「トキワちゃん。頑固になっていたらダメだよ。ここは折れよう。」

「そうなったら、ノブト兄様に一生従わなければならないんでしょう。それだけでイヤだ。」

オレもその気持ちわかる。あんなやつに従いたくはない。

「私も、それはイヤですね。」

ミサキもうつむきながらも同調する。

ヤワタが少し声を張り上げて

「じゃあ、どうすればいいんだよ!」

一斉に静かになる。そう、どうすればいいんだ?ノブトに謝り倒して一生従って生きるか。そうすれば、三人とも生活水準は保たれたまま生活はできる。これはこれで幸せなのかもしれない。ただ、ノブトのご機嫌取りにしかならない。それがイヤなら地球に行って、貧乏生活をするのか?今までの生活水準とは桁外れだ。けど、ノブトから解放される。他に方法はないのか?最終手段を使うか…その前に無理を承知でみんなに問いかける。

「遺言には間違いなくノブトさんにすべてを相続するって書いてあった。これを覆すにはノブトさんが無理矢理、魔王に遺言書を書かせていなければならない。これを立証するのは難しい。あ~あ、別の遺言書はないかなあ~」


その途端…………………ミサキが顔を上げて隆史に


「別の遺言書ならありますよ。」


「えっ!?」


オレはマジで驚いた。すかさず

「その遺言書見せてくれる?」

「少々お待ちください。今から持ってきますね。」

ミサキが自分の部屋に行ってとりに行く。

オレは

「ふふふふ…ふふふ…」

「隆史さん、大丈夫?」

「お母様、こいつはたまに、ああなっちゃうんだよ。」

「痛い子なんだね。」

ヤワタが哀れみの表情で心配する。


ミサキが別の遺言書を持ってきた。

「隆史さん、どうぞ。」

「ありがとう。」

オレは遺言書を見る。遺言要件もばっちりだ。しかも法定相続にすると書かれている。、ノブトが持っていた遺言よりも後の日付だ。オレは


「これで、勝った!!」


みんなが驚く。


「どういうこと!?」

トキワが身を乗り出した。

「シヅッチ!本当?」

「ああ、これでいける!ミサキかが持っていた遺言書がノブトさんが持っていた遺言書ののものでで、法定相続にする内容になっていた。つまり、これは法律上の遺言書の撤回にあたるんだ。」

オレは少しウキウキしていた。コウダンのおっさんやってくれたな…とういう感じだ。日本では遺言を撤回することはまれにあるが、現状、遺言を書いた以上、これを覆せないと思っている人がほとんどだ。しかし、魔界の法律は、日本の法律とほぼ、同様だからこの制度もある。

「隆史さん、とは何ですか?」

ミサキが質問をする。

「ミサキ。ちょうど良かった。法務委員として、この制度を知っておくべきだね。」

「はい、お願いします。」

「他の皆さんにも説明しますね。」

「オッケー!」

トキワも説明を聞こうとする。ミノリ、ヤワタも同様だ。

「遺言者は、いつでも何ら特別の理由がなくても自由に遺言の全部又は一部を撤回することができるんだ。これをと言うんだ。つまり、魔王が遺言書を書いて、後日、第一の遺言をや~めたと思って、第二の遺言を書き直す事なんだ。」

「そうなると、どうなるのですか?」

まだ、ミサキは把握していない。この説明ちょっと難しいかな。

「最初に書いた遺言を第一の遺言とすると、これをや~めたにするために次の遺言、第二の遺言を書き直すことで、第一の遺言は意味なくなって、第二の遺言が効力が出てくるんだ。」

「つまり、後の遺言が効力があって、ノブト兄様の遺言書は意味なくなる事でいいよね隆史。」

トキワが簡単にまとめる。簡単にまとめやがって…

「そういうこと。」

「よかった…」

ミサキは安堵する。

「ミサキ、それではダメだよ。法律を勉強する方は結論ありきではいけないんだ。なんでこれが遺言の撤回にあたるかちゃんと吟味しないといけないよ。」

「はい、申し訳ありません…では、なぜ今回の遺言が撤回されたのでしょうか?」

「まず、第一の遺言を思い出して。第一の遺言はノブトさんに相続させるだった。第二の遺言、ミサキが持っていた遺言は法定相続にさせるだ。つまり、前の遺言が後の遺言の内容に抵触する。この時はその抵触する部分については後の遺言で前の遺言を撤回したとみなされるんだ。これをかっこよく言うととも言うんだ。」

「では、抵触しない部分はどうなるのですか?」

「第一の遺言のが有効となる。今回の魔王の遺言は明らかに抵触する。わかりやすいぐらいに。」

本当にわかりやすい。オレは思う。わざとやったに違いない。コウダンのおっさんとしては推測になってしまうがみんなで仲良く今後やってもらいたい意思が遺言書で伝えたかったかもしれない。たぶんノブトには最初の遺言で期待を持たせ、ノブトの動きが自分よがりでなければそのまま魔王にさせようと思ったが、ノブト自身に変な動きがあったから第二の遺言をミサキに預けた。コウダンのおっさんは遺言の撤回について知っていたから、この行動を起こしたのだろう。

「では、すぐにノブトを呼びますか?」

ミノリが隆史に問いかける。

「いいえ。新魔王の承認する魔族会がある時にこのことを公衆の面前に言いたいと思います。」

「そうですか。」

ミノリは不安そうだ。

「やはり、ここでお話しませんか?」

再度、ミノリは隆史に問う。無理もない。どんなに悪いことをしたとしても家族だ。公衆の面前で恥をノブトがさらされるからだ。

「いいえ。ご家族の気持ちとしてはよくわかりますが、さらにオレとしては秘策があるので…」

「秘策って?」

ミノリが聞きたそうだ。それじゃあ秘策にならんよ…

「ひ・み・つ…てへっ」

「隆史、マジキモい…」

思いっきり引かれました。

「わかりました。新魔王承認式の魔族会は多分、近日中にとり行われると思います。私もその日にちを聞こうと思います。そして、私たち家族一同、そして隆史さんにも出席させるようとりはからいます。それでいいですね。」

「はい。よろしくお願いいたします。」

オレは一礼する。

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