第15話 相続人たちのいざこざ

 みんなは家族の縁が切れるのはどういう時かご存じだろうか?それは家族と仲が良くないときに起きる。たとえば、自分もしくは家族の誰かが暴言を吐いたり、虐待をされたりと”家族の仲”のバランスが良くないことにある。さらに、もっと簡単に縁が切れる場合がある。これが相続人たちのお金の問題である。

 家族の一人が死亡する。交通事故や急な病気ですぐ死亡する場合もあるが、老衰での病気で死亡する人がほとんどである。相続人つまり子供たちは年をとっており、様々な人生を送り考え方もその人生により変わっていく。さらに子供たちが大人になり、結婚をする。その配偶者つまり妻、夫が、その親戚が入れ時恵をする。そうなってくとややこしさが倍増する。これは、少しでも自分の人生にゆとりがほしいがためのものである。だから、遺産を少しでも多くもらいたいのである。

 このことが起きやすいのが死亡した人がたくさん遺産を持っている場合である。子供たちが仲良く、みんな連絡を取り合っていて、たまに自分の状況を話したり、直接会ったりしているときは起きにくい。しかし、相続人たちの音信不通の場合がいざこざが起きやすいとされている。相続人の一人が死亡したことの知らせを聞いてすぐに実家に戻って、相続人たちの遺産の話でごねるのである。ごねれば少しでも多く遺産をもらえると思っている相続人が本当に多い。日本ではあまりないと思われているが、のである。

 確かに、法定相続なら文句はないだろうが(法律で決められているので)、不満を持つ相続人にとってみれば多く遺産をもらえるはずなのにと踏んでいたのに結果、少ししか貰えなかった。というが残る。そして、こののせいで自然と家族の縁が切れていくのである。法律だから文句は言えないが、あくまでこれは法律論の話であって、家族の感情論とは別問題である。

 こんな時こそ、『遺言』が重要になってくるんですよ!奥さん!!遺言なら相続人みんな文句は言えない。死亡した人の最後の意思だからなんですよ!だから、みんな!相続で遺産を多く持っているなら遺言かこー!!オレのおすすめは公正証書遺言です。お金はかかるけど…


 では、魔界はどうなっていくのであろう。日本と同じになってくのか…。


「では、これより、魔王の次期候補、財産の分配について話し合いたいと思う。」

ノブトがみんなに向かって話しかける。

「そこで、隆史君、君は法律について、知っていると思うがどうだろうか?助言を頼む。」

「はい…」(なんだよこの上から目線!むかつきます!!)

「どうした?はやくいいたまえ!」

「…(こんな態度だから話したくなくなるんだよ!)」

「はい…言いますね。まず、財産の関係はこの魔界にも民法があって、基本、日本と一緒です。なので、法律で定められているのは、奥さんのミノリさん二分の一、残りの二分の一をノブトさん、ミサキ、ヤワタ、トキワで分け合いますので各々六分の一ずつとなります。」

「すくないな。他に方法はないのか?」

ノブトは隆史に詰め寄った言い方で語りかける。

「(こいつ、マジでウザいな!)ありますよ…」

「だったら、早く言わないか。」

オレは、メガネ(久々に言ったなぁ)を殺せる魔法があったら今、したい。早く、したい。心の中でザラキを唱えたい。

ザラキはなかなか成功率低いんだよね…。

「……はい。言いますね。法定相続以外の方法もありますけど…これは、ミノリさん、ノブトさん、ミサキ、ヤワタ、トキワの相続人全員の話し合いで誰が財産を相続するか決める方法もあります。これを遺産分割と言いますが、これで行うのですか?」

「そうすれば、財産は私のものになるのか?」

「いいえ。これはノブトさんのだけの問題ではありませんよ。ちゃんと全員で話してもらわないと…」

「だから、何度も言わせるな。私だけのものにする方法を言えと言っているんだよ!」

ノブトは少し怒り口調で隆史に向かう。何!このモンスターペアレント!オレもさすがに怒るよ。

「だ・か・ら、今話せ!って言っているんだよ!!」

ノブトが少しひるがえる。

「隆史、怒ると意外と怖いわね。」

トキワがびっくりした表情でミサキに問いかける。

「ええ、私も、驚きましたわ。普段は温和な方ですから…」

ミサキも驚いている。

「ひゅ~」ヤワタは感心している感じだ。

そこに静止をかけたのがミノリだった。

「ノブト!おやめなさい!隆史さん、ごめんなさいね。」

ノブトに向かって一喝する。ノブトは黙り込む。

「いいえ。こちらこそ怒鳴って申し訳ありません。ノブトさん、申し訳ありません。」

ノブトは何も言わないまま、無言で頷く。

「隆史さん。みんなで話さないといけないのでしょうか?」

「結局は、話さないと行けないと思います。」

「そうですか…」

「では、みなさんどうしますか?」

ミノリはみんなに向けて意見を聞く。

「私は、法定相続でいいと思います。みんなで仲良く分け合えますし…」

ミサキが先陣をきる。

「私も、ミサキ姉さんと一緒で」

トキワもミサキと一緒の考えのようだ。

「う~ん。う~ん。とりあえず、それで。」

かっこつけるヤワタ。お前は考えてないだろ…

「では、法定相続にしますか。」

意見をまとめるミノリ、しかし、ノブトが反対する。

「私は、認めません!ここは、長男たる私が全部相続するのがスジなのでは?」

「けど…みんなの意見が法定相続なのだから…」

ミサキが戸惑いながらも反対の意思表示をしている。

「ミサキ、お前は歴史の勉強よくしていたよな。」

「………はい。」

「歴史は、どこの世界でも父親が死んだら長男がすべて実権を握るのだ。だから、私がすべてを握るべきなんだ。」

「でも…」

「でも、ではない。私がすべて相続すれば、みんな幸せなんだ。」

でたー。論理をすり替えて結局自分のものにしたい口実が見え見えだぜ。オレが軌道修正しよう。

「ノブトさん。勝手ながら、お話しますけど、今は法定相続でいいか、悪いかで、あと、歴史は確かにそうかもしれませんがこういうことがあるから、歴史から学んで法定相続が生まれたんです。」

「私は、一切、法定相続は認めないと言っているんだ。」

この人、論理が破綻している。みんなの意見は法定相続でいいかなのに、この人は法定相続の話はさておき、ノブトがいかに全部相続しなければ認めないという考えだ。この人に何言っても一緒だ。

オレはミサキに小さい声で

「ノブトさんに何言っても一緒。もうだめ…この人は絶対に折れない。」

「ごめんなさい。隆史さん…。」

「法定相続でいいんだよね…」

「いいと思います。トキワ、ヤワタもいいと言ってますし、お母様もいいと思っているはずです。」

「じゃあ、オレがいっきにたたみかけてみるよ。」

オレは一呼吸おいて、少しでかい声で

「皆さん、こんなことでいざこざはよくありません。そこで、多数決で法定相続にしようではありませんか。」

「急に何を言っているんだ!おまえは!」ノブトが驚いている。

「ノブトさん、法定相続は法律で決められたものです。本来は文句を言えるものではないんです。」

「わたしはそれがイヤだと言っているんだ!」

「あなたは、法律を守ってない。ことになるんですよ。ではなんのために法定相続があるか逆に聞きたいです。」

「それは…」

答えられないみたいだな…よし、これで決定だ。

「では、法定相続でけって…」

「待て!私は認めないのはもう一つある。これを見ろ!!」

ノブトが取り出したのはなんと、遺言書だ。オレはあっけにとられた。

「ははははは!父上はこんなことがあろうかと遺言を残してくれたのだ!はっははは。」

「ちょっと待った-。」

オレは叫んだ。

「何事だ!!」

ノブトは少し焦る。

「なんで、勝手に遺言書の封筒を開けた?これは、自筆証書遺言にあたるから、勝手に封筒は開けられない。日本だと家庭裁判所で開封して検認手続をするのが普通なんだけど…」

「魔界では魔王がいざこざとかを自分自身でやってきたので…」

ミサキが慌てて言う。ということは魔界にこの手続きの条文があっても機能していない事か…チッ、だめか…。

「ごめんなさい。その遺言書見せてくれませんか?」

少し焦りながらもオレは遺言書を見せてもらう。

遺言の内容は確かにノブトに相続させる内容になっている。遺言の要件をチェックする。要件に不備はないみたいだ。マジか!コウダンのおっさんはノブトに相続させるのか?おかしいだろ。これでは全部ノブトに遺産が全部いくぞ!

「私にも見せてくれませんか?」

ミノリが遺言書を見る。

「間違いなく夫コウダンの筆跡です…」

「…隆史さん。」

「…隆史。」

ミサキ、トキワがオレを見る。オレは首を横に振る。

「この遺言書は有効なものであります。内容はすべてノブトさんに相続させることになっています。遺言は死者の最後の意思であります。この意思は最大限尊重しなければなりません。これは、法律でも定められています。つまり、すべてノブトさんのものになります……。」

一番言いたくないことを言ってしまった。オレはまだ腑に落ちない。けど遺言で書いてある以上はそれに従わないといけない。

「ははははは!これで決まりだな。すべてぼくのものだ!後継者もぼくだ!はははは!」

みんな黙り込む。

ノブトがさらに追い打ちをかける。

「さっき隆史はぼくをバカにしてたな…」

「…………(そうだよ。と言いたい)」

「おまえはいらない。帰れ!法務委員会も近日中にたため!」

何も言えないオレ。ミサキが割って入る。

「お兄様。これはお父様が立ち上げたものです。たたむなんて…」

「ミサキ、おまえはこの魔界から出て行け!」

「えっ!?」

「何度も言わせるな!魔界から出て行け!」

「ノブト兄様。ちょっと言い過ぎじゃない?」トキワはミサキを擁護する。

「トキワ。お前も一緒に出て行け!ついでにヤワタもだ!」

「えっ!?ボクも!」

ミノリが怒り口調でノブトに

「ノブト!いくら何でもやり過ぎですよ!おやめなさい!!」

「お母様。あたもいりません。出て行ってください。この世界は私ものです。父コウダンからすべて相続されました。あなたたちはもういりません。ははは。なんか笑ってくる。あっ、そうだ。私が正式な後継者になるまではここに住まわせてやるよ。その間に荷物でもまとめておくんだな。」

怒りがこみ上げてくる。コウダンのおっさんは何考えてるんだ!?けど、こうなった以上はしょうがない。魔王ノブトになるまで多少の時間はある。考えなければならない。こいつに魔王は任せられない。ミノリ、ミサキ、トキワ、ヤワタは悲壮感に打ちひしがれている。



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