第6話 魔王と面談

 魔界の王にオレは会う。正直、どきどきする。殺されるのでは?と思ったりもする。けど、ここまで来た以上、後戻りはできない。もうどうにでもなれ、という気持ちだ。魔王に会う前に、魔王の妃と次男に会うみたいだ。どんな方か気になります。私、気になります!

「もう少し歩きますので…」

ミサキは隆史の隣に歩く。

「そう。結構遠いね。」

「この城自体迷路みたいになってる。この迷路を利用して、客人を父上に謁見するには、わざと遠回りさせたりもするんだ。」

ノブトがまっすぐ見ながら歩く。二人の前を歩く。

「まるで、日本の最高裁判所みたいだな。」

「どういうことです?」

ミサキは疑問に隆史に問う。

「日本の最高裁判所は、司法の最高権威なんだ。その内部を一般人に覚えてもらわれたら困る。だから、最高裁判所の職員はわざと遠回りさせて、わからないように一緒に付き添って歩くんだ。つまり、この城もそんな構造にさせていることが似ていると思ったんだ。」

「そうなのですか。」

ミサキは関心する。

「そういうものなんだな。ひょっとしたら、どこの世界でも同じ事をさせているのではないのかな。フフ。」

ノブトは隆史に対して、メガネを光らせる。

………やっぱり、こいつウザい!オレはこいつどうもいけ好かない感じがする。

そういているうちに、ある一室に着く。

「ここに、お母様、弟ヤワタがいる。お母様入ります。」

「どうぞ、お入りください。」

やわらかい声が聞こえる。癒やされる~。大きい扉を開くと、魔王の妃ミノリが椅子に座っていて、ヤワタはノートパソコンを食い入るように見ていた。

 ミノリが隆史の所に向かい、挨拶をする。

「初めまして。隆史様、私のこの魔界キタナラシノの夫コウダンの妻ミノリと言います。よろしくお願いします。遠かったでしょう。」

「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。(本当は遠いぜ!)」

「そこにいるのはヤワタともうします。ヤワタ、挨拶しなさい。」

「はーい。母様。初めまして。ボクはヤワタ。よろしくね。あと暇があれば地球のこと詳しく教えてくれないかな。」握手をしてくる。

弟ヤワタも腐女子が好きそうな感じがする。ノブトと違い、話しやすい印象で、髪はロングではなく、耳がかかる程度で、しかも背がでかい。くう~うらやましい。

「こちらこそよろしく。ノート見てたの。」

オレも握手をしかえす。

「そう。今、新しい動画を作って編集中なんだ。」

「へえ~。おもしろそうだね。こんど混ぜてよ。」

「よろこんで。やっぱり気が合いそうだ。隆史君のことシヅッチて呼ぶね。」

「いいよ。オレも動画サイト好きそうな方だからヤワキンって呼ぶよ。」

「いいね~。お互いあだ名で呼び合おう。」

多分、こいつとならうまが合いそう。さらにヤワタが

「せっかくなんだから、ミサキ姉さん、トキワを呼び捨てにした方がシヅッチも話しやすいでしょ。」

オレはミサキ、トキワを見て

「いいの?」

「別に構いませんよ。その方が私も話しやすいです。」

「オッケー。よろしく隆史。」



「ご挨拶はその程度にして、隆史様、この後、コウダンに会ってもらいます。その前に簡単な説明をしなければなりません。」

ミノリはあらためて姿勢をただす。

「はい。お願いします。」

隆史も姿勢をただす。

「実はコウダンは重い不治の病に倒れてます。多分、長くないでしょう。コウダンは日本の国を手本として、この魔界を統治してきました。しかし、コウダンが亡くなれば大変なことが起きるでしょう。コウダンは法治国家こそが長く国を持たせると持論しています。

そこで、志津隆史様、あなたにも是非ともコウダン亡き後も手伝って頂きたいのです。」ミノリが説明をする。

「オレでいいんですか?日本の法律を知っている人なんて日本全体で何万人、いや何十万人といっぱいいるのになぜオレなのですか?」

「それは、私の占いです。私の占いは結構あたるのですよ。そこで、あなたがよいと判断したのです。大変申し訳ありませんが、手伝って頂けないでしょうか?」

ミノリは懇願している。

 オレは考える。責任重大じゃね。占いでオレ?法律知っている人なんて日本で腐るほどいるのにオレ?けど、ここに来た以上、多分逃げられない。もし、断ればトキワ嬢になにされるか分からない。多分、ちぎっては投げ、ちぎっては投げされるのではないか…。

オレはさらに考える。もし受けたとして、魔界に骨を埋めるの?それはイヤだ。オレは地球で死にたい。こんなところで死んでたまるか!よし、条件付きでのむとするか。

「分かりました。引き受けます。ただし条件があります。家族との連絡はいつでも取れる状態であること。オレが地球に戻りたいときに戻れること。オレ一人では、魔界の法律は覚えきれないし運用も難しい。手助けしてくれる方がいること。これで良ければ引き受けます。」

「わかりました。そのように致します。受けて頂いてうれしいです。」

ミノリがにこやかに握手をする。今度は、がっちりと。さらに近くにミノリを感じる。やべ~。いい匂い…。

「本当によかった…私うれしいです。」

ミサキも両手を口に喜ぶ。

「志津隆史、見直したよ。」

トキワも喜んでいるように見える。

「これから、父上に会うけども、準備はいいかい?」

改めてノブトは隆史の前に立つ。

だから、オレの前に立つなよ!ウザい…このメガネ!そんな表情を出さずに

「いいよ。行こう。」



 部屋を出て、少し歩いたさきに、魔王コウダンの部屋に着く。部屋の前でもプレッシャーを感じるほどだ。さすが魔王。部屋の前がなんか重いぜ。段々、緊張してきた。部屋の前に、ノブト、ミサキ、トキワも同行してくれた。

「緊張なさらずに。お父様はとても言いかたですよ。」

「大丈夫だよ。私も一緒について行くから。」

トキワが励ましてくれる。

「ありがとう。」

「私も、ついて行きたい所だけど、女性二人と一緒の方が少しは緊張はほぐれるだろう。

私はここで待つとするよ。」

メガネを光らせて、ノブトが二人に対して言う。


「わかりました。そうしましょう。では隆史さん。ノックしますね。」

「ええ。どうぞ。」

そして、ミサキはドアをノックする。

「お父様、志津隆史さんを連れてきました。」

「入りなさい。」

野太い声がする。

「入りましょ。」

トキワが隆史の手をとって誘導する。

カダンと扉を開き入る。部屋は少し暗いが、全体的に広い。さっきのゲストルームと偉い違いだ。魔王コウダンの肖像画がとにかくでかい。って言うかでがすぎじゃね!?

 隆史、ミサキ、トキワが魔王コウダンのベットの前へと行く。ついに魔王のベールを見た。あれ?肖像画の威圧感みたいな感じではなく、少しでかいおっさんって感じだ。話しやすそうな感じではある。病気のせいでやつれているな…。

「よく来たね。」

コウダンは病気ながらも優しい表情で隆史にむける。

「はい。」

「どうやって来たの?」

「異世界からです。」

「もしかして臭いほうから来たの?」

「そうです。おもいっきり吐きました。こんなに吐いたのは初めてです。」

「ハハハハ。そうか、大変だったね。」

コウダンはにこやかに笑う。

「ところで、隆史君といったかな。地球でミサキ、トキワに魔界を助けてほしいと言われて来たんだよね。」改めて問われた。

隆史は右手を後ろ髪をかきながら

「いや~。実は千葉みなとの海を見ていて、急に黒い布で…フベシ!」

トキワが隆史にローキックをかます。

「トキワ嬢、なにするの!?」

隆史はトキワに向かって怒る。

「お父様、ちょっとごめんなさい。隆史、ちょっとこっち。」

トキワはにこやかに言う。隆史はトキワにつれられて歩く。コウダンに見えないところで

「隆史、テメー、本当のことを言ったら殺す。わかったかわね!」

「はい。イイェッサー。」

そして、二人がコウダンのところへ行く。

「どうしたの?何かあったの?」

ミサキは心配する。

「なにもないよね……た・か・し。」

トキワが威圧してくる。まさしく王の力だ。

「……はい……なにもありません。」

トキワに萎縮した隆史は魔王に話を続ける。

「魔王様、ごめんなさい。話、続けますね。実は千葉みなとの海を見ていて、二人の天使が現れて、魔界が大変なことが起きているので、助けてほしい。助けてくれたら、二人を何でもしていいって…ギャフン!」

ミサキ、トキワが二人でローキックをかます。これ地味に痛いからやめてよ…

今度は、二人に連れて行かれる。

「隆史、何言ってるの!」

少し焦った表情でトキワが言う。

「隆史さん、二人でなにしてもいいとは言ってませんよ…別に私ならゴニョゴニョ……」

少し赤らめた表情でミサキが言う。

「ミサキさん。何か言った?」

「別になにも言ってません!」

焦った表情で隆史に怒る。


 コウダンはミサキ、トキワ、隆史をみて、

「ミサキ、トキワそして隆史君の組み合わせはおもしろいね…元気が出るよ…よし、ミサキ、トキワは部屋から少し出てくれないかな。隆史君だけで話したい事がある。」

コウダンはまじめな表情になる。

『分かりました。それでは失礼します。』ミサキ、トキワは部屋を出る。


 オレと魔王だけ、部屋全体が静まりかえる。少し暗い部屋の中、時計の音が聞こえてくる。人が集中するときは周りが聞こえなくなると言われる。そんな感じだ。この静けさは心地いい。静寂の中、コウダンは話し始める。

「おおかた、ミサキ、トキワに無理矢理連れてこられたのだろう。私が謝るよ。申し訳なかった。実は私は病にかかっている。直りそうもない。私がいなくなったら混乱が起こるだろう。そこで、こういうことが起こらないためにも法律を作った。しかも、魔界の法律は日本を手本にしている。隆史君は法律を勉強していると聞いている。魔界の法律は日本に似ているので隆史君はある程度、魔界の法律を理解できるであろう。どうだろう改めて問うが手伝ってくれないか?」

「………………はい。私で良ければ微力ながら手伝わせて頂きます。奥さんにも伝えていますが、地球にいつでも戻れること、家族に連絡がとれるならと条件はつけていますが。」

「そんなことであれば、その条件は飲もう。」

「あと、質問がありますが魔界の方は法律を知っている人はどれくらいいますか?」

「そんなにいないと思う。争いごとは私が対応をしてきた。だから、魔界全体に法律をもっと浸透させたい。」

「時間かかりますよ。」

「それでもだ。」

病気ながらもはっきりと隆史に向かって。

「それでは、早速ですが、提案させて頂きます。今のうちに改めて、魔界は法治国家の宣言を高々とコウダンさんが言ってください。言いづらいなら書面で魔界の方全員に伝わるようにしてください。そうしないと、もしコウダンさんがいなくなればすぐに戦争が起きるでしょう。」

「わかった。すぐに書面で何とかしよう。」

さらに、コウダンはすこし姿勢を正して

「あと、志津隆史殿、貴殿を魔界の法務委員の委員長に任命する。日本で言うところの法務大臣だ。がんばってもらいたい。」

「(えっ。オレすげー出世ではないか?大丈夫かな…心配だ…けどしょうがないし…)分かりました。がんばります!」

隆史はにこやかに言った。

「そのいきだ!がんばれ!!」

コウダンもにこやかに隆史に答えた。

「法務委員はまだ、誰もいない。隆史君にすべてを任せる。委員のメンバーは隆史君が決めて構わない。委員の人数もだ。しかし、予算は私は関与していなので、がんばって魔族会から要求してほしい。今回だけは私のポケットからだすよ。」

「ありがとうございます。」



「最後に、私がいなくなったら魔界の法律で日本と同じように民法がある。隆史君よ~~~く読んでおいてくれ。特に相続の章を。」

「わかりました。読んでおきます。」

何言っているのであろう。特に相続の章をよく読めと言っている。気になるな…時間が空いたら読むとしよう。

「では、失礼します。」

「がんばってくれ………。」


 部屋をでると魔王一家が出迎えてくれた。

「どうだった?」

トキワは気にしているようだ。

「ここじゃなんだから。」

「そうね。ゲストルームに行きましょう。」

ミノリは案内する。

ゲストルームに着いて、一息をする。ミノリが紅茶をだす。みんなに紅茶を出した後、軽く紅茶を隆史がすすって話す。

「まず、私がここの法務委員の委員長に任命されました。この委員は私の独断で構成をできるとのこと、すぐに魔界全体に書面で改めて法治国家であることの通知するとのことです。」

「そうですか。そのように準備しないとね。」

ミノリが紅茶をすする。

「隆史さん、その法務委員の委員は誰を選出するのですか?」

ミサキが気にする。

「う~~ん。まだ、なにも決めてないよ。とりあえずは魔界の法律を読まないと。」

「隆史君、私をその委員にしてくれないかな?」

ノブトが相変わらず上目線で迫る。

「ごめんなさい。本当になにも決めてなくて…(だれがおまえを選ぶか!)」

「そうか。もし、必要となったら声をかけてくれ。」

「うん。そうする。(ゼッテ~おまえを選ばない!)」

「けど、ノブトさん。魔界の他の地位になってるのでは?」

「いいや。私はなにもなってないよ…。父上はなぜか私を要職に就かせてくれないのだ。多分、私の力を恐れているのではないかな?」

「ふ~ん。」

メガネ!おまえはアホだ。こんな性格じゃ無理だ。要職なんてもってのほかだ。さすがコウダンさん、自分の息子の実力を分かってらっしゃる。メガネの馬鹿さを社会にだして分からせてやりたい。そうだ!こいつをブラック企業に働かせよう。何日で根を上げるだろう。日本に連れていって働かせよう…

「今日は、ここまでとしましょう。みなさんお疲れでしょう。」

ミノリが話を切り上げる。

「そうですね。お母様。私も疲れました。」

「私も~」

「みんな、お疲れだね。」

ヤワタはみんなをねぎらう。


「ところで!!」隆史がミノリに迫るように言う。



「なんですか?」

「家族に連絡させてください。」

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