第29話 隆史のいない法務委員会②

 今日は、セカンド・リテーリング社の現在の代表取締役に会う日です。とても緊張しております。私、初めて法務委員会のお仕事をします。お父様の知りありでもある御方なので、昔話も伺えればとも思っております。


「では、行ってきます。」

私は自宅を出ます。そうしたら

「ミサキ姉さん。トキワも行ってもいい?」

私の妹トキワが行きたがってます。こればっかりはダメです。これはお仕事なのですから。

「トキワ、ごめんなさい。」

「そう…。」

トキワは悲しそうな目で私を見ます。ダメです。そんな目をしていたら…私、連れて行ってしまいそうです。そうだ!もしもの事があったら行けないので私はトキワに

「トキワ、今すぐ、日本に行って隆史さんを連れてきてくれる?」

「え~~~~!」

何で嫌がっているの?

「だって、日本への出入り口臭いもん。」

そうでしたね。あの異世界を通じる道、臭かったでしたね。今思い出すと吐きます…

「トキワ。今回の依頼はとても大変なのです。私にも何かあるかもしれません。だから、最悪のことを考えて、隆史さんを連れてきてもらいたいの。」

「姉さんがそこまで言うなら行くよ…」

明らかに嫌がっています。ごめんなさい…トキワ。そんな時でした。

「ミサキ姉さん。セカンド・リテーリング社に行くんだって!?」

へらへらした表情でヤワタがきました。もうちょっとしっかりしなさい!

「はい。これから行きます。」

「ボクも行っていい?」

「ダメ。」

「即答!?」

ヤワタを連れて行ったらもう、大変なことが起きそうです。

「ボクを連れて行った方が、姉さんのためになるよ。」

「どうして?」

「ボク、セカンド・リテーリング社の幹部と仲が良いんだ。」

どうして、仲が良いのでしょう?私は

「幹部の御方とどんな関係ですの?」

「い~や~飲み仲間?」

「飲み仲間?」

「そうそう、飲み仲間。」

私はヤワタをじっと見てます。飲み仲間が怪しいです。

「本当に飲み仲間ですの?」

「厳密に言うとキャバクラの飲み仲間です…」

ほ~ら、そんなことですの!

「ヤワタ、キャバクラとか変なところに行ってはなりません。」

ヤワタが怒ります。

「姉さん!!キャバクラは変なところではないよ!!ここで、重要な取引があったり、接待したり、情報の共有したりとためになる所なんだよ!!」

「そうなのですか?」

「そうそう。」

急にヤワタがニコニコします。怪しいですが、う~~~ん。しょうがないですね。

「では、ヤワタ一緒に行きましょう。」

「わかった。準備するね。ボクが場所詳しいから案内するね。」

「わかったわ。」

私はトキワに

「ごめんね。トキワ。隆史さん連れてきてね。」

「わかったよ。ミサキ姉さん。行ってくるね。」

「はい。行ってらっしゃい。」

トキワが走って行くのが見えます。はあ~ヤワタと一緒ですか…何も起きなければ良いのですが…

「姉さん。おまたせ~。」

「はい。では行きましょうか。」


       *        *        *


 セカンド・リテーリング社はこの魔界の中央街で、一番栄えているところにあります。中央街はビル群がたくさんあって、ついつい上ばっかり見てしまいます。まさに経済の中心地です。私とヤワタが歩いていると

「ミサキ様とヤワタ様が歩いていらっしゃるわ!」

「本物だよ~」

「お二方が一緒に歩くのはまれだよね。」

こんな声が聞こえます。私たちは挨拶を交わしながら歩いて行きます。魔王一家たるものの宿命なのかもしれません。


「姉さん。ここがセカンド・リテーリング社の本社だよ。」

私は驚きます。

「このビル全体がそうなの?」

「そうだよ。このビル88階建てなんだよ。」

「88階!?」

「うん。社長はたしか55階の社長室に居ると思うよ。」

「なんで55階なの?」

本来は最上階にいると思うのだけど…

「最上階だと、もしも災害があったら逃げられない。けど、それなりの階層に社長室は置きたいという社長の意向らしいよ。」

「そうなの…」

私は社長の意向はどうもわかりません。どうでもいいと言ったらどうでもいいです。

ヤワタが

「入りますか。」

「そうね。入りましょう。」

私、ヤワタがセカンド・リテーリング社のビルに入ります。

入った途端…社員の皆様が

「ミサキ様だー!!ヤワタ様もおられるぞ!!」

「ミサキ様。お美しい。」

「きゃー!!ヤワタ様、かっこいい!!」

かっこいい!?私は疑問を抱かざるを得ません。

私、ヤワタが受け付けの窓口へ行きます。

「あの~。」

受付の方が

「はい。ミサキ様。どのようなご用でしょうか?」

「ここの社長とお会いする予定がございまして。」

「承りました。少々お待ち頂けますか?」

「はい。よろしくお願いいたします。」

私はお辞儀をします。そんなところにあのヤワタが他の女性の方とお話ししたり、挙げ句の果てにサインまでしているのではありませんか。

「ヤワタ!何しているのですか!こっちへ来なさい。」

「ごめん。ごめん。姉さん。国民へのサービスです。」

「何言っているのやら…」

やっぱり、連れてこなければよかったと思ってしまいます。

「ミサキ様。ヤワタ様。社長がお待ちしております。どうぞこちらへ。」

私、ヤワタを受付の方が社長専用のエレベーターへ案内してくれます。

「では、このエレベーターに乗って頂ければ、すぐ社長室に着きます。」

「ありがとうございます。では失礼します。」


エレベーターに乗るととても高速で、1分のしないうちに着きます。こんなに速いのですか…すごいです。

エレベーターを出るとそこに

「ミサキ様。ヤワタ様。お待ちしておりました。私がこのセカンド・リテーリングの社長ホンゴウと申します。」

「よろしくお願いいたします。」

「ヨロピク。」

「こら、ヤワタ。何言ってるの!」

そんな時、ホンゴウ社長が

「いえいえ。いいのです。私とヤワタ様の挨拶でもあります。」

私はヤワタに

「そうなの?」

「そうだよ。だから言ってるじゃん。飲み仲間だって。」

「たしか、幹部の方と仲がいいのでは?」

「幹部じゃん。」

「ヤワタ。この方は幹部じゃなくて、社長よ。」

「幹部と社長そんなかわらないじゃん。」

「もう…」

ヤワタの交流関係がとても不思議だわ…

ホンゴウ社長が

「ささ、そんなことよりこちらへどうぞ。」

私、ヤワタが案内されます。

社長室はとても大きく、でかいソファーがあります。そこに私たちは腰をかけました。


       *        *        *


私は

「今日は、法務委員会の委員長代理としてきました。よろしくお願いいたします。」

「そうですか。確か、委員長志津さんでしたか。どうしましたか?」

「今、帰省中です。」

「そうですか…是非ともお力をお借りできればと思っていたのですが…」

「そこで、私が委員長代理でお話をお聞きしたいと思い伺いました。」

「左様ですか。」

「お話頂けますか?」

「はい。実は近日中に定時株主総会がありまして、私と私の側近の取締役全員が解任されてしまいそうなのです。」

「解任ですか?」

「はい。私は今のままでこの会社を成長させようと思っているのですが、私をよく思っていない経営陣が経費削減するべきだということで現社長である私たちを解任の株主提案があるのです。」

「それは、大変ですね…」

「そこで、お力をお借りしたいのです。」

そこにヤワタが

「ホンゴウさん。今、シヅッチじゃなかった。志津君は帰省中ですがもうすぐ戻ります。その時に詳しいお話した方がいいのでは?」

私は、少し怒ります。

「いいえ。大丈夫です。私は、隆史さんの代理で行ってます。」

ヤワタが

「では、姉さん。この場合どうすれば良いの?」

「説得しかないでしょ。」

「他の経営陣がイヤだと言ったら?」

「それでも、説得するしかないでしょ。」

ヤワタが”はあ~”とため息をついて

「姉さん。シヅッチは多分、もっと他の方法考えるよ。説得だけではどうにもならないよ。」

私は黙ります。

「いい。姉さん。この世の中、きれい事では済まされないだよ。確かに姉さんが思っているように説得出来ればそうしたいよ。けど、こんなに大きな会社だと、他の従業員の一生もかかってるんだよ。多少なりとも汚いまでは言い過ぎだけど、そこまでしないとここまで大きい会社にならないよ。」

私はこの世界はきれいだと思っていました。ヤワタの方がこの世界をよく知っている。ショックを受けました。

「……………。」

私は俯いたまま黙ってます。ヤワタが

「ホンゴウさん。とりあえず、また明日来ていい?その時に志津君連れてきます。」

「そうか!それは良かった。ミサキ様、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。」

「いえ。お役に立てず申し訳ありません…」

私は泣きそうになります。くやしいです。私の力で何とかなれば良かったのですが…本当にくやしいです。

社長室をでて、そして、ビルを出る。私は何も言えないまま歩きます。ヤワタが

「姉さん。そんな顔しないでよ。こっちまで寂しくなっちゃうよ。」

「………ありがと…」

「何!?」

「うっさい。バカ!!」

「はいはいはい。」

ヤワタがとても優しく感じます。

「とりあえず、トキワまちだな。電話して強制的にシヅッチ呼ぶか~。」

独り言のようにヤワタが言います。私は黙ったままです。ただ言えることは


私は無力です。

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