第26話 先生のお手伝い③

【AM11:00 事務所にて】


オレは驚く。書面申請にしたら、時間がかかる。電車で法務局まで約1時間半かかる。アップデートを取り消した方が断然早いはずだ。

「先生。本当に書面申請でいいのですか?」

「ええ。」

「電車、時間かかりますよ…」

「重々承知。」

「すみません。オレの考えなんですがPCのアップデート取り消して、電子認証した方が時間の短縮出来ますが…。」

先生は一呼吸置いて、

「これから、真面目な話するね。こういう仕事は最悪のことを必ず考えるの。常に。もし、アップデート取り消して電子認証が出来なかったらどうする?結局は書面申請だよね。多分、志津君の言うとおりで、出来ると思うわ。しかし、失敗すれば…と必ず常に最悪の事を考えなければならないの。こういう仕事をする以上は、これが重要なの。」

「わかりました。先生。」

先生の言葉がオレに重くのしかかる。確かにオレは目先の事しか考えていなかった。今後、こういう職に就く以上、最悪の事を考えていないと、自分にもさらには依頼者にも不幸を招いてしまう。これはオレの今後の人生に重要なファクターになる。

先生は、話を変えるように、明るい声で

「とにかく、書面申請に切り替えるから、今、書面出すから待ってて。」

「先生。オレも手伝います。」

「ありがとう。書類の再チェックしといて。」

「はい。」

オレ、先生は黙々と作業を続ける。そして、

「よし、出来たわよ。志津君。法務局は千葉本局だけど、君に任せてもいい?」

「はい。オレがんばります。」

「志津君は千葉よく知っているから、安心できるわ。」

「いいえ。先生。出来るだけ早く申請します。」

オレは意気込む。

「い~い。志津君。」

先生は神妙な面持ちで構える。オレ、何かしたかな?先生は

「交通事故には気をつけてね。」

「はい。」

どうやら、先生はオレの方を心配してくれている。こういう人が世の中にいっぱいいてほしいな。オレは身支度をして

「では、行ってきます。」

「はい。行ってらっしゃい。」

オレは事務所を出る。雑居ビルを出て、人混みをかき分けながら走る。今、AM11:20


【AM11:00 某市役所】


部下「(もうそろそろ行かないとな。)」

上司「おい!そろそろ行く準備しろよな!」

部下「はい。これからします。(わかってるよ!!)」

上司「いつまでとろとろしてるんだ!」

部下「すみません。(おめ~いつかマジでぶん殴りたい)」

上司「準備したらすぐ報告するように。」

部下「わかりました。」

準備を整える。

部下「準備出来ました。これから、千葉法務局へ行ってきます。」

上司「お前、間違えても違う管轄に行くなよ。本局だぞ。千葉みなと駅の所な。」

部下「気をつけます。行ってきます。」

上司「おう。行ってこい。」


【AM11:35 京成上野駅】


 オレはJR上野駅を使わずにあえて京成上野駅を使うことにした。だってJR人身事故が起きてるんだもの。こういうときに限って変なことがよく起きるよね。何かイレギュラーの事が起きると、それにつられて他のイレギュラーのことが起きる。これってみんな経験あるよね。まさに今回がそれ。も~イヤ!!京成上野の特急に乗り、船橋駅までとりあえず行こう。


【AM11:20 某市役所職員部下】


部下「(お~い、JR人身事故か~別ルートで行くか~)」

部下「(いや~な上司がいないから、のどかだね~)」

部下「(早く、市役所に帰るのもなんだからゆっくり行くか~)」


【PM12:10 京成船橋駅】


 オレはドキドキしている。もう、市役所が差し押さえの登記を申請しているかもしれないと思うとおちおち寝られない。京成上野から京成船橋まで約35分かかる。絶好の居眠りが可能だ。だがしかし、こういうのがあると寝られない…う~ん、オレはバックをまさぐる。なんとうまい棒を発見した。なんであるんだろう?オレ買ったっけ?まあいいや、うまい棒食べよ。オレはうまい棒片手に食べながら京成船橋からJR船橋駅まで走った。

 JR船橋駅まで走り、運行状況をみる。……大丈夫みたいだ。オレはJR船橋駅からJR千葉駅までの総武線快速に乗ることにした。


【PM12:20 某市役所職員部下 JR千葉駅着】


部下「(いや~よく寝た。やっぱり外はいいな。)」

部下「(案外、千葉駅は開けてるな。改装工事で千葉駅出るのが一苦労だ。)」

部下「(お昼時間だ。どこかで食事するか。)」


【PM12:45 JR千葉駅着】


 何とか千葉駅に着いた。次は千葉みなと駅までモノレール乗らないと…オレは千葉駅からモノレール乗り場まで走る。こういうときに限って千葉駅改装工事ですか…本当に変なことばっか起きてるよ…


【PM13:20 某市役所職員部下 千葉みなと駅着】


部下「(う~ん。ここが千葉みなとか~駅の広場、ホテル、何故か結婚式場が見える。変わったところだな。)」

部下「(ここから歩いて15分位か~)」


【PM13:25 千葉みなと駅着】


 オレは千葉みなと駅、降りた途端すぐに走る。脇目も振らず走る。走っている最中、ふと魔界の事を思い出す。オレは

「(ミサキ…大丈夫かな?)」

「(トキワ元気しているかな?)」

「(ヤワタ…まあ、いいや)」

こんな事を思ってしまった。今はそれどころではないな!!


【PM13:45 某市役所職員部下、オレ 千葉法務局本局着】


部下「(やっと着いた…遠すぎ…)」

部下「(さてと申請しますか。)」

登記申請場所は二階の奥にあり、そこで受付してもらう。

部下「(さて、二階に着いた。登記申請はあっちか…)」

部下「(さてさて、申請しますか。)」

部下は登記申請書を出そうとする。そこに


「すみませ~ん。お願いします。」

部下「(何だ?何だ?)」


オレは申請する人に

「ごめんなさい。急いで申請しないといけないので…」

「そうですか。大変ですね。どうぞお先に。」

「ありがとうございます。」

オレは申請書を法務局の受付の人に渡す。受付の人が

「はい、申請受け付けました。」

その後、登記申請しようとした人が

「次に、私の方お願いします。」

「はい。わかりました。」

オレは先に登記申請しようとした人に対して

「ありがとうございます。失礼致します。」

「いいえ。大変ですね。」

「はい。ありがとうございました。」


 何とか登記申請終わった。疲れが一気にのしかかる。何!?この疲れ。精神の疲れが半端ないぜ。オレは先生に連絡する。


「はい。村上です。」

「先生。オレです。申請終わりました。」

「ご苦労様。事務所に戻ってきて。」

「はい。今から戻ります。」



事務所に着いて、先生が

「お帰りなさい。」

「はい。ただいまです。」

「今日は、本当にありがとうね。これ少ないけど受け取って。」

先生は茶封筒をオレに渡す。オレは

「先生。いいですよ。オレも良い経験したので結構です。」

「志津君。働いたら必ず対価を支払う。これが当たり前よ。ちゃんと受け取りなさい。」

先生は茶封筒をオレの手に渡す。

「ありがとうございます。」

「もし、また何かあったら連絡するね。」

「はい。先生。今日はどうもありがとうございました。」

オレは、事務所から出る。う~ん。疲れた…けど、何かわからない達成感はある。これが仕事か~。この後のビールが美味いんだろうな。オレは飲めないから炭酸飲料でいいや。

歩きながら茶封筒の中身を見る。なんと1万5000円入っていた。こんなにくれるの?


後日談だが、どうやら申請は通ったらしい。先生が言うにはオレが申請した後に差し押さえの登記が入ったらしいが、差し押さえの登記の取り下げの申請で、今、登記がなかなかあがらないらしい。オレは思った。市役所の登記申請した職員はどうなっているのだろう…まあ、いいや!オレ関係ないし…


                        差し押さえ編 終

                        魔界 株主総会編へ続く

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