第24話 先生のお手伝い①

 オレは先生の事務所へ行くとこにした。とりあえず先生に電話だ。先生が事務所にいない場合だってある。さて、連絡してみよう。

「はい、村上です。」

「先生、オレです。オレオレ。」

「オレオレ詐欺?これから警察に行きます?」

もう、オレって電話で言うのよそうかな?

「違いますよ!志津隆史です。」

「わかってるわよ。どうしたの志津君?」

「先生に報告がありまして…事務所に来て良いですか?」

「う~ん。これからクライアントに会うから、3時くらいなら大丈夫わよ。」

「わかりました。その時間帯にお伺いします。」

「まってるわよ。」

「では、失礼します。」

3時か~。先生の事務所は上野にあるから、1時間暇をつぶしていくとするか。

オレは自宅を出るとする。母さんに

「これから先生の事務所に行ってくる。」

「先生ってあの司法書士の先生?」

「そう。」

「では、これ持って行って。」

そう言って、どら焼きを渡した。このどら焼きは浅草にある有名などら焼きだ。オレが食べて~。

「確か、上野にも有名などら焼き屋あったよね。オレ、それ渡そうかと思ったんだけど…」

「そんなの食べたことにあるに決まってるじゃない。だったらこっちの方が良いわよ。」

「ふ~ん。渡しておくよ。」

母さんが

「その代わり、帰りにうさぎやのどら焼き買ってきて。」

「…………はい。」

なんで、わざわざ買わなければならないのか?美味いからいいか…

「そういえばさやかは?」

「撮影の仕事みたい。」

妹さやかはモデルだ。いくらもらってるのだろう?

「そうなんだ。行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」


 オレは上野まで電車で行く。多少、時間がかかるが寝れば良し!よ~し、隣の方の肩を借りて寝るとするか。

電車に乗って寝る準備をする。隣の方が強面の兄ちゃんだったので出来ませんでした…あの顔は反則です。

 上野駅に着き、京成方面へ歩く。そこから秋葉原方面へ歩く。その近くに先生の事務所がある。今の時間は2時45分だ。ちょうど良い時間帯だ。そして、先生の事務所に着く。先生の事務所は雑居ビルの中の一室だ。インターホンを鳴らす。

「は~い。」

「先生。志津です。」

「いらっしゃい~。」

先生が迎え入れる。

「久しぶりだね。元気だった?」

「はい。先生こそ顔を見るととても疲れているように見えます。目のクマが目立ってますよ。」

「そう…気をつけているのに…まあ、入りなさい。」

「はい。お邪魔します。」

事務所の応接室に案内してくれる。

「そこに、座っておいて。飲み物はコーピーでいい?」

「おかまいなくです。」

「いいわよ。ほら。」

先生がコーピーを渡す。

「ありがとうございます。」

コーヒーを飲んで一息つく。

「ところで、どうしたの?」

先生が話を切り出す。

「はい。試験第一次の筆記試験は受かりました。」

「すごいじゃない!!口頭はもう受かったのと当然だから大丈夫よ。」

「実は…」

オレは東スポのこと、宇宙人の事を話した。

「あはははははは。」

先生笑ってるよ…

「ごめん。ごめん。でも、大丈夫だと思うよ。」

「本当ですか?専門知識は大丈夫だったんでしょ。」

「はい。なんとか答えられました。」

「じゃあ、大丈夫わよ。もし、私なら志津君を受からせるわよ。うそ言ってないもの。よっぽどの事が無い限り受かるわよ。」

先生がニコニコ話す。

「ありがとうございます。先生に言われて少し自信がつきました。」

「そう。それは良かった。」


それから、簡単な談笑が続く。先生がオレが専門学校卒業と同時に専門学校の専任講師をやめたこと(どうやら、本業が忙しいためだそうだ)、多重債務も今は下火になったこと等たくさんだ。


「ところで、志津君?」

「はい。先生。」

「たぶん、志津君が受かることを前提に、実務をちゃんと経験しないとね。」

「はい?」

「明日、急ぎの決済があるの。どうしても人手がほしいの。手伝ってくれる?」

決済とは不動産決済の事だ。売主、買主、不動産仲介、司法書士が集まって最終の契約をすることだ。最初、不動産業者の事務所で売主と買主が売買契約を結ぶ。その売買契約には、特約があり、残代金を支払って、初めて所有権が移る旨が入っている。その残代金の支払いが明日みたいだ。だから、明日みんな集まって最終の契約をするのである。

「いいですよ。先生の頼みなら是非ともやらせてください。」

「ありがとう。これから、注意をいうわね。」

「はい。お願いします。」

オレはメモ帳を取り出す。先生の”注意を言うわね”が本当に重要だからだ。

「じつは売り主の方、市民税等を滞納しているの…」

「滞納ですか?」

「そうなの。と言うことはわかるわよね。」

「はい。差し押さえ関係ですか?」

差押えは、お金を支払ってもらう権利のある人がお金を支払う義務がある人から強制的に取立てる制度だ。今回は税金関係。と言うことは一般的な流れが確か違ったと思う。

「そう。まだ、不動産には差し押さえはかけられてないの。」

先生は話を続ける。

「志津君に詳しくは教えてないけど、税金関係はまず、市役所が督促状や催告書という形で滞納者に書面を送って、それでも無視する場合、同じ書面で今度はいついつまでに支払いなさいという感じで口調が強くなる書面が届いて、それでも滞納者が無視する場合、差押通知書が届く流れになるの。」

「そもそも、なんで、売り主の方支払わなかったのですか?」

「簡単よ。お金がないから。」

「その売り主の方、資産は不動産だけなんですか?」

「そう。売り主の方は不動産しか資産がない。市役所は資産は必ず把握している。税金納付は国民の義務。不平等は許されないわね。で昨日、差押通知書が届いたの。という事はその次の日、明日になるけど、多分、経験上だけど差し押さえの登記がされるはず。その市役所の差し押さえの登記が入る前に買い主名義にしちゃおうって流れなの。」

「話は戻るんですが、売り主の方、お仕事は?」

「してないわよ。私も考えたわよ。売り主が手取りの4分の1までしか差押えできない、もしくは33万円を超えた部分については、全額差押え可能。つまり、33万円を超えている部分と手取りの4分の1を比べ、いずれか多いほうを差押えられるから、そっちの方で差し押さえてといえるんだけど…今回は無理みたい。」

「先生。たしか、差し押さえは生活必需品は差し押さえは出来ないはずでしたよね。」

「あら、ちゃんと勉強してるのね。そう。冷蔵庫、洗濯機などの生活家電や、調理器具、ベッドやふとんといった生活用品は差押え禁止だよ。ただし、大画面テレビ、ピアノ、高級家具、美術品といった、贅沢品はすぐ差し押さえだよね。」

「先生。すみません。話を戻しますが、簡単に言えば市役所の差し押さえの登記が入る前に買い主名義にしようって事ですよね。ということは?」

先生は、一呼吸置いて、

「そう。市役所にはをしてもらいましょうということ。」

差し押さえの空振りは文字通り、差し押さえが空振る、つまり、差し押さえは出来なくなることだ。先生の考えは、市が先に差し押さえする前に買い主名義にすれば、その不動産がすでに買い主名義、売り主名義ではなくなる。ということは、差し押さえの登記は意味が無くなる。だって、差し押さえする債務者はあくまで売り主の方、買い主は関係ない。だから空振りと言うことだ。

先生はさらに

「多分だけど、売り主には買い主の方から、お金がもらえる。そのお金で、税金を支払うと思うわ。もし、支払わないと、売り主の方大変になるわね。」

「今度は債権の差し押さえですよね…」

「そうなるわね。」

オレは話を戻し、

「先生。とりあえず、登記は急がないといけませんよね。」

「だから、手伝ってほしいの。」

「わかりました。手伝います。」

「先生。話は変わりますが。お土産です。」

オレはどら焼きを渡す。

「これって、浅草にある駅前の有名などら焼きじゃない。ありがとう。一緒に食べましょ。」

「はい。」

オレと先生はコーピーを片手に一緒に食べる。

「では、オレ、そろそろ。」

「志津君、ありがとうね。明日、朝8時、うちの事務所に来てね。」

「わかりました。明日よろしくお願いします。」

オレは先生の事務所を出る。ちょっと楽しみだ。司法書士の実務が見れる。

オレは、母さんに頼まれた上野広小路のどら焼きを買って自宅へ戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る