第19話 決戦の時

 「う~~ん。」オレは起き上がる。ミサキ、トキワ、ヤワタはまだ寝ている。ミサキ、トキワの寝顔がいいね!ヤワタの寝顔は…言いたくありません。

 オレはこっそりと部屋を出る。廊下を歩く。そこにミノリがいた。

「隆史さん、おはようございます。」

「おはようございます。」

「私、これから、魔族会の所に行ってきます。今日はごゆっくり休んでください。」

「ありがとうございます。いってらっしゃい。」

「はい。行ってきます。」

ミノリが支度をして外へ行く。


 オレはリビングに行き、ソファーに座る。何も考えず頭が真っ白だ。ゆっくりしていると、ミサキがリビングルームへ来た。

「おはようございます。隆史さん。」

「おはよう。」

「お母様は?」

「魔族会の所へ行くって。」

「………そうですか…」

ミサキは何か考えている様子だ。

「隆史さん。朝ご飯食べます?」

「いいの?」

「はい。今から作りますね。」

エプロンを着て、キッチンで朝ご飯を作る。オレは適当に近くにあった本を取ってみる。どうやらトキワの物みたいだな。さっと読むとファッション雑誌みたいだ。魔界にもファッションの流行とかあったんだ。ぺらぺらめくる。あっ、これかわいい。オレの妹さやかに着せてやりたいな。そうしているうちに、何か焼いている音がした。

”ジュー、ジュー”音がおいしそうだ。あれ?一瞬だけど新婚夫婦みたいじゃね!?

「ふぁ~おはよう。」

トキワが入ってきた。

「おはよう。」

キッチンから「トキワ、おはよう。」

「ミサキ姉さんが朝ご飯作ってんの!!?」

トキワがもっのすごく驚いている。

「トキワちゃん。ちょっとうるさいよ。でも、おはよ~。」

「ヤワタ兄さん。おはよ~。そんなことより、ミサキ姉さんを見て!見て!」

トキワがヤワタを手招きする。

「も~どうしたの?」

ミサキが朝ご飯を作っているのを見て、その途端、ヤワタが

「あか~~~~ん!これはあか~ん!!」

どこぞの、関西芸人みたく叫ぶ。そして、ヤワタが玄関まで走り込む。玄関を開けようとした時、ミサキが

「おはよう…ヤワタ…。どうしたの?」

包丁を持ったミサキがヤワタを捕まえる。

「おはよう……ございます……お姉様………。」

「これから、どこへ行くの?朝ご飯まだでしょ?食べましょ。」

ニコニコしているミサキ。あれ?かなりやばいの?ヤワタが

「ごめんなさい。お姉様…ボク、今から用事があって…」

「そうなの?なぜ、パジャマのままで外に出るの?」

「いや~そんな気分だからです。」

かなり焦っているヤワタ。汗がすごい…

「そんな汗で外出たら風邪引くわよ…さぁ、こっち…もう少しで朝ご飯できるわよ。」

「……………………はい。」

うだなれながらリビングに戻るヤワタ。

トキワ、ヤワタはテーブルに座り、うつむいている。

『……………………………………』

トキワ、ヤワタはしゃべらない。しゃべれないと言った方が正しいのか…オレは

「どうしたの?」

「私が朝ご飯、お城の食堂まで行って、わざわざ食べる理由がそこにある…」

なにトキワ言ってんの?サッカーみたいなうたい文句で。さらにヤワタが

「あかん。あかん。あかん。あかん………」

小声でずっと言っている。何があかんの?

「できたわよ~。」

ミサキがいっぱい食事を持ってきた。

「………どうしよう…こんなにいっぱい……。」

トキワが小声で

「………天にまします我らの父よ。我をどうか、どうかお守りくださいませ……」

ヤワタがいつの間にか十字架のアクセサリーを持ち祈っている。かなり真剣に…。

オレはヤワタに

「どうして祈ってんの?」

ヤワタが

「いいから、シヅッチも祈ったほうがいいよ。自分のために…」

オレはどうして?と思う。こんなに食事がおいしそうなのに…早く食べたいな。

「では、頂きますか。いただきます!!」

ミサキが手を合わせて言った。

『いただきます………』

トキワ、ヤワタも同じように言った。オレも

「いただきます。これ、おいしそうだな。」

そう言って、サラダらしきものを食べる。

「ん!?これは……」

マズイ!!マズすぎる!!どうしたらこんな物が出来るのだ!?オレは意識が一瞬飛んだ。

【その意識のなかで…あれ、ここはどこ?おばあちゃんがいた。オレは「あばあちゃ~ん!!」と叫んだ。おばあちゃんが「隆史。こっちはダメだよ!」オレは「だっておばあちゃん。川の向こう側にいるから、オレ、そっちにいくよ。」するとおばあちゃんが「ダメ!!早く戻りな!!」オレは「わかったよ…また会おうねおばあちゃん………………」】

オレは意識を取り戻した。

「はあ…はあ…はあ…はあ…」

すごい汗だ。オレ、戻ってこれたんだ。ありがとう!あばあちゃん。

「ほら、トキワ早く食べなさい!!ヤワタも!!」

どうしても箸が着かないみたいだ。意を決してヤワタが食べた。”バタン!!”大きな音がした。ヤワタが泡拭いている。ちょっと時間が経って意識が戻るヤワタ。

「はあ…はあ…はあ…おいしいよミサキ姉さん。」

「そう。よかったわ。さあ、もっとお食べ。」

どうしても箸が着かないトキワ。もう、泣きそうだ。

「ミサキ姉さん。いただきますね。」

「さっきから、いただきますばかりで早く食べなさい。」

「うん…うえ~ん。パク」

トキワは泣きながら食べた。

「……吐きそう………」

トキワは小声で言って

「おいしいよ。ミサキ姉さん。」

「トキワ、そんなにおいしいの!泣くほどに!!私、うれしいわ。」

ミサキも涙目になっている。そういう事ではないんだけど…

みんな(ミサキ以外)が意識が飛んでは食べ、意識が飛んでは食べと繰り返している。オレ、もうダメ…


 なんとか食べ終わり、ミサキが食器を洗いに行った。

「オレ、こんな料理初めて。何度もおばあちゃんに会った…」

「シヅッチ。これ、まだましな方だよ。ボクもまさかミサキ姉さんが作るなんて思っても見なかったよ。」

胃薬を飲み始めるヤワタ。

「隆史。これでわかった?私がお城で食事する理由。」

「うん。よ~~~くわかった。あのときはごめん。トキワ……」

「もういいわよ………」

オレ、トキワ、ヤワタの妙な連帯感がそこに生まれた。



食事が終わり、オレ、トキワ、ヤワタがソファーに寝転がる。そこにミサキが

「こら!だらしない格好で…早く起きなさい。」

誰のせいですか…

「ミサキ姉さん。もうちょっと休ませて。」

ヤワタが懇願する。トキワも

「右に同じ…」

オレも

「右に同じ…」

オレ、トキワ、ヤワタがぐったりしながら言った。

「もう…早くしないとお母様が来るみたいだから…もう少しだからね。」

ミサキは食器を片付けながら、さながら優しい母親のようにオレたちを見ている。

「ふう~ふう~ふう~。」

ヤワタが息を吐く。

「ヤワキン大丈夫?ちゃんと生きてる?」

「ありがとう。シヅッチ。ごめん…お水を持ってきてくれたらうれしいな。」

「無理です。」

オレは即答した。

「頼むから…頼むから…お水を…」

ヤワタは本当に動きたくても動けない状態だ。

「オレもまだヤバイ状態です。トキワ。お水持ってきてくれないかな?」

「死ね!」

なんでオレが死ななきゃいけないの?

「しょうがないわね…ヤワタ兄さん、あと隆史もお水がほしいんだね。」

『お願い致します。』オレ、ヤワタが口を揃えてトキワに頼んだ。

少しした後、トキワがお水を持ってきた。オレ、ヤワタはお水を飲み干す。

「ふう~。少し生き返った。」

ヤワタが少し元気を取り戻したようだ。オレも何とか起き上がることが出来た。

オレは

「ミサキの手料理はテロだな…」

ヤワタが

「朝食テロだ…」

「ちょっと。何言っての!?あれは殺戮兵器だよ。」

トキワが一番ひどい言いっぷりだ。


オレ、トキワ、ヤワタが元気を取り戻し、椅子に腰掛ける。

そこにミノリがやってきた。

「ただいま。」

「お帰り。お母様、どうだった?」

ミサキが心配そうにしている。

「ええ…なんとか、魔族会に掛け合って、発言の機会をもらえたわ。」

「よかった…」

ミサキが安堵している。

「これで勝ったな…」

ヤワタは勝った気でいる。オレは

「まだ、勝ったわけではないよ。そもそも、勝った、負けたと言う話ではないし…」

そこにトキワが入り込む。

「とにかく、ノブト兄様を魔王にしなければいい。隆史、ノブト兄様は魔王になるの?」

「それはわからない。とりあえずこっちにはノブトさんが持っている遺言よりも後の遺言書がある。それには法定相続にする内容しか書いていない。魔王は誰にすると言うことが書いていないから魔族会の判断になるかと思う。」

「じゃあ、ノブト兄さんが魔王になる可能性はあるの?」

ヤワタは少しビックリしたかのようにオレに言った。

「可能性はあるよ。けど、魔族会もノブトさんは魔王にしたいと思う方少ないと思うけど多数派工作をしていると思うから…う~ん何とも言えない。」

「どうしたらよいのでしょう?」

ミノリが困惑している。オレは

「とりあえず、オレにまかせてもらっても良いでしょうか?できる限りのことはします。」

「なにか秘策とかあるの?」

ヤワタがオレに他の手があるのか勘ぐってくる。

「ない!!けど、言いくるめることはできる!!」

オレははっきりと答える。ミサキが

「お母様、ここは隆史さんにまかせてみましょう。」

「ボクも良いと思う。ボクもシヅッチの実力は見たから行けると思うんだ。」

ヤワタもオレを見て答える。

「そうだね。ここは隆史にまかせても良いと思う。ちゃんとやんなよ隆史。」

笑顔で答えるトキワ。

「わかりました。隆史さん。私たち一家を助けてください。」

ミノリが頭を下げる。同様にミサキ、トキワ、ヤワタまでもが頭を下げた。

「そんな…みんな頭を上げてよ。ここまで来たら全力でやる!やるからには勝ってみせる!!」

オレは意気込みを自分にも言い聞かせながら言った。


 オレはこの一家を救いたい。もちろんノブトも救いたい。全員を救うにも無理があるとは重々承知だ。今回は遺言の撤回だから相続関係は間違いなく勝てるが、魔王の就任にネックがある。ヤワタには内緒にしたがオレには秘策がある。賭ではあるが、これで一件落着になるはずだ。けど、失敗したら大惨事だ。やるしかない………


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