第11話 ヤワタと夜の町へ②

 オレはキャバクラゆうしゃの店にいます。ここの店長は勇者マツド。当時は誇らしい勇者でしたが、魔界が平和になり、武器屋に転職、借金まみれになり破産して、ヤワタが助けて、今は風俗店店長になる。しかも、マツドにはお子さんがいるのだが、その子はここで働いていると言う事実。オレはマツドの経緯よりも、お子さんがここで働いている事の方が驚きです。

 ヤワタにはナンバーワンの子サキがついて、オレにはマツドの子が隣に座った。

「初めまして。私はサクラと言います。よろしくお願いいたします。」

「ここ…こちらこそよろしく。オレ隆史と言います。」

やべ~緊張しているオレ。勇者の子供サクラは髪は青黒っぽい色をして、顔はどこかクールな感じがする。スタイルはミサキ、トキワと違いスラっとしていた。黒いドレスがそれを引き立たせる。けど、どことなく寂しい感じがした。

『……………………………。』

オレ、サクラはしゃべらない。しゃべれないと言う方がいいべきか…。オレはヤワタの方を見る。とても楽しそうにしゃべっている。それを見たサクラが

「ごめんなさい。私、お話が苦手で…。」

「いいよ。いいよ。オレも初めてだから、どんな話をして良いのやら…」

「そうなの?私、ここに初めて来るお客さんにはじめてついたわ。」

「サクラさんは、ここを勤めてどれくらいなの?」

「べつに、サクラで良いわよ。多分、同じくらいの年だし…。私、ここで勤め始めたのはお店が軌道に入って、数年ぐらい経った後だから半年ぐらいかな。それよりも何か飲む?」

「そうなんだ。飲み物か…よし!では、カルーアミルク、カルーア抜きで。」

オレは人差し指を上にさして、サクラに言った。

「そうしたら、ただのミルクじゃない。」

ちょっと、笑顔が見れた。クールなところにかわいさがあるね~。

「やっと笑顔が見れたよ。サクラは笑顔がきれいだよ。」

「そうやって、他の女の子を口説いているんじゃない?」

「いやいやいや。オレ、女の子と付き合ったことない。家族の母さん、妹がいて、女子というものを自然に教わったからだと思うよ。」

「そうなんだ…。」

サクラの顔が少し赤らめていた。

「それよりも、ミルクで良いの?」

「うん。それでいいよ。明日は忙しくなりそうだから酔ってられない。」

「そう…」

サクラは、ボーイを呼んでミルクを持ってこさせる。グラスに氷を入れ、軽く混ぜる。こうするとグラス自体に冷たさがなじむ。そこにミルクを入れた。これお酒でやるのに、わざわざミルクにもやるんすか?

「どうぞ。」

サクラは隆史にグラスを渡す。オレは一気飲みする。

「プハー。このミルクうまい!!」

「ありがとう。」

「それよりも、勇者マツドのお子さんなの?」

オレは改めてサクラに聞いた。

「ごめんなさい。あまり、父の話したくないの。私自身、あの男に振り回されて疲れちゃった。」

「ごめん…」

オレはうつむく…オレも勇者の経緯を聞いたのでサクラの事もだいたい想像がつく。お父さんと仲がよろしくないみたいだな。

「いいえ。いいわよ。せっかく来たんだし、楽しまないと。」

話を変えようとするサクラ。そこにボーイがきて

「サクラさん。ご指名が入りました。」

「わかりました。」

「ごめんなさい。隆史さん。もっとお話したかったのだけど、次が入ったの。今度会うときはここではなく、一緒に食事でもしましょ。私も、結構しゃべれてうれしかったわ。ありがとう。」

「こちらこそありがとう。」

サクラは席を立って別の席へと行った。急にオレ、寂しくなった。ヤワタは女の子としゃべっているし、他の席を見るとみんな楽しそうだ。オレ、取り残された感がする。

オレは自分でミルクを注ぐ。それをちびちび飲む。うん!!寂しい!!そこにヤワタが

「シヅッチ。なに孤独になってるの?他の子連れてきたら。」

「いいえ。いいです。この方が落ち着きます。」

ナンバーワンのサキ嬢が

「この子、ヤワタさんのお知り合い。」

「そうそう。シヅッチは将来ここの世界をしょっていく男だよ。」

「本当?私、つばつけていい?」

「ダメだよ。それならボクとならどう?」

「それは結構です。」

ニコニコ受け答えするサキ嬢。これがベテランか~。そこに……


 パキン!!


グラスの割った音が聞こえた。そこを見るとオークらしき魔族が怒っていた。


「さんざん。俺に貢がせておいて、付き合えないだと!!!」

みんなが一斉にその席を見た。

「………………………。」

ある女性が無言のままうつむいて座っていた。オレはその女性を見る。あれ、サクラじゃね!?オークはさらに怒鳴りつけた。

「俺はお前に、ブランド物や、高級アクセサリー、アフターでおごってやったんだぞ!!」

ありゃ~オークさん。大変に怒ってますね~。

「つきあえないなら、俺にそれ全部返してもらおう!!」

「………………………ごめんなさい。もうない…。」

「なに!!!」

オークさん、カンカンですがな。

「だったら、体で払ってもらおうか!!来い!!」

サクラの腕を無理矢理つかみ、外に出ようとする。そこにマツドが

「お客様、どうされましたか!?」

カンカンに怒っているオークが

「俺はこいつにさんざん貢いだんだ!それなのになびかず、挙げ句の果てに俺が貢いだ物がもう無いだと!だから体で教え込むんだ!」

サクラを引っ張るオーク。サクラはもがいているがオークの力に為す術がない。

「そう言われましても…その子を放してやってはくれませんか?」

マツドは頭を下げて言う。

「イヤだ!!!連れて行く。」

無理矢理連れて行くオーク。おい!おやじ勇者、自分の子だろ!?体張って助けろよ!!サクラは涙目になっている。マツドは何もしない…そろそろやばいぞ…助けないと!そこにヤワタがオークの前に現れて

「オークのだんな。ここはお酒を楽しむところだよ。せっかくのおいしいお酒が台無しになっちゃったよ。」

「あなたは!?ヤワタ様。」

オークが驚いている。

「そうだよ。どうしたの?普段は温和なオークがこんなに怒ってるんだい?」

「ごめんなさい。ヤワタ様。この女に教え込まないといけないんで…」

「そうだったら、話し合わないと。今は、怒っているけど少し時間が経てば冷静になれるでしょ。そうだ!マツドさん。スタッフルーム借りれる?お話聞こうじゃないか。」

何もできないマツドが

「わかりました。こちらへ。」

そこに、ヤワタが

「シヅッチー!シヅッチも来てよ!」

「何!?」

オレ、巻き込まれちゃったよ…仕方なくオレもスタッフルームに同行した。


────────────────────


 スタッフルームについて、椅子にサクラが座り、オークは足を組んで座った。オーク態度でかい。けど、冷静になったと思う。みんな!急に怒りっぽい人には一呼吸置かせる事が重要だよ。クレーム処理する人は落ち着かせてからクレーム内容を話させるんだ。こうすると、以外と話しやすいんだよ。豆知識でした。そんなことより、ヤワタが進行という形で話し合いが始まった。

「ところで、サクラちゃんどうしたの?」

「………………。」

何も答えずうつむいたままだ。

「う~ん。では、オークのだんな。話してくれる?」

「おう。俺はサクラが入店した当時から、ずっと指名してきた。どこか寂しげな物静かな感じに惹かれたんだと思う。そしてサクラは他の魔族にも指名が入って多少なりとも有名嬢になったが身なりがどうもみすぼらしかった。そこで俺は服を最初にプレゼントした。サクラは顔には出さなかったがうれしかったんだと思ったよ。それから、俺は指名するたびにいろんなプレゼントをあげた。服はもちろん、バック、ドレス、アクセサリーなど、もうどれだけ貢いだかわからないくらいだ。俺はサクラにプレゼントするたびに俺の貢いだ物を最初はつけてくれた。うれしかった。けど、だんだん、プレゼントした物はつけてくれなかった。まず、この点に怒った。」

「ふ~む。他には?」

ヤワタが他の怒ったことについて聞いた。

「あと、俺が貢いだ物はどうしたかと聞いたが教えてくれなかった。俺は仕事をがんばり、稼いだお金でサクラに少しでもいい身なりになってほしかったんだ。サクラに会っているうちに、俺はサクラが好きになった。だから、気持ちをこっちに向けてくれるようプレゼントをあげ続けたんだ。それでも、なびかなかった。俺は悔しくなってさっきのことをした。」

オークが淡々としゃべった。このオーク意外と良いやつだね。

ヤワタは

「サクラちゃん。オークのだんながここまで言ったんだよ。そろそろ話してくれないかな。」

「………………。」

サクラはまだ、何も答えずうつむいたままだ。

「う~~~~ん。シヅッチどうする?」

そこでオレにふる!?しょうがない聞けるところまで聞くとするか。オレは

「ごめんね。サクラ。何も言わないとオークさん。事情がわからないよ。オレが見る限り、このオークさん。サクラのために何かしたいと思ってプレゼントしたんだと思う。当然、そりゃあ下心だってあるよ。雄だから。とりあえずプレゼントはどうしたの?」

オレは、サクラの目線に腰を落として語りかけた。サクラが

「………う………っ…………た。」

「何?もう一度。」

「売っちゃった。」

この途端、オークが

「売っただと!!!!」

オークが烈火のごとく怒った。無理もありません。ヤワタが

「オークのだんな。まぁ、落ち着こう。怒るのは無理もないけど落ち着こう。」

ヤワタがオークをなだめる。オレは

「当時、みすぼらしい格好だったんだよね。もしかしたら何かあったのでは?サクラもう、全部話したら。逃げられることもないだろうし…。」

そしてサクラは泣きながら話した。

「私、この勇者マツドの子に生まれて、最初は家族仲良く暮らしていて幸せだと感じた…けど、武器屋の店がしまった途端、急に貧乏になって苦しかった。食べ物が無くってそこら辺の草を食べたりと大変だった。なのに父は、他の店を立ち上げるのに私を気にせず店のことでいっぱいだった。お母さんの所へ行こうとしたんだけど、お母さんは別の男と結婚して幸せだった。私、あそこには行けなかった。店が軌道に乗った途端、父が店を手伝えと突然言って、無理矢理働かされた…私は働きたくなかった。店に働き始めてお客さんがついて、プレゼントをもらいました。最初はうれしかった。けど、私の生活は変わらなかった。だから、食べ物を食べるためにプレゼントは売ってしまいました。ごめんなさい………。」

ヤワタは一言も言えなかった。

マツドはうつむいている。どこか悲しそうだ。オークは

「事情はわかった。けど、俺が貢いだ物は返せないのだから、お金で返してもらう。」

「………………。」

サクラは何もしゃべらない。ヤワタが

「オークのだんな。サクラちゃんの事情わかったでしょ。許してやろうよ。」

「いいや、ダメだ。俺もなけなしのお金をサクラに渡しているのと一緒だ。俺だって苦しい生活をしているんだ。だから返してもらう。」

「う~ん。シヅッチどうする?」

オレは考えた。サクラはずっとこんな感じで生きていくのか?それではサクラ自体がかわいそうだ。けど、サクラにも原因がある。オークにとってみれば裏切られた感がある。っていうか一番の原因、勇者マツドだよね。オレはサクラに

「もう、こんなことしない。」

「………………はい。」

「ちゃんと反省してる?」

オレは再度、サクラに聞く。

「………………はい。」

「よし!ヤワキンちょっといい?」

「うん。何?シヅッチ?」

「オレって明日が法務委員会委員長の認証式だよね?」

「そうだけど…」

「まだ、権限はないんだよね…」

「そうなるね。」

「けど、コウダンさんの代理ってならない?」

「ちょっと待って。ミサキ姉さんに連絡する。」

スマフォでミサキに連絡するヤワタ。


「ミサキ姉さん。ヤワタだよ~」

「ヤワタ。どこに遊んでるの?隆史さんもいるの?」

「うん。いるんだけどちょっと問題があって、今、お父様起きている?」

「確認するわ。」

……………………

「私だ。」

「お父様。ごめんなさい夜遅く。」

「よい。どうした?」

「ちょっと待って。変わるから……はい、シヅッチ。」


「ごめんなさい。隆史です。」

「どうした。隆史君。」

「突然で申し訳ありませんが、コウダンさんの権限を代理できませんか?」

「どうしてだ?」

「女の子を救うためです。」

「くわしくは聞かないが、女の子を救うとなれば余程大変なことが起きているのだな。わかった。私の権限を代理してくれ。任せたぞ隆史君。」

「確かに受任致しました。ありがとうございます。この件が終わった時点で権限をお返します。」

「わかった。まあ、口頭での代理としよう。」

「ありがとうございます。では、失礼致します。」

スマフォをヤワタに返す。

「どうだった?」

「今、オレはコウダンさんの権限を受任している。だから、オレの言葉はコウダンさんと同等の権限がある。」

「そうなの。まぁ、これで解決するなら問題ないか。」


そして、オレはオークの前に立つ。

「オークさん。たった今、オレは魔王コウダンの代理としてここに立ちます。」

「えっ!?」オークが驚いている。ヤワタが

「本当だよ。これから志津隆史の言った言葉は私の父、魔王コウダンの言葉と一緒だよ。」

さらにオークが驚く。サクラも同様に驚いている。

「オークさん。今回の件、引いてください。」

「なぜだ!!!」

「はい。オークさんが貢いだ物はオークさんが返せと言うことができない債務で自然債務と言います。確かに、サクラさんが任意に返せばその債権は有効ですが、サクラさんは返せない。比較的短期間で遊んだに過ぎないサクラに対し、一時の興に乗じ、その歓心をかうため、相当多額の物の供与を諾約しても、贈与契約が成立したとは言えないんですよ。つまり、サクラは返す必要が無いんです。」

「本当なのか!?」オークはヤワタを見る。

「魔王コウダンが話していると考えて結構ですよ。オークのだんな。」

「そうなのか………コウダン様が言っていることと同じならば仕方が無いか…」

オークはげんなりとしている。魔族の方たちは法律を守ろうとしているのは本当なんだ。オレは感心した。

「わかった…。サクラ、今までありがとう。楽しかったよ。」

オークはスタッフルールから出て行こうとする。サクラが

「返します!」

オレ、ヤワタが

『えっ!?』

「オークさんにはいつもお世話になりました。生活のため売ってしまったのは申し訳ありませんが、少しずつでもいいからお返し致します。」

「なに言ってんの?サクラちゃん、返さなくて良いんだよ。」

慌てるヤワタ。オークが

「もう、いいよ。返さなくていいよ…」

「いいえ!お返し致します。隆史さん。大丈夫ですよね。」

「別に良いんだけど…」

オレも驚いている。

「では、毎月になってしまいますが少しずつお返し致します。」

そう言った途端、マツドがお金を持ってきて

「オーク様、サクラが粗相をし申し訳ありません。これはお詫びを兼ねたお金です。お納めください。」

「いいのか?」

「はい。またご利用ください。」

「そこまで言うなら貰うよ。サクラ…良い父親じゃないか。じゃあな。」

オークはスタッフルームから出た。

ヤワタは

「やるじゃん。シヅッチ!!」

オレとヤワタは肩を組んだ。

「ありがとう。ヤワキン。」

サクラが

「ありがとうございました。隆史さん。あなた、すごい方なんだね。」

「そうでもないよ…」

「なになに?シヅッチ照れてるの?」

そこにマツドが

「サクラ……ごめんな。お前のことがわからなかったよ。」

「……………………。」

サクラが答えなくなる。

「いいんだ。サクラ。こんな父親でごめんな…」

「………うん……別にいい……。」


オレ、ヤワタがキャバクラゆうしゃを出る。夜風が気持ちいい。しばらく無言で歩く。

「いよいよ認証式だね。」

ヤワタが言葉を発する。

「そうだね。」

オレは夜空を見上げる。

「正直、ボク見直したよ。」

「ありがとう。ヤワキンもなんだかんだでいいやつなんだね。」

「ボクはいつでもいいやつだよ!!」


オレ、ヤワタの笑い声がこだまする。

夜の風で消えていく。この風情が心地良い。

明日は認証式だ。がんばろ……………。


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