夕焼けと戦慄 2

 カリンが平地に着地する頃には、前方を行くマツリカ達の姿はかなり小さくなっていた。

「もう街の入り口付近ってとこだな。大したもんだ」

 同じようにそれを見ていたエドワルドの言葉が終わらないうちに、前方で大きな爆発が起きた。街を包む揺らぎが大きく震えているのが確認できる。

「は、始まっちゃいました、ね……」

「なんだ、怖くなったか?」

「平気、です」

 言いながら服のあちこちに隠してある毒の数を確認する。しばらく森で暮らしていたから多めに持ち歩くようにはしていたが、長時間の戦闘に耐えられるほどではない。

「え、と、エドワルドさん。あたし今日、そ、そんなに数、撃てないから、無くなったら──」

「安心しろ、俺も簡単に様子見だけしたら逃げっから」

 ほぼ丸腰だしなぁとぼやくエドワルドは、腰に差しているナイフ以外の武器は持っていない。そんな状態でよくこの森に分け入ろうなどと思ったものである。

「ま、魔物には、出遭わなかったんです、か?」

「あ? ああ、遭っても大体死んでたしな──あいつらホントに目に付いた魔物は全部ぶち殺してやって来たんじゃねぇか?」

 顎で前方を指しながらエドワルドは言う。マツリカ達の姿はもう見えなくなっていたけれど、爆発が断続的に続いている辺りに居るのだろう。あれがマツリカとトーマのどちらの手によるものかはわからないが──なんとなく、マツリカの方じゃないかとカリンは思う。見た目の派手さがそうさせるのだろうか。

 意識を戻すと、棒立ちになっていても仕方がないと考えたのか、エドワルドは歩き出していた。カリンも後ろに付いて行く。

 爆発を目印にしばらくそのまま一定のペースを保ちながら歩いていると、ふと、前からぶつぶつと何事か呟く声が漏れ聞こえた。

「……随分派手な爆発だな、魔法ならミロン派あたりか、もしくは──」

「エドワルドさん、魔法、使えるん、ですか?」

「いや、使えねぇ。その辺のフォローは期待すんなよ」

 振り向きもせずに即答されてしまったが、それにしては随分と詳しい。カリンも初歩の魔術を覚えた時に魔法の体系やら流派やらを習ったけれど、魔法を見ただけで流派を当てることなど出来ない。

「それより警戒忘れんじゃねぇぞ、それなりに近くなってきたからな」

 どちらかといえばエドワルドの方が注意力散漫になっているような気がするのだが、カリンは素直に従った。ここが戦場のすぐ近くであることには変わりないのだ。

 街の入口までの距離は、大体ロングボウの射程距離程度だろうか。カリンが目測をつけている間にエドワルドが新たな一歩を踏み出すと──ゆらぎが動いた。

 生体の気配を察したのか、ゆらぎ全体が一度ぴたりと動きを止めると、じりじりと距離を詰めだした。その反応は確かに、どこかスライムを思わせるところがある。

「エドワルドさん────」

 まだ水を喚び出せる範囲ではない。前を行くエドワルドを呼び止めると

「……ああ、もうちょい距離は詰めたい」

 武器に乏しいエドワルドもまた、同じようなことを考えているようで、そんな言葉が帰ってきた。

 だがエドワルドは飽くまでもペースを保ったまま歩いている。それはゆらぎも同じことで、このまま出方を伺いながらゆっくりと進んでいくものとカリンも思い込んでいた。

「──大元は動いてねぇな。あいつらが本体とやらに近付いたからか、それとも元々そういうもんなのか……」

 街の上方を見上げていたエドワルドが不意にしゃがみこんで地面の石を拾い上げると──なにも言わずに駆け出した。

「え、エドワルドさんっ!?」

 突然の疾走に驚いたカリンも慌てて後を追うが、距離は縮まるどころか、引き離される一方だ。

「────────!」

 当のエドワルドはあっという間にゆらぎの先端との距離を詰め、ゆらぎに石を投げつけている。

 石は一直線にゆらぎに向かい、直撃し、全体が大きく波打つ。それは先ほどの爆発が起きた時の動きに酷似していた。

「おっし多分効いてる──!」

 不毛の地と言われても仕方のない程度には荒れているこの場所には、手頃な石などいくらでも転がっている。エドワルドが次を撃つために石を拾い上げると

「う、上!!」

 その頭上に迫ったゆらぎの端を見付けて、カリンは叫んでいた。

 スライムが獲物の頭上から降り注ぐのと同じように、ゆらぎの塊が凄まじいスピードでエドワルドに襲いかかる。

 それを大きく後ろに跳んで躱し、エドワルドは自分が居た場所に次の石を投げた。

 石はまたしてもゆらぎを正確に捉え、次の動きを僅かに遅らせる。

 そしてエドワルドが三擊目の石を投げ、ゆらぎを躱したその時。

 ──着いた!

 自分の攻撃範囲にたどり着いたカリンが足を止めた。

 ゆらぎはカリンには無反応だった。エドワルドの方が距離が近いからなのか、そもそもカリンを認識していないのかはわからない。ただ、あまり知性のないような印象は受けた。

喚水よびみず────!」

 カリンは自分の手元に水を喚んで、ポケットから取り出した包み紙の口を開けて放り投げる。塵のようなくすんだ緑が、水の中に散っていった。

 それを確認すると、カリンは水を手元から消し──

「行って!」

 ゆらぎを指して叫ぶ。

 四つ目の石を拾い上げたエドワルドが、投擲を中止してゆらぎと距離を取った。

 本来なら投げられていた石の代わりに直撃したのは、木桶一杯の水。それだけでは何者も脅かすことのできない量の水だ。

 しかし。それを浴びたゆらぎは、痛みに耐えるかのように小刻みに震えていた。

「────何だ?」

 これまでとは違った様子に、エドワルドがカリンの近くまでやって来る。

「わ、かりません。普通の毒に、しました」

 今カリンが使ったのは戦時中から愛用していた毒だ。毒バラの一種を加工したもので、とにかく即効性が高く使い勝手が良い。

 だからゆらぎも即座に反応したのか攻撃の手を止め、なおも震え続けている。

 今が好機と見て取ったのか、エドワルドが四つ目の石を投げた。

 しかし、石が当たる直前、ゆらぎは大きく波打つと

「────!?」

 いや、切り離した、という方が正しいのだろう。片方は人間サイズの小さな塊となって、未だに震え続けている。もう片方──街を被うゆらぎの大元は、体勢を立て直したと言うべきか、依然として在り続けている。

 石は大元の方に当たり、また波が走る。

 と、カリンの右手首ががっちりと掴まれ、後ろに引っ張られた。

「きゃあ────!?」

 エドワルドが後ろに走り出していた。スピードはカリンに合わせてくれているのか先程よりやや遅いが、カリンにとっては全力疾走を強いられる速度だ。

「ひ、一人で──走れるから、離して!」

 引っ張られる右腕が痛みを発したので、カリンは強くそう言った。

 エドワルドは言われた通りに手を離し、走るスピードを上げる。

 カリンも必死で後を追う。肺から無理矢理息を吐き出しながら思うのは

 ──や、やっぱりこの人、疫病神なのかも……!

 目の前の男に対する不満というか、そういうものだ。

 こんなに全力で走ったのはいつ以来だろう。やはり戦時中だったような気がする。

 いろいろと嫌なことを思い出させられて、カリンもさすがに腹を立てていた。

 だから次に話す時は、文句を言ってやる。そう決めて、大分距離の遠くなった背中を睨み据えた。

 ゆらぎが最初にカリン達を感知したところを過ぎたところで、エドワルドは立ち止まった。ややあってカリンも横に並んで大きく肩で息をして、心臓の鼓動が落ち着くのを待つ。

「え──────エド、ワルド──さ」

 この男のせいで溜まりに溜まった鬱憤の数々を今度こそ──今度こそ言ってやるのだ。カリンが意を決して顔を上げた瞬間

「──お前なんだあのいい加減な魔法は!!」

「ひぃっ! ご、ご、ごめっ、ごめんなさい!」

 怒鳴られて竦み上がり、反射的にフードを被ろうとして、脱ぎ捨ててきたことを思い出して絶望する。

喚水よびみずの法なんか初歩中の初歩だろうが! へぼいとかいうレベルじゃねぇぞもっかい一から学び直せアホ!!」

「あわわわわわわわわわ……!」

 わたわたと半泣きになりながら隠れる場所を探しつつ──荒野に等しいここではそんな場所は無いのだが──頭の中でもまだ冷静な部分で、カリンはエドワルドの言葉を聞いていた。

 今までもからかわれたり怖い目に合わされたりはしていたが、ここまで感情的に怒鳴られたのは始めてだった。どうやら自分の魔法に大変ご立腹であるらしいのだが、

「で、でも、あたし、こ、これしか教わって、なくて──」

「だから適当でもいいやってか? ならお前にはそもそも魔法を使う資格がねぇ。

 つーか何処の魔法師だこんな無駄な法式組みやがって三流以下か」

 エドワルドの怒りの矛先は段々とカリンではなく、それを教えた魔法師に向かったようで、なおもぶつぶつと「大体教える順番が──」だの「管理体制が甘いから遊び感覚の野郎がのさばって──」だのと漏らしていた。

 その様は到底、魔法に疎いようには見えない。

「え、エドワルドさん……やっぱり、魔法、詳し──」

「実家が魔法の権門なんだよ文句あっか!」

「ひぇっ!? な、無いです無いですごめんなさい……!」

 勢いに圧されてしゃがみ込んだ。いつものカリンならそれ以上踏み込むことはしないのだが、今回は違った。

「で、でもエドワルドさん、魔法、使えないって言った、な、なんでですか……?」

 魔法の権門という程の家に生まれたというのに、魔法が使えないなんてことは有り得るのだろうか? 生まれのわからないカリンですら、習えば初歩の魔法は使えたのに。

 不機嫌だったエドワルドの顔が急にバツの悪そうなものに変わったのは、そのすぐ後だった。

「……あー……まあ、絶対に使えないってことはねぇんだが──とりあえず、落ち着いたら初歩から叩き直してやるから、そのつもりでいろ」

「お、教えてくれる、んですか?」

 話をはぐらかされた感はあったが、ちゃんとした魔法の知識を教えてもらえるのは悪い話ではない。

「そんなテキトーな法式でほいほい魔法を使ってみろ。今に自分に返ってくるぞ」

 だから覚えとけ、と。そう言われては素直に頷く他ない。

「にしてもだ。これ以上踏み込むのは自殺行為だな、得らるもんもねぇし」

 エドワルドの視線は既にゆらぎへと向けられていた。

「ご、ごめんなさい……」

「別に責めてるわけじゃねぇよ。事実を言っただけだ」

 ゆらぎはカリン達を迎撃することなく、元通りに街を包み込んでいる。マツリカ達が起こしていた爆発も今はなくなっていた。

「……あのお嬢が急いでた理由もわかるわな。こりゃ視界が悪くちゃ戦えねぇわ。

 それとサイズも問題か。先にあれだけ派手に暴れまわった奴が居てももう元通りだ。いくら攻撃は効くっつっても、これじゃすぐにこっちの体力が切れる」

「毒、も、あんまり、効いてない?」

「効くっちゃ効くが、切り離しちまうから有効打とは言えねぇな。本体とやらに直接撃ち込めるならわかんねぇけど」

 ああ、めんどくせぇ──とぼやいて頭を掻きつつ、エドワルドはゆらぎを睨み据えた。

 破滅の使者の性質はスライムに近いが、空間のゆらぎとしてしか認識できないという点では死霊のようでもある。

 そんな相手に、マツリカは妖精界の力を身に宿して戦う、と言った。圧倒的な力で再生や復元の暇を与えずに掃討するというのは、こういった特性を持つ相手には適しているのだろう。

 だが、

「あ、あたし、妖精界、とか、よくわかってなくて」

 そういう場所が存在することは、なんとなく肌で感じられる時があって知っているのだが、自分から繋がる方法というのはわからない。

「だ、だから──うまく戦えてない、のかも」

「最初からその辺りは期待してねぇけどな。それに妖精界の力とやらがどの程度かは実際に見ねぇことには評価しようがねぇし。

 ……あのお嬢がなんて判断してる以上、実は大したことないのかもな。制限とか縛りで」

「制限……?」

 カリンが首を傾げる。

「明らかに人間の限界を超えた力をそう簡単に扱えんのかねってこった。

 その辺も多分こいつの役目の範疇なんだろうがなぁ──」

 エドワルドはおもむろにカリンの腰に手を回して、ポーチを取り外した。

「あ──!? か、返してっ!」

 カリンが高々と持ち上げられたポーチを奪い返そうと手を伸ばすが、もともとの体格差も手伝って、指先も届かない。

 エドワルドはポーチのボタンを外し

「このに及んで姿も見せねぇとかどういう神経してやが────ぶ」

 中に手を突っ込もうとして、溜め込んだ巣材やら種子の殻と共に落ちてきたハムタを顔面で受け止めた。

「ハムタ──!」

 茶色と白のぶち模様の身体をいっぱいに広げてエドワルドの顔に張り付くハムタは、短い手足を動かしてエドワルドの顔を登り始めていた。

 が、少しも登らないうちに背中の皮を掴まれて宙吊りにされる。

「おー、伸びる伸びる」

 しばし逃れようともがくハムタだったが、脱出が不可能と見ると諦めて全身の力を抜いた。その姿はまるで死を悟ったかのようで──

「やめて! ハムタに乱暴しないで!」

 ハムタを掴んだ腕目掛けて、カリンは後先考えずに飛びかかっていた。

 が、その反対の手がカリンの襟首を掴んで簡単に引き剥がす。

「ちょっと落ち着けお前も」

 ゴミでも捨てるような扱いでカリンを放りつつ、エドワルドは──ヒマワリの種の殻などを前髪に付けたまま──ハムタに向き直った。

「一応とは言っとこうか」

 つぶらな黒目でエドワルドを見つめつつも、ハムタは無反応だった。

「ああ、俺も別に仲良くお喋りしようって気はさらさらねぇ──が、一度情報を整理しておきたいのは事実だ。

 なにしろ情報源はあいつらの話だけ。疑うわけじゃねぇが、こっちも命賭けの仕事なんでね、やれることはやっておきたいのさ──わかるだろ?」

 そう凄まれると、ハムタはまたしてもわたわたともがき始めた。

 エドワルドが空いた片手で後ろ足を支えてやると、ハムタはそこに体重を預け、もう一度エドワルドをじっと見つめた。

「了承と受け取っていいな?」

「────────」

 返事の代わりなのだろうか、ハムタは両手で顔を洗うような仕草で毛づくろいを始めていた。

「おい通訳……」

 エドワルドがなんとも表現しがたい──けれど困っていることは感じられる表情をカリンに向けてきた。といっても、カリンもハムタと会話をしたことがない以上、彼が何を考えているのかはわからないのだが。

 ともかく、毛づくろいをしているぐらいなのだから、嫌だとか、不快だとかいう気持ちは無いのだろう。

「えっと……た、多分いいんだと、思います。ハムタ、慣れてない人の、手に乗るの、嫌がるから」

「俺の常識じゃネズミの仲間は鳴く生き物だったような気がするんだけどな……」

「は、ハムタが鳴く、のは、嫌な時とか、怒った時、とかです」

「あ、そう──じゃあ間違ってたらすぐ鳴けよ、いいな?」

 ハムタはそこでピタリと毛づくろいをやめた。これもおそらく了承の意だと思ったので、カリンはエドワルドに頷きを返す。

「……すっげー疲れる」

 エドワルドは深い溜め息と共に愚痴をこぼしたが、すぐに居住まいを正した。

「何よりもまず確認しておきたいのが、そもそもお前は妖精じゃない別の生き物なんじゃねぇかってことなんだが──」

 言いかけたエドワルドの言葉を、ハムタの鋭い鳴き声が遮る。短く何度も声を上げていることから、随分と怒っているようだ。

「わかったわかった、妖精だってのは間違いないんだな。だがそれなら、お前が妖精界からの指令とやらを無視してる可能性が高いってことに──」

 ハムタは突如くるりと背を向けて丸まった。カリンにもその意味はよくわかる。答えたくないのだ。

「……なるほどね。答えたくないなら今はそれでいいさ。今聞きたいのはお前の事情じゃないしな」

「じゃあ、な、何を聞くんですか?」

 どちらかと言えばカリンはハムタの事情についての方が聞きたいし、知りたいと思うのだが。

「そりゃお前、破滅の使者についてだろ。少なくとも俺はまた戦わなきゃならねぇからな」

 安請け合いするんじゃなかったとぼやきつつ、エドワルドはハムタの背中を指でつつく。 

「妖精なら、もちろん破滅の使者についての知識はあるんだろ?

 今軽く仕掛けてみた感じだと、あいつは一定の範囲内に入らなきゃ攻撃も追撃もしないってのが特徴だな。あのお嬢の口ぶりから察すると本体とやらが育ちきるまでのサナギの状態ってとこなんだろう」

 街全体を包み込むゆらぎは、そう言われれば繭のようにも見える。

「だがサナギの状態でも奴らの侵食は行われている──この荒地がそれだ。アレだけが特別なのか、全体がそうなのかは知らねぇが、少なくともアレはこのあたりの地脈に宿る生命力──つまり、環境を徹底的に殺してやがる」

「環境……?」

 環境を殺す、とは不思議な言い方である。カリンが首を傾げていると

「この世界をかたどる現象それぞれが生きてるって説があるんだよ。だから大地にも空気にも魔力だの生命力だのが流れてんだって論なんだが──ともかく、アレは真っ先にこの付近の地脈を枯らすことから始めた。

 地脈が枯れ、大地が腐って木々が死ねば、この辺りの生き物は遠からず全滅する。それが魔物であってもだ。

 そして生き物の居なくなった場所は──」

「侵食、でき、る」

 生きていることは生き物の持つ最大のことわりなのだと、先程マツリカはそう言った。

 では、その逆──生きているという理を持つ者で溢れているはずの地に、生きているものが居ない状態だとすれば……侵食は容易いのではないか?

「……で、その解釈で合ってるか? ネズミ」

 ハムタはエドワルドの手の上で立ち上がっていた。そしてしばらく虚空を見つめた

後に──まるで人間がするように、首を縦に動かした。

「そうか。それじゃ、あと二つ答えてくれ。

 破滅の使者の本体が完全に育ちきった時、人の身でそれに立ち向かうことはできるのか?」

 ハムタはもう一度頷く。それにエドワルドは苦笑を返し

「じゃ、最後の質問だ。お前は────?」

 最後の問いかけを行う途中で、ハムタがいきなり手から飛び降りた。

「ちょ──おいっ!」

「ハムタ危な──!」

 カリンは叫んでハムタを受けとめようと一歩踏み出して──ぞくりとするような感覚に全身を襲われ、動きを止めた。

「────え?」

 自分の頭の中で、何かが警告していた。

 それは加護を受けている時の森の声に似ているけれど、もっと強制力のあるような、従わなければと思わせるような威厳を感じさせる。

 地面に降り立ったハムタは、小さな身体を震わせていた。彼は毛並みを逆立て、二本の足で立ち上がり、ゆらぎの方を見据えていた。

 ──ハムタもわかるんだ。

 きっとそうだと、カリンは直感でそう思った。彼は妖精なのだから、その反応もきっと当然なのだろう。

 なぜなら

「エドワルドさん────」

「なんだ、なにがあった!?」

 カリンはゆらぎの方を指して、声が伝えてきたことをそのまま告げた。

「妖精界が────

 エドワルドが驚愕に目を見開き、ゆらぎに振り返るのと。

 ゆらぎを割って極彩色の輝きが空に広がったのは、同時だった。

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