第24話 船長ミラの立場
突然目の前に現れた船に対して,私たちはもう少し警戒心を持っておくべきだった。
その宙域は、そこから一番近くにある惑星が管理している区間だったので、普段は許可が無いと通ることは禁止されている場所である。そして、無断で入った事がバレた場合には、当然罰せられるから誰もが細心の注意をして通る。
私たちはその宙域に近づいた時点で手続きを済ませていて、正式に通る許可も取っていた。
通行許可を貰うときには、色々と教えて貰った情報がある。その情報の中の一つに、手続きした通行許可期間ではジュペンス号以外に許可を取った船は無いという事実があった。
つまり、今は宙域を通るときに他に宇宙船が存在していないし、遭遇することは無いはずであった。
無断で宙域に入り込んだら重い罰を受けないといけないし、ましてや戦闘行動を起こしたら死刑に処される場合もある。最悪を想定したら、星同士の戦争にも発展しかねない。
だから、無意識のうちに目の前に現れた船は間違って迷い込んでしまった宇宙船なのだろうと、思い込んでしまった。
私は不用意にも、立ち入り禁止宙域だという事を通信で伝えてながら相手の所属を問い合わせた。その直後に、ジュペンス号に相手の砲口が向けられて、次の瞬間には砲撃されることになった。
「くっ,いきなり撃ってくるなんて滅茶苦茶なッ!一体、何処所属の船だ?」
「ミラ様、データベースにない船です。どうやら、海賊の一味だと思われます」
まさかいきなり撃ってくるとは思わず、慌てて船を操作して避けようとしたが被弾。ジュペンス号に積んでいた唯一ダメージを与えられるであろう砲、普段は隕石群を散らすために使うためのソレを用いて反撃に移ろうとした時には、もう一隻が現れて相手は二隻になって襲ってきた。
「ミラ様,増援のようです! 積んでいる武器では対処できません!」
絶え間なく攻撃を繰り返す二隻の船。すぐに逃亡することを選んだ。そして、一気に最大船速で相手の船から離れることに。
ジュペンス号が出せる速度は、他の宇宙船に比べてみても上位に位置するぐらいには性能が良くて、追ってきている船なんてすぐに離して逃げきれるだろう、と判断した。
速度を生かして相手をみるみるうちに離していって、撒いたと思って一瞬油断してしまった。
ほっと落ち着けたのは、ごく僅かな時間だけ。
いつの間にか二隻の船が、すぐ近くまで来ていた。そして、逃げ切れたと油断して速度を落としていたジュペンス号は、迫ってきた船から放たれる砲撃が直撃してしまい、動力にダメージを受けてしまった。
「くっ、いつの間に!」
「エンジン部分に深刻なダメージを受けました! 航行が困難ですっ!?」
距離をだいぶ離していたはずなのに、気づいたらすぐ近くに居た。
あるいは、短距離のワープを使えば離れていた距離を一気にゼロにして、近づく事も可能かもしれない。けれど、今居る宙域内でワープを行うことは、助走距離など実行するための条件が悪いために、失敗する可能性が高いだろうし自殺行為に近い。軽く見積もってみても、ほぼ0.001%ぐらいの成功率しか見込めないと思う。
ただ、他に近づいた方法が思いつかない。あの船は、本当に短距離のワープを成功させて来たのだろうか。
どうやって私達の船に接近したのか、という考え事に気を取られていた。いつの間にかブリッジへと来ていたユウさん、船の揺れで倒れそうになっていた。男性に抱きしめられたのは、初めての経験だったし普段なら大喜びする事だけれど、今はそんな余裕もない程に追い詰められていた。
船の動力にダメージを受けていて、思うように速度が出ない。さらには、目の前には見知らぬ多数の船があらわれた。目の前の船の形を見ると、追ってきた奴らと似ている事から予想すると、追跡してきた船の仲間なのだろう。つまり、私たちは必死に逃げていたと思っているうちに、相手の包囲網に誘導されて囲まれてしまったということ。
包囲され砲口を向けられて生死を握られた状態で、相手から要求が文字による通信で送られてきた。
相手の要求は、やはり男性であるユウさんの身柄だった。
どうするべきなのか考える。ジュペンス号の船長としては、ユウさん一人の身柄を渡して、四人の船員を守るべきだろうと判断している。だが、要求通りにしたとしても相手が見逃してくれる可能性は低いと思う。無抵抗でユウさんを明け渡して、私たちは無駄死にする可能性がある。
それに、私個人としてはユウさんを相手に明け渡すことには絶対に反対だった。
短い期間だったけれど、ジュペンス号で一緒に過ごした日々。先程も倒れてしまいそうになった私を、後ろから咄嗟に支えてくれて助けてくれた彼を、抵抗もしないで要求を受け入れユウさんの身柄を渡すことに納得できなかった。
頭の中でグルグルと考えてみても、どうするべきなのか判断する事に躊躇ってしまう。ジュペンス動力にダメージを負った状態で、逃げ出すことも出来ない。そして、反撃できるような武器も積んでいないので、逃げ出すキッカケも作り出すことが出来ない。
そんな時に、ユウさんが要求通りに従うべきだろうという意見を口に出した。私はその考えに、乗って残りの四人だけで生き残ろうとしてしまった直前。
見覚えのある砲撃光、そして近づいてくるあまり見たくはなかった十一隻の船。形勢は一気に逆転して、私達を包囲していた船が次々に沈んでいく。
そんな光景を見ながら、思ってしまった。救われた立場で何だけれど、あの連中だけには助けてもらいたくはなかった、と。
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