第23話 襲撃の結末
突然現れて介入してきた十一隻の白い船。その船から放たれる容赦無い攻撃に巻き込まれないように、包囲網から静かに逃げ出す俺たち。と言っても、船の操作はミラさんが行い、その慎重な操作を俺は横で見ているだけだったけれど。
そして、しばらく離れた場所にジュペンス号を移動させる。その離れた場所から、包囲網が敷かれていた場所を見る。先ほどジュペンス号を包囲していた船団のうち、白い船の攻撃から辛うじて残っていた二隻が、必死にこの宙域から逃げ出そうとしている様子が見て取れた。
けれど十一隻居る中で先頭に立つ白い船から、慈悲もなく二回の砲撃が行われた。二隻の船は他愛もなく爆散した。
先程まで俺たちを包囲していた船は、残らず全てが撃墜されていった。つまりは、俺達の目の前で数十隻有った船は全滅したという事。
そんな様子を眺めているうちに、十一隻の中から一隻だけ離れて飛び出しジュペンス号の前にやって来た。
超長距離からでも攻撃を当てられる命中率を誇り、一撃当てただけで他愛もなく撃沈させてしまうような攻撃力を持つ船。その船が目の前に出てきた。
この距離ならば、白い船の砲撃だったら絶対に外さないし簡単にジュペンス号は撃沈してしまうだろう。唯でさえ、先ほどの逃走中にジュペンス号は攻撃を食らって損傷が発生しているために、いつも通りに動くことが出来なくなっているらしい。そう思うと、背中に冷や汗が浮かんできた。
けれども、包囲網から静かに逃げ出している時に十一隻の白い船から攻撃されることも無くて、今も砲撃を再開する様子はない。どうやら、話し合う余地が有るのかもしれないと感じていた。
そう俺が思っていた時に、ブリッジに通信を知らせる音が小さく鳴った。
「ミラ様、目の前の船から映像通信が入っています」
「……ユウさん、これからの話し合いは私達で行います。ユウさんは怪我をしている様子でしたから、ヨハンナの居る医務室へ行って治療を受けて下さい」
ミラさんから少し遠回しに話し合いの場に参加しないように、ブリッジから出るように指示される。
確かに、先程から右腕の痛みがキツくなってきていたのでヨハンナさんに早めに診てもらったほうが良いだろうと思う。
それに、男性である俺があまり表に出ないほうが良いだろうとも判断する。先程まで、ジュペンス号が包囲されていた原因の多くは、俺の存在が関係しているだろうから。包囲していた相手の出した要求を考えると、男性を奪うためにジュペンス号を狙った、と言って間違いないと思う。
これから行う通信の相手が一体誰なのか、目的は何か分からないけれど、先ほどのメッセージによる通信とは違って、映像を出す通信を行うらしい。だから、ブリッジに俺が居たら、俺の存在が相手に見られるかもしれないし、もしかしたらまた問題が起こってしまうかもしれない。
ただ、相手が既に俺の存在を知っている場合も有るかもしれないが、俺が話し合いに参加する必要性も無いだろう。
ミラさんの意見に頷いて了承する。
「分かりました。ヨハンナさんの所に行ってきます」
「お願いします。状況は後で必ず説明しますので。それと、先ほど倒れそうになった時に支えてくれて助かりました。ありがとう」
ミラさんからお礼を言われて、偶然で小さなことだけれど彼女を助けることが出来てよかった、と感じながらブリッジを後にした。
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ブリッジから医務室へと向かう途中、廊下のいたるところに自動機械人形が居て、何か作業をしていた。どうやら、先ほどの逃走中に受けた船のダメージを修理しているのだろうと思う。
思うというのは、見たところ廊下に目立ったダメージが無いから。廊下に大きな穴が開いていたり、壁の一部が欠けて、そこから漏電していたりと言うような様子は一切ない。
元から船内部にはダメージが少なかったからなのか、自動機械人形が既に修理した後なのか判断はできないけれど、廊下の様子だけを見るとジュペンス号はいつもの調子と同じだった。
医務室へ到着すると、ソコには白衣のヨハンナさんと、ベッドで横になって寝ているライラさんが居た。
医務室の中も、逃走中の揺れによって家具が倒れてしまったようで乱雑な部屋になっていた。そして、ヨハンナさんは俺が入ってきたことに気づかず夢中になって、部屋の中を片付けている。
「あの、ヨハンナさん」
「あぁ、無事だったのね。……いや、ちょっと怪我をしたみたいね」
声を掛けると、ヨハンナさんは片付けている手を止めて振り返り、俺の様子を伺った。そして、俺の右腕に目を向けて少しだけ顔を顰めて言う。
「直ぐに治療しましょう。その椅子に座って」
ライラさんが寝ているベッドの近くに有った椅子に座らされて、治療を受ける。
治療を受けている間に、ヨハンナさんと情報交換を行った。そして、襲撃されてから今までの間について、ブリッジには居なかったヨハンナさんが何をしていたのか知ることが出来た。
彼女は襲撃を受けた時には医務室に居たそうで、船長から怪我人が出た場合の治療が出来るように準備を指示され、医務室で待機を命じられたそうだ。
そして準備し待機している間に、自動機械人形の手によってライラさんが医務室へと運ばれてきて、彼女の手当をしていたという。
ライラは、自分の研究室で機械を弄っている時に大きな揺れが起こってしまい、運悪く頭を打って、その場で気絶してしまったらしい。幸い、近くに居た自動機械人形の判断によって医務室へ運ばれて、大きな怪我もなく無事のようだった。
横で寝ているライラさんが無事でよかったと胸をなでおろしつつ、俺の方もブリッジで起きたことを、ヨハンナさんに簡単に説明した。落ち着いた様子で聞いていたヨハンナさんも、十一隻の白い船という言葉に反応を見せた。
「知っている相手なんですか?」
「うん、よく知っている相手よ。だけど、説明すると時間が掛かるし船長が後で説明すると思うから、それまであの白い船の事を聞くのは少し待って。ただ、あの船の人達が私達を攻撃することは絶対ないと思うから大丈夫よ」
ヨハンナさんの言葉から、敵では無いようだし一先ず安心といった所だろうか。けれど、説明に時間が掛かるからという不明瞭な言葉を聞いて、デリケートな関係であって単純な味方でもないのかもしれない、という考えが浮かぶ。
判断しづらい状況だった。
情報交換が終わる頃には、腕の治療も終わっていた。ヨハンナさんの診断では、やはり右腕の骨にヒビが入っていたらしい。けれど、完治するのに僅か三日しか掛からないから大丈夫と言われて、既に痛みも無くなっていたので医療技術の高さに改めて驚いた。
そして襲撃から三日が経ち、腕のヒビが完治した頃。俺は、ミラさんの母星へと降り立っていた。
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